ただの物理的な概要に過ぎない
「妻が突然去ってしまう」「一人取り残された歳を食った男が超常現象に遭遇」などを筆頭に、ストーリーラインやプロットが『ねじまき鳥クロニクル』のそれと類似的。
ただ『ねじまき鳥クロニクル』における加納姉妹やメイといったサブヒロイン(?)の存在がこちらでは欠けている。おまけに孤独なアラフォー主人公の行動範囲が非常に狭い等の制約があってか、物語全体にどこか閑散とした雰囲気が漂う。そろそろ70代を迎えようとしていた春樹の隠遁者としての感覚が前面に出ているともいえる。80年代前後の在りし日の村上文学の影を追おうとする者は少し面食らうかもしれない。
遠くから見ればおおかたのあらすじは美しく見える
妻から突然離婚話しを切り出された肖像画家の「私」。気分を紛らわすかのように私は友人のつてを使って小田原にあるとある画家のアトリエに借り暮らしすることになる。このアトリエに取り残されていた『騎士団長殺し』という絵画に惹かれた私だが、いつの間にかこの絵にまつわる因縁に巻き込まれていくことになる。
良くも悪くも覚えやすいエピソード
- 終盤に出てくる東日本大震災に関する記載から察するに、舞台設定は2000年代ごろだと思われる。
- これは後期・晩期村上文学全般の傾向だが、先述の通り、村上文学にしては「ヒロイン」や「女」の存在感が薄い。その代わりに本作で活躍するのは、免色あたりだろうか。その免色という男はIT稼業で荒稼ぎしたあと投資をして気楽に暮らしている、といういかにも現代風の中年男である。その上無趣味かつ淡白な性格である(これも今っぽいと言えるかもしれない)ためか、これが物語の閑散とした感じに拍車をかけている。
- 徹底して無駄なものを削ぎ落としたミニマリスト的な生活をする「私」だが、ネットもテレビも持たない一方ラジオはちゃっかり所有している。『風の歌を聴け』以来村上文学はラジオびいきだが、ついに本作発表後に村上春樹本人がラジオ番組を持つに至る(村上RADIO)。
どんな関連項目にも明るい側面がある
親記事
子記事
- なし
兄弟記事
- アフターダーク(小説)
- 1Q84
- 海辺のカフカ
- 風の歌を聴け
- 国境の南、太陽の西
- 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
- スプートニクの恋人
- 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド
- 1973年のピンボール
- ダンス・ダンス・ダンス(小説)
- ねじまき鳥クロニクル
- ノルウェイの森
- 羊をめぐる冒険
- 街とその不確かな壁
▶もっと見る
- 1
- 0pt