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骨粗鬆症とは、骨の強度が低下する病気である。特に女性に多く見られる。「骨粗しょう症」と書かれることも多い。
概要
人間の骨は常に、新しい骨をつくる「骨形成」と古い骨を分解する「骨吸収」によって新陳代謝が行われている。このバランスが崩れて骨強度が低下してしまうのが骨粗鬆症である。全体の90%が原因を特定できない「原発性骨粗鬆症」とされているが、主に加齢や閉経によるホルモンバランスの変化などが要因だと考えられている。
主な症状は骨強度低下による骨折、特に脊椎圧迫骨折による姿勢の悪化が外見的な症状としてみられる。お婆さんの腰や背骨が曲がってしまうのはだいたいこいつが原因である。骨粗鬆症による直接の症状ではないが、背骨が曲がると内臓が圧迫されるため、心肺などに悪影響をおよぼすこともある。
高齢者と骨折
高齢者の場合、転倒事故による骨折で寝たきりになってしまうことが多い。骨折をきっかけとした死亡率は意外なほど高く、大腿骨頚部(足の付根の骨)を骨折した場合の5年以内の死亡率は50%、60歳以上の1割から2割が1年以内に亡くなってしまうというデータもある。
高齢者の転倒事故には、別の重大な病気が関係していることが多い。骨折の療養でベッド生活が続くと体力が低下し、寝たきりになったり病気が悪化するなどして健康上の問題が次々に発生してしまうのである。手すりを設ける、スリッパを極力避ける、バランストレーニングを行うなどで転倒を防ぐことが、健康的な生活を送るために効果的である。
I型骨粗鬆症
原発性骨粗鬆症の一つで、50~70代の女性に多いタイプ。主な原因は閉経によるエストロゲン(女性ホルモンの一種。卵胞ホルモン)の分泌低下とされており、骨代謝は活発に働いているが、骨吸収が骨形成を上回った状態になる。
II型骨粗鬆症
原発性骨粗鬆症の一つで、70歳以上の男性に多いタイプ。カルシウム摂取量の低下により、骨形成が低下することで発症する。こちらはI型と異なり、骨代謝全体が機能低下を起こしている状態といえる。
続発性骨粗鬆症
「原発性」以外の、原因がハッキリ分かっているもの。甲状腺機能亢進症やクッシング症候群などの内分泌疾患による骨形成の低下、腎不全によるビタミンD活性化不全、低栄養、特定薬剤の副作用によるもの等がある。
治療
薬剤療法が中心となるが、結局は「骨折を予防する」というのが治療の目的なので、効果的な治療のため大切なのは中高年になったら(出来れば若いうちから)カルシウムの摂取と運動を心がけることである。
「カルシウム過剰摂取は逆に体外への排泄を促進する」「牛乳は骨粗鬆症に逆効果」という説もあるが、日本人はとにかくカルシウム摂取量が少なく、例えば普段の生活で牛乳を多めに飲んだところで摂取目標値にさえ届くか怪しい(※カルシウムは摂取目標量が設定されてから、男女とも平均摂取量が一度もそれを上回ったことがない)。乳製品を主に摂る北欧国の発症率の高さが論拠にされることが多いが、日照時間(カルシウム代謝に関わるビタミンD活性化には日光が必要であり、高緯度の国は日照時間が短い)等の地理的要因、生活習慣の違いなども考慮する必要がある。
というか過剰症以前に牛乳だけで必要なカルシウムを賄おうとすればまず下痢になる。カルシウムにしろ牛乳にしろカルシウムを多く含む煮干しや豆類、カルシウムの代謝を助けるビタミンDなど他の栄養素と一緒にバランスよく摂取することが重要である。
骨粗鬆症は薬剤だけでも食事改善だけでも十分な治療にならないので、一体となって治療を進めていく必要がある。
骨形成を促進する薬
活性型ビタミンD3製剤
カルシウム代謝に関わるビタミンDを薬にしたもので、腸からのカルシウム吸収、骨形成を促進する。カルシトリオールや、肝臓で代謝されてカルシトリオールに変化するアルファカルシドールなどがある。
ビタミンK製剤
ビタミンKを薬にしたもので、骨や歯を構成するハイドロキシアパタイトの合成を促進する。ビタミンK2製剤であるメナテトレノンが用いられている。
副甲状腺ホルモン製剤
骨形成を行う骨芽細胞の分化を促進する。遺伝子組み換えにより作られた新薬で、テリパラチドがこれにあたる。副甲状腺ホルモンは通常、骨吸収を促して骨から血中にカルシウムを供給させるものだが、間欠的に投与することで骨芽細胞を増やす作用を示す。
骨吸収を抑える薬
エストロゲン製剤
I型骨粗鬆症に対して使われる、閉経によって不足するエストロゲン(女性ホルモン)を補給するための薬。バランスの崩れた骨代謝を正常に戻すはたらきがある。エストロゲンの一種であるエストラジオールやエストリオールをそのまま摂取するタイプや、エストロゲンの受容体へ作用するラロキシフェンやバセドキシフェンなどがある。
後者は作用する部位によってはエストロゲンと反対の作用を示す。このおかげでエストロゲンによる乳がんなどの悪影響が抑えられている。これらはその作用から選択的エストロゲン受容体モジュレーターと呼ばれる。
副作用にホルモンバランスの変化による乳がん、子宮内膜癌などがあり、これらの防止のために黄体ホルモン剤を併用する。また、血栓形成傾向もよく見られる。
カルシトニン製剤
古い骨を溶かす破骨細胞にはたらき、骨吸収を抑制する。また鎮痛作用も示すため、腰や背中の痛みを抑える目的でも使用される。魚由来のものが人間のものより作用が強いため、ウナギから採れるエルカルシトニン、鮭から採れるサケカルシトニンなどが薬として用いられている。
ビスホスホネート製剤
骨に潜み、毒として破骨細胞を殺しにかかるなかなかオフェンシブな薬。エチドロン酸、アレンドロン酸、リセドロン酸などのナトリウム塩がこれにあたる。吸収が悪いうえ作用がどギツいため、服用後に横になったりしていると消化管に張り付いて潰瘍を起こしてしまう。多めの水で服用し、服用後30分以内は横になってはいけない。
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関連項目
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