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鳥インフルエンザH5N1とは、A型インフルエンザウイルスH5N1亜型が引き起こす、非常に危険な感染症である。
ここでは鳥インフルエンザH7N9についても解説する。
H5N1亜型
A型インフルエンザウイルスの内、鳥インフルエンザウイルスと呼ばれるグループに含まれる種類の一つで、主に水鳥(鴨、アヒルなど)や野鳥、渡り鳥が保有している。
水鳥の腸内で増殖する性質を持つため、水鳥の排泄物(糞)によって他の鳥類に伝染する。水鳥はH5N1亜型のウイルスを保有していても無症状であることが多いが、家禽(鶏、うずら、七面鳥など)に感染すると非常に高い確率で重症化する。特に鶏に感染した場合は致死率はほぼ100%となる。
また、人間(ヒト)、ネコ科、イヌ科(キツネなど)、豚などの哺乳類の動物にも感染し、この場合も重症化しやすい。ヒトに感染した場合は致死率は約50〜60%となり、これはエボラ出血熱やペスト、炭疽症などに匹敵する数値である(ちなみに通常の季節性インフルエンザの致死率は0.1%未満、2019年新型コロナウイルスの致死率は1%未満である)。
ただし、感染力は通常型のヒトインフルエンザウイルスより弱く、今のところ人から人に伝染することは無いとされている。そのため現時点ではヒトの感染例はH5N1亜型を持った鳥類(家禽を含む)と濃厚接触した人(養鶏場の関係者など)に限られる。
ヒトへの感染経路は飛沫感染、接触感染が中心で、H5N1亜型を持った鳥類(臓器・死体を含む)に触ったり、排泄物(糞)などを吸い込むことで感染する。
日本の感染症法では(感染症としての)鳥インフルエンザH5N1は二類感染症に指定されており、H5N1亜型に汚染された物件の消毒や、感染者の入院・隔離措置が必要となる。2008年5月11日までは二類感染症相当の指定感染症だった。また、検疫法による検疫感染症にも指定されている。
(ウイルスとしての)H5N1亜型は感染症法による四種病原体等に指定されており、所持する場合は厳格な管理が求められる。
ヒトに感染した場合の症状
H5N1亜型がヒトに感染すると高熱、頭痛、筋肉痛、咳など通常の季節性インフルエンザに似た症状があらわれるが、進行が非常に早く重症化しやすいため、重症肺炎・呼吸不全、急性心不全、脳症・脳炎、急性腎不全、横紋筋融解症などの重大な合併症を起こすことも多い。
また、鳥インフルエンザウイルスは呼吸器だけでなく消化管(消化器)など全身の臓器で増殖する性質を持つため、人によっては結膜炎や胃腸炎症状(腹痛、嘔吐、激しい下痢)、出血傾向(鼻血、歯肉からの出血、吐血・下血など)もみられる。
通常のインフルエンザでは高齢者以外は死亡することは稀であるが、H5N1を含む鳥インフルエンザは健康な若者でも急速に重症化して死亡することが少なくない。これには理由があって、鳥インフルエンザのような新型のウイルス感染症や動物由来感染症では人体の免疫反応が暴走するサイトカインストームと呼ばれる状態になり、免疫反応が自分自身を攻撃して多臓器不全や播種性血管内凝固症候群(DIC)などに陥ってしまうからである。
治療方法
タミフルやリレンザなどの抗インフルエンザ薬が検討されるが、早急に投与しなければ意味が無い。
二類感染症なので隔離・入院が必要である。
予防方法
予防のためのワクチンは今のところ日本では承認されていないため、鳥類や死体に触らないことや、鳥類を取り扱っている場所(養鶏場、市場など)に近づかないことが重要である。
ちなみに家禽伝染病予防法という法律によって、H5N1亜型に感染した鶏が1羽でも発見された場合、同じ敷地内にいる鶏は全て殺処分しなければならないと決められている。そのため養鶏産業にとってはH5N1亜型は最大の天敵となっている。
新型インフルエンザ
H5N1亜型は現時点ではヒトからヒトに伝染することは無いとされているが、将来的にはヒトや豚のA型インフルエンザウイルスとフュージョンして、ヒトからヒトに伝染できるようになった新型インフルエンザウイルスH5N1亜型が誕生する可能性もある。その場合、世界的大流行(パンデミック)を起こして2019年新型コロナウイルス感染症(COVID-19)以上の甚大な被害を出す可能性もある。
また、そもそもインフルエンザウイルスはRNAウイルスなので、変異しやすく新型のウイルスが誕生しやすいという特徴があるのも警戒されている理由である。(逆に天然痘ウイルスやアデノウイルスなどのDNAウイルスは変異しにくいとされる)
H7N9亜型
鳥インフルエンザウイルスに含まれるA型インフルエンザウイルスのタイプの一つ。H5N1亜型と同様に、ヒトに伝染することがあり重症化しやすく致死率が高い。
H5N1と同様に、二類感染症、検疫感染症、四種病原体等に指定されている。2015年1月20日までは二類感染症相当の指定感染症だった。
H5N1亜型との違いとしては、以下の特徴がある。
- ヒトに感染した場合、H5N1亜型よりは致死率がやや低い。それでも40%程度だが。
- H5N1亜型よりも感染力がやや強い。
- H5N1亜型と異なり、家禽に感染しても軽症で済むことが多い。ヒトは重症化しやすいが。
関連項目
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