曖昧さ回避
HTVとは、
- 広島テレビの略称。 →広島テレビ
- 北海道テレビの略称として記載されることもあるが正しくはHTB。 →HTB
- 青森県八戸市に存在するケーブルテレビ局の略称。 →八戸テレビ
- ニコニコチャンネル「ゲーム実況天国」の番組放送時に出るロゴ(Heaven's TV)。
- 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙ステーション補給機の名称。(HTV:H-II Transfer Vehicle 愛称「こうのとり」)
ここでは5.について説明する。
宇宙ステーション補給機
国際宇宙ステーション(ISS)に衣類や食料などの消耗品、各種実験装置などを輸送する軌道間輸送機。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発し、三菱重工業や三菱電機、IHIエアロスペース等の大小100数社の企業により製造されている。
無人だが、気密区画を持ち、宇宙飛行士が宇宙服を着る事無く内部に入る事が出来るため、“宇宙船”のカテゴリに入れられる。つまり事実上日本初の宇宙船という事になる。
技術実証機(1号機)は2009年9月11日にH-IIBロケット試験機に搭載して打ち上げられた。
2020年8月20日に最終号機の9号機が大気圏に再突入し、11年間続いたHTVの運用は終了した。[1]
主要諸元
- 全長:約9.8m(メインスラスタ含む)
- 直径:4.4m
- 質量:約10.5t(補給品除く)
- 補給能力:約6t
与圧部:約4.5t
非与圧部:約1.5t → 約1.9t (6号機から) - 廃棄品搭載能力:最大約6t
構造
HTVは上記画像の右側から順に推進モジュール(長さ1.27m)、電気モジュール(同1.25m)、貨物区画である補給キャリア非与圧部(同3.5m)と補給キャリア与圧部(同3.14m)という構成になっている。
- 推進モジュールは4つの推進剤タンクを搭載し、HTVの各所に取り付けられた32箇所のスラスタ(メインスラスタ4基、姿勢制御用スラスタ28基)に推進剤を供給する。
- 電気モジュールは航法、通信用の電子機器を搭載する他、HTV各部への電力を供給する。
- 補給キャリア非与圧部は用途に応じて種類の異なる曝露パレットに物資を搭載し収納する。
- 補給キャリア与圧部はISSとの結合機構を備え、1気圧に予圧された内部に補給品を搭載する。ISSとの結合中は人が直接内部に入り補給品の荷降ろし、不用品の搭載作業を行う。
特徴
ISSに6tまでの物資を輸送する事が出来る。物資を搭載する貨物区画は空気のある与圧部と宇宙空間に曝された非与圧部からなる。
与圧部は消耗品や国際標準実験ラックと呼ばれる船内実験装置などを搭載し、非与圧部は搭載した曝露パレットに日本の実験モジュール「きぼう」の船外実験区画用の実験装置やISSのバッテリなどを収納する。
運用
H-IIBロケットで打ち上げられたHTVはランデブー用のHTV軌道に投入され、地上からの指令でISSに接近。その後はGPSとレーザーによる誘導でISSまで10mの距離まで移動後停止する。停止後はISSのロボットアームで掴まれ、手動で共通結合機構(CBM)というハッチに結合される。
HTVが結合するCBMは本来ISSの構造体同士を結合するための機構であり、自動ドッキング機構は持っていないため、このような方法を取る(一番の理由はISS本体の安全。ロシアが多数を占めるランデブー・ドッキング技術の特許に抵触させない為と言う泣ける事情も)。
結合後は与圧部の物資はISS本体からCBMを通って、非与圧部の物資はロボットアームを使って運び出される。その後ゴミや不要品を予圧部に運び込むとISSから離脱。大気圏に再突入して焼却される。
将来
先述した通りHTVは地球への帰還機能がない事を除けば実質的な宇宙船であり、日本の将来の有人宇宙船開発のための技術開発の基礎を担っている。HTVの各機能はモジュール化されており、モジュールの一部を有人帰還カプセルに換装することなどで有人宇宙船に発展させる事が可能な設計となっている。
その他
ISSへの物資輸送機はHTVの他にもロシア連邦宇宙局(Roscosmos)のプログレス、欧州宇宙機関(ESA)のATVがある。プログレスは2.6t、ATVは9tまでの物資を運ぶ事が出来るが、ドッキングするのがアンドロジナスというロシアモジュールのハッチである。アンドロジナスは自動ドッキング機構を持つ反面、CBMよりずっと径が小さく、国際標準実験ラックのような大型の荷物を運び込む事が出来ない。
逆にプログレスやATVはISSに推進剤を補給する機能を持つが、HTVには出来ない。またプログレスやATVはISSの軌道維持用のブースターの役割も持つが、HTVはドッキング位置の関係でブースターとしては使えない。
現在、アメリカではNASAの商業軌道輸送サービス(COTS)という計画に基づき、スペースX社とオービタル・サイエンシズ社の2社の民間企業がそれぞれドラゴンとシグナスという輸送船を運用・開発中である。これらはISSのロボットアームを用いてCBMに結合されるという点でHTVに似ているが、ドラゴンには大気圏再突入能力があり、実験結果を地球に持ち帰る事が出来る。(HTVもHTV-Rの名で無人帰還カプセルを搭載することを検討中である。) また、ドラゴンには有人型があり、7名までの人員をISSに送り出す事が出来る。
実績
第1回HTVフライト HTV技術実証機(「こうのとり」1号機:HTV1)
第2回HTVフライト 「こうのとり」2号機(HTV2)
第3回HTVフライト 「こうのとり」3号機(HTV3)
- 打ち上げ:2012年7月21日(H-IIBロケット3号機:H-IIB F3)
- 搭載品(約4.6t) ※搭載品の詳細はJAXAのHTV3ミッション搭載品参照。
- ISSのスケジュール上、予定より遅れて離脱したため、ドッキングしている期間が長くなった
- 離脱時、ロボットアームからの力がかかりISSに接近する事が感知されたため、搭載されている衝突回避機能が働いた[2]
- 大気圏突入後の様子を撮影するi-Ballからの映像が一部公開されている
第4回HTVフライト 「こうのとり」4号機(HTV4)
第5回HTVフライト 「こうのとり」5号機(HTV5)
第6回HTVフライト 「こうのとり」6号機(HTV6)
- 打ち上げ:2016年12月9日(H-IIBロケット6号機:H-IIB F6)
※当初10月1日打ち上げ予定だったが、検査で配管からの漏洩が見つかり延期された。 - 搭載品 (約5.9t) ※搭載品の詳細はJAXAのHTV6ミッション搭載品参照。
第7回HTVフライト 「こうのとり」7号機(HTV7)
第8回HTVフライト 「こうのとり」8号機(HTV8)
第9回HTVフライト 「こうのとり」9号機(HTV9)
宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)の受賞歴
- 2011年4月11日 文部科学大臣科学技術賞 「軌道上有人施設へのランデブドッキングと補給技術に関する研究」
- 2011年4月15日 日本航空宇宙学会賞技術賞(プロジェクト部門) ※三菱重工業、三菱電機、IHIエアロスペースと共に受賞。
愛称
公募によりHTVシリーズの愛称は「こうのとり」とされ、2010年11月11日に発表された。[3] コウノトリには赤ちゃんや幸せなど大切なものを運ぶ鳥というイメージがあり、「ISSへ重要な物資を運ぶHTVのミッション内容を的確に表している」という。これにより運用時には愛称のなかったHTV1は『「こうのとり」1号機』、2011年1月22日に打ち上げたHTV2は『「こうのとり」2号機』と呼ばれることとなった。
HTV-X
2016年度より、HTVの改良型であるHTV-Xの開発がスタートした。その目的は
とされており、これらを満たす検討の結果、現行HTVから大きく外観が変わる見込みとなっている。まず、機体の各モジュールの配置が大きく見直され、打ち上げ時の「上」から順に
という機体構成となる。これらの搭載部/モジュールは次のような特徴を持つ予定である。
暴露カーゴ搭載部は、現行の「機体内に暴露パレットを収納する」方式から「機体の最上部に暴露カーゴを直接積む」方式に変更され、これによっていよいよそば屋の出前じみてフェアリングに格納出来る範囲で、より大型の暴露カーゴを搭載できるようになる。
直感的には「先頭に裸で貨物を積んで良いのか?」と思ってしまう。しかし裸で晒しても問題無い高度に到達してからフェアリングが分離するわけだし、フェアリングの分離ミス、あるいは荷崩れが起きればどのみち打ち上げは失敗である。つまり何の問題も無く、先入観を取り去った良い意味での開き直りと言えるだろう。
サービスモジュールはHTV-X最大の新規開発要素となり、外観的にはパドル化された太陽電池パネルが特徴となる。そのほかにも、飛行機能をサービスモジュールが一括して受け持つことにより、サービスモジュールに取り付ける別モジュールを変更することで、ISSへの輸送任務以外にも柔軟に対応出来ることを目指す。
与圧モジュールはほぼ現行のままとなるが、これまでには無かったロケットへの取り付け部分を新規開発する必要があると思われる。あえてこうした理由は、重い与圧部を最後尾に配置することで、与圧部以外の構造を軽量化するため、と説明されている。
こうした改設計により、機体重量は16.5トンから15.5トンに1トン減少する。一方、貨物搭載量は与圧カーゴが4.5トンから5.2トンへ、暴露カーゴが1.5トンから2トンへ増加する見込みである。
なお、構造物重量を除いたネットの貨物搭載量は、与圧カーゴが3トンから4.1トンへ、暴露カーゴが1トンから1.75トンへと、グロスの増加分以上に増える見込みとなっている。
打ち上げロケットには現在開発中のH3が使用される予定で、初回打ち上げは2021年を目標としている。ロケット側のコストダウンも合わせて、ISSへのより安価な大量輸送手段の確立に期待したい。
関連動画
HTV技術実証機(「こうのとり」1号機) 運用期間2009年9月11日〜2009年11月2日
「こうのとり」2号機 運用期間2011年1月22日〜2011年3月30日
「こうのとり」3号機 運用期間2012年7月21日~2012年9月14日
「こうのとり」4号機 運用期間2013年8月4日~2013年9月7日
「こうのとり」5号機 運用期間2015年8月19日~2015年9月30日
「こうのとり」6号機 運用期間2016年12月9日~
(順次追加)
お絵カキコ
関連リンク
- JAXA - HTV
- HTV/H-IIB特設サイト(技術実証機特設サイト)
- こうのとり2号機/H-IIBロケット2号機特設サイト
- こうのとり3号機/H-IIBロケット3号機特設サイト
- 宇宙ステーション補給機「こうのとり」4号機特設サイト
- 宇宙ステーション補給機「こうのとり」5号機特設サイト
- 宇宙ステーション補給機「こうのとり」6号機特設サイト
- 宇宙ステーション補給機「こうのとり」7号機特設サイト
- 宇宙ステーション補給機「こうのとり」8号機特設サイト
- 宇宙ステーション補給機「こうのとり」9号機特設サイト
関連項目
脚注
- *最後の「こうのとり」、大気圏再突入 2020.8.21
- *宇宙ステーション補給機「こうのとり」3号機(HTV3)の分離・再突入結果について(PDF) 3P
- *宇宙ステーション補給機(HTV)の愛称選定について
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