7TPとは、1930年代に設計されたポーランド軍の戦車である。
概要
英国の輸出戦車・ヴィッカース6t戦車を元にポーランドで設計・生産された戦車である(7TPとは「ポーランド軍7トン戦車」の意。まあ実車は10トン弱あるけど)。第二次大戦の火蓋を切ったドイツのポーランド侵攻に際し、ポーランド軍の最強戦車として交戦している。
開発の経緯
WW1終結後、世界各国で機甲戦力の整備が急務となり、多くの国でその最初の装備戦車となったのがフランスのルノーFT17戦車である。大恐慌(1929)を経て世界がどことなくきな臭くなってきた1930年代、そのルノーFT17を更新する必要が出てきたということでこれらの国々の多くは新型戦車を欲していた。しかし新型戦車を揃えたい事情は当時戦車先進国であった英仏も同じであり、これら後発の国々に自国用の最新戦車を売ってくれるわけもない。そこで各国は英国の民間企業(といっても軍需産業では名門中の名門)、ヴィッカース・アームストロング社が自主制作した戦車・ヴィッカース6t戦車(1928)に目をつけたのである。英国軍にはあえなく不採用となった車両だが、当時としては先進的な設計、そして能力と価格は後発戦車装備国にとってちょうど手頃なレベルであり、さらに「ユーザーはんのご希望に沿っていろいろオプションつけまっせ! 装備兵器も装甲もいろいろご相談受け付けますでー!」というユーザーフレンドリーな販売システムをとっていたこともあって、戦間期の車両としてはけっこうなヒット作となったのである。
ポーランド陸軍も乗るしかない、このビッグウェーブに…というわけで1932年、ルノーFTの更新用に6t戦車を購入。よっぽど期待が大きかったのか、同時にライセンス生産権も購入しさらに6t戦車をベースにした自国製戦車を製造するに至ったのである。1934年に完成したその戦車は「7TP」と命名されることとなった。
ちなみにこの経緯、ポーランドだけでなくソ連もほぼおんなじパターンを辿っており、ルノーFT17の更新ではなく研究用という程度の購入をした国々の中には日本も入っている(九五式軽戦車の設計の参考になったとかなんとか)。1920年代~30年代の機甲師団保有の黄金パターンだったわけです。
構造と生産
7TPには大きく分けて2種類あり、1934年から生産された双砲塔型と1937年から生産開始された単砲塔型の2つが存在する。双砲塔型は7.92mm機銃を一門搭載する小砲塔が車体上面に並列2基存在する形状で、単砲塔型はスウェーデン製のボフォース37ミリ対戦車砲と主砲同軸機銃を装備したタイプである。実はこの2タイプは元々のヴィッカース6t戦車の時点でオプションで選べたのだが、単砲塔タイプに装備されるヴィッカース社製の3ポンド砲(47ミリ口径)が設計が古く対装甲能力に不安の残るモノであったため、高初速の新鋭砲・ボフォース37ミリ対戦車砲を装備することとなったのである。そのため同砲のライセンス生産体制の構築に時間を要し、ヴィッカース6t戦車からの改修ポイントが少なくて済む双砲塔タイプが先に生産に入ったという次第。まあ実際に作ってみると「いまどき7.62mm機銃だけじゃ役に立たねーだろ」ってことで単砲塔タイプに全面的に生産が切り替えられ、結果として総生産数140両弱のうち7割強にあたる100両が単砲塔タイプとして生産されている。え? 1937年に機銃1丁しか装備してない戦車を新型戦車として配備した国があるって? そんな国から戦車技術学んで新型戦車作った国があるって? まさかぁアハハハ。
ヴィッカース6t戦車からの改修点として他にあげられるのがディーゼルエンジンの採用である。80hpの水平対向エンジン搭載で機関室の背が低く前のめりなデザインだったヴィッカース6t戦車から、110hpのスイス・ザウラー社製液冷ディーゼルエンジンに換装、それに伴って機関室の背が高くなり戦闘室と高さが変わらなくなっている。戦車へのディーゼルエンジン搭載事例としては日本の八九式中戦車乙型(空冷)と並んで世界で最も早い部類に属するわけで、上記の主砲選定の件とあわせやるじゃんポーランド。装甲はヴィッカース6t戦車のまんまで最大17mmとペラペラであるが、前面装甲を40mmに強化する新型7TPの計画も開始されていたりする。
他にも細部の改修はあちこち行われ、ポーランド陸軍が装備する最強の戦車、かつ豆戦車を除くと最大の装備数を誇る戦車として1939年9月1日を迎えるのである……が。
戦史
1939年9月1日。チェコスロバキア併合を成し遂げた次の目標としてポーランド回廊の奪還を掲げていたナチス・ドイツとポーランドとの関係は悪化し、既に両国の国境地帯ではドイツ情報部からの挑発工作である襲撃行為が頻繁に行われていた。8月23日にナチス・ドイツとソ連とはポーランド分割を秘密協定として約した独ソ不可侵条約を締結、29日には最後通牒を突きつけており、9月1日早朝をもって攻撃を開始する総統命令が下った。
この時点でポーランド軍の動員体制はまだ70%といったところであり、また国の西側に重要な工業地帯を多く持つポーランドとしては不利を承知で国境線沿いに防衛ラインを敷くしかない状況であった。定数あっても不利な状況でさらに動員も不十分、必然的にあっという間に前線は突破され各所で包囲撃滅、移動中の部隊がドイツ軍に急襲されて大損害といった展開も多々見られることとなった。
しかしポーランド軍も決して無抵抗だったわけではなく、精強と名高い騎兵部隊、欧州有数の保有数を誇っていた装甲列車が局地的にドイツ軍を撃退している。そして7TPをはじめとする機甲部隊も果敢に防戦し、特に単砲塔タイプはⅠ号戦車・Ⅱ号戦車が中心のドイツ軍に対して優位に戦闘を進めている。まあ豆戦車のTKSのほうが派手な戦闘やったりしてるんでイマイチ影が薄いんだけどさ。
しかし衆寡敵せず、後退を続けるポーランド軍。ルーマニアとの国境地帯に撤退して防戦を続け戦前の約束通りに英仏が参戦するのを待つ予定であったが、ここで事態は急変する。9月17日、独ソ不可侵条約の秘密協定に従ったソ連軍の侵攻が開始されたのである。完全に防戦不能となったポーランド軍は総崩れとなり、生き残りの7TPも次々と撃破されていった。このときのソ連軍の主力戦車がT-26。7TPと同じくヴィッカース6t戦車を元に設計・製造された、姉妹車と考えてもいい戦車であったのはいったい何の皮肉だろうか。そして英仏はとうとう最後までポーランド救援のために何の積極的行動も起こすことなく、かつての「東欧の大国」はその戦車師団保有の夢ごと地上から消滅したのであった。
関連動画
ありし日のポーランド戦車軍団の姿を偲んで。なかなか軽快な走りを見せてると思います。
2012年秋アニメ「ガールズ&パンツァー」より(13:18)。T-34/85装備のプラウダ学園相手に完敗したポンプル高校の装備車両が7TP(双砲塔型)。ちなみにヒマワリはロシアの国花。
関連静画
2012年秋アニメ「ガールズ&パンツァー」の登場人物、戦車大好きっ娘の秋山優花里嬢と彼女の大好きな戦車、7TP(双砲塔型)。
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