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96式装輪装甲車とは、陸上自衛隊が配備・運用する装輪装甲兵員輸送車である。
96式WAPCの特徴
値段は約1億円強。公募によるニックネームは「クーガー」だが毎度のごとく使われず、隊員内ではもっぱら「96」、「96W」、「96WAPC」、「WAPC」などと呼ばれている。
それまで、自衛隊では60式装甲車や73式装甲車など装軌式のAPCを採用してきたが、ここで初めて装輪式のAPCを採用するにいたった。
8輪のコンバットタイヤを持つためパンクに多少強く、空気圧可変機能も備える。この機能は軟弱地では空気圧を下げることによりタイヤをわざと少しへたらせ、接地面を増やすことができるシステムである。駆動方式は後ろの4輪か前輪駆動が選択でき、方向転換は前2輪で行う。
また装輪式であるため最大時速100kmであること、車体サイズが公道を走るのに手続き不要なサイズであることから、道路網が発達した日本の事情とあいまって戦略的な機動力は非常に優れている。
その優れた輸送能力は東日本大震災においても発揮されたとか。
反面、装輪式の宿命として不整地での踏破能力は装軌式APCと比較し劣る。まぁ、APCなら前線出る前に下車戦闘になるのであまり問題かもしれないのだが、どうもその点を当の普通科の方々が理解していないらしい…？(後述)
乗車員数は乗員2名＋完全武装の隊員8名。車内は前任の73式装甲車と比べると広くなっており、内側にクッション材が張られたこともあり、居住性と静粛性はなかなかなものらしい。対NBC装備も完備しており、いざとなったら空気清浄機からの空気をホースでつながれたマスクで供給できる。クーラーは無いが足元にヒーターがある。また、89式装甲戦闘車のような銃眼は無いものの、防弾ガラス張りの覗き窓がある(そんなんで防御性能とか大丈夫なんだろうか…)。
後部に登場した普通科隊員は、APCとしては一般的な車体後部ハッチから展開する。エンジンが掛かっているときは油圧でランプドアを展開するが、何らかの理由でエンジンが掛かっていない場合は付属の手動ドアで降車できる。
武装は96式40mm自動てき弾銃を装備する「A型」と毎度おなじみM2重機関銃を装備する「B型」の2種類がある。また、公道を走行する際はただのガラスで作られた操縦者用風防を使用する。
調達数は381両。後継車両については改良型の「装輪装甲車（改）」を開発していたが中止になり、2022年12月、フィンランドのパトリア社製「AMV」を採用したことが報じられている。
96式WAPCの評価
96式WAPCは装輪式の為、従来の装軌式車両と比べると調達コスト・維持費も安く、また装輪式であるため異動の為に各関係機関との調整が必要なく、高速道路などでの移動が可能なため使い勝手は良いようである
ただどうも、現場の評判はあまり良いものが聞こえてこない。サイズが大きいため小回りが効かず、さらにスタックしやすく故障も多いという。未確認情報ではあるが、イラク派遣の際、移動中に故障しては困るからと第5次隊のときは宿営地に置きっぱだったという話もあり。派遣部隊では軽装甲機動車のほうが使い勝手が良かったとも。
また、運用面でもまだ問題があるようだ。この手の「装甲兵員輸送車」というのはそもそも兵士を戦場まで安全に運ぶ為の車両であり、榴弾の破片や機関銃の弾くらいを防ぐ装甲しか備わっていない。なので、本格的な戦闘には参加するせず、近場まで行ったら攻撃前に兵士を降車→歩兵を迂回浸透させるというのがセオリーなのだが、本州の某普通科部隊は某転地演習で敵対抗部隊の90式戦車がボコスカ撃ってる前までのこのことWAPCで前進して来て、あっけなく撃破されてしまったんだとか…。(ちなみに、この手の装備の扱いに慣れている北部方面隊の部隊では、たとえ89式装甲戦闘車であっても攻撃のかなり前の段階で降ろすらしい。)しかし、こと北部方面隊以外の普通科部隊では96式が配備されるまで大型車両が配備されたことがなく、 運用ノウハウ蓄積されていないため、こんな感じになるのも仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。
また、あくまで噂話(にしとこう)だが、どうもこの96式WAPC、防衛省の提示した要求性能を満たしていないらしい。詳細は不明だが、某技官の話によると、当時この手の装輪装甲車を開発できる防衛企業は「KMT社(仮)」しかなかった為、必然的に同社に発注したそうなのだが(技本は開発にノータッチ)、いざ96式WAPCの開発が終了した後、「重量とかの関係で正面装甲薄くなっちゃったけどいいよね？(テヘペロ！)」とか言ってきたらしい。契約を結んでしまった&普通科部からの熱望で、防衛省も採用・調達を決定して今に至るのだが、この事があってか中の人ではKMT製の装備に良い感情を持っていない人が少なくないとか…。同様に(主に機甲科の中の人たちでは)同社製の軽装甲機動車も評価が低いようである。
だからMCVは三菱重工中心の開発だったのか…
96式のバリエーション
96式WAPCには自衛隊の装備としては珍しく各種バリエーションが展開されている。
96式装輪装甲車(A/B型)
96式装輪装甲車の通常型。一般部隊の多くにはこの通常型が配備される。
車長用キューポラに装備された武装によって分類されており、A型には「96式自動てき弾銃」が、B型には12.7mm重機関銃M2がそれぞれ装備されている。
尚、これら武装はキューポラに取り付ける部品の形状が異なっている為、A/B型での互換性は一切無い。
A/B型は10:1の割合で生産されており、普通科以外の部隊の殆どにはB型が配備されている。
96式装輪装甲車(Ⅱ型)
2003年の自衛隊のイラク派遣に対応する為、96式装輪装甲車(B型)に富士学校主導で各種改良を施した車両。
通常、オリーブドライブ(濃緑)と土色の2色迷彩である塗装をオリーブドライブ1色に改めて、軽装甲機動車・高機動車と同様に車長用キューポラに首切りトラップ防止用のワイヤーカッターと、全周を防護できる装甲板が装備されている。当時はあくまでイラク派遣に対応する為改良とされており、制式化はされず部隊内改修の扱いであった。
後に、この改修型は「96式装輪装甲車(Ⅱ型)」として正式になり、平成20年度から通常型と共に調達されており、
防衛大臣直轄の緊急展開部隊である「中央即応連隊」や、陸自各部隊へPKO活動に関する教育を実施する「国際活動教育隊」、北部方面隊の第3普通科連隊に配備されており、この他の部隊へも配備が進んでいるとみられる。
96式装輪装甲車(指揮車型)
正式に「指揮車型」とは呼称されていないが、本項では解説の便宜上「指揮車型」と呼称する事とする。
陸上自衛隊の師団/旅団司令部や、特科・普通科連隊の本部管理中隊には、指揮車として日本発の装輪装甲車(APCではない)である82式指揮通信車が配備されていた。しかし、正式採用からはや30年、各部隊に配備された82式も老朽化が進み耐用年数も良い所になったので、その後継として96式装輪装甲車(A/B型)が配備されることとなった。
さて、ここで疑問に思った方も多いのではないだろうか。
「お前、さっき「指揮車型」って言ったけどこれ「通常型」じゃねえか！」、と。
ごもっとも。そう配備されたのは「通常型」だが、部隊で実際に運用されているのは「指揮車型」なのである。
実は、「指揮車」というのは部隊を指揮する為の無線機や地図などさえ積んでいれば「指揮車」と言えるのである。だから、警察や消防のどう見てもハイエースの色塗り替えただけな車両も指揮車なのである。
96式装輪装甲車は前線で運用できるだけの装甲と機動力を持っており、キャビンは兵員を搭載する為に82式指揮通信車と比べると余裕のある設計になっており、82式で搭載されていた無線機やテーブルなどを搭載しても、十分指揮車として運用できるだけの能力が備わっていた、ということである。
しかし、82式も96式も諸外国の戦闘指揮車と比べて見ると、どう考えても天井の高さが低い。諸外国の戦闘指揮車は、指揮官たちが立った状態でも作戦会議が出来るよう天井が嵩上げされているのだが…。陸自の指揮官たちは立って作戦会議をしないのだろうか？或いは出来ないだけで不便は感じていないのか？
追記:
どうもやっぱり部隊でもそのような声があったようである。その昔、北部方面隊の某部隊が73式装甲車の天井を嵩上げして指揮車として運用しようとしたところ、防衛省のお偉方に見つかり「装備品に勝手な改造を加えるとは何事か！」と大目玉をくらい、それ以降、陸自では大っぴらな装備の改造は禁止と言う暗黙の了解が出来たんだとか…。
96式装輪装甲車(戦闘工兵車)
とか言っちゃってるが、これまた正式採用はされていない。あくまで96式装輪装甲車を部隊改修した車両である。
96式装輪装甲車は戦闘職種のみならず施設科部隊などへも配備されているのだが、施設科部隊では配備された96式の車体に架台を乗っけて、その上に70式地雷原爆破装置や爆薬筒など施設科部隊の任務に必要な装備を搭載したのがこの車両である。
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