99式空対空誘導弾とは防衛省技術研究本部と三菱電機が開発した中射程空対空ミサイルである。4番目の国産空対空ミサイルということでAAM-4とも呼ばれる。
概要
AIM-7シリーズの後継として1994年から研究に着手、1999年に制式化された。撃ち放し性、対妨害性に優れ、同時多目標対処、大型の空対艦ミサイルや巡航ミサイルへの対処が可能。全長約3.7メートル、直径0.2メートル、翼幅0.8メートル、重量220kg。射程は公表されていない。[1]
開発
1980年代、アメリカはアクティブレーダーホーミング(ARH)方式の中射程AAM であるAIM-120 AMRAAMを開発中だった。スパローなど従来の中射程AAMが発射から命中までの間、母機からの誘導が必要で回避機動を制限されたのに対し、ミサイル自体が誘導電波を発するARH方式なら母機の自由度は大幅に増す。これは空中戦において極めて有利であることは言うまでもない。AMRAAMの開発は順調に進み、西側各国はwktkしながら配備を待ちわびたが…日本にはある懸念があった。
(アメさんはこのミサイルを自軍とNATO軍にしか売ってくれないんじゃなかろうか…?)
同じ頃、ソ連でも次世代中射程AAM(R77・西側呼称AA-12)が開発中であった。このままでは世界の芻勢に乗り遅れるのは確実だ。ヤバいぞ日本!
かくして我が国の誇る変態技術者達は立ち上がった。よそが売ってくれないのなら自分達で作ってしまおうと。またアメ公にふっかけられるのは御免だしね。
男達の挑戦 ~ 世界一流のAAMを目指して
国産が決まればこっちのもんとばかりに、技術者変態達は少年のように目を輝かせて言ったそうな。
「せっかくだから日本独自の仕様を盛り込もうぜ!」
航空自衛隊の要求は巡航ミサイルと大型爆撃機に対する迎撃能力。小型高速の巡航ミサイルを確実に仕留め、その発射母機をできるだけ遠くから撃墜する…つまりAAM-4はスパローやAMRAAMよりも高威力・長射程でなければならないのだ。開発の名目は“中射程”AAMだが気にしてはいけない。そもそも開発目的がどこぞの不死鳥ミサイルと一緒だしね!
越えるべきハードルは高く開発は難航したが、技術者達は持てる性癖のすべてをさらけ出して要求をクリアしていった。そして出来上がってみればAMRAAMをいくつもの面で凌駕する世界でもトップクラスのミサイルが生まれてしまったのだ。
以下にAAM-4の特徴を紹介する。
- 長大な射程
AMRAAMの直径は7インチ。スパローの8インチからスリム化したのに対し、AAM-4は威力と射程を重視してスパローと同じ直径だ。正確な値は公表されてないが射程は100kmを越えるそうだ。(スパロー40~60km AMRAAM60~80km)もっともAMRAAMより大きなサイズは、後にある問題を生んでしまうのだが… - 大きな威力
AAM-4には『指向性破片弾頭』なるものが備わっている。通常の破片弾頭はミサイルが敵機の傍を通過するのを感知して全周に破片をバラ撒くだけだ。AAM-4の近接信管は敵機の方向を正確に探知し、爆風と破片の大半を敵機に集中して浴びせかける。 - 先進的な電子機器
AMRAAMは『TWT送信器』で誘導電波を発生させている。TWTは1940年代から使われているレーダー送信器で、実績があるとはいえ正直古い。AAM-4は『半導体FET送信器』を用いる。特徴は小型軽量、消費電力は少なくて高出力。これによりロックオン性能と対妨害、対クラッター(※地上や海面の反射)性能が向上した。その結果、 - 高い命中精度
試験発射では標的機を次々と直撃して撃墜してしまったらしい。これじゃせっかくの指向性破片弾頭がもったいなくね?でも強いに越したことはないか。ちなみに、あんまりにも標的機に直撃しすぎるため近接信管のテストができず開発に苦労するという、恐ろしい逸話がある。 - 低価格
意外なことにAAM-4は旧式のスパローよりも安い。開発にあたって優秀な民生品を大胆に取り入れ、性能向上とコストダウンの両立に成功したのだ。またスパローはライセンス生産であった為、みかじめ料もといライセンス料が必要だったことも理由である。 - 不意打ち攻撃
AAM-4を運用する際は専用のデータ送受信装置、J/ARG-1を搭載し指令波などに特殊な変調方式を用いる。
これによりAIM-120やR-77ではレーダー波に重ねて誘導指令波を送っていたため発射時やアクティブレーダーシーカー覚醒時に敵機のRWR(レーダー警報受信機)に探知され発射段階でバレてれ逃げられてしまうといった事態にはならず「気がついたら撃墜されていた」という恐ろしいミサイルとなった。
ただし裏を返すとこのJ/ARG-1を搭載していない機体はAAM-4を運用できないため問題になっている。またF-35でもウエポンベイの件で問題になっているがそれ以外にもこの送受信装置の搭載といった問題がある。
(AIM-120やR-77、PL-12などはソフト側の変更で対処できるため割と楽にインテグレートが可能)
ところで売り渋りが懸念されたAMRAAMだが、アメリカは気前よくNATO加盟国以外にも売っている。なら最初から買えば良かったんだ!と誰かが言ったのかもしれない。空自は少数のAMRAAMを購入して評価を行い、AAM-4と比較した結果…
当然AAM-4が正式採用された。強くて安けりゃそうでしょうね。
これは開発陣の努力の賜物であるが、後発の強みであるのも間違いないだろう。
技本・三菱「計画通り!」
さらなる高みへ ~ 『AAM-4改 』
スパローの後継として充分な能力を持つAAM-4だが、技術者達の欲求を完全に満たすものではなかった。彼らは自らが生み出したミサイルを欲望の赴くままにいじくり回し、99式空対空誘導弾(改)へと昇華させてしまった。
以下にAAM-4改の改良点を紹介する。
- レーダーのAESA(アクティブ電子走査アレイ)化
最新鋭戦闘機のトレンドとなりつつあるAESE、これをミサイルのシーカーヘッドにしてしまう変態は日本くらいなものだろう。
AESAは機械走査式アンテナに比べて軽量で信頼性が高い。そして素早く広範囲を走査し、分解能も高い。つまりロックオン性能にさらに磨きがかかったわけだ。 - 送信器の改良
AAM-4改のレーダーの送信出力は従来の4倍、シーカーのロックオン距離は1.5倍以上となったそうだ。正直やりすぎじゃ…
ともあれ、独自の機能を有して改良も自由(ライセンスに縛られない)というのは国産の利点だろう。国産を決意した方々や開発に関わった方々はもっと納税者から感謝されてもいいよね。
しかしAAM-4も完全無欠のミサイルではない。開発当初は想定していなかったある問題が発生したのだ。
開発陣の誤算 ~ ステルス機に搭載できない!?
空自の次期主力戦闘機F-35は高いステルス性を維持する為、兵装は基本的に機内搭載である。だがF-35の兵装庫は直径7インチのAMRAAMに合わせて設計されている…日本の技術者が太くておっきいモノを欲したばかりにつるぺたロリっ子F-35の兵装庫(なか)に入らないというのだ!
ステルス全盛のご時世に機外搭載とはいくまい。最新の技術を駆使したミサイルが時代に取り残されるとは何たる皮肉!
…でもF-35は直径8インチどころか、アメリカ製のさらにおっきいモノ(※対地攻撃兵装)をくわえ込めるはず。ほんとにAAM-4は積めないの?
AMRAAMの製造元でF-35の兵器システムを担当するレイセオン社曰く「F-35の兵装庫にサイズの大きなAAMを積むのはきわめて難しい。機体だけでなくソフトウェアも改修が必要で非効率この上ない。だからAMRAAM買えや」とのこと。さすが商売上手!
ちなみに機体の開発元であるロッキード・マーチン社は「改修はそんな難しくないよ、だから早くF-35買ってね」と言ってるとか。まあ技本や三菱ならPONG☆と解決しそうな気もするがどうなんだろうね?
今日も、明日も、さらにこの先も日本の空を守る為に、頑張れニッポンの技術者達!そしてありがとう!
幻に終わった艦対空ミサイル ~ 『XRIM-4』
空自がスパローの後継を必要としたのと同じく、海上自衛隊の次期護衛艦にもシースパローに代わる艦対空ミサイルが求められ、AAM-4の艦載型であるXRIM-4が提案された。ARH方式のXRIM-4は母艦からの誘導を必要とせず、次期護衛艦に装備される射撃指揮装置FCS-3の多目標同時追尾能力をフルに活かせる。すなわち『ミサイル搭載数=同時目標対処数』、近距離に限れば米軍のイージスシステムをも凌駕する最強の防空システムが誕生するのだ。
…と思いきや!
XRIM-4開発当時、SH-60Kや後のP-1など。新型航空機の開発と時期が重なったこと、それが原因となって予算が不足したこと。また、米海軍との兵站の共通化。そういった観点から次世代短SAMはESSMに変更された。この点を惜しむ声も多く、既に試作飛しょう体が完成した段階での中断は、主に三菱電機にとってまさに外道である。
しかし相応の理由も存在する。まずもってXRIM-4は只でさえ大型なAAM-4と比較しても、更に大型化している。このことはシステム側、搭載艦への負担増大も意味する。また、ESSMのような中間指令誘導+セミアクティブホーミング方式は、搭載艦のイルミネータ支援があるため、命中精度の確実性達成が容易という利点も存在する。
何よりESSMは米軍との兵站の共通化が可能であること、既存のMk41/48VLSに装填可能であること。クアッドパックを併用すれば、1セルあたり4発搭載可能など。XRIM-4と致命的なほど性能差がない割に、運用面での利点が多分に存在したことも見逃せない。既存のFCS-2とのインテグレートも良好であった。
…仮に実用化された場合、欧州のアスター15/30のような微妙な短SAMになった可能性も、けして否定はできない。但し自前で相応の短SAMを国産できる。このことはESSMライセンス料低減に貢献しており、90式戦車開発当時の日本製鋼所製120mm砲と同じく。けして無駄となったわけではないことも事実である。
因みに海上自衛隊開発隊群元司令は、FCS-3+RIM-4に比して、ESSM採用により僚艦防空性能の拡張に成功と世界の艦船の記事に著述。この点はFCS-3システム構成推移とも、合わせて考える必要があるだろう。
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関連項目
脚注
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