9K330トールとは、旧ソビエト連邦で開発され、現在もロシアで製造されている対空ミサイル車両である。NATOにおける識別名称は『SA-15ガントレット』。なおトールとはロシア語で円環の理円環(トーラス、要するに天使の輪とかドーナッツ)の意味で、北欧神話の神様『トール』とは関係ないそうな。
2020年1月8日に発生したウクライナ国際航空752便撃墜事件において、同便はイラン革命防衛隊の9K330により撃墜されたとされる。
概要
1970年代に配備が始まった9K31『オサー』[1]対空ミサイル車両の後継として1975年2月に開発命令が下り、1983年より試験開始、1986年より部隊配備が始まった。
いろいろと風変わりな特徴を持っている対空ミサイルシステムで、以下その特徴を述べる。
1:全部乗せ
たとえば同程度の能力を持つ日本の81式短距離地対空誘導弾のシステムだと、レーダーを積んだ射撃統制車両1両、ミサイルそのものをつんだ発射装置搭載車両が2両の計3両で1組である。ところがトールは索敵レーダー、誘導レーダー、ミサイル発射機をすべて1両…というか砲塔にまとめてしまっている。このため、
など利点がある。その分高価になったけどな(後述)。
2:回転式砲塔にVLS
ミサイルランチャーはVLS。360度回転する砲塔に8発のミサイルを垂直に収めている。
発射方法はコールドランチ(launch=発射。お昼ご飯はlunch。決して冷めた昼飯という意味ではない。念のため。)式で、高圧ガスで一度ミサイルを車両の上空20メートルまで放り出した後ロケットに点火するという手順を踏む。この方式はソ連・ロシアが大好きで、同国における各種VLSはコールドランチ式ばかりである。高圧ガスを用いず、最初からロケットを燃焼させ発射するのはホットランチ式という。もちろんあったかい昼飯という意味でhn・・・
VLSなら砲塔を回転させる必要ないんじゃないかという気がするが、誘導レーダーがでかくてこれだけを回転させるにはスペースがなかったのでミサイルごと砲塔を回転させて敵のほうを向かせることにしたというのが理由のようだ。ちなみに索敵レーダーは普通にぐるぐる回っている。
3:搭載ミサイル
ミサイルは9M330、後に9M331、9M332と呼ばれるものを搭載。誘導方式はTV誘導と発射機からの無線誘導を併用。射程は12km、有効高度は6kmとのこと。やろうと思えば巡航ミサイルや誘導爆弾でも打ち落とせるらしいがこの場合は射程は6kmまで落ちるんだとか。
各ミサイルの違いは最低迎撃可能距離。330は2km、331は1.5km、最新型の332は1kmまで近づかれても迎撃が可能とのこと。
あと、ミサイルは艦船に搭載できるバージョンが存在し、こちらは3K95『キンジャール』を名乗る。
4:フリーダムなバリエーション
砲塔部分は自己完結性が高く、基本形である9K330および9K331はGM-569A装軌トラクターの上に乗っけるが、ほかにも砲塔だけ地上におろした基地防空用とか無動力のトレーラーに砲塔乗っけて発電機を積んだトラックで引っ張るタイプ、6輪装甲車の上に砲塔乗っけたタイプが存在する。
- 9K330『トール』:ミサイルは9M330を搭載。誘導レーダーはフェーズドアレイレーダー、索敵レーダーは普通のパラポラ型アンテナ。
- 9K331『トールM1』:ミサイルを9M331に換装。レーダーとかは変わってないらしい。
- 9K331T『トールM1T』:前述したトレーラー搭載型。発電機積んだトラックは本当にただの軍用トラックで核攻撃とかには弱いらしい(笑)。
- 9K332『トールM2』:ミサイルは9M331もしくは9M332。索敵レーダーがフェーズドアレイレーダーに変わった。行進間射撃可能。
- 9K332E『トールM2E』:前述した6輪装甲車搭載型。装甲車はM2Eのために新規設計されたものだとか。
採用国
トールはロシア本国のほか中国、インド、キプロス、ペルー、エジプト、ギリシャ、イランで採用。イランに売却した際の価格は1両当たり日本円換算で約31億円とバカっ高い買い物だった模様。
2個大隊分のトールM1を購入した中国は後10個大隊分買うからまけろと交渉したが金額が折り合わず交渉は決裂。頭にきた中国は勝手にデッドコピー(要するに勝手にバラバラにして部品をコピーし製造しちゃうこと。中国のお家芸)して国産化してしまった。この中国版トールはHQ-17(紅旗17)を名乗る。余談だがこの紅旗17、本家トールM1にあった車体後側部の排気スリットがないためロシア製と簡単に区別がつく。
関連動画
関連商品
9k330トールに関するニコニコ市場の商品を紹介してください。
関連コミュニティ
関連項目
脚注
- 5
- 0pt