FLAC(Free Lossless Audio Codec)とは、音声圧縮方式の一つである。
概要
FLACの最大の特徴は、読んで名のごとく無償(Free)で可逆(Lossless)なリニアPCM音声の圧縮方式であり、なおかつオープンソースで開発が進められていることである。2001年に最初の安定版のバージョン1.0がリリースされ、2003年には非可逆音声圧縮のOgg Vorbisで成功を収めていたザイフォ財団(Xiph.org)に、オープンソースでパテントフリーの音声圧縮コーデックを開発するという志を同じくしていること、可逆圧縮と非可逆圧縮で補完関係にあることなどからプロジェクトは合流することとなった。
当初はストレージの記憶容量や通信回線の細さなどから可逆音声圧縮そのものが利用用途が限られたマイナーな存在であったが、当初からハードウェアデコーダーも意識し再生負荷が低かったこと、安定版リリースから長い間互換性を維持していること、マルチチャンネルや幅広い量子化ビット数、サンプリング周波数に対応していたことなどといったこともあり、先発のプロプライエタリで高圧縮なフォーマットや、後発のより圧縮率の高く(非可逆圧縮ファイル+差分ファイルで可逆圧縮になるなどの)高機能なオープンソースフォーマット、果てはマイクロソフトやアップル、ソニーのフォーマットも押しのけて、可逆音声圧縮でメジャーな形式の地位を確立している。
近年はハイレゾと呼ばれる高サンプリング周波数・量子化ビット数の音声ファイルがトレンドであること、ストレージや通信回線が可逆音声圧縮を扱えるようになってきたことで、PC以外にも据え置きのネットワークオーディオプレーヤー、ポータブルオーディオプレーヤーといった再生機器、PC同様ソフトウェア次第で再生できるようになるスマートフォン等の対応機器が普及した結果、音楽配信でも利用されることが増えている。
そもそも可逆音声圧縮とは何か
可逆音声圧縮とは圧縮したデータから、元の無圧縮だったデータを完全に取り出すことのできる音声圧縮形式である。乱暴に言えばWAVファイルなどをアーカイバなどを使ってZIPやRARといった形式に圧縮するのと変わらない。対するMP3やAACなどの非可逆圧縮は人間の聴感では分かりづらい部分からデータをそぎ落としていくため、圧縮したデータから元のデータを取り戻すことは原理上できない。反面、可逆圧縮形式では圧縮率の高いファイルでも半分程度、せいぜい3分の2程度の容量にしか圧縮できない。対する非可逆圧縮は「何を喋っているか判別できればいい」などのように聴感を犠牲にすれば20分の1などに圧縮できる。たとえそれでも無音部分が何分もあろうが一定のビットレートで記録し続ける無圧縮と比べれば可逆圧縮は帯域やストレージの節約に大きく貢献する。
では、なぜZIPなどでなく音声に特化した圧縮形式を使うのかというと、まずは汎用圧縮形式とは圧縮効率が違うこと、受信した部分から再生するストリーミング再生などに対応できること、そして何よりタグが扱えることである。MP3ファイルなどで用いられるID3タグで曲名、アーティスト名、アルバム名、ジャンル、ジャケットなどのアートワークを埋め込み、それらを再生ソフトで扱うことができる。実はWindowsで無圧縮のリニアPCMファイルを収めるのに広く使われるWAVファイルには、タグを埋め込む領域が十分な量確保された標準仕様として定義されていないため、書き込めたとしても各ソフトで互換性のない独自実装で埋め込むほかない。この点も無圧縮ファイルそのままでなく、可逆圧縮したファイル使う大きな理由でもある。
近年オーディオで流行しているDSD方式は、アナログ音声をデジタルに変換する際に、従来広く使われていたPCM変調ではなく、PDM変調を用いているためリニアPCM音声に変換するという工程を経なければ(つまり可逆ではなくなる)FLACなどのリニアPCM用の可逆圧縮は使えない。だが、そもそもDSDにはDSTという専用の可逆圧縮形式が仕様として盛り込まれているため、DSD非対応の機器のために劣化覚悟で変換するのでなければFLACを使う意味はないだろう。
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