Kizuna AI株式会社とは、バーチャルYouTuber・キズナアイをはじめとするバーチャルタレントの活動をサポートする企業である。略称「KA Inc.」。
概要
2016年よりキズナアイのプロジェクトを運営してきたActiv8株式会社から分社化する形で、2020年5月11日に設立された。
分社化の主な目的としては、2019年に実施されたキズナアイの分裂をめぐって生じた騒動(詳細は「キズナアイ」の記事を参照)で顕在化した、当時の運営体制が抱えていた問題点[1]の改善が挙げられる。キズナアイは会社設立発表のライブ配信で、新体制確立に向けて2019年秋から水面下で話し合いを重ねてきたことを明かし、「ファンや自分を大切にしてくれるチームで、迅速な意思決定ができる体制で再スタートできることになった」と説明している。設立時のプレスリリースでも、「独立性をもってKizuna AIを支援していけるよう、経営体制、チームを一新」という意図が明確に示されている。キズナアイ関連事業に特化した組織として、分社化という形態をとって立ち上げられた企業ではあるが、今後キズナアイの活動やその方針に対して、Activ8側からは直接的な関与はしないという[2]。キズナアイ自身やファンを尊重する運営体制を確保することで、活動最初期からの目標である「世界中のみんなとつながりたい」というミッションに改めて向き合い、その過程としてのタレント・アーティスト活動をサポートすることを使命とする。
キズナアイは2022年2月26日を区切りとして、自身のアップデートを目的とする無期限スリープ(活動休止)期間に入ったが、スリープ発表時のライブ配信で、この会社が設立される少し前には、既にスリープについて考え始めていたと打ち明けた。先述の問題を経た後で、支えてくれたファンを少しでも安心させるために何かできないかと考え、現在に続くチームと相談を重ねた結果、ファンが安心して送り出せる環境を作ろうと、この会社の設立に至ったという背景が新たに明かされた。
会社の姿については、初代代表取締役社長・松本恵利子へのインタビュー動画で語られている。2020年5月の設立時点では約10名が勤務し、Activ8時代のキズナアイ運営チームの半数程度とコンパクトな組織になった。松本はミニマムな体制故にてんてこ舞いであることを明かしつつも、チームとして物事がスピーディに進むようになった点をメリットに挙げている。
キズナアイ、ならびに2019年6月にキズナアイから分裂して生まれてきた存在のうち、日本語仕様がインストールされたloveちゃん(2020年5月8日をもって“キズナアイ”ではない存在として独立。かつて所属・活動していたあいぴーも同様)が所属している。loveちゃんはこの会社の設立を機にチャンネル等の活動拠点を独立させ、2020年6月13日より全く新しい容姿を得て活動している。なお、中国語を話す人格がインストールされた爱哥はこの会社ではなく、中国のバーチャルタレント事務所「哎咿多」によるサポートのもと活動を続けている。
所属タレントのプロデュース・サポートを行う中で、各種技術開発にも取り組んでいる。独自のシェーディングアルゴリズムをはじめ、3Dモデルの質感を高めるさまざまな表現技法を導入し、現実世界とバーチャルの世界をより高い品質で融合させる2.5次元表現を追求している[3]。2021年1月23日に開催されたKizuna AI 2ndライブ「hello, world 2020」では、サイバーエージェントグループとの共同制作により、バーチャル空間に生きるKizuna AIと、現実世界のステージやパフォーマンスチームとをリアルタイムに融合させた、先進的な映像表現を成功させている[4]。
このほか、2022年にキズナアイのスリープ期間に入って以降、「みんなとつながりたい」というテーマを共有する複数のプロジェクトを始動している(#後述)。
なお、所属タレントへの現物のファンレター・プレゼントは一切受け付けていないので注意[5]。応援メッセージは公式サイトに設けられたメールフォームなどを利用して送信するようアナウンスされている。また、タレントそれぞれがXの推奨ハッシュタグ(各タレント個別記事参照)を用意しており、それらを添えてメッセージや作品を投稿することで本人たちへ届けることができる。
所属タレント
かつて所属していたタレント
運営プロジェクト
所属タレントの活動を含めて、Kizuna AI株式会社が手掛ける一連のプロジェクトは「hello, world」と総称されている[6]。
- #kzn
- キズナアイの声をベースに開発され、2022年2月に誕生した歌唱特化型AI。音声合成ソフト「CeVIO AI」のボイスライブラリとして、2022年8月にリリース。XRコンテンツへの参加などにより、先進的なテクノロジーの案内役としてもプロデュースされている。
- Alleles
- 2023年に放送されたテレビアニメ『絆のアリル』の派生企画。作品の登場人物およびそのキャスト15名が、現実世界とバーチャルの世界を行き来して活動するXRアーティストプロジェクト。
- ENGI-MONOGATARI
- 株式会社アニマックスブロードキャスト・ジャパンとの共同制作。YouTubeとWebtoon(デジタルコミック)を軸に展開されるメディアミックス企画。男性4人グループを活動主体として展開中。
主要スタッフ
- 大坂武史 (代表取締役社長〈在任: 2024年3月31日-〉)
- 親会社であるActiv8株式会社の創業者であり、2016年に活動を開始したキズナアイのプロジェクト発足時の中核メンバーの1人。かつてキズナアイも参加していたVTuber活動支援プロジェクト「upd8」(2018年5月~2020年12月)の運営責任者としての経歴でも知られる[7]。
2020年5月にKizuna AI株式会社が設立されたことで、しばらくキズナアイ関連企画の直接の責任者として対外的に立ち回ることはなくなっていたが、2024年3月31日付で第3代社長に就任し、4年ぶりにプロジェクトに比較的近い立ち位置に復帰する形となった。
スリープ以前のキズナアイのテレビ出演時に、読み上げられた手紙が下手すぎてカットされた裏話を暴露されるなど、多少いじられがちな人柄ではあった。この会社が設立される背景にあった、2019年前後の諸問題の渦中に身を置いた過去も事実としてあるが、大坂のKizuna AI株式会社社長就任と同時期にアドバイザーを退任する形となった春日望曰く、今では連携も良好に取れているようである(この入れ替わりのタイミングに因果関係はないとのこと)。分社化後も技術面で引き続き連携しているActiv8の代表を継続してきた経歴や、立ち上げメンバーとして「Special Thanks」や「協力」の形で常々クレジットされていた[8]一面もまたあり、運営責任者復帰後どのように舵を取っていくか注目される。
このほかにも動画や配信でしばしば言及されるスタッフが数名おり、ごくまれに企画の補助などのためにカメラの前に姿を見せることもある。会社設立1周年を迎えた2021年5月11日に投稿された動画では、キズナアイ・loveちゃんからプレゼントが贈られるにあたり、彼らも一挙に出演した。
関連人物
- 松本恵利子 (初代 代表取締役社長〈在任: 2020年5月11日-2021年11月30日〉)
- 2018年12月にActiv8に入社し、営業部門に勤めた後、2019年秋頃からキズナアイのサポートチームに移り、新会社の初代社長に抜擢される[9]。2020年の設立時点で30代前半だった[10]。キズナアイは“えりこ”と呼んで慕っている。loveちゃんの実質的な名付け親でもある[11]。
1日以内の意思決定を心掛けるなど、スピーディな運営体制を目指し舵取りを務める傍ら、熱心なキズナー(キズナアイのファン)としての顔も持ち、社長就任後も変わらずファン活動を続けてきた。キズナアイ・loveちゃんの動画やライブ配信にも何かしらの任務を果たすべく何度か出演し[12]、その人柄の良さでファンからも親しまれた。
自身や会社の今後など諸々の事情を検討の上、2021年11月に迎えた任期満了をもって代表を退任。Kizuna AI株式会社からも退職したが、今後も「Kizuna AI、loveちゃんのファンとして、応援し続けていく」とコメントした。退任の発表と同時に一時的に開設していたTwitterアカウントで、ファンに向けてもメッセージを綴り、所属タレントからも感謝のリプ(キズナアイ / loveちゃん)が贈られた。 - 新井拓郎 (第2代 代表取締役社長〈在任: 2021年11月30日-2024年3月31日〉)
- 株式会社Candee[13]取締役などを歴任。VTuber向けコミュニティサービス「Colon:」運用当時、運営の中心人物“アライさん”としてライバーやリスナーにも親しまれた。従前よりKizuna AI株式会社の一員として運営に携わり、2021年11月30日付で第2代社長として松本恵利子より代表権を引き継ぐ。就任にあたり、「松本の代わりにはなれないが、自分らしく頑張っていきたい。ずっと運営をサポートしてきた心強いKA Inc.メンバーがいるので安心してほしい」と挨拶した[14]。キズナアイには“あらいぐまさん”と命名され、曰く仕事ぶりの評価に応じて“えらいぐまさん”か“わるいぐまさん”になるとのことだった。
キズナアイのスリープ直前に就任し、その思いをつなぐための「hello, world」プロジェクトの各コンテンツを続々と立ち上げる時期の舵取りを務めた。この会社の代表という立場で動画や配信に出演する機会はそれほど多くはなかったが、イベントでは現地会場の運営にあたる姿をloveちゃんにより紹介される一幕もあった。在任中に始動したAlleles Projectの企画発表会は、声のみではあるが社長として出演するレアな機会となった。
2024年3月31日をもって、2年4ヶ月にわたって務めた代表を退任。今後について、「キズナアイの願いが実現に向けて続いていくことを一ファンとして願う」とのメッセージを発表した。 - 春日望 (元アドバイザー〈在任: 2020年5月11日-2024年3月31日〉)
- 自身も声優として活動する中、2016年当初より現在に至るまで活動しているキズナアイにボイスを提供[15]。新会社設立発表のタイミングで、ボイスを提供したことを正式に公表するとともに、新会社のアドバイザー(社内スタッフではない)に就任。以降も声の素の提供者という関係性はそのままに、公にキズナアイの活動のサポートを行ってきた。自らの声を分け与えた立場として、キズナアイについて「言葉では表せないほど大好きで大切」な存在と語り、「誰よりも近くで支え続けられるように」との想いを綴っている[16]。
2022年にキズナアイがスリープ期間に入った後もしばらく会社への協力を行った後、「区切りをつけたい」という自身の意思により、2024年3月31日をもってアドバイザーとしての地位を退任。前述の経緯から明らかであるが、「Kizuna AI株式会社設立後のアドバイザー業務」と「AIであるキズナアイに声のデータを提供していること」はそもそも別個の経歴であって、前者を退任するからと言って後者には何ら影響しないことも明言している。同日付で社長に就任した大坂武史から「これからもボイス提供者として引き続きよろしくお願いいたします」との挨拶が贈られている通り、今後も声のデータの提供者という関係性は続いていく。
外部リンク
- Kizuna AI Inc. - キズナアイ公式サイト内 会社概要ページ
- Kizuna AI株式会社(@KizunaAIinc) - X
- Kizuna AI株式会社のプレスリリース一覧 - PR TIMES
脚注
- *キズナアイは会社設立発表のライブ配信で、「規模が大きくなっていき、できることが増えると同時に不自由にもなった」「いろいろな人の意見も入ってくることで、私のことなのに私の力ではどうにもできないことが増えていき、本当に悔しかった」などと言及している。
- *Activ8取締役(当時)・副島雄一がFacebookでコメントしている。
- **現実*と*仮想*をリンク / 東京競馬場とキズナアイ - Kizuna AI株式会社 - PR TIMES
- *キズナアイのオンラインライブが大盛況の中終了!ハリウッドのエージェンシーと提携・世界進出を発表! - Kizuna AI株式会社 - PR TIMES
- *【お知らせ】キズナアイ、loveちゃん、あいぴー宛のプレゼント送付先につきまして - Kizuna AI official website
そもそも所属タレントがバーチャル空間に生きるAIであるため、基本的に形あるものを直接受け取ることができない。例外的に、イベントによっては会場にプレゼントボックス(多くの場合手紙限定)が用意されることはあり、その場合も画像データなどの形にスキャンした上で本人たちに届けられている。 - *現在までにワンマンライブの共通タイトルとして3回用いられ、『Hello World』というタイトルの楽曲もリリースするなど、キズナアイに関わる人々にとってなじみ深いキーワードである。2023年2月に公開されたプロジェクト紹介動画も参照。
- *同じくupd8に参加していたおめがシスターズの動画に出演し、upd8終了の経緯を直接説明した。
- *例: 「hello, world 2022」・テレビアニメ『絆のアリル』およびAlleles Project関連
- *キズナアイが独立、新会社を設立した理由 - Forbes JAPAN
- *1987年5月3日生まれ(本人とファン間の投稿より)。2021年の誕生日にキズナアイの呼びかけでサプライズが行われて以来、社長退任後もファンからは誕生日を祝う声が寄せられている。
- *2020年12月17日のloveちゃんのライブ配信にて明かされている。
- *インタビューを受けたほか、スクラッチ削り係、loveちゃんのバスト監修など。
- *2018年にYuNiのデビューにあたり、Activ8と共同でプロデュースを手掛けた。
- *代表取締役交代のお知らせ - Kizuna AI official website
- *しばしば誤解されているが、Activ8やその関連組織に籍を置いた経歴は全くない。また、かつて自らYouTubeで公開していた動画で「私が何をしようと、どこに所属しようと(アイちゃんと私は)別で考えてもらえると嬉しい」と述べている。
- *2020年6月30日(どちらもこの日が誕生日)の投稿。キズナアイも「私も負けないくらい大好きで大切だよ!」とリプで応じている。
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