MPMS(Multi-Purpose Missile System)とは、陸上自衛隊が運用するミサイルである。
概要
制式名称は96式多目的誘導弾で、96マルチとも呼ばれる。重MAT(79式対舟艇対戦車誘導弾)の後継として開発され、戦車だけでなく上陸用舟艇等も攻撃対象になるため、名称に「多目的」と付けられている。
使用するミサイルは光ファイバーを使用した有線誘導ミサイルで、赤外線画像誘導方式で誘導される。
システムは情報処理装置、射撃指揮装置、地上誘導装置、発射機、観測機材、装填機をそれぞれ載せた車両6両で構成されている。
開発経緯
1986年に開発コードXATM-4として開発がスタート、10年の歳月をかけて作っただけあって諸外国が運用する大型対戦車ミサイルとは一線を画すシロモノとなっている。
陸上自衛隊の主目的である敵勢力の上陸阻止のためには、水際で上陸を果たそうとする上陸用舟艇などの破壊を目的とした携行可能かつある程度破壊力がある大型のミサイルが必要であった。その回答は重MATと呼ばれる79式対舟艇対戦車誘導弾だったが、いかんせん第2世代対戦車ミサイルであったため数々の問題があった。
その問題の最たるものは、ミサイルそのものの速度と誘導方式だった。重MATが200m/sec、最大射程(公称)4kmということは最大射程の目標に対して重MATを放った場合、目標に着弾するまでに20秒かかるということでこの間、射手は発射機にある照準器で目標を捉え続ける必要がある。
おまけに誘導はミサイル後部の光(キセノンランプ)が付くというシロモノで、ミサイル発射の煙と、ミサイルそのものが放つ光などで十分に暴露するし、20秒もあれば戦車が発射地点に砲弾なりを撃ちつつ煙幕を放って退避行動をとるだけの時間的猶予は十分にある(動画でも確認してほしい)。
また同一世代のTOWミサイルにくらべれば大型化しているといっても、ミサイル重量が33kg程度では大型化にある舟艇を撃破するには破壊力が足りず、かといってこれ以上大型化すると設置、移動に時間を要してしまう…。
ま、ぶっちゃけいうと今のスピード化された戦場では今一使い道がないミサイルとなってしまった。発射機と照準機を有線で50m分離。射手の生存性を高めてはいるが、性能不足の露呈はいかんともしがたいものであった。
システム
これに答える形で陸自が作ったのが96式多目的誘導弾(MPMS)であり、重MATの問題点を解決したものとなっている。ミサイル重量は60kg。大型弾頭化しており、なおかつ長射程化(10km以上といわれる)。
富士教導団の広報によると、発射装置三基で京都全域をカバーできるらしい。
誘導方式は分割式で世界初の光ファイバーケーブルによる画像誘導型ミサイルとなっている(その後、イスラエルのSpike-LRが同様の方式を採用)。
これによって何がすごいかというと発射機と誘導システムが別立てなので、戦場からやや離れた隠蔽構築された陣地からミサイルを発射するや、10km先の目標に向かって高速で飛ぶ一方、誘導する隊員も戦場にその身を晒すことなく画像をみながら弾頭を誘導し目標をヒットできるというシロモノになっていることである。自律誘導ではなく画像誘導であるため対欺瞞処置にも優れているというおまけつき。
光ファイバーケーブルは細く、軽く、情報量も多く転送できるケーブルだが、長射程化するとテンション(張り詰めた)状態を維持するのが難しい。導入当時、どのように光ファイバー誘導方式を可能にしたのか謎とされていた(って、風の噂に光ファイバーケーブルのリール開発には某国内釣具メーカーが協力したとかいう話があるのだが本当だろうか)。
弾頭重量は60kg。破壊力もましていれば速度も公開されている動画を見る限りかなり高速で、その速度と重量でERA(爆発反応装甲)を貫通可能、戦車などの目標に対しては目標直前でポップアップなどして、上面からのトップアタックを可能にしているという、なんでもありなミサイルとなっている。
目標直前のポップアップで降下速度を稼ぎ、加えて大重量の弾頭を有するため。あくまで俗説であるが、運動エネルギー「のみ」で、90式戦車の上面装甲相当の標的を貫通した。そのような噂も存在する。
問題点と教訓反映
…と、まぁ、ここまですごいところを書いてはみたものの、いかんせん、なんでもありな兵器であるというメリットの反対にはデメリットが当然存在する。
一つは、ユニットとして大型化しすぎという点もあり、6弾搭載の発射機ユニットと観測機材にそれぞれ高機動車一台ずつ、誘導ユニットが高機動車二台、情報処理装置と予備弾及び装填機にそれぞれ大型トラック一台ずつの計六台と対戦車、上陸用舟艇などの多目標対応としては大掛かり過ぎる。
もう一つは大掛かり過ぎると今度は調達費用に跳ね返るというわけで、ミサイル1発5000万円(!)という破格のお値段になっている。ちなみに発射ユニットセットで20~25億円とのこと。
…調達費用が高いということは装備している部隊も少ない、というわけで、国内で配備されているのはわずか3部隊(第4師団、第5旅団、北部方面対舟艇対戦車隊)のみという寒い状況でもある。
ちなみに平成24年度に予定される3セット分の導入をもって調達を終了。最終的に37セット導入となることが防衛省のレポートに記述されている。
MPMSは高性能だがシステムが大型化した反省を受け、その後に開発された中距離多目的誘導弾。開発名称X-ATM6は高機動車1台に、ミリ波レーダー・光学誘導システム。6連装伸縮発射装置を搭載。機動性、展開性、自己完結性に優れており、平成24年度の総合火力演習では、複数目標への同時攻撃が可能なことも公表された。
中距離多目的誘導弾は平成21年度より配備が開始され、現在60セット弱が配備されている。システム調達単価は4億円前後と安価ではないが、MPMSよりは大きくコスト低減に成功した。今後、MPMSはSSM-1Bなどの補完として。中距離多目的誘導弾は79式、87式対戦車誘導弾の後継として。それぞれ使い分けられるものと考えられる。
なお、近年の自衛隊新装備と同様、◯◯式という型番のない準制式装備扱いとなった理由はお察しください。
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