TTサーキット・アッセンとは、オランダ東部・ドレンテ州アッセンにあるサーキットである。
6月最終週にMotoGPのオランダGPが開催される。また、スーパーバイク世界選手権が開催される。
名称
TTの二文字を入れる
本サーキットの名称はTTサーキット・アッセンであり、TTという2文字が入っている。
TTとはTourist Trophy(ツーリスト・トロフィー)の略で、公道レースを意味する言葉である。
スピードの大聖堂
TTサーキット・アッセンは二輪レースの歴史を体現するようなサーキットなので、「Cathedral of Speed(スピードの大聖堂)」と呼ばれるようになり、サーキットもそう自称するようになった。
「the Cathedral of Grand Prix Motorcycle Races(二輪レースの賞典の大聖堂)」とMotoGPの実況者に表現されている。
アッセンという都市は1258年に修道院が移転してきたのが始まりで、もともとは宗教都市だった。そのためCathedral(大聖堂)という、宗教を連想させる言葉がサーキットを表現する言葉に選ばれた。
略歴
サーキットが建設される前の公道レース
1925年からアッセンの近郊でTT(ツーリスト・トロフィー 公道レースの意味)の形式のバイクレースが行われるようになり、DutchTT(オランダのTT)と呼ばれていた。
1949年からMotoGPが始まったが、その初年度からDutchTTが組み込まれている。
1955年にサーキットが建設される
1955年にアッセン近郊にTTサーキット・アッセンが作られて、その年からTTサーキット・アッセンでMotoGPが行われるようになった。
TT(公道レース)をやめてクローズド・サーキットでMotoGPが行うようになったのだから、DutchTTと呼ばず「DutchGP」と呼ぶのが適切だと思われたが、「TTサーキット・アッセンでのMotoGP」を引き続きDutchTTと呼ぶ慣習が続いている。
二輪レースばかりが開催される
TTサーキット・アッセンではMotoGPが開催され、それ以外にはスーパーバイク世界選手権が開催される。
バイクレースが盛んに開催されるが、四輪レースがあまり開催されない。
マックス・フェルスタッペンというオランダ人F1ドライバーが活躍していることを受けて、2018年頃にF1のオランダGPを復活させようという気運が高まった。TTサーキット・アッセンとザントフォールトサーキットがF1誘致を競ったが、結局、ザントフォールトサーキットが2021年以降のF1開催を勝ち取った。
※この項の資料・・・記事1、記事2、記事3、記事4、記事5
立地
TTサーキット・アッセンはこの場所にある。
田舎の牧草地の中にある
本サーキットはアムステルダムから130km、ハーグから180km、ロッテルダムから180km離れている。オランダを代表する西部の3都市から遠く離れた東部の田園地帯に位置し、周囲には農地が多く見られる。本サーキットの含まれるドレンテ州は典型的な農業州の田舎で、強豪サッカークラブも存在しない。
サーキット最寄りの街はアッセンで、人口6万6千人の小都市である。ホテルらしいホテルなど無いので観客たちはその辺の農地でテントを張ってキャンプをして夜を過ごす。Youtubeで検索すると、MotoGP観戦者たちがキャンプをする動画が多くヒットする。バイクで土を掘ったり(動画)、何かをこすって白煙を上げたり(動画)、やりたい放題やって遊んでいる。
田舎なのでサーキットに野ウサギが出現する(動画1、動画2)
サーキットの近くには牧草地が点在している。牧草地というのは、肥料や牛の落とし物のため、くさい。牧場の近くに住む人たちがにおいに苦しむ声は多く聞かれる(検索例)。
牧草地からにおいが漂ってくるド田舎の公道で公道レースをする、というのがヨーロッパ人にとって郷愁(ノスタルジー)を強くかき立てるものであるらしく、本サーキットのレースは大人気となる。
ドイツとの国境から近い
ドイツとの国境から40kmの位置にあり、MotoGP開催時は隣国ドイツから大勢の観客が押し寄せてくる。
緯度が高くて冷涼な気候になる
本サーキットは北緯52度57分の位置にあり、樺太のこの村と同じ緯度にある。2018年~2019年にMotoGPが開催された19ヶ所のサーキットの中で最も緯度が高い場所にある。
アッセンから25km離れたフローニンゲンにおいて、MotoGPが開催される6月の平均最高気温は19.9度であり(資料)、東京の4月下旬~5月上旬に相当する(資料)。
アッセンから25km離れたフローニンゲンにおいて、スーパーバイク世界選手権が開催される4月の平均最高気温は13.4度であり、東京の3月に相当する。2019年4月のスーパーバイク世界選手権では雪が降ってしまった(記事、画像1、画像2、画像3、画像4)。
冷涼な気候であり、路面温度が低めのサーキットになる。
冬になったら雪が降って路面が凍結する(画像1、画像2)。本サーキットに粗い路面を敷くと、路面に水が入りこんだ後に路面が凍結して路面がひび割れてしまう。それゆえ本サーキットには粗い路面を敷くことが難しく、目が細かくて水が入りにくい路面を採用することになる。目が細かい路面は摩擦係数(ミュー)が低く、タイヤがグリップしにくい(青山博一の解説ブログ)。
こちらやこちらやこちらが現地の天気予報だが、後述のダッチウェザーと呼ばれるような天候変化が激しい土地柄なので、あまり当てにならない。
ダッチウェザーに翻弄される
本サーキットと海岸線との距離は50kmで内陸に位置するが、周囲は平野ばかりなので風が強く吹きやすい。このことはアッセンに限ったことではなく、オランダの全土において共通することである。詳しくはオランダの単語記事を参照されたい。
風が強く吹くことで、次から次へと洋上から雲がやってくるようになり、頻繁に雨が降ることになる。「アッセンで開催されるMotoGPの3日間が全て晴れたことは、記憶にない」と言われるほど、雨が多い。
雨が降ったと思ったらすぐ晴れて、晴れていると思ったらいきなり雨が降り出す、このような気まぐれそのものの天候に翻弄される。こういう気まぐれな気候をダッチウェザーという。
天候が変わるたびピットのメカニックたちが慌ただしくマシンを整備するのがアッセンの風物詩である。タイヤ交換だけではなくサスペンション調整も行うので、忙しくてしょうがない。
「カラッと晴れて完全ドライ路面」とか「びっしょり濡れて完全ウェット路面」なら対応しやすいが、「ドライ路面にポタッと雨粒が落ちる」とか「ウェット路面が次第に乾く」というハーフウェットの状況は非常に難しい。
ドライ路面でスリックタイヤの走行を重ねることで路面の上にラバー(タイヤのゴム)が乗っている。路面の上のラバー(タイヤのゴム)は真っ黒い色なので、ブラックマークとも呼ぶ。そのラバーの上にポタポタと雨粒が落ちると、スリックタイヤと路面のラバーの間に水分が入ることになり、大変に滑りやすい。雨の降り始めというのは非常に転倒しやすいのである。
雨が十分に降ってくれれば、路面の上のラバーが完全に流されるので、滑りにくく安全になる。ところがダッチウェザーは、路面の上のラバーが完全に流されるまえに、ピタリと雨が止んだりする。
雨が降ったからレインタイヤでコースに出たら雨が止んでしまい、路面が乾いていくことがある。レインタイヤ(溝が入っていて排水機能を持つウェット路面向けタイヤ)は溝があるのでゴムが動き、発熱しやすくて耐久性が悪く、乾いた路面で3~4周程度しか持たない。
このように、ダッチウェザーは、メカニック泣かせ、ライダー泣かせである。
ダッチウェザーの原因は、温かいメキシコ湾流、常時吹き付ける偏西風、風を遮る山がない平坦国土、この三点とされている。すなわち、世界最大級の暖流のメキシコ湾流が海上で雲を作り出し、その雲を偏西風が東へ運び、オランダの地形が雲を無制限に受け入れる……こうしてダッチウェザーとなるらしい。
近くの都市フローニンゲン
サーキット最寄りの街はアッセンだが、人口6万6千人の小さな街なのでホテルが少ない。
MotoGPの各チームはサーキットから北に30km離れたこの場所にあるフローニンゲンでホテルを探し、そこで宿泊する。フローニンゲンは人口18万4千人で、ホテルの数も多い。朝に起きたMotoGP関係者は、高速道路A28で南下し、このあたりにある31Aという出口で降りてサーキットに向かう。
このサーキットで事故が起こったら、ドクターヘリで北に30km離れたフローニンゲン市内のこの場所にあるフローニンゲン大学病院へ緊急搬送される。
※この項の資料・・・SPEEDWEEK記事
TTランドマークが近くにある
高速道路A28の31A出口を降りると、この場所にある石碑が視界に入ってくる(画像1、画像2、画像3)。
この石碑はTTランドマークと呼ばれるもので、2008年4月に建てられた。設計した人は建築家のヤン・ティマーという人で、作った人は彫刻家のロブ・シュリーフルという人で、石碑を2つ合わせた合計重量は90トン、石碑の高さは7.5mであり、ブルトン花崗岩で作られている。
正月などになると、小さな電球を付けられてライトアップされる(画像1、画像2、画像3、画像4)。
※この項の資料・・・ドレンテ州観光名所紹介ウェブサイト
サーキットの施設など
TTの門(東)
サーキット東側のサーキット東側のこの場所に、TTの門がある(画像1、画像2、画像3)。
「TT」という文字と「WORLD」という文字が付いていて、TとTが青い鉄骨で連結している。
オランダらしく、同国のナショナルカラーのオレンジ色に塗られている。
TTの門(正門)
サーキットへ向かうトラックが通るこの場所に、TTの門がある(画像1、画像2、画像3、画像4)。
こちらは「TT CIRCUIT」という文字と「ASSEN」という文字が付いている。遠くにはメインスタンドの波打った屋根が見える。
名声のトンネル(Tunnel of Fame)
バックストレートのこの場所に地下道があり、TTサーキット・アッセンのピットに物資を運ぶトラックはここを通る。入口には「welcome to the Cathedral of Speed」の看板が掲げられている。
2014年の時点では、こんな具合の、ごく普通の地下道だった。
2016年、地下道の壁面にオランダGP歴代勝者の名前をずらっと並べるという工事が行われ、「名声のトンネル(Tunnel of Fame)」と名付けられ、式典が開催された(記事)。式典の様子はこんな感じ。こちらの動画ではホルヘがおどけている。
レース後には2016年勝者のジャック・ミラーの名前がさっそく刻まれている(画像)。
この画像を見てもわかるように、1925年からの勝者をすべて記してある。アッセンでオランダGP(MotoGP)が始まったのは1949年だが、アッセンでMotoGPとは関係のないバイクレースが始まったのは1925年である。
サイレン音
ピコーンピコーンというサイレン音がレース前に鳴り響く。
この動画では少し音が重なっているが「ピコーンピコーン」の音が聞こえる。
最終コーナー付近や1コーナー付近の万国旗
最終コーナー付近には屋根なしの観客席がずらっと続いている。その観客席の上には世界各国の国旗が並んでおり、世界選手権を行うサーキットであることを示している(画像1、画像2、画像3)。ライダーの走行オンボード画像にも写り込む(画像)。
1コーナー付近の屋根なし観客席の上にも世界各国の国旗が並んでいる(画像1、画像2)。
このサーキットで英国スーパーバイク選手権(BSB)が行われることがある。そのときは、英国国旗のユニオンジャックをずらりと並べる(画像)。
メインスタンドの波打った屋根
このサーキットのメインスタンドの屋根は波打ったように曲がりくねっていて、特徴的である(画像1、画像2、画像3)。
レース運営の人がこもる場所の屋根にも曲がりくねった屋根を取り付けている(画像)。
コントロールタワーの曲がった屋根
サーキットの内側にはピット施設が並んでいて、その端にコントロールタワーがある。そのコントロールタワーの上には、「途中まで開けた缶詰のフタ」のような感じの曲がった屋根が付いている(画像1、画像2、画像3)。
二輪向け駐車場(屋根なし)
メインストレート横のこの場所には、屋根付きの駐車場と屋根無しの駐車場がある。どちらも二輪向け駐車場になっている。
屋根無しの駐車場の航空写真をよく見てみると、細く長いアスファルトが帯状になっていて、一部分だけの舗装になっている(画像)。二輪ライダーはバイクのスタンドを固いアスファルト部分に立てたがるから、こうしておけば皆キレイにバイクを駐輪するであろう、という発想である。その考え通りに綺麗に駐輪されている(画像1、画像2)。
二輪向け駐車場(屋根あり)の太陽光発電
2015年まで、メインストレート横の駐車場には屋根がなかった(動画)。
2016年になって、メインストレート横のこの場所に、太陽光発電の屋根が建てられた(動画)。
この太陽光発電パネルを作ったのはAXITEC GmbHという2001年創業のドイツ企業である。同社のこのページにTTサーキット・アッセンのことが書かれている。
展示場
この場所にエクスポ・アッセンという展示場がある。
様々な展示イベントが行われる。画像欄を見てみると、自動車や熱気球やニワトリや果物などの展示会が行われてきたことがわかる。
展示場そばの四輪自動車向け駐車場
展示場そばのこのあたりは、四輪自動車向けの駐車場となっている(動画)。
コース形状の変遷
TTサーキット・アッセンのコースの変遷を記録しているウェブサイトがある。
http://www.the-fastlane.co.uk/racingcircuits/index.html
ここのトップページでCircuits by Country の欄の中の Netherlands をクリックし、Assenを選ぶと、1925年のコースから2006年の新コースまで全てを閲覧できる。
1925年の公道レース
1925年にアッセンで初めてバイクレースのDutchTTが行われた。北西のロルデ、南西のグロロオ、南西のスコーンロープ、南東のボルゲルを回っていくコースで、全長は28.4kmだった。
1926年~1954年の公道レース
1926年にはコースが変更された。ラーグハレルフェーン、ラーグハーレン、ホーガーレンの3ヶ所を通り、そこから北へ走ってまた戻ってくるというコースで、全長は16.5kmだった。典型的な公道レース(TT ツーリスト・トロフィー)という形式だった。
この形態で行われるDutchTTが1954年まで29年間も続いた。その途中の1949年に、DutchTTがMotoGPの一つに組み込まれている。
1955年~1983年のコース
1955年にTTサーキット・アッセンが建設された。とはいっても、レースが行われないときにサーキットの一部を近くの農家が農道として使用していた。
1周は7.7kmで、かなり長いサーキットだった。2018年~2019年にMotoGPが開催された19ヶ所のサーキットの中で一番長いのがシルバーストンサーキットで、全長5.9kmである。
1955年から1983年までほとんどコース形状が変わっていない。1983年というとケニー・ロバーツ・シニアとフレディ・スペンサーが最大排気量クラスのチャンピオンを激しく争った年である。
1983年のオランダGPの最大排気量クラス決勝は、片山敬済がケニー・ロバーツ・シニアを追い詰め、わずか0.190秒差の2位にまで食い込んだ(記事)。このときの様子は、次の書籍に詳細に記されている。
1984年~2005年のコース
1984年から2005年までのコース形状は、1周が6.0km程度だった。
2002年の最大排気量クラス決勝を全て観戦できる公式無料動画がある。
MotoGP Classics -- Assen 2002 -
コースがどこもかしこもクネクネ曲がっていて、田舎の公道レースという雰囲気がたっぷり漂っている。
最大排気量クラスの出走者21人中7人が日本人ライダーで最大勢力であり、日本の黄金期と言える。
2002年の最大排気量クラスは2ストローク500ccマシンと4ストローク990ccマシンの混走で、2ストが表彰台に上ったのはわずかに5回だけだがそのうちの1つがこのレースで、アレックス・バロスが2位に入った。2ストのアレックス・バロスが4ストマシンを次々とパッシングしたシーンが印象深い(動画)。
2002年に2ストマシンに乗って活躍したライダーというとロリス・カピロッシなのだが、その彼はレース最中に大転倒し(動画)、重傷を負ってこのあと2戦を欠場してしまった。
TTサーキット・アッセンというと最終コーナーでドラマが生まれるサーキットして知られるが、この年も宇川徹とカルロス・チェカが最終コーナーで接触し、宇川が転倒している(動画)。
レース後は優勝したヴァレンティーノ・ロッシのところに観客がなだれ込んでいる。2021年現在のMotoGPでは見られない光景である。その観客に囲まれつつ、ヴァレンティーノ・ロッシがバーンナウト[1]を決めている(動画)。
これらのゲームで1984年から2005年までのコース形状を体験できる。
2006年の大改修
2006年に大改修が行われ、コース前半部分がごっそり削られ、コース全長が1.3kmほど短縮され、全長4.7kmほどになった。
この改修はライダーたちから「改修ではなく破壊」「ひどいレイアウト」と酷評された。削られたコース前半部分はくねくね曲がる直線が延々と続くエリアであり、アッセンで最もテクニカルな場所と評価されていただけに、残念がるライダーが多かった(記事1、記事2)。
2006年大改修で削られた部分は、建物と駐車場になっている(航空写真)。わずかに道が残り、往事をしのばせている。
コース紹介(MotoGP)
概要
コース全長は4542mで(資料)、2018年~2019年にMotoGPが開催された19ヶ所のサーキットの中で上から12番目である。コーナー数は18ヶ所で、2018年~2019年にMotoGPが開催された19ヶ所のサーキットの中で上から2番目である。コース全長は中位なのに対しコーナー数が最上位であり、直線が短くてコーナーの多いコースであることがわかる。
上り勾配や下り勾配がほとんど存在せず、平地の国オランダを象徴している。
2006年改修で追加された区間はぐる~っと回り込んだ低速コーナーが続き、低速ギアのままアクセルをあまり開けずにひたすらガマンさせられ、非常にストレスが溜まる。
バックストレート以降は高速ギアのまま車速を維持して勢い良く走り続けることになる。レース平均速度は2018年~2019年にMotoGPが開催された19ヶ所のサーキットの中で上から5番目である。
正反対のコースレイアウトが共存する二面性のあるサーキットとなっている。
ブレーキに優しいコースである。ブレンボ(イタリアのブレーキメーカー。MotoGPクラスのほとんどのマシンにブレーキを供給する)が選んだ「ブレーキに厳しいサーキット」の中で、TTサーキット・アッセンは最後尾に位置している(記事)。
高速走行をしながら片方に傾いたバイクをもう片方に切り返す作業をすることの多いサーキットである。高速走行中の切り返しは、マシンがずっしりと重く感じられ、体力を非常に消耗する。このサーキットは風が強く吹くことが多いが、強風が吹き荒れる中で高速走行しつつマシンを切り返すのは、さらに疲れる。ファビオ・クアルタラロは「TTサーキット・アッセンは最も肉体に負担がかかるサーキット」と発言している(記事)。
高速コーナーが多いからか、ここで激しい転倒を喫して長期間苦しむ怪我を負うケースが目立つ。1992年のミック・ドゥーハン、1997年のアレックス・クリビーレ、2002年のロリス・カピロッシ、2006年のヴァレンティーノ・ロッシ、2013年のホルヘ・ロレンソなど。ホルヘ・ロレンソはこの転倒以降、雨のレースにトラウマを持つようになった
こちらがMotoGP公式サイトの使用ギア明示動画である。1速に落とすのは5コーナー(De Strubben)のみとなっている。
主なパッシングポイントは、メインストレートエンドの1コーナー(Haabocht)、5コーナー(De Strubben)、7コーナー、8コーナー(Stekkenwal)、9コーナー(De Bult)、10コーナー(Mandeveen)、最終シケイン(Geert Timmer Bocht)、あたりとなっている。
公道の名残を残す蒲鉾形の路面
8コーナー(Stekkenwal)から最終シケインまでは2006年改修以前とほとんど変わらない区間であり、この区間はかつて公道だった名残がある。
公道は路面の水はけを良くするため中央を盛り上がらせて両端を低くする蒲鉾形の設計にするものだが、アッセンの昔からおなじみの区間も、蒲鉾形の部分が多い。
こうした蒲鉾形の路面は、「路面を広くワイドに使う」というライダーには印象が悪いらしく、「接地感が感じられずどうも苦手」「アッセンは嫌い」というコメントを残すことが多い。
「路面をワイドに使わず、遅いタイミングのブレーキングで思い切り突っ込み、小さくクルッと回る」という突っ込み重視のライダーはアッセンの蒲鉾路面を苦にしないようである。
この動画のオレンジ色軌跡を走りたがるライダーはアッセンで苦労せず、青色軌跡を走りたがるライダーはアッセンで苦労する、ということになる。
コーナーのカント(傾斜)が強い
コーナーのカント(傾斜)はどこも強めで、そのため高速のコーナリングスピードになる。
コーナーのカント(傾斜)の付け方も、イン側の地面を削ってみたりアウト側に土を盛ってみたりとコーナーによってまちまちで、公道にちょっと手を加えただけの手作りサーキットという風情がある。
風が強い
サーキットの周囲は平地が広がっていて、風が強く吹くことが多い。
風がライディングに与える影響については、風(MotoGP)の記事を参照のこと。
1コーナー(Haabocht)~2コーナー(Madijk)
メインストレートエンドの1コーナー(Haabocht)は直角に曲がるコーナーで、極めて強烈なハードブレーキングをするわけではない。ブレーキを掛けすぎず車速を残して進入する。
ブレーキが緩いとオーバーランしてダメ、ブレーキを掛けすぎて車速を落としすぎてもダメ、という
難しいコーナーになっている。
1コーナー(Haabocht)で何らかのミスをすると立ち上がりの車速が伸びなくなる。1コーナー(Haabocht)でミスをすると2コーナー(Madijk)で抜かれてしまうことがある(動画)。
2コーナー(Madijk)は、その次の回り込んだコーナーを見据えて、アクセルをそんなに開けない。
3~4コーナー(Ossebroeken)~5コーナー(De Strubben)
3~4コーナー(Ossebroeken)はぐる~っと大きく回り込むコーナーとなっている(動画1、動画2)。マシンを傾けながらあまりアクセルを開けず、我慢・忍耐・辛抱をし続ける。
3~4コーナー(Ossebroeken)でアウト側から捲(まく)っていけば、5コーナー(De Strubben)でインに入る形になる。ゆえに3~4コーナー(Ossebroeken)でアウトからかぶせていくライダーがたまに現れる(動画)。
この3~4コーナー(Ossebroeken)は緩やかな角度でスパッと抜ける高速コーナーばかりの本サーキットにおいて異質のコーナーで、キツい角度で長時間旋回する。ゆえにマシンセッティングにとって邪魔でしょうがない。3~4コーナー(Ossebroeken)に配慮したセッティングにすると他の高速コーナーでイマイチになり、かといって3~4コーナー(Ossebroeken)を完全に無視したセッティングにすることもできない。2006年大改修以前を知るライダーは口を揃えて「Ossebroekenというコーナーは厄介だ」「昔はセッティングが簡単だったから良かった」と語るという。
ロングストレートの前のコーナーではパッシングを仕掛けず綺麗なラインを通りストレートでの加速に備える、というのが格言だが、5コーナー(De Strubben)は超低速コーナーなので、格言を無視して抜きに掛かることが多い。
1コーナー(Haabocht)から5コーナー(De Strubben)まではアクセルを思い切り開けられない。じっと我慢の区間になっている。
バックストレート~8コーナー(Stekkenwal)
バックストレートからは高速走行がずっと続く。バックストレートの最初には右に左に曲がる緩やかなS字があり(画像1、画像2、画像3)、トリッキーである。
バックストレートエンドの6コーナー(Ruskenhoek)は2010年に改修され、かなり緩やかになった。こちらがヘリコプターからの空撮映像で、2010年以降はこのように走り抜けるようになった。
ちなみに四輪レースでは2009年までの深いコーナーのコースを使う(画像)。
6コーナー(Ruskenhoek)の周辺はアスファルト舗装が敷き詰められており(画像)、止まりきれなかったライダーは、アスファルトを通ってレースに復帰することができる(動画)。
バックストレートや6~7コーナーではスリップストリームがよく効く。スリップストリームの恩恵を受けて車速を伸ばし、6コーナー(Ruskenhoek)を追走し、切り返しの7コーナーでインに入ってパッシングするシーンが非常に多い(動画)。
6~7コーナーで抜きにかからず追走して車速を伸ばすことに専念し、直角コーナーの8コーナー(Stekkenwal)でインに入ってパッシングするシーンもよく見られる(動画)。
8コーナー(Stekkenwal)は大きいカーブの後に出現する直角コーナーで、ラーダー目線ではキツい角度のヘアピンに見えてしまい、ついついハードブレーキングして車速を落としすぎてしまう。何度も経験を重ねて、ブレーキングを緩めにするのがタイム向上のため必要であるという。
9コーナー(De Bult)~10コーナー(Mandeveen)
8コーナー(Stekkenwal)から9コーナー(De Bult)までは、クネクネ曲がっている(画像1、画像2)。改修して真っ直ぐにする選択肢もあったが、かつての公道レースの風情を保つため、あえてこうしている。
9コーナー(De Bult)は左の直角コーナーで、あまり強くないブレーキングで車速を保ちコーナリングする。
10コーナー(Mandeveen)と11コーナー(Duikersloot)は複合コーナーで、10コーナー(Mandeveen)はキツい角度の低速コーナーであり、パッシングポイントになる。
11コーナー(Duikersloot)~15コーナー(Ramshoek)
11コーナー(Duikersloot)から15コーナー(Ramshoek)は高速コーナーが続き、5速から6速という高速ギアで一気に駆け抜けていく。スリップストリームも非常によく効く。
11コーナー(Duikersloot)、12コーナー(Meeuwenmeer)、13コーナー(Hoge Heide)は右コーナーで、14コーナーと15コーナー(Ramshoek)は左コーナーである。「右・右・右、左・左」という順序であり、4輪走行オンボード画像で確認することができる。
14コーナーは高速走行の切り返しなのでマシンがずっしり重く感じられ、ライダーは体力を使う。最大排気量クラスでは時速270km走行中にアクセルを戻し時速230km程度で切り返す。
軽量級のMoto3クラスでは、15コーナー(Ramshoek)でインに入って抜くシーンがよく見られる(動画)。
マシンが重い最大排気量クラスではマシンの操作が大変すぎるからか、15コーナー(Ramshoek)でのパッシングがあまり見られない。
最終シケイン(Geert Timmer Bocht)
15コーナー(Ramshoek)で先行ライダーにコース左側のインを閉められインに入って抜くことができなかったら、先行ライダーのアウト側、つまりコース右側を勢い良く走行することになる。
先行ライダーはインを閉める窮屈なラインを通っているので少し速度が落ちていて、後続ライダーはアウトを回す広々としたラインを通って車速が伸びる。また、後続ライダーはスリップストリームがバリバリに効き、一気に車速が伸びる。
最終シケイン入り口(Geert Timmer Bocht)でイン側(コース右側)に飛び込むことができ、一か八かのバトルを挑むことができる。
ここは勝負所なのでドルナも3ヶ所にカメラを配置している。イン側の旋回クレーン、アウト側の低いところ、アウト側の高いところの3ヶ所である。
レース最終盤でここを舞台にドラマが生まれることが多い。2002年のカルロス・チェカ対宇川徹、2006年のコリン・エドワーズ対ニッキー・ヘイデン、2009年の青山博一対アルヴァロ・バウティスタ(250ccクラス)、2015年のヴァレンティーノ・ロッシ対マルク・マルケス、などが印象深い。
最終シケイン入口に向けてマシンを右に倒していく時に、すでに0.5車体分前に出ているのが望ましい。このシーンやこのシーンでは、抜き去る相手の右斜め前に出てから、右にバンク開始している。
2015年のマルク・マルケスは、最終シケイン入口に向けてマシンを右に倒していく時に、まだ先行車の右斜め後ろだった(画像)。これはやはり少し無理があったようである。
最終シケインを格好良く切り返す姿はいい絵になる(画像1、画像2)。
最終シケインは右・左・右の複合コーナーになっている(画像1、画像2)。最初に右コーナーの角度が最もキツく、次の左コーナーの角度は多少緩やかで、最後の右コーナーの角度は非常に緩やかである。
コース学習用動画
関連リンク
- TTサーキット・アッセン 公式ウェブサイト
- TTサーキット・アッセン 公式Twitter
- TTサーキット・アッセン 公式Instagram
- TTサーキット・アッセン 公式Facebook
- TTサーキット・アッセン 公式Youtube
関連項目
脚注
- *ちなみにバーンナウトというのはフロントのブレーキを掛けながらアクセルを回し、リアタイヤをスピンさせ、路面との摩擦熱でリアタイヤから白煙を上げさせる技術のことである。結構エンジンに負担が掛かるので、その気になればエンジンを故意に壊すこともできる。
2002年頃の最大排気量クラスはエンジン基数に制限がなく、走るたびにエンジンを交換していた。予選が終わったら決勝に向けて新しいエンジンにする、といった具合で、エンジン使い捨てだった。ゆえに気軽にバーンナウトをすることができた。エンジン基数に厳しい制限が掛かる最近の最大排気量クラスでは全くと言っていいほど行われない。
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