『The Gypsy Bard』(ザ・ジプシーバード)、または『Gypsy Bard』(ジプシーバード)とは、悲しい歌詞を妙に明るく歌った楽曲である。
一言で言ってしまえば「とあるアニメのファンによる二次創作楽曲」なのだが、派生版の動画にYouTubeで数百万再生されるものが複数あったり(本記事下部「関連リンク」参照)と、非公式な存在にも関わらず人気/知名度が高い。
概要
2010年から2019年にかけて北米で放映されたアニメ『My Little Pony: Friendship is Magic』(日本版は『マイリトルポニー 〜トモダチは魔法〜』)の、特殊な二次創作映像作品『Friendship is Witchcraft』(略して「FiW」)のために制作された。
『Friendship is Witchcraft』の第7エピソード『Cherry Bomb』内でキャラクターの一人「ピンキーパイ」が歌ったが、明るい曲調にも関わらずやたらと歌詞が暗いせいでピンキーパイの友人「アップルジャック」を悶絶させる。
(日本語字幕を付けた上でニコニコ動画に転載された『Cherry Bomb』。本楽曲関連の部分は再生時間07:15頃から)
タイトルの「gypsy」は「ジプシー」で、「bard」は「吟遊詩人」を意味する。『Friendship is Witchcraft』の公式サイトでは本曲のタイトルは『The Gypsy Bard』と表記してあったが、本楽曲の制作者「Lenich & Kirya」のSoundCloudやYouTube動画では『Gypsy Bard』と「The」が付かない形で表記している。
歌詞、および歌い出す前の会話の和訳
歌い出す前の会話
原文 | 直訳例 | 意訳例[1] |
---|---|---|
Pinkie Pie: Wanna heard the song I sing to my parents? Oh. Sorry, the song they sing to me? |
ピンキーパイ: わたしが両親に歌う歌 聴きたい? あっ ごめんなさい 両親がわたしに歌う歌ね |
ピンキーパイ: 両親への子守歌 ききたい? 今のウソ 両親からきいた歌ね |
Apple Jack: Doesn't matter which one Pinkie. As long as it's not one of those sad ones with a suspiciously happy tune. |
アップルジャック: どっちだっていいよ ピンキー 例の 明るい曲に見せかけた悲しいやつじゃないならね |
アップルジャック: 何でもいいよ ピンキー でも悲しい歌を妙に明るく歌うのはやめてくれよ |
「両親への歌」と言ってしまった後に「両親からきいた歌」と言い直しているが、以下の歌詞の内容からすると「両親が亡くなった後に作られた歌」と言うことになるので、実際にはやはり「両親への歌」なのだろう。
歌詞
上半分に英語の原文と原意を重視した翻訳を、そしてその下に日本語での歌唱を考慮した意訳例をいくつか掲載する。
翻訳を引用した日本語字幕動画の説明文によれば、「[]内がダブルミーニングですが、Youtubeのコメ欄でも解釈が錯綜するほど多義的な文章の多い歌詞ですので、字幕は数ある解釈の一つであることを念頭に置いて下さい。」とのこと。
アップルジャックは気に入らなかったようだが、ただただ暗いというわけではなく、割と希望も含んだ歌詞ではないだろうか。
原文[2] | 原意を重視した翻訳例[3] |
---|---|
When you're rife with devastation There's a simple explanation: You're a toymaker's creation Trapped inside a crystal ball |
あなたの心が荒れ果ててしまった時には ひとつシンプルに説明してあげられることがあるわ あなたはおもちゃを作る人に生み出された作品なの 水晶玉(スノードーム)に閉じこめられたおもちゃなの |
And whichever way he tilts it Know that we must be resilient We won't let them break our spirits As we sing our silly song |
どんな方向に水晶玉を傾けられたって (水晶玉の中の)わたしたちは元気を取り戻さなければならないわ 誰にも心を壊させたりなんかしない このばかな歌をうたっているかぎりはね |
When I was a little filly, a galloping blaze overtook my city So they shipped me off to the orphanage Said, "ditch those roots if you wanna fit in" So I dug one thousand holes and cut a rug with orphan foals Now memories are blurred, and their faces are obscured But I still know the words to this song |
私が仔馬だったころ 燃えさかる炎が街を飲み込んだの だから、私は孤児院に送られたの "両親やなじみ深い人たちの墓穴を掘りなさい [昔の自分を捨てなさい] 孤児院になじみたいのなら"と言われてね だから、わたしは一千もの穴を掘ったの [たくさんのものを捨てたの] 孤児の仲間と一緒にラグを作ったの [ダンスを踊ったの] 今や記憶もあいまいで 両親や埋めた人たちの顔もあやふや でもわたしはまだ この歌をうたうための言葉を覚えているわ |
When you've bungled all your bangles And your loved ones have been mangled Listen to the jingle jangle Of my gypsy tambourine |
もしあなたが腕輪を全部だめにしてしまったのなら いとしい人たちが刃物で切り刻まれてしまったのなら シャランシャランという音に耳を傾けて わたしのジプシー・タンブリンの音を聞いて |
Cause these chords are hypnotizing And the whole world's harmonizing So please children stop your crying And just sing along with me |
だって、この調べは魅力的なの 世界全体にメロディと調和をもたらすのよ だからお願い子どもたち、もう泣かないで わたしと一緒に歌ってよ |
歌唱を考慮した意訳例(1)[4] | 歌唱を考慮した意訳例(2)[5] |
もし心の中 雨振りの日なら 世界はおもちゃの ガラス玉のよう |
もしつらいのなら こういうことだよ あなたはお人形 ボールの中の |
もし傷ついても また立ち上がろう 負けない心の 唄(うた)をうたうの |
何度倒れたって 終わりはない でも 心は折れないで この歌がある |
わたしね むかしに あの街で 火事に遭(あ)い 孤児院の初仕事は 「穴を掘りなさい」 たくさん開けた穴 たくさん埋めたわ もう記憶もふたりも土の中 でもわたしはうたうの |
わたしが小さいころ ふるさとは焼け落ちて 送られた孤児院で 穴を掘る初仕事 たくさんの過去を埋め 今は仲間と過ごして 思い出消えても私はそうまだ歌を憶えてる |
もしパパもママも 星になってても 耳すませば ほら 聞こえるメロディ |
涙が枯れても 望みが消えても 聞いてよこの音を Oh、マイ・ジプシー・タンバリン |
チャイムを鳴らせば 勇気もリンリン 泣かない強さの 唄をうたうの |
眠りに誘うわ 世界に満ちるわ 泣くのはやめて 私と歌って |
歌唱を考慮した意訳例(3)[6] | |
この世界がもし 悲劇にみえたら 舞台の上から でられないから |
|
つらい時も ほら うたってわらうの だれにも負けない みなしごのうた |
|
まだ ちいさな頃 わたしの町は火事で焼け ついた先で 言われたの 『そんなもの埋めなさい』と せいいっぱい あけては みんな つめた穴 燃えがらぜんぶ 埋めたけど うたはまだ胸に |
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だいじなもの みんな つちのしただって わたしが いつでも そばでうたうよ |
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たのしく うたえば なみだも やむから いっしょにうたおう みなしごのうた |
関連動画
カラオケ版
※原曲ではなく、オリジナル版を編集して2分20秒の楽曲とした「SAFR Projects」による非公式の延長バージョンのカラオケ字幕動画。
アレンジ
※アーティスト「The Living Tombstone」がアレンジし、「olibacon」氏が動画を制作してYouTubeに投稿した動画。許可を得た上でニコニコ動画に転載されたもの。
ピアノ演奏&楽譜
VOCALOID
UTAU
CeVIO
うごメモ
関連静画
背景
(一応、この楽曲には以下のような背景がある。しかし割とややこしいので、単純に聴いて楽しむ分には把握していなくてもよい。)
『Friendship is Witchcraft』は、「映像はオリジナルの『My Little Pony: Friendship is Magic』をほとんどそのまま流用しつつ、音声変更や順序の入れ替えなどの編集によって別のストーリーにしたもの」という、かなり著作権的に怪しいところのある二次創作作品だった。「非営利のフェアユース」ということで公式からのお目こぼしを期待したものであったようだが、通常であればファンたちからの反感をかって継続不可能になることもありそうな、危うい代物である。
しかし音声面において、「オリジナルのキャラクターの声真似をしつつ台詞を変更してブラックジョークの強いものに変更、さらにオリジナルの楽曲をも加える」という芸の細かいことを行っていた。それらのクオリティの高さから多数のファンが付き、約4年間、全10エピソードも制作継続されるという奇妙な二次創作シリーズとなっていた。
そしてこのシリーズ内では、メインキャラクターの一人「ピンキーパイ」はなぜか「幼いころに両親を亡くして孤児院で育ち、その悲しい過去を明るい音楽に乗せて歌う」という妙なキャラクター付けがなされている。
ピンキーパイは『Friendship is Witchcraft』の第3エピソード『Dragone Baby Gone』内では楽曲『The Orphanage Song』を、第4エピソード『Cute From The Hip』内では『Pinkie's Brew』を歌う。どちらも曲調は明るいのだが……。
(日本語字幕動画。左は再生時間05:50頃から、右は再生時間07:30頃から該当の歌が始まる)
上記の会話内でアップルジャックの台詞「As long as it's not those sad ones with a suspiciously happy tune」(例の 明るい曲に見せかけた悲しいやつじゃないならね)は、それまでのエピソードでピンキーパイが歌った、これらの楽曲を踏まえたもの。
クレジット
歌唱を担当したのは、『Friendship is Witchcraft』でピンキーパイの(というか主役6名全員の)声優を担当した「Jenny Nicholson」氏。
作曲(Music)は「Griffin Lewis」「Lenich」「Kirya」氏の連名。アレンジとミックス(Arrangement and Mixing)は「Lenich & Kirya」。Lenich氏もKirya氏もロシア在住で、上記の第4エピソード『Cute From The Hip』での楽曲『Pinkie's Brew』のロシア語アレンジ版をYouTubeに投稿し、人気を集めていた。その縁で作曲やアレンジ、ミックスを任されたものか。
着想と歌詞(Idea and lyrics)は『Friendship is Witchcraft』のメイン制作コンビ「Sherclop Pones」。上記のJenny Nicholson氏とGriffin Lewis氏のことである。
(※以上の情報は、『Friendship is Witchcraft』の公式サイトの「Credits」ページや、「Lenich & Kirya」のSoundCloudやYouTube動画での少しずつ異なるクレジット表示を総合したものである)
関連リンク
- Friendship is Witchcraft — Gypsy Bard (Episode Version) by Lenich (楽曲制作者の一人「Lenich」氏のSoundCloudに投稿されたもの)
- Gypsy Bard | Sherclop Pones /w Lenich & Kirya - YouTube (楽曲制作者「Lenich & Kirya」の公式YouTubeアカウントに投稿された動画。アートワークに映っているストレートヘアのピンキーパイは「ピンカミーナ」か)
上記2つはエピソード『Cherry Bomb』内で使用されたオリジナル版(Episode Version)。これは短めで51秒しかない。
短すぎて聴き入るにはやや物足りないこともあってか、YouTubeでは以下のように編集して長くした非公式の「Extended」バージョンや、「The Living Tombstone」によるアレンジ版の方が人気が高い。
- The Gypsy Bard - Extended (Unofficial/Fanmade) - YouTube (「SAFR Projects」による、オリジナル版を編集して2分20秒の楽曲とした非公式の延長バージョン。2020年2月時点で約700万再生)
- The Living Tombstone | Gypsy Bard [remix] - YouTube (「The Living Tombstone」がアレンジし、「olibacon」が動画を制作したバージョン。2020年2月時点で「olibacon」以外が投稿した転載版?も合わせて約890万回再生)
「Sherclop Pones」公式YouTubeアカウントからは以下のように『Friendship is Witchcraft』関連の音源集的な動画が投稿されている。その中には「The Dixie Bard」「Jaunty Bangle」「Invitation Evaporation」「Lenich's Electoronic Gypsy Bard (scrapped concept)」「Pro-Episode "Gypsy Bard" Concept Sketch (first draft)」「Lenich and Kirya's early Gypsy Bard Demo」といった、本楽曲をアレンジした小作品や、本楽曲のプロトタイプバージョンなどが含まれている。
- Original Music from Friendship is Witchcraft (Ep. 7-9) - YouTube (該当部分は再生時間00:00~05:45)
関連項目
- My Little Pony
- My Little Pony -トモダチは魔法-
- ピンキーパイ / ピンカミーナ・ダイアン・パイ
- アップルジャック
- 楽曲の一覧
- ブロニー
- 二次創作
- The Living Tombstone
- ポガティブ
- ギャランドゥ (西城秀樹の楽曲。一部のメロディがちょっと似てるという説がある)
脚注
- *動画「Friendship is Witchcraft - "Cherry Bomb" (7) on 日本語字幕」より
- *本楽曲制作者によるYouTube動画「Gypsy Bard | Sherclop Pones /w Lenich & Kirya - YouTube」の説明欄より。なお『Cherry Bomb』本編での公式字幕や作曲者のSoundCloudに掲載されている歌詞には誤植や抜けがあるようだ
- *動画「Friendship is Witchcraft - "Cherry Bomb" (7) on 日本語字幕」より
- *動画「Friendship is Witchcraft - "Cherry Bomb" (7) on 日本語字幕」より
- *動画「The Gypsy Bardをピアノで弾いた - ニコニコ動画」に投稿されたコメントより
- *動画「【わやく】Gypsy Bardをゆっくりさんに歌ってもらったよ【MLP:FiW】」より
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