VVVFハーモニー楽団とは、電車の発車した瞬間に舞い降りた奇跡の楽団である。
概要
京浜急行2100形全車と新1000形の一部車両及びJR東日本E501系の一部車両は、美しい音階を発車時に奏でることで有名である。主にこれらのVVVF音を利用した音楽系MADに、「VVVFハーモニー楽団」のタグが付く。
そもそも何で音階なのかむずかしくせつめい
音の大きいVVVFでは、モーターの界磁にかける大電力を制御するのに、GTOサイリスタを使用している。
本来、GTOサイリスタは、オンとオフの動作しかできない。単純なオンオフだと、矩形波になってしまい、かご型三相誘導電動機の中で、理想的な回転磁界を生成できる正弦波から、程遠くなる。高速回転時は、矩形波か、角の所に細いパルスを付加した波でも動いてしまうが、とくに初動時は、正弦波に極力近づけないと回転子が回りだしてくれない。
そこで、頭のいい人が「正弦波をPWM変調したらいいんじゃね」と思いつき、GTOサイリスタのゲートをドライブするところに怪しげなコントローラを突っ込んでしまった。
MZ-700の動画を見まくった人なら知っているだろうが、オンとオフしか出来ないような出力でも、ややノイジーながらそれなりに聞こえる音声を出すことが出来る。低音質なら2値量子化ですむが、もう少し聞きやすい音にする場合、波を細かい時間で千切りして、電位をパルスの長さに置き換える、PWM変調を使っている。人間相手なら、千切る間隔の逆数=サンプリング周波数を耳に聴こえにくい所まで高くする必要があるが、モーター相手なら、サンプリング周波数を下げても誤魔化せる(というか下げないとゲートをドライブする速度が追いつかない)ということで、たまたま人の耳に聞こえる周波数が使われることとなった。
そして、サンプリング周波数やその倍音などが、モーターなど、磁界の変動で振動される部位から聞こえてくるものと見られる。ただし、大電力をドライブしているので、他にも強い電場がかかるVVVF装置などから音が出ているかもしれない。
さて、楽曲に使うVVVF音は、圧倒的にシーメンス社製GTO-VVVF装置の低速回転モード(例えば「シードレミファソラシドー」)が使われる。これはたまたま、
- どうせなら、作ったPWM変調後の波形をそのままROMにおいて、サンプリング周波数だけ変えようよ。
- 低速だし、あまり細かくすべり周波数を制御しなくても回っちゃうよね。
- じゃあ、適当に多段階でステップを設けて上げていくか。
- 音階に合わせたほうが耳でチェックできて楽でね?
という判断がなされたものとみられるが、編集者はシーメンスの中の人でないので正確なところは不明である。
ともかく、シーメンス社GTO-VVVFを搭載した車両は、音が大きく音程が一定しているので、音楽用の音源として使いやすい。
ちなみに、技術的なバカ度では、JR東日本E231系(東海道・高崎・宇都宮線の近郊型タイプ)に搭載されている「スピードが上がるのに音程が下がる」IGBT-VVVF装置、通称「墜落インバーター」の方が変である。
なんで最新型の電車は静かなの?
新型のVVVFでは、GTOサイリスタの代わりにIGBTというトランジスタ素子が使われる。この素子は、FET+バイポーラ型トランジスタの2段構成を無理やり一つに作りこんだ構造になっている。普通のトランジスタと同様に動作するので、オンオフの2値動作だけでなく、アナログ的に電圧を制御することも(コントローラががんばれば)できなくはない。
もちろん、正弦波をそのままなぞると、途中の抵抗が中途半端にある状態を使うことになり、発熱がひどくて効率が悪くなる。ただ、トランジスタとしての特性を、パルスの立ち上げ/立ち下げのリップルを緩和する方向に生かす技術を導入している可能性はある。
最新式のIGBT式VVVFでは、サンプリング周波数の可聴域外への引き上げや、パルスの並べ方の見直しも行い、GTO-VVVFよりも、出力が滑らかな正弦波に近づくように制御しているものと見られる。当然、耳に聴こえる高調波の成分も減ってしまうので、加減速時の音が聴こえにくくなってしまっている。
SiCを材料としたMOSFET素子は更に加速音が小さめである。なおSiC材料のIGBTなどもあるが「SiC素子のvvvf」は無いので間違えないように。
VVVFのような複雑な強電機器は、何十年も使えるようなものではなく、同じ車体でも10~20年で適宜新しい装置に更新されていく。すでにほぼ全ての車両が日本製のIGBT式VVVFに交換されており、近い将来シーメンス製GTOの音は聞けなくなってしまう。2020年現在、音階が聴ける車両は新1000形の1編成のみ。そして更新工事に入り、音階を楽しめる電車はなくなってしまった。とはいえGTOの音でも沼な音の電車は多数存在する。執筆者のオススメはJR西日本207系1000番台・223系0番台・阪急8000系列・JR四国6000系と8000系で多く採用されている東芝GTOである。
そんなGTOインバーターも更新工事で別の素子に変わる例が出てきている。乗る/録音するならお早めに。
なんでこんな真面目な解説をしたの?
そりゃ、本家のVVVFが、すんごくゆるーい記事だからに決まってます。
ちなみにVVVFハーモニー楽団の動画は電車の加速音を編集したものの他に、自作のvvvfインバーターで生演奏している動画もあるのでここに掲載しておく
関連動画
生演奏のやつ
関連項目
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