曖昧さ回避 |
- イギリスに本社を置く半導体設計会社、Armホールディングス。(当記事で記述)
- ARMアーキテクチャ。上記の会社がライセンスするCPUアーキテクチャである。(当記事で記述)
- 英語の腕、武器、兵器、権力の意。
- RPGシリーズ『ワイルドアームズ』において、共通して登場する武装・遺物等の総称。同シリーズでは、タイトルごとにARMの文字列の意味が異なっている。
- 同人サークルIOSYSに所属する作編曲家・アルバトロシクスのメンバー。 → ARM(IOSYS)
- 漫画『MÄR』およびアニメ『メルヘブン』に登場するマジックアイテム。魔力などを必要とするが、魔法使いや魔女以外も使用可。
- 対レーダーミサイル(anti-radiation missile)のこと。
- アルメニアのISO 3166-1国名コード。
- アルメニア語のISO 639-1言語コード。
Armホールディングス
現在の会社名はArm Holdings plc。英国ケンブリッジに本社を置く、ARMアーキテクチャ(後述)のCPU設計を提供(ライセンス)する企業。
ライセンス形態はソフトウェア的に記述されたデータ(ソフトマクロ)である「ARM RTL」が基本だが、回路配線とある程度の最適化を済ませた「ARM POP」も用意している。GPUなどの周辺コアはARMのものを使っても良いし、顧客自身が開発したものや他社のものを組み合わせても良い。さらには周辺回路の選択の幅が狭まるが、特定ファウンドリ(TSMCなど)にそのまま渡せば作ってくれる「ハードマクロ」も用意している。
AppleやQualcomm、富士通など一部の企業に対しては「アーキテクチャライセンス」としてCPUのマイクロアーキテクチャの設計を独自に行うことを認めている。
歴史
元々は6502ベースのパソコンを製造していたAcornというコンピュータメーカーからスピンアウトした会社である。同社はBBC Microのヒットを経て新しい32ビットRISCプロセッサであるARM2を独自開発し、 Acorn Archimedes というマシンに搭載した。ARMという名前はAcorn RISC Machineの略である。
1990年、このCPUに目をつけたAppleがPDAの草分けであるNewtonへの採用を決め、Acornのプロセッサ開発部門(わずか12人のエンジニア)がAppleと製造メーカーのVLSI Technologyの出資を受けてスピンアウトする形で独立企業のAdvanced RISC Machinesになった。この社名は1998年に上場の際、ARM Limitedに改称された(上場にあたり、Appleの持っていたARM株は売却され、Appleに多額の利益をもたらした)。
また、Newtonが発売されたのと同年の1993年に発表されたゲーム機の3DOにもARMが採用された。結果的にはNewtonも3DOも成功しなかったのだが、同じ年にTIのGSM携帯電話向けのチップセットに採用されたのがARMの運命の分かれ道となった。TIはARMベースのCPUを利用することを強く勧めたが、携帯メーカーのノキアは32ビット命令によりメモリ利用量が増えることを強く懸念した。ARMは日立のSuperHに倣い、16ビットの短縮命令(Thumb)を組み込むことにした。このThumb命令を実装したARM7TDMIとノキアのシンビアンOSが世界のGSM携帯の標準となる。ノキアのSymbian OSがGSM携帯の標準であり、Symbian OSがサポートするのはARMだけということで多くのメーカーがARMからライセンスを取得、携帯電話向けチップセットをリリースするようになった。
1995年にはDECとの共同開発プロジェクトStrongARMに着手。NewtonやArchimedesに採用されたほか、CompaqのiPAQなどにも採用された。のちにこの部門はIntelに売却されXScaleとしてPocket PCなどに採用された。ARMのエンジニアはこの経験で高性能プロセッサの設計技術を学び、ARM9/ARM10/ARM11といった製品に生かされた。母体であったAcornによる パソコン の製造は2003年に終了したが、ARM9やARM11は携帯電話やニンテンドーDSなどのゲーム機などのアプリケーションプロセッサで広く採用され、ライバルのMIPSに代わり32bit組み込みプロセッサの標準の座を固めていく。
2006年 にノルウェーの GPUベンチャーFalanx社を買収。同社の技術を吸収し、MaliブランドのGPUコアとしてオプション提供を始める。
また、これに先立つ2005年には製品ラインアップを再編し、携帯電話などのアプリケーションプロセッサ向けの高性能品Cortex-A、リアルタイム制御向けであるCortex-R、組み込みシステム向けのCortex-Mと用途別にCPUコアを提供する方針を打ち出した。ここまでは組み込みとクライアントシステムに特化していたため全て32ビットであったが、顧客からは電力効率に優れるARMアーキテクチャのサーバへの応用を望む声が高まり、2011年には64ビット命令セットであるAArch64を発表。2018年にはデータセンター向けのIPとしてNeoverseシリーズを追加し、ハイエンドサーバー市場への本格的な進出を果たした。
2016年にソフトバンクグループがArm社を約3兆3000億円で買収した。その後業績が思わしくなくなったソフトバンクは2020年にはArmの株をNVIDIAに売却することで合意したものの、規制当局の合意が得られず断念。結局2023年にArm社はNASDAQに再上場した。
ARMアーキテクチャ
命令セットは32ビットと64ビットで全く異なり(64ビット実装でも32ビット命令が実行できるようになっているため互換性はある)、また32ビットでも途中で命令が多数追加されている。
ARMコアの出荷数は加速度的に伸びており、2008年1月の時点で100億個以上、2010年9月の時点で200億個以上。2023年の上場時には累計2500億個のコアを出荷したと発表している。
ローエンド品は電子タグにも採用されるなど、低消費電力で定評があるが、64ビット版のAArch64は実装次第では富岳(スーパーコンピュータ)に搭載されたA64FXのような非常に強力なプロセッサを設計することも可能である。ただしCortex-MのようなローエンドとNeoverseのようなハイエンドでは完全な互換性があるわけではない。
32ビットARM
一応はRISC命令セットに分類され、32ビット固定長でマイクロコードを持たず、ロード/ストアアーキテクチャを採用する。ただし、RISCとしては例外的に豊富なアドレッシングモードを備えている。また、全命令に条件コード部が設けられ、ほぼ全ての命令を分岐命令無しに条件付きで実行することができるという特異な設計である。汎用レジスタは基本的に16本。
VFP (Vector Floating Point)やAdvanced SIMD (NEON)など多数の拡張命令があるが、オプションとして顧客が選択できるようになっている。中でも16ビット長の命令モードThumbはARM7TDMI以降のほとんどのARMプロセッサが搭載している。
64ビットARM
変態的だった32ビットARMと異なり条件付き実行命令の大半が削除されるなど常識的なRISC命令セットである。命令長は32ビットであるが16ビットのThumb命令も引き続き搭載している。汎用レジスタは31本。また上記のVFPとNEONが統合されSIMD命令が大幅強化されており、SIMD and Floating-point命令と称されている。
SIMD命令は2021年発表のARMv9でScalable Vector Extension 2(SVE2)として発展し、最大2048ビットの演算ができるよう定義された。
ARMアーキテクチャを採用している有名なSoC
アーキテクチャライセンスに基づき独自設計されたコアを搭載しているものは太字。
- Tegra(NVIDIA) - 派生品がNintendo Switchなどに搭載
- Grace(NVIDIA) - データセンター向けのプロセッサで、Armのサーバー向けコア「Neoverse 」の代表的な製品例である。
- Snapdragon(Qualcomm)
- A64FX(富士通) - 富岳(スーパーコンピュータ)などに搭載
- Apple Mシリーズ/Aシリーズ/Sシリーズなど(Apple)- iPhone、iPad、Macintoshなどに搭載
IntelやAMDを含め名だたる半導体企業でARMとの取引のない企業はほとんどないと言ってよく、Raspberry PiやPlayStation Vitaなど数え上げればキリがないほど多数の機器に採用されている。CPUがx64系のパソコンであってもARMベースのコントローラーがいくつも入っているはずだ。
関連項目
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