EURO2024とは、2024年にドイツで本大会が開催された17回目のUEFA欧州選手権であり、UEFA加盟のヨーロッパ24ヶ国で争われるサッカーの大会である。
概要
開催地・日程
2018年9月におこなわれたUEFA理事による投票により、トルコを退けたドイツに開催地が決定。ドイツがEUROを開催するのは西ドイツ時代の1988年以来二度目となる。
会場は2006 FIFAワールドカップの会場であったスタジアムを中心とした12か所に決まっており、2024年6月14日から7月14日までおこなわれる。決勝はベルリンのオリンピアシュタディオン(ヘルタ・ベルリンのホームスタジアム)でおこなわれる。ちなみにミュンヘンのフースバル・アレーナ・ミュンヘン(バイエルン・ミュンヘンのホームスタジアム)は前回大会でも使用されており、史上初めて2大会連続で開催されることになる。
予選
形式は前回予選を概ね踏襲しており、大会出場権を持つドイツと2022年ロシアのウクライナ侵攻の影響により除外されたロシアを除く53のUEFA加盟協会を10のグループに分け、ホーム・アンド・アウェー2回戦総当たりのリーグ戦を戦い、各グループの首位と2位のチームが直接本大会の出場権を獲得。出場23チームの内、残りの3チームは2024年3月に開催するプレーオフで決定され、2022–23 UEFAネーションズリーグでの成績に基づいて選考された12チームで争われる。そのうち、4チームずつがシングルエリミネーショントーナメントを戦い、それぞれの勝者が本大会に進出する。
今大会の予選では大きな波乱はなく、前回覇者のイタリアが敗退の危機に立たされたが最終節で無事本戦出場を果たしている。アーリング・ハーランド、マルティン・ウーデゴールといったスター選手を擁するノルウェーが敗退。セルビアは現在の国になってからは初出場となった。
グループステージ
グループA | グループB | グループC | グループD | グループE | グループF |
---|---|---|---|---|---|
ドイツ (16位) |
スペイン (8位) |
イングランド (4位) |
フランス (2位) |
ベルギー (3位) |
ポルトガル (6位) |
ハンガリー (26位) |
アルバニア (66位) |
デンマーク (21位) |
オーストリア (24位) |
ルーマニア (46位) |
トルコ (40位) |
スコットランド (39位) |
クロアチア (10位) |
スロベニア (57位) |
オランダ (7位) |
スロバキア (48位) |
チェコ (36位) |
スイス (19位) |
イタリア (9位) |
セルビア (33位) |
ポーランド (28位) |
ウクライナ (22位) |
ジョージア (75位) |
グループA
順 位 |
国名 | 勝点 | 得失 点差 |
得 点 |
失 点 |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | ドイツ |
― | △ 1-1 |
○ 2-0 |
○ 5-1 |
7 | 6 | 8 | 2 |
2 | スイス |
△ 1-1 |
― | ○ 3-1 |
△ 1‐1 |
5 | 2 | 5 | 3 |
3 | ハンガリー |
● 0‐2 |
● 1-2 |
― | ○ 1-0 |
3 | -3 | 2 | 5 |
4 | スコットランド |
● 1-5 |
△ 1‐1 |
● 0-1 |
― | 1 | -5 | 2 | 7 |
開催国のドイツが優位と見られたグループは、一時期の不調から抜け出したドイツが下馬評通りの強さを見せる。この大会を最後に現役を引退するトニ・クロースが復帰したことで攻撃の循環が格段に改善され、ジャマル・ムシアラやフロリアン・ヴィルツといった若きタレントが躍動。2勝1分の好成績で順当に首位通過を果たす。
2位の座はやはりこれも下馬評通り高いチーム完成度を誇るスイスが確保。第3戦ではドイツを相手にもう一歩で勝利というところまで迫っていた。
ハンガリーはスイス、ドイツという強豪相手の2連敗が響き、最終戦でスコットランドに勝利したが決勝トーナメントには残れなかった。
26年ぶりの国際大会となったスコットランドはスイス相手に引き分けたものの、他のチームとの力の差は否めず、最下位に終わる。
グループB
順 位 |
国名 | 勝点 | 得失 点差 |
得 点 |
失 点 |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | スペイン |
― | ○ 1-0 |
○ 3-0 |
○ 1-0 |
9 | 5 | 5 | 0 |
2 | イタリア |
● 0-1 |
― | △ 1-1 |
○ 2‐1 |
4 | 0 | 3 | 3 |
3 | クロアチア |
● 0‐3 |
△ 1-1 |
― | △ 2-2 |
2 | -3 | 3 | 6 |
4 | アルバニア |
● 0-1 |
● 1‐2 |
△ 2-2 |
― | 1 | -2 | 3 | 5 |
優勝候補のスペイン、前回優勝のイタリア、カタールW杯3位のクロアチアが揃い、今大会の「死の組」と評されたグループ。
その中で頭一つ抜けたのはスペインだった。今大会最年少選手である16歳のラミン・ヤマルやロドリ、ファビアン・ルイスといったタレントが繰り出す華麗なフットボールはクロアチア、イタリアといったライバルたちを寄せ付けず。今大会唯一となるグループステージ3連勝で余裕の首位通過を果たす。
ルカ・モドリッチらベテラン勢が健在のクロアチアだったが、初戦でスペイン相手に完敗。続く格下のアルバニア戦では終了間際に同点ゴールを許し、厳しい状況に立たされてしまう。一方、イタリアも初戦でアルバニアに勝利したが、続くスペイン戦ではスコア以上の完敗を喫してしまう。一方、初出場のアルバニアもクロアチア相手に引き分けたことで3位での突破に望みを残したが、第3戦でスペインに敗れ、最下位が確定。
注目されたクロアチアとイタリアの2位の座を賭けた直接対決は、モドリッチのゴールで先制したクロアチアがこのまま2位で通過するかと思われた。しかし、試合終了間際にマッティア・ザッカーニが劇的な同点ゴールを決め、土壇場でイタリアが2位での突破を決める。 クロアチアは前線のタレント不足と主力の高齢化による衰えは否めず、1勝もできなかったことで3位での突破も叶わず、グループリーグでの敗退となった。
グループC
順 位 |
国名 | 勝点 | 得失 点差 |
得 点 |
失 点 |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | イングランド |
― | △ 1-1 |
△ 0-0 |
○ 1-0 |
5 | 1 | 2 | 1 |
2 | デンマーク |
△ 1-1 |
― | △ 1-1 |
△ 0‐0 |
3 | 0 | 2 | 2 |
3 | スロベニア |
△ 0‐0 |
△ 1-1 |
― | △ 1-1 |
3 | 0 | 2 | 2 |
4 | セルビア |
● 0-1 |
△ 0‐0 |
△ 1-1 |
― | 2 | -1 | 1 | 2 |
同勝ち点のデンマークとスロベニアは直接対決が引き分け、得失点差と総得点も同じのため、フェアプレーポイントで順位を決定。
参加チーム中、選手の総市場価格がトップというタレント軍団イングランドに注目が集まったが、蓋を開けると低調なサッカーを繰り返すだけの塩試合を連発。地元メディアやサポーターから試合内容に批判が飛び交うが、それでもこのグループで唯一1勝を挙げていたことで首位通過を決める。
横一線と見られた残り3チームによる2位争いだが、なんと全チームの総得点数が2点以下、ちゃんと決着がついたのはイングランドvsセルビアのみという塩試合連発のグループとなる。というわけでこのグループで唯一黒星がついたドラガン・ストイコビッチ監督擁するセルビアが最下位が敗退となる。
3引き分けで並んだデンマークとスロベニアは最終的にフェアプレーポイントの差で2位デンマーク、3位スロベニアとなり、共に決勝トーナメントへと進出。
グループD
順 位 |
国名 | 勝点 | 得失 点差 |
得 点 |
失 点 |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | オーストリア |
― | ● 0-1 |
○ 3-2 |
○ 3-1 |
6 | 2 | 6 | 4 |
2 | フランス |
○ 1-0 |
― | △ 0-0 |
△ 1‐1 |
5 | 1 | 2 | 1 |
3 | オランダ |
● 2‐3 |
△ 0-0 |
― | ○ 2-1 |
4 | 0 | 4 | 4 |
4 | ポーランド |
● 1-3 |
△ 1‐1 |
● 1-2 |
― | 1 | -3 | 3 | 6 |
フランス、オランダの列強勢が優位と予想されたグループだったが、このグループの主役となったのは伏兵オーストリアだった。ラルフ・ラングニックが監督に就任したオーストリアはハイラインからハイプレッシングを仕掛けるアグレッシブなスタイルで強豪相手に引くことなく互角以上の戦いを演じることになる。初戦こそフランスに敗れたが、続くポーランド戦に快勝したことで勢いづくと、第3戦では強豪オランダとの打ち合いを制し、フランス、オランダを抑えての堂々の首位通過を果たす。この躍進で一躍今大会の台風の目として注目されるようになる。
優勝候補の一角フランスは、初戦のオーストリア戦でエースのキリアン・エムバペが鼻骨を骨折するアクシデントに襲われる。エムバペは第3戦で復帰はしたが、フェイスガードを付けてのプレーで本来の出来とは程遠い状態となっていた。エースの負傷によってフランスは深刻な得点力不足に陥り、第2戦と第3戦に引き分けたことで2位での突破となる。
オランダはコーディ・ガクポの活躍もあって第2戦まで1勝1分と順調に進んでいたが、第3戦ではオーストリア相手に打ち合いの末に敗れ、3位に甘んじることに。それでも、勝ち点4を稼いでいたことで3位のチームで最上位となり、決勝トーナメントへと駒を進むこととなった。
ポーランドは大会直前に頼みのロベルト・レバンドフスキが負傷したことが響き、最初の2試合に連敗したことで早々とグループリーグ敗退が決まってしまった。
グループE
順 位 |
国名 | 勝点 | 得失 点差 |
得 点 |
失 点 |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | ルーマニア |
― | ● 0-2 |
△ 1-1 |
○ 3-0 |
4 | 1 | 4 | 3 |
2 | ベルギー |
○ 2-0 |
― | ● 0-1 |
△ 0‐0 |
4 | 1 | 2 | 1 |
3 | スロバキア |
△ 1‐1 |
○ 1-0 |
― | ● 1-2 |
4 | 0 | 3 | 3 |
4 | ウクライナ |
● 0-3 |
△ 0‐0 |
○ 2-1 |
― | 4 | -2 | 2 | 4 |
ベルギーの一強と見られたグループだったが、初戦で早速波乱が起きる。ベルギーは攻め込みながらも最後までスロバキアの堅守を攻略することができず、0-1で敗戦。
一方、こちらもタレントが揃うウクライナだったが、伏兵ルーマニアの前にまさかの0-3の完敗。一気に勢力図が塗り替えられることとなった。
だが、第2節になるとウクライナがスロバキア相手に勝利し、ベルギーもルーマニア相手に勝利。この結果、最終節を前に4チームが勝ち点3で並ぶという最激戦区となる。
迎えた最終節は2試合ともが引き分けに終わり、最終的にEURO史上初めて全チームが1勝1敗1分と勝ち点4で並ぶという結果になる。得失点差『+1』のルーマニアとベルギーの通過が決まり、得点数の多いルーマニアがグループ1位となる。さらに、得失点差でもっとも劣るウクライナは最下位で敗退となり、スロバキアが3位で他グループの3位チームの中で上位に入ったことで決勝ラウンド進出となった。
グループF
順 位 |
国名 | 勝点 | 得失 点差 |
得 点 |
失 点 |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | ポルトガル |
― | ○ 3-0 |
● 0-2 |
○ 2-1 |
6 | 2 | 5 | 3 |
2 | トルコ |
● 0-3 |
― | ○ 3-1 |
○ 2‐1 |
6 | 2 | 5 | 5 |
3 | ジョージア |
○ 2‐0 |
● 1-3 |
― | △ 1-1 |
4 | 0 | 4 | 4 |
4 | チェコ |
● 1-2 |
△ 1‐1 |
● 1-2 |
― | 1 | -2 | 3 | 5 |
最有力候補と見られた優勝候補のポルトガルが開幕から2連勝を飾り、2試合で順当に首位通過を決める。そのためグループの注目は必然的に2位争いへと注がれた。
3大会連続出場のトルコは初出場のジョージアとの初戦を神童アルダ・ギュレルの活躍で制し、好スタートを切る。続くポルトガル戦は敗れたものの、この試合では主力の多くをあえて温存していた。迎えたチェコとの第3戦ではフルメンバーで臨むと、試合終了間際の勝ち越しゴールによって劇的に勝ち点3を獲得。2位でのグループ突破を勝ち取る。
初の国際大会出場となったジョージアはトルコ、チェコを相手に1分1敗に終わり、グループリーグ突破は厳しいと見られていたが、最終節でメンバーを落としていたとはいえ強豪ポルトガルを相手に歴史的な大金星を挙げる。ポルトガルの猛攻を守護神ギオルギ・ママルダシュヴィリの再三のビッグセーブで凌ぎ、少ないチャンスをクヴァラツヘリアとミカウターゼ確実にモノにしての会心の勝利で、3位での突破を勝ち取る。
決勝トーナメント
ラウンド16
力の差を見せつけたスイスが低調なイタリアに完勝。
序盤から組織の完成度の差で上回るスイスがイタリアを相手に主導権を握る試合展開となる。守護神ドンナルンマのおかげで何とか耐えていたイタリアだったが、前半37分左サイドからのパスワークから最後はフロイラーがボレーシュートを決め、スイスが先制。反撃に出たいイタリアだったが、後半開始早々にスイスはカウンターから左サイドを切り崩し、アエビシェールのラストパスをバルガスが押し込み、決定的な追加点を奪う。その後も攻守に低調なイタリアに対し、スイスは攻守両面で高い完成度のサッカーを披露し、危なげなく試合を終わらせ、2大会連続のベスト8進出を決める。
イタリアは最後まで良いところなく敗れ、ただ失望感だけが残るだけの早期敗退となった。
雷雨で一時中断したベスト16屈指の好ゲームとなった試合を制したのは復活した開催国ドイツ。
予想通りホームのドイツがボールを保持し押し込む展開となるが、デンマークもがっちりと守りながらカウンターで応戦。前半35分に雷のため試合が中断された後も一進一退の好勝負が続く。後半開始早々デンマークはアンデルセンのゴールが決まったかに思われたが、VARの介入によってゴールが取り消されてしまう。すると直後の後半6分に得たPKをハフェルツが確実に決め、ドイツが先制する。さらに後半22分左サイドのスペースでボールを受けたムシアラが冷静に追加点を決め、ドイツが試合の行方を決めてしまう。その後はドイツが交代枠を使いながら主導権を握り続け、試合を終わらせる。
地元開催で本来の強さを取り戻したドイツが前回ベスト4のデンマークを退け、ベスト8へ進出。
ベリンガムのスーパーゴールに救われたスリーライオンズが延長戦の末に辛くもベスト8進出。
予想外にアグレッシブな試合の入りを見せたスロバキアが序盤からペースを掴むと、シュランツがダイレクトシュートをゴール左隅に決め、先制する。その後自陣に引いて強固なブロックを敷くスロバキアに対し、相変わらずタレントたちが噛み合わず、ちぐはぐな攻撃に終始するイングランドが攻めあぐねる時間が続く。後半に入り、ケインにボールを集めて攻勢を続けるイングランドだったが、ゴールが遠い重苦しい時間が続く。だが、このまま敗退に終わるかと思われた試合終了直前にドラマが生まれる。後半アディショナルタイム5分右サイドからのロングスローをニアでグエイがフリックすると、この浮き球をベリンガムが見事なオーバーヘッドシュートでゴールに叩き込み、土壇場でイングランドが延長戦に持ち込む。そして延長戦に入ってすぐの延長前半1分トニーの頭での折り返しを主将ケインがヘディングで押し込み、イングランドが逆転。結局、試合はそのまま2-1でタイムアップ。
スロバキアに大苦戦のイングランドが敗退寸前からの逆転勝利で2大会連続のベスト8進出を決める。
4ゴールを奪っての逆転劇でジョージアの夢を打ち破ったスペインが2大会連続のベスト8進出。
序盤から圧倒的にボールを保持するスペインに対し、ポルトガル相手の金星で勝ち残った初出場のジョージアは前半18分右サイドを駆け上がったカカバーゼのクロスがル・ノルマンのオウンゴールを誘い、先制する。先制を許したスペインはすぐに反撃を開始すると前半39分ペナルティアーク内からのロドリのミドルシュートで同点に追いつく。後半6分にはセットプレーの二次攻撃の流れで右サイドからヤマルがクロスを送り、ファビアン・ルイスのヘディングシュートによってスペインが逆転。ジョージアもカウンターからチャンスは作るが、スペインは個々の質の差を見せつける。後半30分にはファビアン・ルイスからのロングフィードに左サイドで反応したニコ・ウィリアムズがドリブルでそのまま切れ込み、3点目を奪う。後半38分にはダニ・オルモのミドルシュートでダメ押しの4点目を奪ったスペインがジョージアに圧勝する。
力の差を見せつけられたジョージアだが、守護神ママルダシュヴィリ、エースのクヴァラツヘリアといったタレントを活かした堅守速攻のサッカーはしっかり爪痕を残した。
注目の強豪同士の対戦は、終盤のオウンゴールでベルギーを下したフランスに軍配が上がる。
互いにグループリーグでよもやの2位通過となったことで実現したラウンド16最注目カードは、互いに攻め手を欠いた膠着状態が続く。フランスは鼻骨骨折のエムバペが本調子とは程遠く、ベルギーはルカクがサリバの厳しいマークによって仕事をさせてもらえず、両チームともにゴールが遠いまま時間が過ぎ去っていた。それでも徐々に試合を押し込むようになっていたフランスは後半40分コロ・ムアニが右足を振り抜くと、ヴェルトンゲンにディフレクトしたクロスがゴールに吸い込まれ、ようやくゴールをこじ開ける。結局、このオウンゴールが決勝ゴールとなり、ここまでPKとオウンゴールでの得点しかないフランスがベスト8へと勝ち進む。
敗れたベルギーは、デ・ブライネやドクがチャンスを作っていたものの、ルカクがブレーキとなってしまいベスト16で姿を消すこととなった。
ロナウドPK失敗でPK戦までもつれ込んだ激闘をジオゴ・コスタが3連続ストップのポルトガルが制す。
立ち上がりから圧倒的にボールを保持し、ハーフコートで試合を進めるポルトガルだったが、再三の決定機を決められず、スコアレスのまま時間が経過する。後半になるとジョタを投入し、攻撃の枚数を増やすポルトガルだったが、集中を切らさないスロベニアの堅守を攻略できず、延長戦に突入。すると、延長前半13分ポルトガルにビッグチャンスが巡ってくる。ジョタがドリブルでボックス内に切れ込んだところ、ドルクシッチに倒され、PKを獲得。しかし、キッカーを務めたC・ロナウドはシュートをGKオブラクに止められ、思わず涙を浮かべてしまう。チャンスを逃したポルトガルは最後までゴールをこじ開けられず、試合はPK戦に突入。
ここでポルトガルはGKジオゴ・コスタが3人連続セーブの神業を見せ、粘るスロベニアを退けた。
ガクポの1ゴール1アシストの活躍によってルーマニアに圧勝したオランダが4大会ぶりのベスト8進出。
立ち上がりこそ好調のルーマニアがオランダ相手にも互角の戦いを見せるが、時間と共に個のタレント力の差が浮き彫りになっていく。前半20分好調のガクポが左サイドから個人技で強引にゴールをこじ開け、オランダが先制。その後も攻撃の手を緩めないオランダに対し、防戦一方のルーマニアは何もさせてもらえず。オランダも再三の決定機を決めきれず、追加点が遠くなっていた。それでも後半38分ボックス左ゴールライン際からのガクポのラストパスをマレンが合わせ、オランダに待望の追加点が生まれる。終了間際にもロングカウンターから再びマレンがゴールを決め、終わってみればオランダが3-0と圧勝。
ルーマニアはグループステージで見せたような躍動ぶりを全く見せられず、オランダの強さが際立った試合となった。
デミラルの2ゴールでオーストリアの快進撃を止めたトルコが3月の親善試合で6失点を喫したリベンジに成功。
試合は開始2分に動く。ギュレルのCKがゴール前での混戦を生むとルーズボールをデミラルが押し込み、トルコが先制。出鼻をくじかれたオーストリアもラングニック監督仕込みのプレッシング戦術から反撃を開始。しかし、後半14分またもやギュレルの右CKをデミラルがヘッドで合わせ、トルコが追加点を奪う。追い込まれたオーストリアも23分にザビッツァーの右CKをポッシュが頭で逸らし、ファーサイドのグレゴリッチュが押し込み、1点差に詰め寄る。その後圧力を強めるオーストリアだったが、トルコは終盤のピンチをGKギュノクのファインセーブで凌ぎ、4大会ぶりのベスト8進出を決める。
今大会の台風の目となったオーストリアだったが、セットプレー2発に泣かされ、快進撃もここでストップすることに。
準々決勝
事実上の決勝戦は、アンソニー・テイラー主審が大暴れで荒れるも延長戦の末にスペインが伏兵メリーノのゴールで開催国ドイツを破る。
ここまで試合内容で抜き出た戦いを見せてきた両強豪の対戦は、試合開始早々クロースからのタックルを受けたペドリが膝を負傷しプレー続行不可能となる。不運な形でキーマンの一人を失ったスペインだったが、代わりに入ったダニ・オルモが大仕事をやってのける。後半7分右サイドを切り崩したヤマルのクロスに反応したダニ・オルモがゴール左隅にダイレクトシュートを決め、スペインが先制する。リードを許したドイツもヴィルツ、フュルクルクと交代カードを早めに切り、ロングボールを織り交ぜながらスペインのプレッシングを回避しつつ反撃に出る。敗色濃厚となった後半44分ミッテルシュタットの左クロスをファーサイドのキミッヒが頭でマイナスに折り返すと、最後はヴィルツがワンバウンドしたボールを右足でゴールに叩き込み、土壇場でドイツが同点に追いつく。
延長戦に突入した激闘は、一進一退の攻防が続き、互いに次の1点が遠いまま選手たちに疲労が見られ、このままPK戦に突入するかと思われた。だが、試合終了間際となった延長後半14分左からのダニ・オルモのクロスからゴール前に走り込んだメリーノが打点の高いヘディングシュートを決め、スペインが勝ち越し。これが決勝点となり、激闘を制したスペインが2大会連続のベスト4進出を決める。
ドイツも敗色濃厚から一度は追いつくなど、伝統の粘りを見せたが、スペインは強かった。そしてドイツ復活の立役者となったクロースはこの試合を最後に現役を引退することに。一方、勝利したスペインだがペドリの負傷に加え、次の試合にカルバハルとル・ノルマンが出場停止に。
PK戦を制したフランスがPK1点、OG2点でベスト4へ。ポルトガルは"レジェンド"クリスティアーノ・ロナウドと心中することに。
ベスト4を懸けた強豪国同士の対戦は、立ち上がりから一進一退の攻防が続くが、お互いに決め手を欠き、ゴールが遠い試合展開となっていた。数少ない決定機もポルトガルはジオゴ・コスタ、フランスはメニャンという両GKによって防がれてしまう。その後は互いに選手を入れ替えながらゴールを目指したが、最後までスコアは動かず。試合は90分でも延長戦でも決着がつかず、PK戦に委ねられることに。PK戦では先攻のフランスが5人全員成功したのに対して、後攻のポルトガルは3人目のフェリックスがシュートを左ポストに当てて失敗。この結果、5-3でPK戦を制したフランスが2大会ぶりのベスト4進出を決めた。
ポルトガルは39歳となった大エースのクリスティアーノ・ロナウドを最後までピッチに立たせたが、結局最後のEUROと明言した大会をノーゴールで終えることに。このロナウドの扱いについては後に賛否を巻き起こすことになる。一方のフランスも堅守は見せるものの、タレント揃いの攻撃陣は一向に眠ったままでイングランド同様試合内容に批判が集まることに。
"個"のイングランドと"組織"のスイスという対照的な両者の戦いは、PK戦までもつれた激闘を制したイングランドがベスト4に進出。
個vs組織という対照的なスタイルの両チームの戦いだが、前半はお互いの守備陣が集中を切らさなかったことで決定機の無い膠着状態となる。後半に入ると、チームの完成度で上回るスイスがペースを握るようになり、後半25分こぼれ球に反応したエンボロがゴールをこじ開け、スイスが先制する。相変わらず塩試合が続くイングランドだったが、この試合で唯一の攻め手となっていた右サイドのサカが突破口を開く。後半35分右サイドを個人技で突破したサカが左足でのシュートで堅いスイスゴールをこじ開け、イングランドが同点に追いつく。その後、試合は延長戦でも決着がつかず、PK戦へ。すると、スイス1人目のアカンジのシュートをGKピックフォードがストップ。対するイングランドは5人全員が決め、辛くもベスト4へと勝ち進む。
最後は個で打開する火力不足を露呈し、無敗のまま姿を消すことになったスイスだったが、攻守両面での組織力は高いトップクラスと言え、強豪とも互角に渡り合えることを証明した。
トルコが大健闘も、後半の連続ゴールで逆転したオランダが5大会ぶりにベスト4進出。
主力3人を出場停止で欠くトルコに対し、予想通りオランダが序盤からボールを保持し、押し込む展開となるが、5バックを敷くトルコ守備陣を崩しきれず、なかなか決定機まで至らない状況が続く。すると、前半35分CKの流れからギュレルのクロスをアカイドゥンがヘディングで合わせ、少ないチャンスをモノにしたトルコが先制。リードを許したオランダは反撃に出るが、トルコの堅守の前に攻めあぐねていた。後半になると逆にあわやという場面を作られてしまう。それでも後半25分ショートコーナーからデパイのクロスをデ・フライが高い打点のヘディングで合わせ、オランダがようやく同点に追いつく。さらに後半31分ドゥンフリースのダイレクトクロスをファーサイドに走り込んだガクポが倒れ込みながら右足で放ったシュートがオウンゴールを誘い、オランダが逆転。
終盤のトルコの猛攻もGKフェルブルッヘンのファインセーブもあって凌ぎ、オランダが5大会ぶりにベスト4へ進出。奮闘したトルコだったが、あと一歩及ばなかった。
準決勝
16歳ヤマルのEURO最年少ゴールでフランスを撃破したスペインがファイナル進出。フランスは頼みのエムバペの調子が上がらないまま敗退。
強豪同士の準決勝はボールを保持し主導権を握ろうとするスペインに対し、カウンターで応戦するフランスという構図でスタートする。すると、前半9分左サイドのエムバペのクロスからコロ・ムアニがヘディングシュートを決め、フランスが先制する。出鼻を挫かれたスペインだったが、慌てることなく反撃に出ると前半21分に今後語り継がれるであろうゴールが生まれる。PA手前右でボールを受けたヤマルが芸術的なコントロールショットを決め、同点に追いつく。このヤマルのゴールは16歳362日でのEURO最年少ゴールとなった。さらにわずか4分後の25分ルーズボールを拾ったダニ・オルモがチュアメニをかわしての3試合連続ゴールを決め、スペインが前半のうちに逆転する。後半、フランスはグリーズマン、バルコラ、ジルーといった攻撃の選手を次々と投入し圧力を強めるが、スペインはこれを冷静にいなしながら試合をコントロールし、ヤマルを中心にカウンターで牽制。前半のリードを保ったスペインが優勝した2012年大会以来、3大会ぶりに決勝に進出。
スペインのヤマルは新時代のスターとして世界中に名を轟かせる試合となった。一方、フランスはフェイスガードを外してきたエムバペだったが、やはり本来のキレは戻っておらず、エムバペ頼みが浮き彫りとなった。
途中出場のワトキンスの劇的逆転ゴールでイングランドがしぶとく2大会連続のファイナル進出。ここまで批判され続けたサウスゲート采配が当たる。
開始7分中盤でボールを奪ったシャビ・シモンズがドリブルで持ち上がり、PA手前からミドルシュートを決め、オランダが早々と先制。準々決勝に続いて3バックを採用したイングランドは、前半14分ケインがダンフリースからアフターチャージを受けると、主審はオンフィールド・レビューの末にPKを宣告。このPKをケイン自身が決め、イングランドが同点に追いつく。負傷でデパイが交代となったオランダは守勢の時間帯を凌ぎ、後半になって盛り返すようになる。一方のイングランドもオランダの守備を崩す一手が打てずにいた。膠着状態が続く中、イングランドはケインとフォーデンを下げてワトキンスとパーマーを投入。このまま延長戦突入かと思われたが、試合終了間際にこのサウスゲート采配がズバリ的中する。アディショナルタイム1分パーマーのスルーパスをPA内右で受けたワトキンスがトラップで前を向き、劇的な逆転ゴールを決め、イングランドが逆転。この勝利で2大会連続での決勝進出を決め、前回のリベンジにあと1勝に迫る。
試合後、クーマン監督がPKの判定にクレームを付けたオランダだが、シャビ・シモンズやスハウテンの台頭など実りのある大会となった。
決勝
最後まで魅せ続けたスペインが全勝優勝で史上最多となる4度目の欧州制覇の偉業を達成。新たな黄金時代の到来を予感させるタイトル獲得に。意地は見せたが、最後までタレントたちが本来の輝きを放てなかったイングランドは悔しい2大会連続準優勝に終わる。
フォーデンをロドリに付けるフラットな4-4-1-1で臨んできたイングランドに対し、スペインが押し込む入りとなる。しかし、イングランドは両SBのウォーカーとショーがスペインのヤマル&ニコ・ウィリアムズの両翼を抑え込み、集中した守備でチャンスを作らせない。守勢のイングランドも前線のケイン、フォーデンが孤立し、攻撃の形が作れない。結局、前半はイングランド得意の塩試合に持ち込む形で互いに決定機が訪れないままに終わる。
ハーフタイム明けにスペインに激震が走る。チームの心臓であるロドリがハムストリングを負傷してしまい、スビメンディと交代となる。ところが、後半開始2分右サイドを突破したヤマルがグラウンダーのクロスを送ると、中央でダニ・オルモがスルーし、ファーサイドに走り込んだニコ・ウィリアムズが左足ダイレクトでのシュートを決め、スペインが先制する。先手を取られ前に出るようになったイングランドに対し、スペインはヤマルとニコ・ウィリアムズがカウンターから何度も決定機を作り出し、完全に試合の主導権を握ってしまう。
劣勢に立たされたイングランドのサウスゲート監督は後半16分調子の上がらないエースのケインを諦め、準決勝でヒーローになったワトキンスを投入する思い切った采配を見せる。さらに、後半25分にはメイヌーに代えてパーマーを投入。すると、直後の28分右サイドのサカの持ちあがりからカウンターを仕掛け、ベリンガムの落としたボールを受けたパーマーが同点ゴールを決める。追いつかれたスペインだったが、すぐに落ち着きを取り戻すと、すぐに試合のコントロールも取り戻してしまう。そして延長突入かと思われた後半41分左サイドのククレジャからのリターンパスに反応した途中出場のオヤルサバル値千金の勝ち越しゴールを決める。
終盤イングランドもセットプレーから決定機を迎えるが、スペインはこのピンチをウナイ・シモンとダニ・オルモがゴールライン上での好守で凌ぎ、2-1で勝利。この結果、スペインが3大会ぶり最多4度目の優勝を飾っている。
大会まとめ
EURO2024 大会結果 | |
---|---|
優勝 | スペイン(4回目) |
準優勝 | イングランド |
3位 | フランス |
3位 | オランダ |
個人表彰 | |
大会最優秀選手 | ロドリ |
最優秀若手選手 | ラミン・ヤマル |
得点王 | ハリー・ケイン ゲオルゲス・ミカウターゼ ジャマル・ムシアラ コーディ・ガクポ イヴァン・シュランツ ダニ・オルモ |
各国の力が比較的拮抗したことで守備的な試合が多い印象だった今大会だが、欧州王者に輝いたのは魅せるサッカーを最後まで貫いたスペインだった。大会前は優勝候補の一角に推す声が多いといえなかったスペインだったが、大会が始まると圧倒的な強さを見せ、イタリア、ドイツ、フランス、そしてイングランドといった強豪国を含めた全勝による完全優勝を達成。伝統のポゼッションスタイルをベースとしながら、16歳のラミン・ヤマル、21歳のニコ・ウィリアムズという若いサイドアタッカーが台頭したことで速攻という武器が加わり、従来のスタイルのアップデートに成功。保守的なチームが大半を占めた今大会でエンターテイメント性のあるチームが優勝することとなった。また、大会途中で負傷離脱したペドリ、今回は選ばれなかったガビやパウ・クバルシなど今後を担う若い逸材が続々と控えており、新たな黄金時代の到来を予感させる大会となった。
前回に続いて決勝で初の欧州制覇を逃すこととなったイングランドはプレミアリーグのオールスターにケインとベリンガムを加えた大会随一のスター軍団ということで期待がされたが、そのタレントたちのかみ合わせがうまくいかず、塩試合と揶揄された退屈な試合内容が続いた。また、ガレス・サウスゲート監督の保守的なチーム作りにも批判が集まり、個の力で何とかする連動性の無いサッカーにスタジアムで観戦するイングランド・サポーターが居眠りする姿が話題になるほどだった。それでも堅い守備による負け無いサッカーと各試合で先制ゴールを許しながらも粘り強く追いつき、決勝まで勝ち抜いたのも事実だった。
今大会も前回同様にグループリーグは3位のチームにも突破の可能性が残されるレギュレーションとなったが、その分リスクを負って攻めようというチームが減り、どうしても堅い試合が増えてしまった。特に、準決勝までPKによる1点とOGの2点だけで勝ち上がったフランスは象徴的なものとなった。総得点も51試合で117ゴールが記録され、1試合平均2.29ゴールと1試合あたりの平均ゴール数が過去最多だった前回を大きく下回っている。一方でオーストリアやルーマニアといった古豪の復活、小国である初出場のジョージアの躍進など中堅国のレベルアップが印象に残り、あらためてヨーロッパのレベルの高さが示された側面もあった。
キリアン・エムバペ、ハリー・ケイン、クリスティアーノ・ロナウド、ロメル・ルカク、ロベルト・レバンドフスキといった各国のスター級のストライカーが揃って結果を残せないというのも今大会の特徴となり、得点王は3得点で実に6選手が並ぶという結果になった。これも前述した総得点数の少なさが影響しており、近年囁かれ始めたフットボールのエンターテイメント性の低下にも繋がる話となっている。
大会中のおもな出来事
- 大会中、観客がピッチ上に乱入するという事案が相次ぎ、トルコ対ポルトガルの試合では、クリスティアーノ・ロナウドと自撮りしようとピッチへの侵入者によって試合は複数回に渡って中断され、決勝のスペイン対フランス戦の試合終了後には侵入者を追いかけていた警備員とアルバロ・モラタが接触し、モラタが膝を負傷するというあってはならない事件が起きた。
- ラウンド16、オーストリア対トルコ戦ではトルコのメリフ・デミラルが、ゴールを決めた際に指を狼のようにするジェスチャーを見せた。このジェスチャーは極右過激派組織で、民族主義者行動党(MHP)とつながりのある灰色の狼に関連するジェスチャーとみなされ、デミラルに2試合の出場停止処分を下した。
- 決勝でスペインが勝利した後、大観衆の前でステージに立ったアルバロ・モラタとロドリは、「ジブラルタルはスペインのものだ」というチャントを歌った。これに対しジブラルタルサッカー協会は、UEFAへ抗議を申し立てた。
関連項目
親記事
子記事
- なし
兄弟記事
- 1
- 0pt