F-15とは、マクドネル・ダグラス(現ボーイング)が開発した制空戦闘機である。
概要
軽量な機体に大型の主翼を組み合わせ、2基のターボファン・エンジンを搭載することで圧倒的な格闘戦能力を実現した。生産数は1500機を超え、初飛行から50年を超えた現在でも運用が続けられている。[1]
システム面のアップデートにより、もはや旧式機に属する機体でありながらロシアのスホーイSu-27、EUのユーロファイターなど後発の戦闘機にも引けを取らない戦闘能力を有するため、後継であるロッキード・マーティン社製のF-22ラプターが登場した現在でも活躍している。
米空軍ではF-15の退役を2025年から開始する予定だったが、経年劣化による墜落事故が発生したため、精密検査に引っかかった機体はすぐに退役させられている(航空自衛隊の機体については導入当初からかなり緻密に整備を行い、非破壊検査機器を導入しての金属疲労検査もおこなわれているので、退役時期については導入初期のものでも2032年以降まで伸びるとみられている)。
F-15を更新するつもりだったF-22の生産はオバマ政権下で予定よりもすくない機数で終了しており、コストが嵩むF-35の遅い調達ペースでは米空軍の戦力が維持できないと危惧されたため、2019年にはF-15EをベースにしたF-15EX「イーグルII」の新規調達が発表され、更に既存のF-15Cも運用を2040年代まで延長するための改修であるF-15 2040Cがボーイングから提案されている。
成り立ち
システムコマンドは、27 トン可変翼戦闘機の設計を洗練する企業の公募を行い、ノースアメリカンや変態企業ロッキード、ボーイングの三者が初期設計を行う契約を結んだ。
参謀部はジョン・マコーナル参謀総長の肝いりで E-M 理論を打ち立てたジョン・ボイド少佐ら「戦闘機マフィア」を呼びつけ『新戦闘機 F-X の概念研究』その物の見直しを命じる。
戦闘機マフィアの方々は当時トレンドだった VG 翼(可変翼) をすっぱり諦め、ミサイルのみで武装するのではなく機関砲も搭載させる考えだった。パイロットの乗り降りに必要なラダー(はしご)に至るまで喧々諤々のやり取りが交わされた。
当初計画 28.4t をなんとかダイエットさせ「16t の固定翼制空戦闘機」というコンセプトを目指したようだが、ソビエト連邦(当時)が 1967 年のモスクワ・エアーショーで MiG-25 を始めとする次世代軍用機群を発表したことで状況は逆戻り。 結局 F-X は重量 18t (出来てみれば 20t 近くなったが)の固定翼制空戦闘機と言う方向性を決定し、航空機メーカーに要望を提出しすることになった。
ちなみに戦闘機マフィアの方々は F-15 が大型化・高機能・高価格になってしまったことから、さらに突き詰めた思想を持つ F-XX(のちの F-16)の開発へと突き進んで行くことになる。詳しいことは当該項目をどうぞ。
1972 年の試作機による初飛行を経て、
以上のような設計変更を行った。単座型 18 機と副座型 2 機の計 20 機の試作機が製造された。
余談だが、このうちの一機に改修(塗装を含む不用品をすべて取っ払った)を施した、上昇時間記録を打ち立てるための専用機「ストリーク・イーグル」と呼ばれる機体も存在する。
量産型に F-15A の形式が与えられ、複座型の訓練機は TF-15A とされた(後に F-15B と改称)。1974 年には、ベテランを中心とした機種転換訓練が始まったが、アビオニクスの初期不良や F100 エンジンの信頼性の低さと予備部品の枯渇によって、訓練スケジュールに遅れが出た。
この影響で、75 年の F-15 と対地攻撃兵装の適合試験、および対地攻撃訓練は省かれる事となったが、この事が、平行して配備の始まっていた F-16 の運用にも影響し、F-16 Block 15 以降については攻撃機としての能力を伸ばす方向で改良が進められる事となった。
1976 年には、バージニア州のラングレー基地に所属する第 1 航空団で最初の実戦部隊が誕生した。
改めて制空戦闘機 F-X の開発が求められた経緯
全ての発端は、1958 年 9 月 24 日の台湾海峡上空であった。この日、台湾空軍の F-86 (迎撃機として開発されたが、侵攻型(制空)戦闘機としても優秀な戦闘機である)に搭載される形で、初めて実戦投入された AIM-9 空対空ミサイルが大戦果を上げた事が、1950 年代から 1960 年代の戦闘機開発に大きな影響を与えた。
戦闘機による空中戦の軽視
当時の空軍機としては、リパブリック F-105 サンダーチーフやノースアメリカン F-100 スーパーセイバー、ロッキード F-104 スターファイター等が挙げられる。
ミサイル万能主義や核軍拡競争の影響を受け、それに対応できない既存の戦闘機はそれぞれの役割を探っていた( F-100 は戦闘爆撃機化、F-104 は全天候迎撃機化)。
運用の目処も立っていたのだが、どれもわりと早期退役している。例えば F-104 は公式には「SAGE (半自動式防空管制組織)の機材が搭載できない」という理由で防空軍団(ADC)からは短期間で退役させられた。
この背景にあるのは、ミサイル万能主義を生み出してしまうような「戦闘機のミサイルプラットフォーム化や、戦闘爆撃機化」をよしとする空気であった。現場のパイロット達は、この空中戦軽視の流れに反対の声を上げていたが、選挙区への利益誘導や天下り先の確保に走るペンタゴンや議会の者たちは殆ど気にしていなかった。
コストの合理化を試みたことによる結果的な空中戦性能の軽視
一方で、ケネディ政権で国防長官を勤めたロバート・マクナマラは、戦闘機の調達コストの低下や合理化に腐心していた。
戦闘機の機種を、
の 2 機種に統一する決定を下す。
このために、TFX 実用化までのつなぎとして、海軍の新型戦闘機であるマクドネル F-4 ファントム II を、空軍にも迎撃機として F-110 という制式名称で採用させた。
国防省と海軍は、安く戦闘機を調達できるのでこの案を熱烈に歓迎をした。一方、ソビエトより憎い憎い憎い(とっても憎いことなので 3 回 ry)アメリカ海軍の戦闘機を採用させられる事となった空軍は当然おもしろくないのだが、海軍から実物を借りてテストした結果、F-4 の飛行性能に下は見習いパイロットから上は将軍までトリコになったそうな。
これでめでたし、めでたし…と終われば良かったのだがそうは行かない。元々 F-4 が XF8U-3 という機関砲を備えた競合機から制式採用を勝ち取った経緯には、全天候攻撃機としても働けるという点が大きく、機動性は XF8U-3 のほうが評価されていた。にもかかわらず F-4 が空軍でもちやほやされたのは、「艦隊や早期警戒機に誘導されて遠くからレーダーでロックオンしたミサイルを敵の爆撃機に発射する」というのが当時考えられていた空戦スタイルだからである。
F-4 はフラットスピンに陥りやすいというデメリットもあり、激しい ACM (空中戦機動) を行うには色々と問題があった。
F-4 の後継のはずであった TFX …つまり後の F-111 アードバークであるが…詳細は当該記事を参照されたし。
E-M 理論に基づく米空軍格闘戦能力への危機感
かたやフロリダの片田舎では、のちの戦闘機マフィアの中核となるジョン・ボイド(当時少佐)が E-M(エネルギー-マニューバ)理論を打ち立ていた。エンジン推力によって得られるエネルギーを高度、速度、機動にいかに振り分けられるか、ダイアグラムではっきりとわかる形を示したその理論に基づいて計算したところ、現状米空軍所有の戦闘機では Mig に対して有効性を持ち得ないということがはっきりと目に見える形になってしまった。
これらのことにより、F-100A 以降、本当の意味で格闘戦が得意な戦闘機が存在せず (海軍/海兵隊機を含めても F-8 クルセイダーのみ)、多用途戦闘機 TFX の前途が明るい物では無いと言う事を見抜いていた空軍内部の研究機関から、現状ではマジでヤバいという研究結果が公表された。そのため 65 年 3 月に戦術航空コマンドで小型、高性能、低価格と言う路線で、新戦闘機 F-X の概念研究が始まったが、年末に新戦闘機として公開された研究案は、多用途戦闘機 TFX と瓜二つと言ってよい物であった。どうしてこうなった・・・。
生産数・塗装
総生産機は大雑把なものではあるが、MD 製の機体が約 1000 機、MHI 製が約 200 機、また導入機は米軍が約 900 機、日本航空自衛隊が約 200 機、イスラエル空軍が約 80 機、サウジアラビア空軍が約 60 機と言われている。
アメリカ軍の保有する制空型 F-15 は、配備当初から 2011 年現在までに、3 回ほど機体塗装の仕様変更が行われている。
どうでもいいことだが、この新塗装がなかなかくせ者で、エアスペオリティブルー=C74、ダークゴーストグレイ= C307 か AS25、ライトゴーストグレイ= C308 か AS26、(後方の数字は、Cxx=クレオスのビン入りラッカー、ASxx=タミヤのスプレー塗料)と入手が容易な塗料が存在するが、トーンダウンしたグレーは、雑誌や模型のボックスアート(てか写真)、社外デカールの塗装指示に書いてある FS ナンバーを色見本帳とつき合わせながら調色する必要がある。ちなみにカッコ内の数字は Federal Standard 595 と呼ばれる色見本のアメリカ連邦政府規格だが、これが結構良い値段な上、日本国内では殆ど出回っていない。
技術
F-15の特徴としては、チタン合金を使用した頑丈な機体、巨大な主翼による安定感と旋回性、ベトナム戦争の戦訓として搭載されたM61A1バルカン砲、強力なP&W製のF-100エンジン(推力重量比が1を超えるため、理論上は、最小離陸重量に近ければ主翼が無くても推力だけで垂直上昇できる)、充実したレーダーなどの電装品、そして何よりも、大型の機体とエンジンに支えられた拡張性が挙げられる。
新型のシステムや装備が後から開発されても、少々の改修で対応できるのだ。生産中にいくつかの面でMSIPと呼ばれる改良がおこなわれ、それ以前の機体はPre-MSIPとして区別されている。
航空自衛隊でも米空軍に準ずるアップデートがおこなわれ、そちらはJ-MSIPと呼ばれている。
pre-MSIP/MSIPとの違いは多々あるが、コックピットの計器がアナログ/デジタルかで判別可能である。
弱点としては上述したエンジンが不安要素にもなりえた点があげられる。初期型に搭載されていたF100-PW-100エンジンは、推力こそけた外れの値をたたき出すことが可能であるものの、コンプレッサーストールが起きやすかった。これは、スロットル操作を慎重に行わなかった場合飛行中に推力の低下、最悪エンジンの停止といった悪癖を起こしやすいという意味である。レスポンスも少々悪い。
そのような欠点があったため、メンテナンス性が予想以上に悪化し、エンジンの交換頻度が多くなった。そのため一時期基地のハンガーにエンジンのないF-15が大量に並んでいるなどの事態が発生し、メカニックが頭を抱えることになった。
後期生産型ではデジタルエンジン制御装置を取り付け、信頼性を向上させたF100-PW-220エンジンに交換されている。このエンジンは初期型に比べ最大出力がほんのわずか低下しているものの、スロットルの急操作に問題はなく、燃費も向上したタイプであり総合的な使い勝手は以前より良くなった。
F-15C/Dからはコンフォーマル燃料タンク(CFT)と呼ばれる着脱式燃料タンクを装備可能。通常の増槽に比べて空気抵抗が少なく、むしろ若干の揚力まで生みだせるため運動性の低下は最小限で抑えられる。。CFT自体にもハードポイントがあり、より多くの兵器を搭載することが可能。ただし飛行中のパージは不可能なため、ほぼ基本空対空戦闘のみのF-15C/Dにとっては、いつでも投下することができ身軽になりやすい増槽の方が好まれたため、使用機会はほとんどない。
基本的にはバルカン砲と空対空ミサイルのみを搭載する。赤外線誘導式のAIM-9サイドワインダー空対空ミサイル4発とレーダー誘導式のAIM-7スパロー空対空ミサイル4発、固定装備の20ミリバルカン砲を空対空基本兵装とする点は前任のF-4と共通である。90年代以降は撃ちっ放し式ミサイルであるAIM-120AMRAAMがAIM-7に代わって搭載される。必要に応じてAIM-9のランチャーにも搭載でき、その場合最大8発搭載可能。一応爆弾も搭載・使用可能。
イスラエル空軍ではAIM-9に代わってパイソンシリーズが搭載される。そのほかF-15にも爆撃任務を行わせるためのソフトウェアが搭載されているため従来機より多彩な対地兵装を携行可能となった。
航空自衛隊配備機ではAIM-9と国産のAAM-3両方の装備が可能。また改修機にはAIM-7やAIM-9/AAM-3に代わってAAM-4やAAM-5の運用能力が付与されている。そのため航空自衛隊ではAIM-9XやAIM-120を配備していない(AIM-120を評価試験用に少数導入したことはあった)。
また、1983年にはイスラエル空軍のダグラス社製A-4スカイホークとF-15が空中で接触しA-4が墜落する事故が発生したが、F-15は右主翼ほぼ全てを失いながらも15km先の基地まで帰還した。他にもシリアとの戦争で不発のミサイルが突き刺さったまま帰還した例など、戦闘力だけではなく生存性もきわめて高いことが証明されている。
実戦
実戦ではイスラエルにおけるシリアとの戦争で40機以上、湾岸戦争で38機(ほかにサウジアラビア空軍がミラージュF1を2機)、コソボ紛争でMiG-29を4機、イラク戦争ではミラージュF1を1機撃墜している。公式な戦闘記録上では実戦での空対空戦闘被撃墜は皆無(撃墜を主張する論もある)である。確かに被弾した機体も存在し、イスラエル空軍の機体がシリア空軍のMiG-21の発射したAA-8空対空ミサイルによってエンジンを片方もぎ取られた(この機体は撃墜を免れ、友軍基地にまでたどり着いている)。また戦闘爆撃機であるE型は、湾岸戦争やイラク戦争で対空砲や地対空ミサイルによって合計3機撃墜されている。なお誤射による被撃墜が1995年に航空自衛隊で発生しており、空対空戦闘で唯一公式に「撃墜」されたF-15となっている。
航空自衛隊
航空自衛隊では導入が開始された中期以降のJ-MSIP機を対象に導入時期によって多段階改修計画を立てており、新型レーダーの搭載、AAM-4やAAM-5といった国産空対空ミサイル運用能力付与、コンピューターの換装がおこなわれている。これは形態1型・形態2型と呼ばれ段階順に行われている。
このJ-MSIP対応のF-15は航空自衛隊が導入した全200機の半分に相当する(その他、若干ではあるがpre-MSIP機からMSIP対応になった機があるといわれている)。pre-MSIP機については、デジタル戦闘システムの搭載や、偵察ポッド搭載型や電子戦機(エスコート・ジャマー)などへの転用が検討されている。
バリエーション
F-15A/B
初期量産型。F-15Aが単座仕様、Bが複座仕様である。生産がC/D型に切り替わって以降は更新され、第一線部隊から教育・訓練部隊へと下げられていった。
F-15C/D(J/DJ)
F-15A/Bにおいて問題となった戦闘行動時の航続距離不足対策として、機内燃料タンクを増設。さらに将来の拡張による重量増加を見込んで、ブレーキとタイヤの強化などの仕様変更を施した。アビオニクスも大幅に強化され、制空型イーグルとしては完成形となった。
派生型として、F-15Cをベースにライセンス生産された航空自衛隊仕様のF-15Jとその複座型DJが存在する(ただしC/D型とは細部は異なっている)。
ここまでのA~D型は生産初期ということもあり機体コストが非常に高くついたため、長らく導入する国は増えず、イスラエル空軍、サウジアラビア空軍、そして航空自衛隊と、親米かつ裕福な3カ国に限られていた。
この戦闘機コストの増大がハイ・ロー・ミックスという思想を促し、結果としてF-16の生産数に影響を及ぼすこととなる。
F-15E ストライクイーグル
F-15Bをベースに開発された戦闘爆撃機型。全機が複座である。
一見するとA~D型とあまり変わらないが、エンジン側面に機体と一体化したコンフォーマル・フューエル・タンクが追加されているのが外見上の最大の特徴。それだけに留まらず設計は徹底的に見直され、実に60%が再設計となり半ば別の戦闘機と化している。搭載量と対地攻撃能力の向上だけでなくアビオニクスと機体構造も強化されており、伸びた機体寿命と合わせて数十年間の運用が可能とされる。
魅力的なマルチロール性に加え、機体価格が相対的に下がったため、F-15Eベースの機体をイスラエルやサウジアラビアだけでなく、韓国やシンガポールも新たに導入している。
F-15SE サイレントイーグル
F-15Eをベースにしたステルス仕様。デモンストレーター機が1機のみ作られたが導入国は現れなかった。
F-15EX イーグルⅡ
以前より「F-15X」の名で噂されてきた、アメリカ空軍が2020年から新規生産して導入する計画の新型イーグル。F-15Eをベースに、サウジアラビア向けF-15SAで実用化したフライ・バイ・ワイヤ操縦システムや最新の電子機器類を搭載した改良型。
当初は200機の調達を予定していたが、最終的な発注数は確定していない。
ゲームや映画、アニメなどの作品において
F-22登場まで西側(正確には米軍)では実質的に最強の戦闘機であり、また航空自衛隊でも主力戦闘機として採用されている為、数多くの作品に登場している。特にエースコンバットやLOMACなど、ゲーム世界でも人気機種の1つである。
エースコンバットシリーズにおいては、C型がZEROにおける主人公機として2機並んでパッケージに描かれており、このカラーリングはどちらもエースコンバット6においてもF-15Eのダウンロード機体として登場している。
ゲームではプレーヤーが使える機体=正義と言う解釈でできる一方で、アニメ等では、トランスフォーマーシリーズのスタースクリームに代表される、悪ノF-15が登場する作品も存在する。
関連動画
関連項目
脚注
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