MEKO型フリゲートとは、ドイツで開発された量産型軍艦シリーズである。
概要
19世紀からの伝統を持つドイツ・『ブローム・ウント・フォス』社が1970年代から開発し、21世紀に入っても更なる新型の研究開発が続いている輸出用軍艦シリーズ=企業製品であり、欧州や南米、アフリカ、アジアで50隻近い系列艦が運用されている。
特色
『MEKO』とは日本語でいう『多用途フリゲート構想』の略称である。本来、フリゲートを含む軍艦は予め、決められた任務に合わせ、船体、武装、機関を1パッケージにして建造し、その運用実績をもとに改良型、派生型を作ってゆくものだがMEKO型フリゲートは以下の構想が骨子となっている。
すなわちバイキング料理の様に自分の好みと予算などの事情+容器に合わせてオンリーワンに近い自分だけのフルコースを作る=『ぼくのかんがえた』、とまではいかないが『帯に短したすきに長し』=オーバースペックないしロースペックを避けることが出来、予算が限られている発展途上国でも導入しやすいのがMEKO型フリゲートのコンセプトである。
なお、シリーズについている数字は目安の排水量を示す。
ちなみにシリーズの中には駆逐艦、コルベットに分類されるのもいるがこまけぇこたぁいいんだよ!!
MEKO 360シリーズ
MEKO型フリゲートの初期型で1978年から1984年にかけて5隻(ナイジェリア:1隻、アルゼンチン4隻)が建造・配備された。
共通点は以下の通り。
- 中央船楼型=艦橋、ヘリ格納庫、後述する煙突を一纏めにした艦上構造物
- 2本煙突はⅤ字状に傾けて配置
- イタリア製127㎜砲1門+40㎜連装機関砲4基
- アルバトロス短距離対空ミサイル8連装発射機1基(シースパローのイタリア版)
- Mk.32短魚雷発射管2基
- 最大速力30kt、航続距離18ktで4500海里
- 艦載ヘリ1機
そして相違点としては以下の通り。
艦級名 | アラドウ | アルミレンテ・ブラウン級 |
基準排水量 満載排水量 |
3360t 3680t |
2900t 3360t |
全長 全幅 |
125.6m 15m |
125.9m 14m |
機関 | CODOG方式 ガスタービン+ディーゼル |
COGOC方式 ガスタービン+ガスタービン |
乗員 | 195人 | 200人 |
対艦ミサイル | オトマート連装発射機x4 | エグゾゼ4連装発射機x2 |
その他 | 爆雷投下軌条x1 |
の構成となる。
アラドウはMEKO型フリゲートの1番艦として建造されかつ当時はアフリカ最大の軍艦としてもてはやされたが海軍後進国としての各種スキルの低さか、1987年には3回事故を起こし(座礁、埠頭に激突、海上衝突)、1990年代に入ると修理⇒復帰⇒故障⇒修理の繰り返しに見舞われている。さらに対艦ミサイルも運用期限を過ぎてしまい使用不能となった。
一方、アルミレンテ・ブラウン級はアラドウの改良型としてヘリコプター2機を搭載する予定だったがアルゼンチン側の要望で結局1機止まりになっている。また、その規模からフリゲートではなく駆逐艦に分類されている。
ともあれ、本級の建造からMEKO型フリゲートの歴史が始まった。
MEKO 200シリーズ
360シリーズの経験を元に開発されたのが200シリーズである。5か国で運用され、6タイプが存在する。
360シリーズの改良型として開発されたため中央船楼型[1]、Ⅴ字煙突を受け継いでおり一部を除いて以下の共通事項を持つ 。
MEKO200TNシリーズ(トルコ海軍)
初めて本シリーズを使いだしたのがトルコ海軍である。
トルコ海軍は地中海+黒海を抱えており黒海のクリミア半島にはロシア黒海艦隊がいる。
ことがある場合には真っ先にNATO艦隊の前衛に駆り出される故に有力な海軍戦力は喫緊の課題であった。トルコ海軍では1987年から200シリーズの運用を始め、第1世代の「ヤウズ」級、第2世代の「バルバロス級」+「サーリヒレイス」級を合わせた8隻を運用している。
3タイプの共通点は以下の通り。
そして相違点としては以下の通りになる。
ヤウズ級フリゲート
- 全長115m、満載排水量2994t、乗員180名
- 推進方式はディーゼルを巡航+全速航行用で組み合わせたCOCAD方式で最大速力27㏏、
航続距離は20㏏で4000海里 - シースパローはMk.29発射機で運用
2030年代にイスタンブール級フリゲート(トルコ国産艦)で代替される予定。
バルバロス級(サーリヒレイス級)フリゲート
- 全長117m、満載排水量3400t、乗員220名
- 推進方式は高速用エンジンをガスタービンに替えたCODOG方式、航続距離は18ktで4100海里
- シースパローは当初Mk.29、後にMk.48VLS(16セル)に統一[3]
本級は2020年代から以下の国産兵器を中心としたアップデートが実施されることになっている。
- 対艦ミサイル『アトマカ』をハープーンから換装+倍増、16発装備して水上打撃力を強化
- シーゼニスを廃止、艦橋前に35㎜連装機関砲、格納庫上にファランクスを装備
- マストを鉄骨を組み合わせたラティス式から塔型マストに更新
ヴァスコ・ダ・ガマ級フリゲート
ポルトガル海軍が運用するフリゲート。構成はバルバロス級に近いが以下の特徴を持つ
本級はドイツで3隻が建造された。
イドラ級フリゲート
ギリシャ海軍が運用するフリゲート。ヴァスコ・ダ・ガマ級の経験をベースに建造されたが以下の特徴を持つ
本級は4隻が建造された。(ネームシップ『イドラ』はドイツ、残る3隻はギリシャで建造)
アンザック級フリゲート
オーストラリア、ニュージーランド両海軍が運用するフリゲート。
『アンザック』 とは第一次世界大戦時に編成されたオーストラリア・ニュージーランドの混成軍団から続く両国の軍事連合のことである。
本級は両国のEEZ=排他的経済水域防衛が主任務とされていたため当初は以下の艦容だった。
- 機関はCODOG方式だが出力を抑えて最大速力27kt⇒代わりに航続距離は18ktで6000海里
- シースパローはMk.41で運用(8セル)
- ハープーン搭載なし
- ファランクスはニュージーランド向けで1基のみ
- M2機関銃を複数装備
- 乗員163名
しかし、MEKO型フリゲートの特徴の一つである『搭載品はモジュール化されていてアップデート・換装もしやすい』ということで以下の改装が実施された。
マストの更新 | オーストラリア仕様は2010年代から始まった改修により 国産固定多機能レーダー『CEAFAR』[4]を備えたマストを装備。 ニュージーランド仕様はSAM換装に併せて塔型マストに 更新した。 |
SAMの換装 | オーストラリア仕様は前述の改修時にESSMへ換装。 ニュージーランド仕様は2020年代にイギリス製SAM 『シーセプター(射程30㎞程度)』に換装。 |
対艦ミサイルの追加・更新 | オーストラリア仕様のみ艦橋前にハープーン発射機 を2基追加した後、2020年代にNSMへ更新予定。 |
本級は10隻(オーストラリア:8隻、ニュージーランド:2隻)が建造された。
MEKO A200シリーズ
MEKO200シリーズは改良を重ねた結果、成功を収めたが元々1970年代に開発されたMEKO360シリーズをベースにしていたためコンセプトはともかく設計の旧式化が21世紀に入って目立ってきた。
そこで後述するブランデンブルク級フリゲートをもとに設計・開発されたのが本級である。
2023年現在は南アフリカ、アルジェリア、エジプトの3か国が運用。共通項は以下の通り
- ステルス性を重視し船体と一体化した長船楼方式を採用。
- Ⅴ字煙突を廃止。
- 主砲はイタリア製、SAMは何れも自己判断式終末誘導型[5]を採用。
- CODAG(ディーゼル+ガスタービン)推進方式[6]に加えてWARP(スクリューx2+ウォータージェット×1で推進)を採用。
- 全長121m、満載排水量3700t。
ヴァラー級フリゲート
南アフリカ仕様でA200シリーズの初採用型。4隻が運用中。特徴は以下の通り
- 国産SAM『ウムコント』(射程20㎞台)を採用。基本8基だが更に8基分増設スペースあり。
- 対艦ミサイルはエグゾゼ4連装発射機2基、主砲は76㎜両用砲。
- CIWSとして南アフリカ製35㎜連装機関砲を搭載し水上近接戦闘用に20㎜機関砲、
12.7㎜機関銃を各2基搭載。 - 最高速度は30kt、航続距離は16ktで8000海里。
- 煙突は艦尾に横向き配置。
エル・ラディン級フリゲート
アルジェリア仕様でヴァラー級よりやや重武装となった。2017年までに2隻が配備された。
- 『ウムコント』は建造当初から32基搭載。
- 対艦ミサイルはスウェーデン製『RBS-15』(射程250㎞)連装発射機8基=16発。
- 主砲はイタリア製127㎜64口径砲を採用。加えて水上近接戦闘用に30㎜RWSを前後に1門搭載。
- 最高速度は29kt、航続距離は16ktで7200海里。
- 煙突は艦橋マストに一体化。
アル・アジス級フリゲート
エジプト仕様。4隻が建造されるが3隻は輸入、1隻はエジプトでライセンス生産の予定。
コルベット
それぞれ360、A200シリーズのバリェーションとして開発されたがいずれも1000t台であり、コルベット扱いとなっている。
大まかな特徴としては
MEKO型140フリゲート
アルゼンチン海軍のみが運用しており『エスポラ級コルベット』と命名され6隻が運用中。
エグゾゼ対艦ミサイル連装発射機、40㎜連装機関砲、324㎜短魚雷3連装発射管を各2基装備して一通りの任務に対応できる。
A100型フリゲート
マレーシア海軍で6隻、ポーランド海軍で1隻が運用中。
共に近接戦闘用として30㎜機関砲を装備して沿岸警備に従事しているがマレーシア海軍向けは有事の際に対艦ミサイルと近距離SAMを増設する予定。
なお、ポーランド向けは7隻配備の予定だったが戦略方針の変更で1隻の建造で中止された。
サール6型コルベット
後述するブラウンシュヴァイク級をベースにしたイスラエル仕様。
2020年代に4隻が運用開始される予定。
SAM | バラク8(射程70km程度)32セル+Cドーム(射程10km程度) 20連装ランチャー1機を装備 |
SSM | ガブリエルMk5(射程200㎞程度)最大16発装備 |
対潜兵器 | 有人ヘリ+Mk32発射管2基で対応 |
ドイツ海軍向け
前述の通り、MEKO型フリゲートは企業製品であり、ドイツ海軍はほとんどタッチしていない。しかし1990年代から技術をフィードバックした独自のフリゲート・コルベットを開発・整備している。
以下3タイプの共通項としては機関にディーゼルエンジンが組み込まれていることと主砲が76㎜砲であること。
ブランデンブルク級フリゲート
1992年から1995年にかけて4隻が配備された。特徴としては以下の通り。
- ステルス性を考慮した長船楼型の艦上構造物+Ⅴ字煙突
- ドイツ海軍史上初めてVLSを採用(シースパロー用)
- 近接戦用にRAM21連装発射機+27㎜リボルバーカノン各2基
- エグゾゼ対艦ミサイル発射機[7]+短魚雷管制装置は退役艦から流用(予算節約)
- 艦載機は2機
ゼクセン級フリゲート
1999年から2003年にかけて3隻が配備されたブランデンブルク級の派生型となる対空ミサイルフリゲート。相違点としては以下の通り。
- 欧州版イージスシステム『NAAWS』を採用し長距離3次元レーダー+多機能レーダーマストを装備
- 対空ミサイルはSM-2+ESSM+RAMの3段構え
- 対艦ミサイルはハープーンに変更
- 機関はブランデンブルク級のCODOG方式に対しCODAG方式を採用
ちなみにブランデンブルク級、ザクセン級は元々『NFR-90』なるNATO加盟8ヶ国による国際共同軍備計画に源流がある。
これは1960年代に建造した戦闘艦を更新する際に加盟国で仕様を共通化したフリゲートを50隻以上建造して相互運用性を高めて各種コストも下げようというものだが結局失敗に終わっている。その準備段階でもめている際につなぎとして開発されたのがブランデンブルク級である。
その後で持ち上がったのがドイツ、オランダ、スペインが参加する『TFC』=3ヶ国共同による対空フリゲート開発計画であるがスペインは離脱してイージス艦を採用、残った独、蘭の2ヶ国で続行した結果がザクセン級であり、デ・ゼーヴェン・プロヴィンシェン級フリゲートである。
なお、2018年にネームシップ『ザクセン』が訓練中にミサイル誤射事故を起こし乗員2名が軽傷、船体を損傷した。
ブラウンシュヴァイク級コルベット
A100型の派生型となるコルベットだがハルナンバーはF=フリゲート。2008年から5隻が導入され、2020年代に5隻が追加予定。
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関連項目
脚注
- *ただし形状は360が四角形上だったのに対し本級以降は少し台形状に変更された
- *4連装25㎜機関砲を箱型(ヴィルベルヴィントやシルカと同様)に配置している
- *1、2番艦がMk.29から更新
- *当初は旋回式防空レーダーと併用したが後に『CEAFAR2-Ⅼ』に換装
- *要はミサイル自体が命中前に目標へのコースや真贋を判定する方式
- *CODOG方式は巡航時がディーゼル、高速時がガスタービンに切り換えるのに対しこの方式は急加速+高速時に双方のエンジンを併用することが可能(双方をつなぐギアボックスが複雑になる欠点がある)
- *2019年末にハープーンに更新が開始された
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