X68000とは、かつてSHARPが販売していたパーソナルワークステーションである。略称はX68K。
概要
1986年秋に発表され、翌年春に発売された。CPUに68000(10MHz)を採用、グラフィック面では768×512ドットの高解像度グラフィック、発色数65536色、スプライト機能、スーパーインポーズ機能を持ち、サウンド面ではFM音源とADPCM機能を持っていた。[1]
(※最大解像度768x512(仮想画面1024x1024ドット)での同時発色数は16色)
マシン本体の形状は、かつてニューヨーク市マンハッタン区にあった世界貿易センターの配置に連想される事から、「マンハッタンシェイプ」と呼ばれる事もあった。高性能であるがゆえに価格が高く(30~50万円)、発売初期は手を出す人は少なかった。
驚異的な性能
X68000は、1986年10月の発表後、1987年3月頃に発売されたのだが、このパーソナルワークステーションが、いかに驚異的な性能を持っていたかを知るには、発表・発売された当時の世の中がどういう状態だったかを知るとよい。
まず家庭用ゲーム専用機という観点から見てみよう。X68000の発売時点では、スーパーファミコン(1990年)はおろか、メガドライブ(1988年)も、そして「ファミコンの次」たるPCエンジン(1987年10月末)すら出ていなかった。対抗となる機種はファミコンだったのである。
それでも、価格帯が低く直接的な競合にはならない家庭用ゲーム専用機業界はそこまでの影響を受けなかった(文字通り金額の桁が違っていたため)。より深刻だったのは、パソコン業界である。
後述する事情により、こちらについては発表時点での話となるが、この当時パソコン業界は大きく3つに分かれていた。10万円未満の低価格8bit機(MSX2)、10~20万円台の高級8bit機(PC-8801mkIISR/X1turbo/FM77AV)、そしてビジネスユーザー向けの16bit機(PC-9801/FM-16β)である。
発表当時のそれぞれの最新機種を見てみると、MSX2+は登場以前(1988年)であり、PC-8801はFH/MH(mk2SRの次のFR/MR/TRの次)、PC-9801はVX(初の80286搭載機-8MHz・後に10MHzに変更)だった。
これを見てもわかるとおり、X68000は、価格こそ一式約40万円と競合機種の中では高価ではあったが、アクション描画能力でMSXを上回り、処理性能でもPC-98と互角(16bitで10MHz)と、非常に高いレベルでまとまっていた。それ故に業界に与えたインパクトは絶大なものであった。先ほどパソコン業界については発表時点を基準としたのは、インパクトが大きすぎて発売される前に対応が始まっていたからである。
NECに至っては、なんとX68000の発表から発売までの間に新機種PC-88VAを打ち出したが、さすがに拙速にすぎたか、一定の成果こそ上げたものの、成功には至らなかった。FM77AVを擁していた富士通も、遅れながらもFM-TOWNS(1989年2月)で巻き返しを図り、こちらは後に一定の成功を収めることになるのだが、本質的な意味ではX68000を超えるには至らなかった。
X68000の性能は、発売後まもなく、いくつものアーケードゲームが「完全移植」されることにより証明された。特に電波新聞社・コナミ・ZOOMは高い技術力を見せつけ、ユーザーから高い評価を得るに至った。例としてグラディウスはX68000初期型に同梱されていたものであったが、移植を担当したソフトハウスの社員が「アーケードと1ドットでも違っていたら腹を切る」と豪語した程の再現度を誇る(この発言は後に撤回された)。当時アーケードのグラディウスは完全移植に成功した例がなく、X68000の性能をわかりやすく宣伝するため、本作のデモが店頭でも行われていた。
またX68000は音源としても高性能(4OPのFM音源8ch+ADPCM)であった。このため、何種もの演奏環境(MXDRV/ZMUSIC等)が作成され、多彩な楽曲データが作成された。
この関係で、その延長たるMIDI音源(特にSC-55)の所持率も高かったため、SC-55等のMIDI音源でBGMを鳴らすことが可能なゲームもいくつか発売された。
特にコナミの作品のBGMは、その原曲を原作者が素直に拡張したアレンジによってオリジナルを超えたオリジナルとして高く評価され、後に「MIDI Power」としてまとめたCDシリーズが発売されたほどである。ソフト自体内臓音源以外にも複数のMIDI音源に対応させており、同じソフトでいくつもの楽曲パターンを味わえることにファンは歓喜した。MIDI Power以外にも後年に完全版サウンドトラックと称して全音源のバージョンを収録したCDを発売したソフトもある。
「Power to make your dream come true」
X68000は、非常に完成度が高いハードウェアであったが、あまりにもユニーク過ぎたため、処理性能的には問題なくとも、他のシリーズのパソコン用のソフトウェアを移植する際の負荷が高いという問題があった。
このため、パッケージソフトについても移植が遅れるものが多く、ビジネス的には失敗したと言っていい状態であり、ゲーム的にも移植は少ない状態が続いた。
さらに、当時のユーザによる開発の標準環境であったBASICが、本体添付でこそあるものの、かなり独特なものであり、単純に他機種用のプログラムを命令だけ置き換えれば動作するといったものでもなかったことで、ただ移植するだけでも、他機種へ移植する際よりも深い理解を要求されることとなった。
そして、X68000のBASICは、より高い処理能力を持つC言語への移植性に優れていたため、ユーザによる開発環境の中心は次第により高度なことを実現できるC言語へとシフトしていき、従来のハードとBASICでは処理能力的に無理があったが故にユーザ開発ではあまり作られなかったアクションゲームすらもユーザの手で開発されていくようになった。この頃からユーザ間や専門誌で「欲しいソフトがなければ自分たちで作る」精神が醸成されていくこととなる。
このため、他機種でも作られていた雑誌やパソコン通信上でのコミュニティにおいても、X68000のそれは、自然と開発スキルが高めのコミュニティが多くなり、下記のような、他機種ではありえない類のソフトがユーザの手によって作られていった。
- HIOCS
- OSのAPIを、より高速に動作するよう書き直したコードで乗っ取ることにより、システムの動作を高速化するソフト。
- TwentyOne
- OS機能を拡張し、ファイル名を8+3文字より多くの文字数で識別するようにするソフト。
- PCM8
- ハードウェア的に1chしかないADPCM音源を、リアルタイムに音声合成処理することで8chに拡張するソフト。後に16ch版なども作られた。
- XSP
- ハードウェアスプライト機能のパターン数上限を、画面の描画中にパターンを書き換えることで拡張するソフト。
基本設計が変化しないというコンセプトにより、内部仕様の解析なども他機種より進んでいたが、最終的には書籍によりハードウェア情報までもが公開されたことを受け、ハードウェアすらユーザの手で作られていくこととなった。
具体的には、高音質PCM録再・SCSI2-I/F・増設メモリ(仕様上の限界である12MBを超えて搭載・利用可能)・CPUアクセラレータ(シリーズ最上位の68060まで動作)・Ethernet-I/F・USB-I/F等の同人ハードが実在する。
残念ながら1993年のX68030compactを最後にSHARPは撤退してしまったが、BIOSやOSが公開されたことにより、権利関係がクリアなエミュレータが存在する珍しい環境である。また、その開発の容易さから、後も制御用途や教材、特殊な例ではアーケードゲームの中身として利用された例もある。
2013年現在、なお活動を続けているコミュニティが存在する。
関連動画
関連商品
関連リンク
- サービスマニュアル X68000 CZ-634C/CZ-644C(GALAPAGOS STORE)
- Oh!X関係者が語る,あのころのX68000。「X68000 Z」のローンチを記念して,かつての関係者にあれこれ話してもらおう 2022.12.30
関連項目
脚注
- 8
- 0pt