池袋高齢者ドライバー暴走事故とは白昼、東池袋の都道で高齢者ドライバーが運転するプリウスが暴走し男女12名が死傷した事故である。警察と運転手の対応に批判が集まった。
概要
①事故発生
平成31年(2019年)4月19日午後0時25分頃、東京都豊島区東池袋4の都道にて飯塚幸三(87)の運転する乗用車が約150メートルにわたって暴走し、歩行者らを次々とはね自転車の母娘2人が死亡、車の運転手を含む40~90代の男女10人が重軽傷を負った。
運転手がブレーキを踏んだ痕跡はなく、乗用車は縁石に乗り上げたのを皮切りに信号を無視して暴走した。
車はまず横断歩道の自転車を轢いた後、区画一つを走りきり次の交差点で自転車に乗る母娘をはねた。それでも勢いは止まらず、さらにゴミ収集車に衝突し、横断中の歩行者数名を轢いてトラックにぶつかってようやく停車した。(図ー毎日新聞)
衝突したゴミ収集車は横転し、亡くなった二人の自転車は真っ二つに折れていたことから車はかなりの速度が出ていたことが推察される。(事故現場の画像ー産経新聞)
同日中に加害者の詳しい身元も報じられ、飯塚幸三が旧通産省工業技術院院長を務め、瑞宝重光章を受賞した元高級官僚であり、退任後はクボタの副社長にも就任していたことも明らかになった。
飯塚氏は事故後病院に搬送され現場で逮捕されることはなかったため、テレビ局は”容疑者”ではなく敬称の”さん”を付けて報道を行い、また目白警察署も飯塚氏には逃亡、証拠隠滅の恐れはないとして自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)容疑などを視野に任意で捜査を行う方針を定めた。
②神戸バス事故と警察の対応の齟齬への批判
事故の衝撃も冷めやらぬ同月21日、神戸市のJR三ノ宮駅前で市営バスが横断歩道の歩行者を轢いて8名が死傷する事故が発生。兵庫県警は、運転手の大野二巳雄(ふみお)容疑者(64)をその場で逮捕した。
この事故の報道を切っ掛けに、同じ高齢者ドライバーが引き起こした暴走事故であるにも関わらず、加害者である飯塚・大野両氏への警察の対応が余りにも異なることにインターネット、SNSを中心に非難の声が上がった。
大野氏は事故発生後到着した警察の捜査(事故当時の状況の説明等)に積極的に協力したにも関わらず、手錠で繋がれ留置所に送られた一方、病室にいる飯塚氏は気が動転していたであろうとはいえ事故発生後、救命義務を怠り(自身も怪我をしていたのでしたくても出来なかったのだが)、警察と消防ではなくまず自分の息子に電話したことがドライブレコーダーによって記録されている。
さらに、飯塚氏は1年ほど前から足が不自由なため杖を使って歩いており、通院もしていたことから、家族も飯塚氏本人も、これ以上自動車を運転することが危険であると事前に判断することは容易であった(認識ある過失)。
この対応の違いについては、飯塚氏が高齢かつ入院の必要があるほどの怪我を負い逃亡が困難なこと(上述の大野氏はほぼ無傷)と、事故の要素が複雑だったことが大きい。あまり知られていないが、逮捕・拘留できる期間は延長分を含めても計23日が上限であり、検察はその期間内に起訴内容を決めなければならない。つまり逮捕すると警察が事故について捜査できる制限時間が出来てしまうのである。今回の事故は死傷者12名を出す大規模なものであった上に飯塚氏がブレーキの不具合を主張していたこともあり、警察は逮捕をしないことで捜査の時間を長く取ることを選んだようだ。
また、飯塚氏のTwitterとFacebookのアカウント、経産省の受勲ページが事故当日の内に削除され、自宅の電話番号を変更、Googleストリートビューの画像にもモザイクをかけるなどの迅速な対応が行われことから、前述の電話によって飯塚氏本人、もしくはその通話相手が保身と日常の記録の隠蔽を図ったのは明らかであり、およそ警察の『逃亡、証拠隠滅の恐れはない』という判断は的を外しているというのである。しかし、証拠隠滅とは捜査機関に対して隠蔽を行うことを指すのが普通である。上記の飯塚氏及び家族の行動はマスコミや野次馬に対してのものであって、警察の捜査を妨害はしていない。そのためこの批判は的外れと言える。
なぜ注目を集め、非難を浴びたのか
警察の捜査は法律の適用に疑問の余地はあるものの、法と規則の範囲内であり、それ自体ではここまで大きな問題となることはなかった。
しかし警察が明らかに賭博であるパチンコに見て見ぬふりを続けていることや、検察のカルロス・ゴーン事件における強引な捜査、一審とはいえ裁判所が19歳の娘と性交した父親に無罪判決を下した事件など、近日の国民の司法・警察への不信感が積み重なって一気に火が付いた事件であったといえる。
マスメディアが飯塚氏を”さん”付けで呼んだことは一部に批判的意見はあるものの、同氏が逮捕されていない以上、至極真っ当な判断であった。しかし、報道の論調は専ら高齢者の運転への危険性に向けられ、加害者の責任が追求されることはなかった。メディアは被害者遺族の取材には積極的な姿勢を示した一方で、事件後数日が経っても、未だ被害者遺族への謝罪と反省も明らかでない加害者周辺には全く触れようとはしなかったのである。
これらの事情に加え、飯塚氏が87歳と高齢であることも「このままでは在宅起訴から裁判を受けている内に、何の社会的、法的制裁も受けず往生してしまうのではないか」と、ネットユーザーの想像と怒りを掻き立てていった。
生活を自動車に頼らざるを得ない地方の老人達と異なり、飯塚氏はキャッシュで板橋区の4500万のマンションを購入するなど金銭的にかなりの余裕があった。彼の年齢と250万円のプリウスを年間数万円の維持費で乗ることを思えば、運転免許を返納し、タクシーを利用するという選択肢もあったのではないだろうか。
事故後の進展やその他の影響等
- 上記の通り、交通事故というニュースを見る上ではよく見かける事象での格差的な側面が話題になった他
高齢者ドライバーの在り方についても様々な議論がされた。特にこの事故からの運転免許証の自主返納等が大きくとりあげられている。また地域等で車社会での高齢者ドライバーの生活についても触れられるようになった。
また交通事故にも大きく注目が集まり、大津で起こったレイモンド保育園の事故を始め多くの事故が起こり、特に高齢者ドライバーが起こした事故に関してはこの事故よりも後に起こったにも拘らず書類送検や逮捕がされている事に、疑問の声が上がる様になった。 - この事故で死亡した母子の遺族による『加害者への厳罰を求める署名活動』がなされ、池袋や遺族の実家の沖縄等各地で行われた他、コンビニ等でも署名が送られ、約40万人の署名が集められ、9月21日東京地検特捜部交通課に提出された。
- 当初事故に対して飯塚は「ブレーキの故障」を主張してきたが、捜査が進み車の部品の不具合が認められず全て正常だった事が判明した。その後の取材でのインタビュー内で『自分の体力に自身があった。』『全な車を開発するようにメーカーの方に心がけていただき、高齢者が安心して運転できるような、外出できるような世の中になってほしいと願っています。』と述べている。(※引用元)
- 2019年11月12日、自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)で飯塚を書類送検した。
遺族は記者会見を開き「やっとスタートラインに立てた」と心境を語る一方、上記の飯塚の発言に「全ての加害者の発言を見たわけではない、聞いたわけではない。限られた映像を見ての感想」とことわった上で「やっぱり加害者は、2人の死と向き合っているとは思えない」「遺族が見ているという配慮を考えていなかったのか」と憤っていた(※引用元) - 2020年2月6日、飯塚に対して在宅起訴を行ったという報道が速報で流された。この事により一部メディアでは『被告』と呼称するところが出始めた(勿論これまでの元院長等の肩書きで呼ぶ所があるが)。
遺族もこれに即座に会見を行い、事故から約10か月「ようやく第一歩を踏み出せた」と答えた。
また公判では被害者参加制度を利用し、飯塚に質問する意向も明かした。 - 2020年4月17日まもなく事故から一年を迎えるにあたり、被害者が実名と共に事故への悲惨さと誰もが被害者にも加害者にもなる悲しみを訴えていた。
- 2020年7月11日事故現場の交差点近くに慰霊碑が置かれ、除幕式が行われた。
本来事故一年目の4月19日に行われる予定だったが、新型コロナウイルスの関係で日程を延期していた。
- 2020年10月8日に事故の初公判が行われる事が報じられた。
被害者の松永氏は被害者参加制度を利用して傍聴する事を伝えている。
1回目の公判では飯塚は謝罪の言葉は述べた一方、事故に関しては車の不具合であるとし、無罪であると主張した。この事を受けて公判後唯一死傷者が出た松永さんは「車の不具合を主張するなら、謝って欲しくない。本当に申し訳ないと思うのであれば、しっかり罪を認めて刑が言い渡された後でいい」と、義父の上原さんは「人間の心を持っているのか」と怒りを露わにしていた。
同年12月3日には第2回目の公判が行われ、事故当時の3名の目撃情報から、かなりの猛スピードで運転されていた事、ゴミ収集車との衝突までブレーキランプは付いていなかった事が証言された。 - 2022年3月20日、ドキュメンタリー映画として「池袋母子死亡事故『約束』から3年」が公開された。
事故を取材した守田哲監督は「私が強調したいのは、民事裁判で飯塚さんの事故直前の、体の状態のカルテが明らかにされた。飯塚さんは収監されましたが、民事裁判の論点は、まさに運転すべきだったかどうかというところが科学的、医学的に議論されようとしている。極めて重要なこと」と当時を振り返った。(※引用元)
判決
2021年9月2日、東京地裁で行われた判決は傍聴倍率が20倍強とされる中で行われ、被害者・検察側は求刑禁固7年に対し、加害者・弁護側は無罪を表明していた。そうした中判決は
『禁固5年の実刑判決』を言い渡した。(判決要旨全文)
地裁は「飯塚被告がアクセルとブレーキの踏み間違えた」として飯塚の過失を認定。量刑の理由として「亡くなった母子の無念は察するに余りある。遺族らは一様に、飯塚被告に対して峻烈な処罰感情を有している」と指摘、さらに「飯塚被告が事故に真摯に向き合い、深い反省の念を有しているとは言えない」と断じた。
一方で7年から5年への減刑に関しては「90歳と高齢で、体調も万全ではないこと。厳しい非難を受けるなど過度の社会的制裁が加えられている点」を挙げた。
しかしそれらを踏まえた上で、「飯塚被告に有利な事情を踏まえても、過失の重大さや結果の甚大さなどからすれば、実刑は免れない」として判決を言い渡した。 (引用元)
2021年9月15日、飯塚は判決に対して控訴しない意向を犯罪加害者家族支援団体に伝えた。(引用元)
これにより、飯塚の実刑判決が確実となった。判決を受けて同月の17日に飯塚の瑞宝重光章を褫奪された。
誹謗中傷について
他の項目でも幾度か触れてはいるが、本事故は事故後の報道の在り方や加害者が地位がある人物という事もあり、ネット上では様々な憶測が飛び交う事となった。
とりわけ事故後の飯塚へのバッシングや中傷は凄まじく、家族や近隣へ影響が及んだ。その中にはYouTuberが注目目的で騒ぎを起こすものも出るまでとなった。
また被害者にも矛先は向かっており、被害者の中で唯一氏名を公表している松永氏へも誹謗中傷が遭いついた。なかでも2022年3月16日に松永氏が公表したものでは、Twitter上での
金や反響目当てで、飯塚昭三先生と闘っているようにしか見えませんでしたね。
そんな父親、天国の松永莉子ちゃん(3歳)と松永真菜さん(31歳)が喜ぶとでも??
男はまた新しい女作ってやり直せばいいのこと
お荷モツの子どもも居なくなったから乗り換えも楽でしょうに哄笑 (※引用元)
と、人をもの扱いにした非人道的な内容だった。これは発言者の特定もされており、同アカウント名を「本当にごめんなさい」と変えている。松永氏も警察に被害届を出しており、同年3月20日に愛知県20代男性を特定、警察による聴取を行い関与を認めた。(※引用元)
備考
- 23日に日テレのNEWS Everyで警察は退院後も飯塚氏の身柄を逮捕拘束する予定はなく、任意で事情を聞く方針に留めると報道された。
なお同日、千葉県木更津で49歳男性がよそ見運転で2人を死傷させ現行犯逮捕された。 - 24日亡くなった自転車の母娘の夫が記者会見を開いた際、記者より加害者からの謝罪の有無を尋ねる質問があったが、「私の一存では答えられない」と回答を避けた。
- 27日飯塚氏が運転を控えるよう医師に注意を受けていたことが伝えられた(NHK※記事削除済み、5ch)
- ネット上では「上級国民」という単語が再流行し、警察と飯塚氏の対応への批判や皮肉に用いられた。
- 事故現場に現れた謎の黒服の方々(役職不明) http://asahi.5ch.net/test/read.cgi/newsplus/1556075718/よりhttps://pbs.twimg.com/media/D42xngBUwAUBGOO.jpg
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関連リンク
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関連項目
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