百合(ジャンル)とは、女性同士の恋愛や友愛を描いた創作ジャンルである。
ニコニコ動画をはじめとする創作ジャンルでは「百合」と書いた場合、植物の百合などよりもこのジャンルを指して使われる場合が多く、タグ付けなどでも()のつかない「百合」が使われている。
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創作ジャンルとしての百合
女性同士の親密な関係を描いた創作ジャンル。恋愛モノとは限らない。“百合動画”の様な使い方をする場合、こちらの意味を指すと思ってまず間違いない。
恋愛モノに限定した場合、“GL”(ガールズラブ)とも称される[1]百合は男性同性愛を題材としたBL(ボーイズラブ)とよく対比されるが、女性向けジャンルとされるBLに対し、百合は男女双方に多くの愛好者がいる事(ただし百合も初期には女性向け色が強かった)、レズビアン当事者にも支持されている事(ゲイ向けジャンルとBLは全く異なるジャンルである)、恋愛に至らない関係性を描いた作品も多い事(BLにもブロマンスを描いた作品もあるが)など多くの点で異なり、必ずしもBLと相似的なジャンルという訳ではない。
恋愛以外では女同士の「恋なのか友情なのかが曖昧な関係性」「恋愛が可能性の一つとしてある関係性」を描いた作品も百合的な作品と呼ばれる(稀に"女女"と呼ばれる)。いずれその感情が何なのか明らかになるものなのかどうかや、双方の感情の方向性や強さ(友情や憎悪に近いものなのか、それとも可愛いものとして愛でるものなのか)などの点で読者層は異なっている。
“百合”の起源
1976年、男性同性愛者向け雑誌『薔薇族』誌上に、女性読者の投稿を集めた『百合族の部屋』というコーナーが創設されたのが、女性同性愛を指す意味での“百合”の起源である。
編集長の伊藤文學が女性同性愛者向けの雑誌創刊への足がかりとして始めたと語っている様に、“男性同性愛者=薔薇族”の対比として“女性同性愛者=百合族”と命名された。当初は意図に反して男性同性愛者を好む女性の投稿が多かった(『薔薇族』読者の女性なのだから当然ではある)ものの、1981年4月に『百合族コーナー』としてリニューアルされた頃には、女性同性愛者の意味で定着した。
1980年創刊の『少女のための耽美派マガジン』『ALLAN』誌上には女性同士の交際希望欄「百合通信」が設けられ、そこでは“百合族”ではなく“百合”や“百合っ気”などの言葉が用いられている。
一方で、戦前の女学校で現実の女学生の関係として流行し、戦後衰退してからも少女小説や少女漫画等の創作作品の中で描かれ続けていった“エス”のイメージが、百合という言葉に吸収されていく。
エスとはsisterの頭文字であり、少女同士の精神的な結びつきを重視した、特別に親密な関係の事である。(詳しくは“エス(女学生文化)”の単語記事を参照のこと。)
また、1983年には日活ロマンポルノ『セーラー服百合族(DVD改題:制服百合族)』が大ヒットし、男性向けポルノ作品を通して同性愛者以外にも“女性同性愛者=百合族”が普及する。その影響が大きすぎたのか、しばらくは“百合=男性向け女性同性愛ポルノ”という認識が強かった。
しかし、所謂“レズモノ”のAVの認知度が上がると、“百合”よりも“レズ”の方が男性向け女性同性愛ポルノを表す言葉としてのイメージを濃くしていく。
等のイメージが渾然一体となっており、これが今日の「百合」像の多様性(別の言い方をすれば「百合」像の混乱)に影響していると思われる。
百合とレズ
女性同士の親密な関係描写を好みながら同性愛が苦手な人は“清純”なイメージのある百合とレズビアンを区別したがる傾向があるが、そういった考え方は同性愛者に対し差別的だという意見も多々ある。
また近年は逆に同性愛のニュアンスの付いた”百合”という語を嫌い(加えて公式に百合作品とは謳われていない作品を百合認定する“百合厨”への嫌悪から)、“百合”を恋愛モノとしての“ガールズラブ”のみに狭く限定しようとする向きもある。
“百合とレズ”の違いについて百合ファンによく知られたものとして、下記のような定義がある。
私が今まで聞いた中で一番納得した説明は、森島明子先生がおっしゃっていたものですね。「レズは一人でいてもレズ。百合は二人いるのを外部から見て決めるもの。本人たちがどう思っているかはともかく、外部から見てはじめて百合は百合になる」
しかし、“百合”と“レズ”という言葉の認識が人によって異なる以上、上記の定義も決定的なものとは言えない(加えて“レズ”という語を使うのが差別的という批判もある)。何れにしても「百合はこうで、レズはこう」という自分の勝手な定義を他人に押し付けないようにしたい。
オタク界隈における百合の発展
百合のオタク界隈への浸透のきっかけは『美少女戦士セーラームーン』(1992-1997年)と言われている。同作は天王はるかと海王みちるが同性愛関係と設定され、2人は“百合界のカリスマ”と呼ばれる絶大な影響を残した。
続いて『少女革命ウテナ』(1997年)は女性同士の耽美的関係をメインテーマに据え[2]多くの熱狂的なファンを生んだ。
更に『マリア様がみてる』(1997-2012年)は、“姉妹制度“という学園百合のテンプレを確立し[3]女性向けジャンルにおいて”百合”という概念が広く知られるようになった。
2003年には初の百合専門漫画雑誌『百合姉妹』(マガジン・マガジン)、2005年には後継誌の『コミック百合姫』(一迅社)が創刊される。
同誌連載の漫画作品『百合男子』(2011-2014年)曰く、百合はボーイズラブに比べるとマイナーであり、百合市場は小さい。当時は「百合は女性が好むもの」との古典的な考えに囚われていたとの見解もある。
ただし、2000年代には既に、伝奇・ロボアクション・百合を融合させた『神無月の巫女』(2004-2005年)、『マリア様がみてる』のフォロワーである『ストロベリー・パニック』(2006年)など、男性向け色の強い作品からもヒット作が出ている。
一方で、2000年代中頃から『魔法少女リリカルなのは』シリーズ(2004年-)・『けいおん!』(アニメ版は2009年-)・『ラブライブ!』シリーズ(2010年-)等、(公式には百合と謳っていない)美少女作品から百合を見出す動きも目立つ様になった。
同時期にはいわゆる萌え4コマ誌として芳文社の『まんがタイムきらら』と系列誌(きらら系)が台頭、『ひだまりスケッチ』(2004年-)、『ゆゆ式』(2008年-)等で描かれる、恋愛未満のゆるい百合テイストが男性ファンに受け入れられ、百合ジャンルに男性が大量に流入するきっかけになった。
2011年には『コミック百合姫』連載作品でありながら『きらら系』に近い日常系の作風を持つ(所謂“ジェネリックきらら”)『ゆるゆり』がアニメ化され、同誌の看板コンテンツに成長した(ただし元々はライト層向け姉妹誌であるコミック百合姫S連載作品)。
2010年代に入ると『つぼみ』(2009-2012年,芳文社)や『ひらり、』(2010-2014年,新書館)などアンソロジー(書籍)扱いの百合専門誌が次々と休刊し、百合専門誌は『コミック百合姫』だけになってしまったが、角川系列の一般雑誌において『やがて君になる』(2015-2019年)、『新米姉妹のふたりごはん』(2015年-)などの連載が始まり、いずれもヒットした。
それと同時期に『コミック百合姫』の月刊化(2017年1月号から)、自主制作コミック誌『ガレット』の創刊(2017年2月)等が重なった。
更にはTwitter等のSNSで百合漫画が話題となり、書籍化されるケースが相次いだ(例として『出会い系サイトで妹と出会う話』『明るい記憶喪失』『同棲生活 私を好きってことでしょ』等)。小説では『安達としまむら』(2013年-)、『私の推しは悪役令嬢。』(2018年-)等がアニメ化され、早川書房『SFマガジン』2019年2月号の百合特集は同誌初の3刷重版となり、百合への注目の高まりを示した。
コミック百合姫連載作では『citrus』(2013年-)、『私に天使が舞い降りた!』(2016年-)がヒットした。
また、かつては日常系やライトテイストの百合作品がほとんどであった『きらら系』雑誌からも『アネモネは熱を帯びる』(2020年-)など、女性同士の恋愛を正面から描いた作品が輩出されている。
ニコニコ動画での百合
- 東方Projectの二次創作品では、原作上ほとんど男性キャラがいない為、女性キャラ同士のカップリングが多い[4]
- アイドルマスターでもアイドル同士のカップリングを作っている動画が存在する[5]
- 公式配信アニメ『candyboy』は双子の女性同士の恋愛がモチーフの一片。
- 女性声優同士の交友関係や言動に百合を見出す例も散見される。→百合声優
関連動画
関連静画
関連項目
ニコニコでの百合カテゴリ百合その他 |
百合作品→「百合作品一覧」を参照。 関連人物百合を手がける小説家、漫画家、脚本家、演出家など(大百科に独立記事のある人物)。 百合専門誌 |
脚注
- *たみふる『付き合ってあげてもいいかな』はリアリティのある恋愛模様を描くことを意識している事から百合という呼称を避け、「ホンネの女子大生ガールズラブ」と称している。
- *少女革命ウテナの原作者の一人でアニメ原画家のさいとうちほは、アニメ放送中は“百合”ではないと否定していたが、アニメ終了後に発行された書籍で「同性愛的な物を肯定できるようになった。」と言っている。
- *エス(女学生文化)のリバイバルとして語られる事の多い同作だが、実際にはボーイズラブもののアンチテーゼとして創作されたものだと言い、作者の今野緒雪はエスからの影響を否定している。
- *公式では百合設定は存在せず、あくまで二次創作上の設定と解釈するのが一般的である。他の楽しみ方をしているファンも大勢いるコンテンツである為、他のファンの迷惑にならない形で楽しみたい。
- *同上。
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