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脳梗塞とは、脳動脈が何らかの原因で閉塞し、虚血により脳組織が壊死に至った病態のことである。
出血や閉塞により脳組織が壊死する「脳卒中」の一種であり、「虚血性脳卒中」に分類される。
概要
脳梗塞は機序により「脳血栓症」「脳塞栓症」などに分けられる。
また臨床的な分類として「ラクナ梗塞」「アテローム血栓症」「心原性脳塞栓症」などに病態を分類することもある。
脳血栓症
悪玉コレステロール(LDL)が血中で代謝されず、血管内皮細胞に取り込まれて生じる粥状硬化が主な原因。
血管が狭まって血が流れにくくなり、血管内に血の塊(血栓)が生じて血管が詰まってしまう。
高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満、心臓病、加齢、喫煙、飲酒などにより発症のリスクが高まる。
前駆症状として「一瞬血栓ができて、すぐ溶ける」という「一過性脳虚血発作(TIA)」がみられる。
一過性脳虚血発作の症状は力が入らない、手足がしびれる等の神経症状、片麻痺、視力喪失などであるが、
急激に(2~5分)起こり、すぐに(2~15分)回復してしまう。具体的には症候の持続が24時間以内のものを指す。
きちんと症状を知っておけば、早めに医療機関を受診することで脳梗塞を未然に防ぐことができる。
脳血栓症そのものの症状は半身が麻痺する「片麻痺」が多い。梗塞部位によっては失語やふらつきなどの症状が出ることも。意識消失はあまりみられず、起こっても比較的軽い。
安静時(特に睡眠中)に発症することが多く、病状の進行は比較的緩慢である。
脳塞栓症
血栓により脳血管が詰まるのは同様だが、これは「脳以外の場所で生じた血栓が流れてきて脳血管を塞ぐ」
病態である。主な原因は心房細動や心筋梗塞などの心臓疾患、頸動脈の動脈硬化など。
臨床的な分類として、心臓疾患による脳塞栓症を「心原性脳塞栓症」と呼ぶ。
症状としては数秒から数分で意識消失が起こり、片麻痺や失語などの大脳皮質症状を伴うことが多い。
年齢や活動の程度とは無関係に、突然起こるというのが恐ろしい点である。
ラクナ梗塞
脳梗塞の中でも頻度が多いものである。上記のような機序による分類ではなく、これは臨床的な分類。
脳血栓症、脳塞栓症の両方における、長径1.5cm以下の「小動脈」で起こる脳梗塞を指す。
地味ながらちまちまと被害を広げ、認知症の原因になったりする。「隠れ脳梗塞」とも呼ばれる。
治療
急性期(発症後1~2週間)と慢性期(それ以降)では用いられる薬剤が異なる。
基本的には「血栓の溶解」「脳組織の保護」「血栓再発の予防」を行うものと考えれば良い。
再発した、もしくは治療が不十分で再発しそうな患者に対しては外科的療法として、
血栓を除去する「頸動脈内膜剥離術(CEA)」、血管を押し広げる金網をカテーテルで挿入する「ステント留置術」、
健康な血管で迂回路を作る「バイパス手術」などの手術が行われる。
血栓の溶解
血栓溶解剤としてはアルテプラーゼが用いられるが、タンパク質分解作用があるため血管が破れやすくなる。
そのため使用前に脳内出血がないことをCTやMRIで確認する必要がある。
アルテプラーゼは脳梗塞なら発症後4.5時間以内、急性心筋梗塞なら6時間以内に投与する必要がある。
現在はアルテプラーゼによる治療が第一選択だが、この制約により恩恵を受けられる患者は1%ほどである。
血栓溶解剤としては他にウロキナーゼがあるが、これは発症後5日以内に投与する必要がある。
アルテプラーゼに比べて出血のリスクが高いため、あまり用いられない。
脳組織の保護
脳梗塞が起こると活性酸素が発生し、虚血による被害を受けた部分以外にも悪影響が及んでしまう。
この活性酸素を除去するため、急性期においてはエダラボンが持続投与で用いられる。
また脳の浮腫(腫れ、むくみ)を解消するため、濃グリセリン・果糖溶液やマンニトールを点滴することで
余分な血や水分を血液中に戻す処置が行われる。
血栓再発の予防
抗血小板剤のオザグレルナトリウム、抗凝固剤のヘパリンやアルガトロバンが用いられる。
抗血小板剤は脳で血栓が形成されるのを防ぎ、抗凝固剤は心臓などで血栓ができるのを防ぐ。
オザグレルナトリウム、アルガトロバンは心原性脳塞栓症に禁忌であるため、
心原性脳塞栓症では抗凝固剤としてヘパリンを、抗凝血剤としてワルファリンやダビガトランを用いる。ヘパリンについては、アテローム血栓性でも塞栓性の脳梗塞が関わっていることがあるため、使われることも多い。
血圧管理
脳梗塞直後は血圧が高いことが多いが、200mmHgを超えるレベルでない限りは降圧しない。これは血圧を高くすることによって脳の血流を維持しようとする作用によるものであり、ここで降圧すると悪影響があるためである。
慢性期
脳梗塞は非常に再発しやすい病気であり、血栓再発予防と血圧管理が重要となる。
血栓防止のため、抗血小板薬としてバファリンことアスピリンや、チクロピジン、シロスタゾールが用いられる。
また。血圧管理のため、カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬、β遮断薬、利尿薬などが用いられる。
通常、症状の安定しない発症後一ヶ月以内は降圧剤を使用しない。
また、脳循環改善にイフェンプロジル、イブジラスト、ホパテン酸カルシウムなどが用いられる。
糖尿病や高脂血症の改善のため、食事療法が行われることもある。
また、脳梗塞はその発生箇所により、運動障害や感覚麻痺、せん妄や抑うつ状態など様々な後遺症が残るため、
改善目的のリハビリテーションや、それらを防止するための薬剤を投与することがある。
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