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ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフは「銀河英雄伝説」の登場人物。CVは勝生真沙子(石黒監督版アニメ)、花澤香菜(Die Neue These)。
ラインハルト・フォン・ローエングラムの首席秘書官。公的にはフロイライン(未婚の女性の敬称。お嬢さん)、またはフロイライン・マリーンドルフと呼ばれ、私的には通称のヒルダと呼ばれる事が多い。作中の第三人称の語り手はヒルダの方を多用している。
帝国暦468年生まれ。銀河帝国ゴールデンバウム王朝のフランツ・フォン・マリーンドルフ伯爵の長女。母親を亡くしている。読書と野歩きを趣味とする、しっかり者のかしこい女の子であった事から、親しい者からは「男に生まれていれば尚書や元帥にもなれる」と評価されていた。しかし、10歳にもならぬ頃から散文的な見識を持つヒルダは、同じ貴族の姫君たちからは「かわいくない」と決めつけられて距離を置かれ、本人はあきらかに無理した風情で「かわいくなくてもいいもん」と断言していた(かわいい)。
マリーンドルフ伯は理解のある人物であり、娘の心配はしても、貴族社会の桎梏に収めさせる事はせず、その個性を尊重させている。そういった環境からか、体制側の人間でありながら、共和主義的な価値観を持つという、本人もいささか不思議がる人物像が形成され、英雄ラインハルトによってゴールデンバウム王朝が滅亡し、貴族社会が致命的な打撃を受けるという未来を、いち早く予言する事になるのである。
▲ラインハルトより一歳年下であり、登場時は帝都オーディンの大学に通っている。
リップシュタット戦役前夜では、中立もしくは門閥貴族側に加わろうとするマリーンドルフ伯を説得して、リヒテンラーデ=ローエングラム枢軸の方につかせる事を決断させる。マリーンドルフ伯から伯爵家の全権を任せられてラインハルトの元帥府へと赴き、伯爵家の家門と領地の安堵を約束させている。この時にヒルダが示した政治・外交感覚をラインハルトは高く評価し、後に帝国宰相になると首席秘書官の席を用意する。
戦役が開始されると、ラインハルトへの取りなしを頼んだ一部の貴族たちとの折衝役を務め、また帝国宰相クラウス・フォン・リヒテンラーデの動向にも注意を払い、後背の敵となりうる旨をラインハルトへ警告している。
ラインハルトの側近としてのヒルダは、単なる秘書官ではなく、同じ智者として、助言者としても重用されており、ラインハルトの代理人として姉アンネローゼ・フォン・グリューネワルト伯爵夫人への説得役を依頼されるまでの信託を受けている。ラインハルトのメンタルを察知できる立場から、ジークフリード・キルヒアイスを失ったラインハルトの人間性が崩壊し、第二のルドルフ大帝になるのではと懸念しており、「パウル・フォン・オーベルシュタインを相手取ってでも」と砕心する事になる。
”神々の黄昏”作戦では、中佐待遇となって軍服を着用し、ラインハルトに近侍する。ヤン・ウェンリーとの直接対決を望むラインハルトに、重ねて決戦を避けるように諫言しており、自由惑星同盟の首都ハイネセンを落とす事を説くが、ラインハルトに受けいられる事はなかった。
▲ヒルダ最大の功績の一つが、バーミリオン星域会戦の勝敗を覆した事である。ラインハルトの配慮によって一度は戦場を離れたヒルダであったが、強引に高速巡航艦を借用し、初戦のヤンの大攻勢を見届けると、可能な限りの速度で、エリューセラ星域のウォルフガング・ミッターマイヤーに救援を依頼する。「今から反転しても戦場には間に合わず、ラインハルトは敗れる」と断言し、先に同盟政府を降伏させて、ヤンへ停戦命令を出させる作戦を提案する。
この案を支持したミッターマイヤーと、彼の要請をうけたオスカー・フォン・ロイエンタールによる奇襲によってハイネセンは占拠される、ヒルダは一刻も早く停戦命令を引き出そうと、ラインハルトの名を騙るまでの事をやってのけ、戦死寸前であったラインハルトを救う事に成功させる。ヒルダに誤算があったとすれば、ナイトハルト・ミュラーの反転が間に合っていた事である。もっとも、そのミュラーごとラインハルトを屠ろうとしたヤンの戦術指揮能力が、ヒルダの予測を超えていた事もあり、結果として帳尻が合う事にもなった。
会戦におけるヒルダの行動は彼女も自覚するように、出過ぎたまねであり、どんな叱りを受けても当然ではあったが、ラインハルトは不問とし、命を救ってもらったと謝意をしめしており、ミッターマイヤーとロイエンタールにも厚く酬いる事を約束している。後世の戦史家からは、ラインハルトの壮大な戦略に内包するものと考えられている。
▲ラインハルトが皇帝となり、ローエングラム王朝が開始されると、皇帝首席秘書官(大佐待遇)となり、マリーンドルフ伯も国務尚書に任じられる。従弟のハインリッヒ・フォン・キュンメルが起こした皇帝暗殺未遂事件では、現場に居合わせており、その死を看取る事になった。親族の不祥事にマリーンドルフ父娘は自主的に謹慎するが、ラインハルトによって連座は不要と解除されて、宮廷に復帰する。
大親征でもヒルダは従軍し、各勢力の動向を的確に言い当てて適切な献策を行い。マル・アデッタ星域会戦では、敗北が決定的となった同盟軍指揮官アレクサンドル・ビュコックへの降伏勧告をするように進言している。
自由惑星同盟の滅亡により、統帥本部総長ロイエンタールが新領土総督になった事で、帝国軍の再編成が行われた時には、統帥本部はラインハルトが統轄するところとなり、補佐役としてヒルダに幕僚総監の席が用意されたが、「一兵をも指揮したことのない身では諸将にはばかりがある」として辞退し、カール・ロベルト・シュタインメッツが幕僚総監に内定する事となった。
回廊の戦いの前では、これ以上の軍事行動は無益として、何度も痛烈にラインハルトに諫言をするが、聞き入れられる事はなかった。シュタインメッツが回廊の戦いで戦死すると、あらためて幕僚総監(中将待遇)に就任を要請され、拝命する事となる。ちなみに回天篇で一度だけ「ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ中将」と表記されている。
▲ヴェスターラントの虐殺の遺族による皇帝暗殺未遂事件において、激しく打ちのめされたラインハルトの為に、一夜の関係を結ぶこととなる。責任を取るためラインハルトは「夏の終わりのバラ」を手にヒルダに求婚するが、マリーンドルフ伯の配慮もあって猶予がもうけられ、女性として情操的な問題に直面する事になる。自分との結婚がラインハルトの幸福となるのかと思い悩んだが、懐妊した事、アンネローゼから祝福を受けた事、ラインハルトへの理解を深める事によって、快く受諾する。
ラインハルトとの結婚によってヒルデガルド・フォン・ローエングラムとなり、幕僚総監を辞して皇妃(カイザーリン)として冊立される。ヒルダの場合、皇帝の配偶者にとどまらず、帝国の共同統治者となる事も意味していた。そして、二世皇帝となるアレクサンデル・ジークフリード・フォン・ローエングラムを生んで国母となり、ローエングラム王朝の存続を確立させる。
ラインハルトの病が篤くなると、アンネローゼと共に献身的に看病を行うが、不治の病であり、ラインハルトは死を悟ると、アレクサンデルとフェリックス・ミッターマイヤーとの間に友誼を結ばせて、父親としての愛情を示したものの、帝国の実権そのものはヒルダに委譲して、実質的な後継者として指名している。この時の遺言にひとつに、自分の死後に摂政となるヒルダの名において、現存する6人の上級大将に帝国元帥の地位を、先任の1人の元帥に帝国首席元帥の称号を与えるというものがあり、「獅子の泉の七元帥」の由来となる。
「皇妃(カイザーリン)、あなたなら、予より賢明に、宇宙を統治していけるだろう。立憲体制に移行するなら、それもよし。いずれにしても、生ある者のなかで、もっとも強大で賢明な者が宇宙を支配すればよいのだ。もしアレクサンデル・ジークフリードがその力量を持たぬなら、ローエングラム王朝など、あえて存続させる必要はない。すべて、あなたの思うとおりにやってくれれば、それ以上、望むことはない……」
ラインハルト崩御直後のヒルダの立場を「銀河帝国の摂政皇太后として銀河の頂点に立った」としており、後世の歴史家たちから「ローエングラム王朝を創ったのは皇帝ラインハルトであるが、それを育てたのは皇妃ヒルデガルドである」と評価されて、新たな支配者として王朝を軌道にのせた事が示唆されている。
▲ミッターマイヤーから「一個艦隊の武力にまさる智謀」と評される作中でも屈指の謀臣。また、ラインハルトの「皇妃は予よりはるかに政治家としての識見に富む」という言葉は、最大ののろけが入っているにしてもヒルダが非常に優秀な政治家である事は確かで、ラインハルトの政務における「帝国軍の双璧」たりうる人物として、キルヒアイスとブルーノ・フォン・シルヴァーベルヒ工部尚書と共に、ヒルダの名が挙げられる。構想力だけでなく実務能力も高く、大本営の運営は彼女が負うところが大きかった。
そして何より「ラインハルトは覇業の出発点においてキルヒアイスをえ、王業の終着点においてヒルダをえた」とあるようにヒルダの真価は、ラインハルトを補佐して守り立てる能力である。ヒルダの奇跡的な個性も、ラインハルトの抜擢によって世に出る機会を得たもので、その存在はキルヒアイス同様に、ラインハルトにとってはごく自然の現象であった。
▲暗くくすんだ色調の金髪を短くし、ブルーグリーンの瞳は活力に満ちて輝き、冒険精神に富んだ美しい少年のような印象を与えている。ラインハルトにおさおさ劣らない硬質の美貌の所有者であり、冗談まじりにアテナ神やミネルヴァ神にも例えられる。結婚を機に髪を伸ばし始め、顔立ちも女性的な柔和な印象をもつようになる。肥満をしない体質のせいか、かなりの甘党。
人間的に健全で明るく、バランス感覚に長けており、宇宙の支配者たるラインハルトを直視して、直言できる勇気と精神力の持ち主でもある。いっぽうでマリーンドルフ伯が冗談めかして「いろいろ知っている娘ですが、自分が女であることだけは知らんのではないか、と、ときどき心配になるのですよ」といった抜けてる面もあり、オーベルシュタインを笑わせる事は出来なかった。
犀利なだけでなく母の知人であるマグダレーナ・フォン・ヴェストパーレ男爵夫人には少女らしい快活さで応じ、また、ウルリッヒ・ケスラー上級大将を「ケスラー大佐」と呼んで、友人でもある侍女のマリーカ・フォン・フォイエルバッハとの間を取り持つといった愛敬のある面も見せている。
ラインハルトとは結婚前まで基本的に公人関係に徹していたが、精神的に波長が合う事もあって、無意識に打ち解けており、ヒルダのほうでは多少意識するところがあった。当時からも、後世からもヒルダとラインハルトとの婚姻がはたして恋愛によるものであったのか?と意地悪く疑問視されるが、じつは、ごく普通の形でフラグが立ちかけた事がある。外伝「千億の星、千億の光」において、ヒルダは共通の知人であるヴェストパーレ男爵夫人から、いずれふさわしい男性を紹介する事を仄めかされており、またラインハルトの方でも恋愛について「やってみてもいいが、どうやって相手をさがす?」「(女性の好みに)べつに条件なんかない。そうだな、頭がよくて気だてがよければ充分だ」とキルヒアイスに語る場面があった。
父親であるマリーンドルフ伯とは理想的な父娘関係であり、自分の資質を最大限に伸ばしてくれた父親に対する敬愛の念は深く、マリーンドルフ伯が凡人という評価はヒルダにとっては心外なものであった。従弟のハインリッヒの事は弟のように可愛がっており、彼の為にエルネスト・メックリンガーに見舞いを依頼している。
義姉のアンネローゼの関係も良好で、ヒルダは「姉弟にとっては自分は異分子」「嫉妬するには高すぎる存在」として立てている。アンネローゼのほうでも、ヒルダがラインハルトにとって自分以上の存在になる事を望んでおり、柊館炎上事件では身を挺してヒルダをかばい、彫刻つきスタンドを凶器にテロリストを血祭りにあげている。