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兵站[へいたん](Military Logistics あるいはLogistics:ロジスティクス)とは、戦闘地帯から後方の軍隊におけるありとあらゆる行動およびその行動を行う部署を一まとめに呼称したもの。
「戦争のプロは兵站を語り、素人は戦略を語る」「補給戦ー何が勝敗を決定するのか」(著:マーチン・ファン・クレフェルト)の解説を書いた石津朋之の作った言葉である。もちろん似たようなことは従来から言われてきている。(「プロは兵站を語り、素人は戦略を語る」石津朋之防衛省 防衛研究所 戦史部第一戦史研究室長[keyperson]:ロジスティクス・ビジネス[LOGI-BIZ]バックナンバー[外部])
兵站活動の目的は、広義に捉えれば、国家のパワーのために、有効な軍事力を生産することである(ここでいう「パワー」とは、国家の内外の随意の地点に有効な破壊殺傷力を投射(project)することを指す)。またその要素として、国内外のさまざまな資源を採集し、輸送搬入し、戦力に加工し、戦場の味方軍隊に推進補給するという諸段階が考えられる。「日本の防衛力再考」兵頭二十八 銀河出版 1995 p.225-226
古い時代においては、戦争における兵站業務の比重は小さかった。ギリシャの軍隊は、遠征中でも「徴発」することで存続できた。しかし、時代が進むにつれて軍隊が必要とする物資の補給量は増大していく。1870年の普仏戦争では1個師団は毎日約50トンの食料とかいばを必要とし、1916年になると大砲や砲弾の大型化に伴って必要補給量は150トンに増えた(現代のアメリカ機甲師団は毎日3000トン以上の補給を必要とする)。
そして第二次大戦が起きる前に、陸・海・空のすべてにおいて、「石油を燃料とするエンジン」が、動物・石炭・風力に取って代わったとき、戦争の問題は兵站業務が中心を占めるようになった。敵と戦うためにはまず「移動するための石油」を用意しなければならなくなった。
裏を返せば、敵と直接戦うのではなく、敵の兵站システムを破壊することで移動に必要な石油の供給を絶ち、交戦することなく敵を無力化することも可能になった。現代では、敵の兵站業務を妨害する能力は、戦闘、作戦、もっといえば戦争に勝つ能力にひとしいのである。
※兵站活動を行う兵種(職種)については、諸兵科連合の項でわかりやすく記述されている。この項では、兵站活動全般とは何か、について記述を行うものとする。
兵站とは何かを説明する前に、まず大切な前提条件から行うべきだろう。
すなわち軍隊の目的である。
しかし、戦うためには準備が必要で、その準備とは究極的に何かといわれれば、
軍隊を構成する部隊・組織の戦闘力(継戦能力)の維持・向上となる。(これ重要!)
軍隊(部隊)を形成するのは当然兵士であり、兵士はそれぞれに身に着ける、あるいは運用する装備がある。これらによって実現される戦闘力の維持・向上こそが兵站の目的と言える。
戦闘力とは字面どおりの戦う能力だが、ただ一度だけ戦うのは戦闘とは言わずただのケンカでしかない。
戦闘には行動を継続させることが求められ、その能力は継戦能力として呼ばれる。
この継戦能力とはさまざまな要素から成り立つもので、一言では言えないものがある。
しかしこの能力があればこそ上位の組織、つまり司令部(あるいは軍、国家)はその部隊の能力を、計算することが可能になる。
いささか冗長だが、ここはアメリカ陸軍の教範から兵站=Logisticsがどのように位置づけられているのかを読んで見るといいだろう。
「軍の移動および継戦能力の維持を計画・実行する過程、装備品の計画・開発・取得・貯蔵・移動・配分・整備・後送・廃棄、役務の調達・提供、施設の計画・取得・建設・整備・運用・配置等を含む、戦術レベルでは装備の補給・修理・給油・人員配置・移動・給養・継戦能力維持等の後方支援(Combat Service Support)に重点」
アメリカ陸軍野外教範 100-5 (FM 100-5) Capter 12."Logistics"より。
(『備えよ! ロジスティクスサポート』より一部引用の上、修正)
すなわち、全般的には「戦闘行為以外すべてを担当する役目」をさし、戦術レベルにおいては「継戦能力を維持する行為 = 後方支援である」としている。
戦術レベルにおいてのみ記述すると戦闘力の維持には、部隊を構成する人員の生活物資(水、食料、衣服等)。そして運用する兵器の修理・補修・使用する物資・弾薬・燃料の補給がかかせない。そして、それらを輸送するためには補給兵(輸送兵)が必要となり、彼らが運用する資材もまた補給が必要となる。
次に補給に使う道路、港湾、飛行場の整備・維持管理も必要になってくる。
最近では兵站という大きな分類から、直接的な戦闘行動への支援については「戦闘支援」と呼ばれ、その後方において業務を担うものを(広報・会計なども含めて)「後方支援(Combat Service Support)」と二つに分けられることも多いのだが、上記文章を読むかぎり、戦術レベルにおいてはCombat Service Supportを直訳した「戦務支援」として考えたほうがわかりやすいかもしれない。
話がややこしいが、この兵站(Logistics = ロジスティクス)は現在、自衛隊内部(陸・海・空)でもあまり用語が統一されていない実情がある。陸自では「兵站」、海自、空自では「ロジスティクス」と呼ばれる。旧日本陸軍ではロジスティクスを兵站補給として訳した。後述するが、兵站の中に補給が含まれるが、それがすべてではない。先に引用した教範『FM 100-5』では、兵站にも戦略的ロジスティクス、作戦的ロジスティクス、戦術的ロジスティクスと階層があることを述べているのだが、ここらへんの感覚も備えたほうがいいだろう。
このように兵站(Logistics)とはきわめて広範囲な分野をさすために、きわめて説明が難しい分野でもあることがわかるだろうか。
兵站は英語では「Military Logistics」とも呼ばれ、一般の「Business Logistics」とは分けられているのだが、日本国内では兵站のひとつの分野でもある補給(物資輸送)任務を転じて物流として捉えられている側面があり、せいぜいサプライチェーンマネジメント(複数企業間における発注・輸送業務)をひっくるめて、「Logistics=ロジ」と呼ぶことも多い。が、物流としての用語は「Physical Distribution」であり、微妙にかみ合ってない現状もある。
企業グループにおいて「○○ロジスティクス」とかいう企業名もあるのだが、焦点はほぼ物流にだけにしぼられており、実業と社名が食い違っていると考えたほうが良いかもしれない。
概要のまとめとして、先に紹介したアメリカ陸軍野外教範からもう一つ引用しよう。
「Logistics cannot win a war, but its absence or inadequacy can cause defeat.」
(意訳:ロジスティクスだけじゃ戦争は勝てない。しかし、欠如、あるいは不適当なやり方は敗北をもたらす)
兵站とはその当時(あるいは現在)の技術、経済をベースとした軍隊、そして国家の縮図でもある。
兵站だけを語ることがすべてを語れることではないし、戦術、戦略よりも上位の価値観ではない(それ相応に重要ではあるが)。
戦場(歴史)を知り、技術を知り、戦術を知り、戦略を知り、そして兵站を知ることによって見えてくるもの、見るべきもの、そして考えなければならないことがあることを知ることが重要である。
物事に対する視点の位置を変えること、考えることの大切さ。これこそが、冒頭の「玄人は兵站を語る」の意味、すなわち素人と玄人を分ける境界線かもしれない。
※素人(しろうと)の対である玄人(くろうと)の玄が黒ではないのは、「黒よりも奥深く容易ではない」の意味もあるとか。
二十世紀になり戦争の規模が大きくなると共に見せた国家間の戦争における総力戦とは、人類に「戦争は戦場だけで戦うのではない」ということを教えている。
これは従来の前線(戦場)、後方(安全な場所)という垣根が無くなったという意味合いだけではない。
関与するものが戦場というミクロの場所だけではないのだという意味でもある。そこには社会基盤、生産施設、物流、通信、計画運営、意思決定プロセス、すべてがかかわってくる。
兵站という広範囲を示す言葉の裏側に、どれだけ考え、実行に移さねばならないものがあるのか、それを知る一助となれば幸いでもある。
ここでは後方支援(戦務支援)ということでどれだけの努力を払わねばならないのか。ということを想像してみてみよう。
たとえば国内ではなく海外へ陸上兵力として大隊規模(600人程度からなる部隊)を派遣する必要性が生じたとする。派遣日数は不確定であるものの3ヶ月以上、現地の治安はあまり良いものといえず、自衛のための武装は必要とする…として想定してみよう。