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手形とは、以下のことを表す。
本記事では、2.について解説する。
手形(draft、bill)[外部]とは、銀行に当座預金口座を開設している人が発行する有価証券のことで、記載された期日以降において手形を銀行へ持参した人に対し金銭を支払うよう銀行へ委託するものである。
電子記録債権(電子債権)の普及に従い、手形の利用は減少傾向にあるが、まだ企業の支払方法として現役である。
毎月一定の給料を得ている賃金労働者にとっては意外に感じるが、多くの企業は毎月一定の売り上げを稼いでいるのではなく、売り上げに波がある。ある季節にドーンと売り上げて大儲けし、そのほかの季節ではあまり売り上げが伸びず暇でしょうがない、というタイプの企業が多い。つまり、繁忙期と閑散期がはっきり分かれる企業が世の中に多い、ということである。
そういう企業にとって、手形は重宝する。繁忙期の後に支払期限を設けた手形を使えば、手持ちの現金を超えた大きめの出費が可能になる。
手形というのは、発行されてから現金に換金できるようになるまで、時間的猶予がある。その猶予期間に、手形の所有者が支払い手段として第3者に譲り渡すことがある。これを手形の譲渡という。一番最初に手形を発行した人物に対して信用があれば、人から人へと次々と譲渡されていくことになる。発行者に対する信用が高く次々と譲渡される手形は、まるで通貨のように見える。
手形を発行することを、「手形を振り出す」「手形を切る」と表現する。
手形に必要事項を記入して手渡す人、つまり手形を発行する人を振出人、振り出し人といい、振出人の住所を振出地という。
手形に書かれた金額の支払いを行う人を支払人、支払い人という。
小切手の支払人は「振出人の預金を送金する銀行」という意味だが、手形の支払人は「銀行預金を減らすことを約束する債務者」という意味である。
日本で流通する手形のほとんどを占める約束手形の場合、振出人と支払人が同一の存在である。日本でごくわずかに流通する為替手形の場合、振出人と支払人が別々の存在である。
手形所有者の銀行口座に向けて、手形に書かれた金額だけ、支払人の当座預金口座のお金を送金する銀行のことを支払場所といい、支払場所の住所を支払地という。ただ、支払場所のことを支払銀行と分かりやすく表現する人が多い。
一番最初に手形を受け取る人を受取人、受け取り人という。最終的に手形を所持して換金のため銀行を訪れる人を持参人という。
手形を所持する人を所持人という。手形は、譲渡されて所持人が次々と変わっていくことがある。
小切手と手形は、どちらも貸借対照表(バランスシート)において、振り出した者の負債として扱われるが、性質が異なっている。
小切手は、振り出した直後に銀行に持ち込まれて現金化されても、文句を言うことができない。
手形は、振り出してから一定期間をおいた後に限り、銀行に持ち込んで現金に換金することができる。振り出し人にとっては、お金を工面する猶予がある。
小切手と手形は振り出し人(発行者)にとっての負債だが、時間の猶予という点で大きく異なる。小切手は猶予がなくて厳しい負債であり、手形は猶予があって比較的に緩やかな負債である。
表にしてまとめると次のようになる。
小切手 | 手形 | |
貸借対照表における扱い | 発行者の負債 | 発行者の負債 |
時間の猶予 | 全くない。即時の支払いに応じる義務がある | 様々に設定されている。支払期日まで長いほど、義務が緩やかになる |
ちなみに、日本で振り出される手形のほとんどが確定日払い手形[外部]で、支払い期日を決めてから振り出すものである。しかし、ごくまれに、支払い期日を決めずに振り出される手形があり、それを一覧払い手形(いちらんばらいてがた)[外部]という。一覧払い手形は、振り出した日から1年以内に銀行へ持ち込むことができ、所持人が銀行に持ち込んだ日が自動的に支払い期日になる。つまり、小切手に非常に近いものである。小切手は振り出された日を含めて11日以内に銀行へ行かねばならないが、一覧払い手形は債権者にとってもっと余裕がある。
手形が振り出された日から支払期日までの日数を手形サイトという。
このサイトはsightのことで、「視野」という意味を持つ英単語である。ちなみに英語で手形サイトを表現するときはsightという単語を使わずdraft maturityとかbill maturityと表現する(資料[外部])。ゆえに「手形サイト」は和製英語といえる。
手形は、手形サイトの長さで、負債としての厳しさが変化する。
支払期日が1週間後の手形なら誰しも厳しさを感じ、支払期日が6ヶ月の手形ならだいぶ厳しさが緩和され、支払期日が100年後の手形ならもはや厳しさが皆無である。
現実の日本で振り出される手形の手形サイトは、どれぐらいの長さのものが多いのだろうか。
手形サイトは、振出人の財政事情や、振出人や受取人が所属する業界によって決まる。とはいえ、1ヶ月以上4ヶ月以内のものが多く、30日、60日、90日、120日といった手形サイトが多い。
当然のことながら、手形サイトが長いほど、債権者すなわち受取人にとって損をすることになる。5ヶ月(150日)や6ヶ月(180日)の手形になると、受取人が嫌な顔をするようになるので、振り出される数が少なくなる。
手形サイトが長い手形には異名が付いている。7ヶ月(210日)の手形には台風手形、10ヶ月(300日)の手形にはお産手形、12ヶ月(365日)の手形には七夕手形という名前が付いている。
古来から、立春[外部]の2月4日頃から210日[外部]が過ぎた9月1日頃は台風が多く襲来すると言われてきた。このため、210日の手形サイトの手形を台風手形と呼ぶ。
古来から、人の出産までの日数は十月十日(とつきとおか)[外部]と言われてきた。このため、10ヶ月の手形サイトの手形をお産手形と呼ぶ。
七夕祭りは、天の川に隔てられた彦星と織姫とが七月七日の夜、年に一度だけ会うという中国の伝説をお祭りにしたものである。このため、1年の手形サイトの手形を七夕手形と呼ぶ。
1年を超える手形サイトの手形は、ほとんど流通していない。
※この項の資料・・・記事1[外部]、記事2[外部]
下請法[外部]では、資本力の大きい大企業(親事業者)が、資本力の小さい中小企業(下請事業者)に対して支払いをするときの行動を規制している。
その下請法を運用している中小企業庁と公正取引委員会は、1966年(昭和41年)3月11日に、通達を出している。「親事業者が振り出す手形の手形サイトは、繊維業については90日以内、その他の業種については120日以内とするとともに、下請法の趣旨を踏まえ、更に短縮するよう努力するように」という内容だった。
2016年(平成28年)12月14日にはさらに通達が出され[外部]、「親事業者が振り出す手形の手形サイトは、繊維業については90日以内、その他の業種については120日以内とするのは当然として、下請法の趣旨を踏まえ、段階的に短縮に努めることとし、将来的には60日以内とするよう努めること」と周知された。
支払いサイト[外部]という言葉がある。
これは、商品を納入した日の後にやってくる締め日[外部]から、代金が銀行預金に化ける日までの期間のことを指す。
「4月1日に商品を受領して、4月30日に締め日を迎え、30日後の5月30日に『手形サイト120日の手形』で支払う」というのは、「支払いサイト30日」ではなく、「支払いサイト120日」でもなく、「支払いサイト150日」である。
締め日から手形支払いまでの日数と、手形サイトを足したものが、支払いサイトになる。
支払いサイトについては、売掛金の記事にも記述があるので、参照のこと。
この項目では、日本で最も一般的に使われる約束手形の使い方を解説する。
まずは、銀行のどこかの支店と当座勘定契約[外部]を結び、当座預金口座を開設する。当座勘定契約とは、「自分が振り出した小切手や手形について、自分に代わって支払ってほしい」と委託する契約である。
当座預金口座を開設するには、銀行の審査が必要である。銀行にとっては、不渡りの小切手・手形を出すような存在に当座預金を開設させたくない。
当座預金口座とは特殊な口座である。誰もがすぐに開設できる銀行の口座というと普通預金口座だが、その普通預金口座とはいくつかの点で異なっている。
普通預金には金利が付く。インフレ率が3%台で推移していた昭和末の時代には、普通預金の金利が1.5%を超えて2%に迫るほどだった。ところが当座預金にはインフレ率が何%になろうが一切の金利が付かない。臨時金利調整法の第2条[外部]で、政府・日銀の指示で各銀行の最大金利を定めることができると決まっているのだが、その条文に基づき、当座預金の金利を0%にする制度が維持されている。
銀行が破綻した場合、預金保険制度[外部]によって預金者への補償が行われる。普通口座の預金は1000万円までしか保護されない。しかし、当座預金は全額保護される。
簡単に表にまとめると以下のようになる。
当座預金 | 普通預金 | |
口座開設 | 銀行が経済力の審査をしてから開設する。経済力が低い人は開設できない | 誰でもすぐに開設できる |
金利 | 一切、金利が付かない。 | 金利が付く。インフレ率に応じて変化する |
預金保護 | 全額が保護される | 1000万円までしか保護されない |
※この項の資料・・・記事1[外部]、手形・小切手の基礎知識(7ページ)[外部]、記事3[外部]、記事4[外部]
銀行から手形帳を買う。20枚から50枚程度の手形の束となっていて、1枚1枚切り離すことができる。
手形に必要事項を書く。手形に書かれた文言には非常に強い力が与えられ、書き間違いがあった場合でもその文言の通りに事態が動いてしまう。10万円というつもりで100,000と書いたがついうっかり1000,000と書いてしまった場合も、100万円の手形として通用してしまい、100万円の支払い義務が発生する。このことを文言証券性[外部]という。このため、全神経を集中させて慎重に記入せねばならない。
必要事項は6つで、金額と、振出日(手形を振り出した日)と、支払期日と、振出人の署名(会社名と代表取締役氏名)と、振出地(振出人の住所)と、受取人の会社名である。
小切手は受取人の会社名を書かなくて良いが、手形は受取人の会社名を書く必要がある。
振出人に関する情報は会社名と代表取締役氏名と住所の3つを書かねばならないが、受取人に関する情報は会社名だけでよい。振出人は債務者なので居場所を突き止めねばならず多くの情報を書く必要があるが、受取人は債権者なので会社名だけでよい。
さらに、振出人は、署名の横に銀行届け印(銀行に登録した印鑑)を押す必要がある。
金額を手書きで書く場合、漢数字で書くことが慣習となっている。アラビア数字で書いてもよいのだが、「書き間違いしやすいから望ましくない」と皆に言われるので、誰もが漢数字で書く。15万2300と記載するとき、拾伍萬弐阡参佰と書く。漢数字の方が偽造しにいから重宝される。また、「二」という漢字は線を1本入れて「三」と偽造することが容易なので、「弐」という表記を使う。漢数字の表記を調べるには、エクセルなどの表計算ソフトを使ってもよいし、このサイト[外部]を使ってもよい。そして、金額の前に「金」、金額の後ろに「円也」と書く。こんな具合の表記[外部]となる。
金額を手書きで書くのは神経をすり減らして大変なので、チェックライター(check writer 小切手記入機)[外部]を使って記入することが多い。その場合はアラビア数字で金額が書かれ、金額の前に「¥」、金額の後に「※」という文字が入る。
15万2300円を手書きで書くときとチェックライターで書くときの違いをまとめると、次のようになる。
手書き | チェックライター |
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金拾伍萬弐阡参佰円也 | ¥152,300※ |