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辻真先(つじ まさき)とは、アニメ界とミステリー界の誇る高性能レジェンドおじいちゃんである。
別名義に「桂真佐喜」(アニメ脚本などで使用)、「牧薩次」(一部の小説作品で使用。ちなみに『仮題・中学殺人事件』をはじめとするスーパー&ポテトシリーズの登場人物の名前)。
1932年愛知県生まれ。名古屋大学文学部卒業後、1954年にNHKに入局。前年に放送が始まったばかりの草創期のテレビ業界において、学生時代に映画に傾倒して台本やコンテを書いていた経験を活かしてテレビドラマを中心に様々な番組の制作に携わる。
NHK退職後、フリーの脚本家となり、60~70年代の黎明期のテレビアニメにおいて膨大な数の脚本を執筆。脚本を担当した代表的な作品を挙げていくだけで、『エイトマン』『鉄腕アトム』『ジャングル大帝』『魔法使いサリー』『リボンの騎士』『ゲゲゲの鬼太郎』『巨人の星』『サイボーグ009』『サザエさん』『タイガーマスク』『ひみつのアッコちゃん』『天才バカボン』『デビルマン』『ど根性ガエル』『キューティーハニー』『バビル2世』『勇者ライディーン』『超電磁ロボ コン・バトラーV』『Dr.スランプ アラレちゃん』『忍者ハットリくん』『うる星やつら』などなどなどなど、あまりにも多すぎて書き切れない。
その一方、1972年に「読者が犯人」という趣向の遊び心に溢れたジュヴナイルミステリ『仮題・中学殺人事件』で本格的に小説家デビュー。なお、それ以前から雑誌の短編掲載はいろいろあった。確認されている限り1957年に「悪魔の画像」という作品が雑誌掲載されているのが最初で、それ以降も60年代に雑誌「宝石」の新人賞で候補作になった作品などが雑誌掲載されているほか、初の単著も60年代のノベライズ作品なのだが、経歴などでは1972年が小説家デビューの年として扱われることが多い。これも正確に言えば、小説家としての活動が本格化するのは『仮題・中学殺人事件』がソノラマ文庫で再刊された1975年以降である。本作が1975年にソノラマ文庫で再刊されると、本作をきっかけにミステリの面白さを知ったという中高生を多数生み出し、現在でいうライトノベルの源流のひとつにもなった。80年代以降はアニメ脚本から小説家へと活動の軸足を移し、当時のトラベルミステリーブームの中、自身の鉄オタぶりを活かして鉄道ミステリーやトラベルミステリーを多数執筆する。その一方、デビュー作から共通する作中作などのメタ趣向や大胆な仕掛けを駆使した本格ミステリも書き続け、『迷犬ルパン』シリーズなどのユーモアミステリ、ジュヴナイルSFや架空戦記なども手掛けた。1981年、『アリスの国の殺人』で第35回日本推理作家協会賞長編部門を受賞。1986年には『旅路 村でいちばんの首吊りの木』が映画化されている。
その他、特撮の脚本や漫画原作、児童書や絵本も多数手掛けており、旅行エッセイや黎明期のアニメ業界回想録など、その仕事の全貌をまとめようと思ったらいったい何冊の本になるのか見当もつかない。
……と、知らない人がここまで読めば「なるほど、昭和に活躍して後世に影響を与えた昔のすごい人なのね」とか思われるかもしれない。ところがどっこい、このおじいちゃん、米寿を超えた2021年現在もアニメ脚本家・小説家の双方でバリバリの現役である。アニメではさすがに仕事量はごく少ないものの現在も年に1本ぐらいのペースで『名探偵コナン』の脚本を担当しており、他に近年では『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~』(2015年-2016年)でも第9話「果てしなき家族の果て」(『サザエさん』ネタの回)と第17話「デビラとデビロ」で脚本を書いている。
小説の方では現在も年1冊ペースでコンスタントに新刊を出しており、2008年に「牧薩次」名義で刊行した『完全恋愛』で第9回本格ミステリ大賞を受賞(このとき77歳)、そして2020年に刊行した『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』では88歳にして「このミステリーがすごい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「ミステリが読みたい!」の年間ランキング3つで1位の三冠を獲得(米澤穂信以来、史上2人目)。一般にミステリーは高齢になるほど論理的な思考力や発想力が衰えて傑作を書くことが難しくなるジャンルであり、80代で現役作家というだけでも希少なのに、その年齢でキャリアに残る代表作を書いた作家というのは、国内ではおそらく他に皆川博子(82歳で本格ミステリ大賞受賞)ぐらいだろう。
文字通り、テレビ業界およびアニメ業界の黎明期から現在までを知る長老にして生き字引であり、ミステリーの世界においても第3代本格ミステリ作家クラブ会長を務め、2019年に第23回日本ミステリー文学大賞を受賞したレジェンド中のレジェンドである。現在もデジタルハリウッド大学名誉教授として教壇に立ったり、各方面で業界のレジェンドとしてインタビューや対談に引っ張りだこ。そんな巨人であるにもかかわらず、本人のTwitter[外部]では現在も最新のアニメ、漫画、小説の感想を楽しそうに呟いており、知らなければとても米寿のおじいちゃんとは思えない。
アニメは60~70年代の有名作品で大量の脚本を書いているので、dアニメストアなどの各種配信サイトでその時代の作品を見れば思わぬところで名前を見つけられるだろう。小説の方は著作が200冊を超える非常な多作であるが、さすがに誰もが知っているベストセラー作家ではないので、現在ではごく最近の作品を除く大半の作品が新品では入手不能。とはいえ『仮題・中学殺人事件』などの代表作は古書での入手はさほど難しくないはずなので、見かけたら手に取ってみて欲しい。
▲あまりにも膨大なので代表的なもののみ。
シリーズごとの一覧はWikipediaにある[外部]ので、ここではノベライズなども全部ひっくるめて刊行順に並べる。海外文学が原作の児童書や絵本、伝記、ゲームブックなどは除外。数が膨大なので抜け・改題ダブりがあるかも。