ポルシェティーガーとは、後にⅥ号戦車「ティーガー」として完成する戦車への製作案として作られた試作車両、VK4501(P)の俗称である。日本のファンの間では、さらに略してP虎(ぴーとら)とも呼ばれる。
第三帝国に数多く現れたきわめつきの変人科学者の一人、フェルディナント・ポルシェ。アドルフ・ヒトラーお気に入りの彼が、1941年5月26日の兵器局会議でヒトラーが要求した重戦車開発計画に対して提出したのがVK4501(P)である。車両こそボツとなったもののその特殊な構造と、後にフェルディナント/エレファント重駆逐戦車を生むこととなった数奇な運命、そして後年に宮崎駿が「雑想ノート」の中で取り上げたこと等で、本来なら知る人ぞ知るボツ戦車どまりの本車には「ポルシェティーガー」という俗称がつけられることとなった。ちなみにまったく関係ないけど、競争試作でこそ負けたものの、Ⅵ号戦車の愛称を「ティーガー」って決めたのはポルシェ博士なんだってさ。
1935年の時点でドイツ軍の将来の機甲戦力構想として、主力のⅢ号戦車・火力支援を行うⅣ号戦車という二本立てで戦車戦力の整備を進めることが決まっていたが、さらにこのうえに30トンクラスの重戦車を作っておこうじゃないかという提案が為されたのがコトの始まり。この計画は紆余曲折を経つついくつかの重戦車級車台を生み出すことになったのだが、まあそれはそれとしてドイツのポーランド侵攻でついに世界は二次大戦に突入。ドイツ戦車軍団は再軍備から積み上げてきた戦闘能力を実戦で証明することとなったのである。
さて、フランスでの戦訓を受けて、1941年5月26日の兵器局との会議で総統アドルフ・ヒトラーは、これら既存の重戦車級車台よりもさらに強力な攻撃力・防御力を持つ戦車の実用化を要求。ここに、本格的にⅥ号戦車計画がスタートすることとなる。このとき、上記の重戦車計画に関わっていた主な車両企業は2つ。ヘンシェル社とポルシェ社である。そこで総統からの要求により開始された新しい重戦車計画にも、この両社で競争試作を行うこととなった。
基本的な構成はVK4501(H)、要するにティーガーⅠと類似しているのだが、独自の設計にこだわるポルシェ博士はこのポルシェティーガーにもがっつりと独自要素を盛り込んでいる。
その一つ目がガソリン=エレクトリック駆動。要するにガソリンエンジンで発電機を回し、その電力でモーターを回して走行するという手である。ポルシェ博士はこの方式がトランスミッションを不要とすることで結果的に効率的なのだと判断したのだという。50トン級の戦車を走らせるパワーに耐えられるトランスミッションは重く大きなモノにならざるを得ないので効率は著しく低下してしまう。また、鉄道における電気式ディーゼル機関車や昨今のハイブリッドカーの隆盛を見てもわかる通り、ポルシェ博士のこのコンセプト自体は決して間違ってはいない。トランスミッションで発生するパワーロスを考えればパワーを電気で伝達する方が実は効率がいいし、その上戦車のような大出力車両のマニュアル変速は大変な労力を必要とするので、操縦手の負担軽減にも役立ったのである。
だが、当時と現代との大きな違いはモーターが本来は魚雷用で重いわりに非力だったこと、電圧を高効率で変換する半導体インバーター(VVVFとか)が無く余分なパワーは熱になって発散してしまうこと、パワーを一時的に蓄積するバッテリーが無かったことなどでコンセプト通りの実力を発揮させることができなかったのだ。
おまけにモーターだけでなくエンジンの信頼性不足も重なってしまい、登坂力等がまったく不足し、まさに机上の空論となってしまった。
結局ヒトラーとゲーリングの前での走行テストでは、信地旋回もできずパワー不足で地面にめり込むという見事なポンコツぶりを発揮。ヘンシェル社の車両もヒトラーの評価は芳しくなかったものの、こんなポンコツを見せられてはとてもじゃないがポルシェ博士のものを採用するわけにはいかなかった。
エンジンの力不足に関しては換装でかなりマシになる可能性もあった(事実、実戦投入車輌やエレファントではマイバッハ製のエンジンに換装している)のだが、問題は大出力モーターと発電機の両方に貴重な戦略資源である銅をたんまりと必要とする点と、モーターと発電機から放射される電磁波によって車内・車間通信が困難になるという点であり、この2点はポルシェティーガーを採用から大きく遠ざける要因となってしまった。
もうひとつの独自点が、普通は床下に配置するトーションバーを縦置きにして車外に装備したことである。これによりトーションバーサスの欠点である床下脱出ハッチが設置できない問題をクリアし、かつ全高も低く抑えることができた。また、長いトーションバーの生産には高いコストがかかったので、短いトーションバーで済ませられれば生産コストも下がる。
しかし、これは言い換えるまでもなくバネの役割をするトーションバーの長さが切り詰められているということであり必然的に弾力不足、つまり地面からの反作用がそのまんま足回りを直撃してしまう問題があった。もっと車重が軽い車体であればこういうモノでも良かったのかもしれないが、50トンオーバーの戦車にコレは辛かった。走行試験でも問題は指摘されていたが、実際にこの足回りは(ただでさえ重戦車の足回りはそういう傾向があるが)とにかく長持ちせず、頻繁なオーバーホールを要する駄々っ子が誕生する結果となってしまった。
結果として、ポルシェ博士のコンセプト自体はどこも間違っていなかったものの、技術力の不足と相性の悪さが災いし、とんだ失敗兵器が生まれてしまったのであった。強いて言えば、そこまでは考慮できなかったことがポルシェ博士のミスと言えるだろう。
試作車両どまりだからこの項いらねーだろって? 普通の国ならそうだが、ここはドイツ第三帝国、総統閣下の巨大なおもちゃ箱。そしてポルシェティーガーの設計者、フェルディナント・ポルシェ博士は政治的には無関心、かつ純朴な技術バカのおっちゃんであった(総統にも一切の敬称を使わず、普通に「ヒトラーさん」と呼びかけてたというエピソードもある)が、自分で運転こそしないものの自動車大好きだった総統閣下にとって、念願だった「国民車構想」を実現させてくれた天才科学者・ポルシェ博士は大のお気に入り。そういうわけで政治的無知さ・純朴さもむしろヒトラーにとって信頼できる要素として働いており、ポルシェ社には総統の声掛かりで資材や資金も優先的に供給されていたのである。
で、やっちゃったわけです。不採用が決まった時点で、100台分のポルシェティーガーの車台がもう出来上がっちゃってたというわけがわからないよ状態を引き起こした原因が、総統閣下とポルシェ博士の親しい関係にあることは想像を待つまでもないことであろう。
結局、ポルシェティーガーとして完成したのは10両。これは乗員訓練用に使われることとなり、後に正面装甲を追加されて指揮戦車として実戦投入も行われている。この指揮戦車ポルシェティーガーに率いられて戦ったのが、残り90両分の車台のなれの果て生まれ変わった姿、重駆逐戦車「フェルディナント」、後に「エレファント」である。
なお砲塔については改修された後にヘンシェル社のVK4501(H)、すなわちティーガーⅠに搭載されている。これはヘンシェル側の砲塔の開発が間に合わなかったため、やむを得ずポルシェ博士の設計を流用したためである。
そのため砲塔は瓜二つで、慣れない人が正面から見ると一瞬どちらだかわからなくなる、と思う。
ポルシェティーガーの登場作品として有名なのが、宮崎駿が1992年に出版した『宮崎駿の雑想ノート』である。単行本出版時の描き下ろしとして執筆された『豚の虎』にてポルシェティーガーが登場、戦車整備兵長ハンスの活躍と共に見事なぶっ壊れっぷりを披露した。いきなり地面にめり込んだり、エンジンが小爆発したり、大地に降り立てなかったり、キャタピラが外れたりとトラブルの数え役満であったが、なんとか1号車2号車共にクルスクから生還している。「もしP虎がある程度使えるレベルで走れたら……」というIF作品である。
なお出版当時はポルシェティーガーは実戦投入されていなかったというのが通説でありこの作品もそういう前提で描かれているが、その後実戦投入の事実が判明し、さらにイギリスのメーカーからほぼ同時に模型が発売……と偶然にも、まるで宮崎の執筆を待ち望んでいたかのように2つもの転機がポルシェティーガーに訪れている。ただ、宮崎自身はP虎の模型発売については「こんな物、製品になるんですかねぇ…?」と語っている。監督ご自身で描かれておいて何をおっしゃいますか……
余談だが事実上の続編にあたる『泥まみれの虎』ではオットー・カリウスが駆るティーガーⅠが登場。P虎のポンコツ具合との対比が実に面白い。ちなみにハンス兵長のエピソードも収録されており、P虎について彼が一言言及している。→「ボロボロのⅣ号戦車の方がP虎よりずっとマシだ」と……
さらに時代が下って20年後、アニメ『ガールズ&パンツァー』終盤にてレオポンさんチームの使用車輌として登場。大洗女子が保有する車両の中ではずば抜けた攻撃力と防御力を誇るが、何しろこの失敗兵器である。しかし流石はエスパー集団の自動車部だけあって、ハンス兵長も腰を抜かす整備技術でこのポンコツを動かし、最後には敵前に単独で立ち塞がって西住姉妹の一騎討ちの場を維持し続けるという殊勲賞ものの大活躍を見せた。「もしP虎の目指した理想が人類を超越するレベルで実現したら……」というIF作品である。→ポルシェ博士号泣
劇場版では最終盤で愛里寿との合流を図る三副官を追い、「EPS」なるシステムを披露。「エンジン規定はあるがモーターにはない」というセコい抜け道逆転の発想によるこのシステムにより、まさにF1マシンであるかのような神速の疾走を実現。しかもエリカ車とカチューシャ車をスリップストリームに巻き込み、大洗最強のP虎+世界最強の王虎+超優秀車T-34/85による総重量160tの三位一体猛追撃という物理法則もあったもんじゃねえ激熱の展開を見せつけた。
ところが無理が祟ったか、P虎は機関部から爆発炎上し白旗。エリカとカチューシャも撃破されるが、カチューシャの体当たりで体勢を崩したルミをエリカが撃破した。数だけ見れば1対3の大損だが、サンダース大付属が成す術もなく撃破されたバミューダアタックを潰したことで、西住姉妹の勝利に大きく貢献した。P虎はウサギさんチームや継続高校のようなド派手な大立ち回りこそなかったが、この疾走によりファンと天国のポルシェ博士はまたしてもハンカチを濡らすこととなったのであった。
なお、EPS起動スイッチの隣には……「V-TOL」「STEALTH」と書かれたスイッチがある。うん、見なかったことにしよう。
その他、関連動画にもある『鈍色の攻防』や『World of Tanks』『WarThunder』などのゲームにも登場している。
PS用タンクシム・「鈍色の攻防」。祖国をクーデターで追われた女王を守って仮想WW2世界を転戦する戦車中隊の物語ですが、ロボットアニメでお約束の主役機乗り換えイベントに相当するマップで「新主役機」として登場するのがポルシェティーガー。初めて見たときは筆者もマニアックな選定に爆笑しましたっけ。
掲示板
79 ななしのよっしん
2019/10/09(水) 09:02:17 ID: MSJzrrRkxl
>>78
ガルパン劇中でポルシェティーガーが昼飯をしていたシーンといえば最終章2話のBC戦ですけど(他にもありましたっけ?)
あのときはポルシェティーガーと相対していたソミュア車長安藤曰く「遠すぎて当たるか」と言うぐらい離れていた模様
よしんば当たっても垂直とはいえ80㎜はあるのでソミュアの47㎜SA35戦車砲で貫徹できたか疑問が残ります
80 ななしのよっしん
2019/10/11(金) 14:49:47 ID: junO+rir9q
>>79
TV最終回の弁慶の立ち往生を忘れたか!
あまり詳しくない自分でも、ティーガーⅡとパンターにあれだけボッコボコにされてもあんな長時間耐えるどころかパンター二両も喰うとかやっぱこの子もティーガーなんやなって思いました(小並感)
81 ななしのよっしん
2022/01/28(金) 18:08:00 ID: fYmJmiJyg7
モーターがどこ製か、どこから調達したかが気になる。。。
もしや日立?
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最終更新:2024/04/20(土) 10:00
最終更新:2024/04/20(土) 10:00
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