あきづき型護衛艦とは、海上自衛隊の護衛艦である。
1961年就役の指揮護衛艦(DDC)である初代と、2012年就役の汎用護衛艦(DD)である2代目が存在する。
本項では主に2代目について扱う。
「むらさめ」型、「たかなみ」型に連なる汎用護衛艦であり、1番艦あきづきは命名されるまでは「5,000トン型護衛艦」、もしくは予算成立年度をとって「19DD」と呼ばれていた。名称のとおり基準排水量は5,050トン。満載排水量は6,800トンと7,000トンに迫り、最早米国以外ではDDG(ミサイル駆逐艦)に匹敵する、あるいは一部で凌駕するサイズである(てるづき以降の新アスロック運用艦では基準排水量が5100トンに達した)。
なお、ネームシップの「あきづき(秋月)」の名前を冠する水上戦闘艦は三代目である。初代は帝国海軍駆逐艦「秋月」。二代目は海上自衛隊の初代護衛艦「あきづき」である。何れも対空戦闘能力に優れた艦であるのは縁を感じさせる。2番艦名称が公募の上とは言え、往時の秋月型駆逐艦2番艦「照月」に因んでいるあたり、その点を海自が意識している節もある。
「あきづき」型には当初、二つの建造案が存在していた。一つは現在の「たかなみ」型護衛艦の拡大改良案。もう一つはSea-RAM(ファランクスCIWSの機関砲を短距離対空ミサイルに置き換えたもの、いずもが搭載)をCIWSに採用、上構造物のステルス化を徹底、ウェーヴピアサー船体を採用した先進案である(なお計画段階では保守案と先進案の両方で、対艦ミサイルの垂直発射化も盛り込まれていた)。
当初は先進案も有力だったが、折からの防衛予算圧縮の状況を受け、「たかなみ」型護衛艦を原型に改良を加えた保守案が採用された。但しそれでもC4Iの先進化、それに必要な発電量の大幅な増大、RCS低減、そして人員省力化など、次世代艦に必要な要素は達成されている。調達費用は750億円前後と、性能を考慮すれば相当に抑制された。昨今の不況を鑑みれば妥当な判断である。
船体ラインを見ると「むらさめ」「たかなみ」の血筋を感じさせるが、上部構造物は完全な別物である。FCS-3Aのアンテナ配置などだけでなく、短魚雷発射管や魚雷防御装置の船内装備、マストのステルス構造化、煙突の赤外線抑制構造などは、全くの新規設計で新世代艦にふさわしいものである。
船体構造こそ保守的であるが、搭載されている電子装備と誘導武器は世界水準からしても最新鋭のものである。
特に「ひゅうが」にも搭載され、このクラスにも搭載された多機能レーダー「FCS-3」は元来が優れた多機能アクティブフェイズドアレイレーダであるが、「あきづき」には更なる改善型「FCS-3A」が搭載されている。改良型はアンテナ素子にガリウム窒素(ガリウムナイトライド)などを用い、尖端出力は3倍。目標捜索領域は1.7倍に拡張された。
戦術情報処理装置も対潜情報処理、Link16までを艦内ネットワークで統合した「OYQ-11」という最新型が搭載された。基本的には「ひゅうが」型の「OYQ-10」ACDSと同系統であるが、こちらは速射砲やSSMの射撃管制能力も付与されている。OYQ-10/11も四半世紀の時間をかけ、更にあたご型のイージスシステムベースライン7を参考に熟成しただけに、性能・発達余裕・実用性ともに良好である。
この点は「はつゆき」型から始まる国産C4I開発の蓄積と「こんごう」型・「あたご」型イージス護衛艦建造で得られた技術、双方の結実であり、米国製システム導入と国産システム開発結実の昇華ともいえる。
搭載している誘導武器(ミサイル)も、発達型シースパロー(ESSM)と垂直発射型アスロックと最新鋭ないしそれに準ずるものを、前部甲板VLS32セルに満載している。ESSMは最大射程が50kmにまで伸びており、限定的な広域防空も可能である。水上目標への対処には、船体中央部に搭載された90式艦対艦誘導弾(SSM-1B)が使用される。
なお、些か残念な話ではあるが、予算不足によりASWに用いる対潜ロケットは、最新の07式ではなく既存の垂直発射型アスロック、CIWSである高性能20mm機関砲(ファランクス)も一世代前のBlock1Aである。07式アスロックの運用は2番艦「てるづき」以降に順延された。欠点というほどではないが予算窮乏が伺えた。
近年ではネームシップ「あきづき」への07式新アスロック運用能力の付与。そしてむらさめ型護衛艦などともに高性能20mm機関砲を最新のblock1Bに置き換える補正予算がつくなど、逐次性能改善が為されている。従来不足していたものだけではなく、国産のマルチバイスタティックソーナー搭載も予定されており、本艦の一義である防空能力だけではなく、対潜能力の改善も推進される模様である。
なお護衛艦としては初めて自走式及びブイ式対魚雷防御装置を搭載。従来の水中放射雑音防止だけでなく、積極的に敵魚雷そのものを排除する装備を搭載するなど、やはり武装の面でも一線を画している面は多い。また、他国の電子戦装置に相当する電波探知妨害装置も、NQLQ-3系列の最新であるD型を搭載。高い電波妨害・逆探知(電子情報収集)能力を有している。
海上自衛隊としては「あきづき」型を用い、BMD任務に専念しているイージス艦の護衛を行うことを想定している。建造数が4隻とされたのは、19DD建造開始当時にBMD対応改修を受けるイージス護衛艦が「こんごう」型4隻であったことが影響している。「あたご」型もBMD改修を受けることが決定した現在、今後のDD建造動向も注目されている。
機関はCOGAG方式であり、ロールスロイス「スペイ(SM-1C)」ガスタービンを川崎重工業がライセンスしたものを、シフト配置4基2軸で搭載している。従来、異なる系統のガスタービンを混載した「むらさめ」「たかなみ」に比して、運用性と整備維持性の向上も図られていると思われる。また、排水量増大に比して、機関出力増大が控えめなこともあってか、最大30ktの高速を維持するため、船体にはフラップさえ装備されている。
因みに当初はこんごう型・ひゅうが型護衛艦などにも搭載された、石川島播磨重工がライセンス製造している米国GE社設計の「LM2500」ガスタービンへの一本化による異なる種類の護衛艦との駆動系共通化も望まれた。これによる目標出力は8万馬力だったそうで、将来装備が増設された際も、最大速度低下を防止することも目的としていた。LM2500が運用性、信頼性で現行随一であることを考慮すれば妥当な判断だった。
しかし当時、同ガスタービンのライセンスに関するものも含め、自衛隊装備関係の不祥事が発生。海上自衛隊側が自粛する形で、あえてやや古いスペイガスタービンを採用したとも言われている。現状、出力で不足をきたしてはいない模様だが、この点を惜しむ声は「世界の艦船」の記事で、元開発隊群司令などから呈されている。
外観及び船体構造こそやや保守的であるが、内実はコストと必要性能をよく見極めた高性能な汎用護衛艦として完成したといえる。「あきづき」型は比較的建造ペースが早いことも特徴で、既に同型艦4隻全艦が就役、もしくは進水を終えた上での艤装に入り、2014年3月をもって全艦が護衛艦隊への配備を完結した。
なお、既にあきづき型を原型とした「5000トン型」(25/26DD)という新型艦も費目計上され、同型艦2隻が費目計上されている。外観は概ね似通っているが、駆動系を試験艦あすかで熟成されたガスタービン複合電気推進へ変更。固定4面フェイズドアレイアンテナ式潜望鏡探知レーダを搭載するなど、対潜重視の汎用護衛艦となる模様である(本レーダはP-1哨戒機の搭載レーダを艦載用としたものである)。
反面、VLSを16セルに半減。対空能力は自艦防護に留めるなど、ASW重視に割り振った汎用護衛艦となる予定である(この場合は07式新アスロック12発、ESSM16発装填と推察されることが多い)。
因みに対空能力は自衛用として一番艦(25DD)はMk41VLSが16セルとされているが、2番艦(26DD)は新防衛大綱・概算要求のCGでは正確な数は不明だが、たかなみ・あきづきのように、甲板レベルが1つ上昇する形で明らかにセル数が増大している。他にも衛星通信装置、対魚雷防御装置の形状や配置にも変化が見られる。
両者共通装備のFCS-3に関して言えば、あきづきではフランス・タレス製のXバンドイルミネーターを、ある程度性能を妥協した上で小型の国産品に換装。同時に省電力化も実施し、これまで船体前後に割り振られたフェイズドアレイアンテナを、艦橋に集約する構造となっている。これによる上構造物の小型軽量化も意図している。なおシステム構成が大幅に変更されたことから名称は「OPY-1」とされた。
25/26DDはあきづき型護衛艦の延長線上にありながら、主機やC4Iなどは全くの別物で、コンセプトも擬似的なミサイル護衛艦ではなく本来の汎用護衛艦に回帰している。この点は8200トン型という名前の改あたご型護衛艦が建造されていることも影響しており、護衛艦隊全般のバランスと戦力改善に寄与することが大いに期待される。
艦名 | 艦番号 | 所属 | 進水 | 建造 | 艦名の由来 | |
---|---|---|---|---|---|---|
就役 | ||||||
1番艦 (19DD) |
あきづき | DD-115 | 第1護衛隊群 第5護衛隊 |
2010年10月13日 | 三菱重工 長崎造船所 |
旧海軍の秋月型防空駆逐艦1番艦秋月より。海上自衛隊護衛艦隊旗艦を務めた伝統ある名称で知名度も高いことから。 |
2012年3月14日 | ||||||
2番艦 (20DD) |
てるづき | DD-116 | 第2護衛隊群 第6護衛隊 |
2011年9月15日 | 三菱重工 長崎造船所 |
旧海軍の秋月型防空駆逐艦2番艦照月より。海上自衛隊護衛艦隊旗艦を務めた伝統ある名称で知名度も高いことから。 |
2013年3月7日 | ||||||
3番艦 (21DD) |
すずつき | DD-117 | 第4護衛隊群 第8護衛隊 |
2012年10月17日 | 三菱重工 長崎造船所 |
旧海軍の秋月型防空駆逐艦3番艦涼月より。天一号作戦(戦艦大和の沖縄特攻)に参加し大損傷を受けながらも帰投しており、爽やかに澄み切った秋の月を意味する語感があきづき型3番艦として適当であることから。 |
2014年3月12日 | ||||||
4番艦 (21DD) |
ふゆづき | DD-118 | 第3護衛隊群 第7護衛隊 |
2012年8月22日 | 三井造船 玉野事業所 |
旧海軍の秋月型防空駆逐艦8番艦冬月より。天一号作戦(戦艦大和の沖縄特攻)に参加し無事帰投しており、冬の空を連想させ身の引き締まる印象を与える語感があきづき型4番艦として適当であることから。 |
2014年3月13日 |
掲示板
96 ななしのよっしん
2021/12/14(火) 01:11:03 ID: n7uG/tV1RX
初代あきづき型の魚雷次発装填装置が狂おしいほど好きなんだけど、わかる人いる?
97 ななしのよっしん
2022/08/23(火) 17:56:10 ID: hiFO4dp4Ep
よくイージス艦と比べらるが、イージスシステムの真価ってレーダーの探知距離とか多数目標同時捜索探知能力とかそういうハードの問題じゃないからねぇ……
ぶっちゃけAN/SPY-1以上の性能のレーダーを作るってだけならやろうと思えば今の日本でも出来ると思う(現にFCS-3の時点で多数目標同時捜索探知能力なら勝ってる)
じゃあイージスシステムの何がヤベェかって人間が「撃っていいよ」って権限を与えさえすればあとは目標の捜索、探知、追尾、脅威判定、迎撃を全自動でやってくれて、飽和攻撃を受けない限り人間はコーヒーでも啜って監視してれば良いって点なんだよな。
中華イージスって呼ばれてる中国の052型や055型もレーダーの性能こそSPY-1に匹敵するのかも知れんが、この辺の能力が有るかは怪しいと思ってる。
98 ななしのよっしん
2022/11/12(土) 23:08:31 ID: E4gPfBu6dV
mk99の問題でSM1/2の管制数に限界があるから効率良く捌くためのシステムが必要だったのはそうだけど
脅威度判定って日本ですらOYQ5の頃からやってるそうだし、
運用されてるSAMやらレーダーっていろんな表示はするけど、敵の脅威度判定や迎撃指示は人間が手動でやってるのか?って話になるような…
急上昇ワード改
最終更新:2023/12/06(水) 01:00
最終更新:2023/12/06(水) 01:00
ウォッチリストに追加しました!
すでにウォッチリストに
入っています。
追加に失敗しました。
ほめた!
ほめるを取消しました。
ほめるに失敗しました。
ほめるの取消しに失敗しました。