「でも今の駆逐艦はすごいぞ。最高だ。」とは、とある米海軍大尉の名台詞である。
「あのな、戦艦はすごい艦だ。恐竜みたいなもんだ。」
「ガンガン殴られても平気な浮かぶパンチングマシンさ。」
「でも今の駆逐艦はすごいぞ。最高だ。」
以上の台詞は2012年春に公開された映画「バトルシップ」の劇中内で主人公アレックス・ホッパー大尉がミズーリ艦内ツアーに参加していた子供に説明した駆逐艦と戦艦の違いである。
前日、彼女としっぽりと一夜をすごしたアレックスは環太平洋合同演習「RIMPAC」の開催式にみごと遅刻してしまった。急いで彼女のサマンサと開催式がおこなわれている退役戦艦ミズーリの前甲板に向かう中、観光でミズーリ艦内ツアーに参加していた観光客一行と出くわしてしまう。
ガイド役の老人の21世紀の現在、海軍の主力は戦艦から駆逐艦に変わったという説明に対して子供がぶつけた質問に対し遅刻しているにもかかわらずアレックスが子供に解説したのが上記の台詞である。
子供「艦長さんなの?」
サマンサ「いいえ、いつも遅刻してるからなれないの」
一般人にとっては「軍艦の種類」というのはなかなか分かりづらい物があると思われる。
20世紀に入ってからは水上で戦う軍艦は簡単に4種類にわけることができる。
他にも潜水艦とか、駆逐艦よりも小型のフリゲート、コルベットなどが存在するがここでは割愛する。
この4種類の軍艦は第二次世界大戦、そしてその後の冷戦において大きく役割を変えていくこととなる。
古来より海戦の華は戦艦同士の艦砲よる砲撃戦であり、19世紀末から、大艦巨砲主義のもと世界各国の海軍は「海の女王」たる鋼鉄製の大型戦艦の建造、配備を競い合っていた。これらの戦艦の建造費、維持費は国家財政に大きく影響し、また国力のバロメーター、戦略的抑止力となっていた。現代における核兵器のようなポジションにいたと考えてよい。
しかし第二次世界大戦がはじまると状況は一変した。1920年代から急速に技術が進化した航空機は戦艦の搭載する艦砲よりはるか遠くから敵を把握し、搭載する爆弾や魚雷による波状攻撃により次々に戦艦を戦闘不能にしていったのである。
代表的な例は
などである。
各国の海軍軍人が夢見た戦艦同士の砲撃戦は数えるほどしかなく、戦争後半になると戦艦は敵地に対する艦砲射撃や友軍の艦隊の防空についたりと当初の目的とはまったく異なる任務につくことになった。
一方駆逐艦は、元々はモーターボートサイズで高速で敵艦に肉薄し魚雷をたたきこむ水雷艇を他の艦艇から守り水雷艇を「駆逐する」艦種として生まれたが、第一次世界大戦以降、大型する他の軍艦に追従するように大型化し、水雷艇にかわり艦隊に随伴し、小口径の艦砲で敵を牽制しながら肉薄し必殺の魚雷をたたきこむ艦船へと役割が変化した。
第二次世界大戦では枢軸軍、連合軍の駆逐艦が各地でおこなわれた海戦の砲撃戦、雷撃戦に参加し戦局に貢献した。中には単独で敵の戦艦部隊に突撃し数時間翻弄する武勲艦なども存在した。また駆逐艦は、対地支援任務、偵察任務、輸送任務、潜水艦に対する哨戒任務、輸送船護衛、艦隊護衛など様々な任務に従事し艦隊戦以外にも戦略的に大きな役割を果たした。
また大型艦にくらべ建造期間も短く、費用も安価なため大戦中も建造が行われ、連合軍では大戦中に数百隻以上が就役し任務に就いている。
第二次世界大戦終結直前、ドイツ軍によって実用化された無線誘導爆弾フリッツXがイタリア戦艦「ローマ」を撃沈、加えてV-1号飛行爆弾の実戦投入により時代は誘導ロケット兵器の時代へと変わりつつあった。
そもそも艦砲による砲撃戦は、複数の砲門が形成する散布界のなかに目標をおさめ、砲撃をしながら微調整を行い命中弾を与えるというものであり、早い話が「当たるまで撃ち続ける」わけで、けっして経済的な戦術ではなかった。世界でも屈指の練度をほこった旧日本海軍でも戦艦の昼間砲撃戦における命中率は1~5%であったが、大型化の一途をたどる戦艦の砲弾は非常に高価で、日本海軍の41cm九一式徹甲弾の単価は当時4000円ほどであった。昭和17年の大卒者銀行員の初任給が70円ほどだったので、現在の価値に換算すると約1200万円ということになる。すなわち1発の命中弾を得るのに150発撃ったとして単純計算で20億円近くかかる理屈である。
それに対し、航空機による爆雷撃の命中率は艦砲の射撃の命中率よりはるかに高かった。
さらに、冷戦がはじまると東西勢力は航空機に搭載する爆弾、魚雷にかわる誘導ロケット兵器の研究開発を行い、1950年代には艦船から発射可能な誘導ミサイルが実用化されはじめた。そして1967年にエジプト軍の小型魚雷艇に搭載されたソ連製の対艦ミサイルがイスラエル軍の駆逐艦「エイラート」を撃沈したことを皮切りに各国でミサイル開発が進み、ハープーンやエグゾセなどの対艦ミサイルが配備された。
戦艦の大型艦砲の射程距離が40km(実際には目で見える20kmあたりが現実的な交戦距離)に対し米国のハープーン対艦ミサイルは射程120km、またミサイル単体の単価も110万USドル(1ドル100円として1億円ちょっと)でありながら、初の実戦投入では、1986年3月、A-6Eイントルーダー攻撃機から発射された同ミサイルがリビアの警備艇2隻を撃沈、命中率100%をたたき出し、非常に高い費用対効果を実証したため、大型艦砲による遠距離からの対艦砲撃戦の機会は完全に消滅した。
戦艦の艦砲が大型化するにつれて、一基数千トンする艦砲の重さを支え、射撃時の反動を抑えるため戦艦の船体は巨体化していき、建造しそれを運用していく資源と維持費は第二次世界大戦以前から各国の海軍の悩みの種となっていた。
しかし対艦ミサイルが実用化されたことによって、小型な駆逐艦、巡洋艦、はては潜水艦、航空機まで戦艦にまさる対艦戦闘に対する破壊力、長射程、命中率を手にすることができた。
第二次世界大戦前の戦艦にとって重要な役割だった戦略的抑止力は核戦力にとってかわられており、もはや戦艦は完全に無用の長物と化してしまった。第二次世界大戦終結後の軍縮により戦前、戦中に就役していた戦艦は次々と退役、解体されていき、わずかながらに残ったのは戦後に完成した英仏の戦艦と最後に就役した米軍のアイオワ級戦艦だけであった。英仏の戦艦は1950年代には退役し、アイオワ級戦艦も艦砲による対地支援作戦などに参加したがベトナム戦争終結後に退役した。
海戦に欠くべからざる存在だった戦艦が、無理に出番を作ってやらねば使い物にならない厄介者になりはじめていたのである。
1980年代、アメリカのレーガン政権の軍拡によりアイオワ級戦艦は再就役、近代化が施されいくつかの紛争と湾岸戦争に参戦、艦砲やトマホーク巡航ミサイルによる地上支援任務に従事した。これら戦艦の艦砲射撃は上陸する部隊、敵勢力から非常に大きな影響と威力を与えていたが、艦砲の射程距離まで戦艦は敵地に近づかなくてはならないため非常に限定的な運用しかできなかった。
湾岸戦争終結後、艦齢の老朽化や高額の維持費、そして戦術的戦略的価値観の喪失から退役がきまり、1992年3月31日、唯一の現役戦艦だった戦艦ミズーリが退役。これにより戦艦という艦種は消滅した。
それはまるで、我が物顔で繁栄を謳歌していた巨大な恐竜が環境の変化に適応できずに絶滅し、それまで日陰者だった哺乳類がかわりに地上の支配者になった構図にも似ていた。それを踏まえると、ホッパーの「恐竜みたいなもんだ」という台詞が、パワフルであるということのほかに違う意味もふくまれているように感じられるだろう。
旧式の戦艦が消滅した現在、駆逐艦は対空、対艦、対潜の各種ミサイル兵器、中口径の艦砲を搭載し単艦で多様な任務に対応できる艦船として各国の海軍の主力艦として運用されるようになった。(旧ソ連では駆逐艦に対空艦、対潜艦と艦によって武装が区別化されていた艦もあった)
巡洋艦も一部はミサイル兵器やヘリ運用能力を運用主体として生き残ったものの、巡洋艦というクラスそのものがミサイル駆逐艦などに食われて行き、現在では衰退・消滅の傾向にある。
現在巡洋艦が残存しているのはアメリカ・ロシア・ペルーの三カ国だが、いずれも大戦後~冷戦終結前に建造された古い艦か、政治的な理由などから巡洋艦を名乗っているかのどちらかである。
そして1990年代、米海軍のアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦の就役により駆逐艦は世界最高の戦闘能力を有する軍艦へと到達した。第二次世界大戦時代の巡洋艦に匹敵する排水量、イージスシステムなどの高度な電子装置搭載による高い探知能力、VLSシステムによる多様なミサイル兵器によるかつての戦艦以上の攻撃力、トマホーク巡航ミサイル搭載による戦略攻撃能力、おまけに一部の艦では弾道ミサイル迎撃能力まで獲得しており、まさにアレックスのいう「ターミネーター」と呼んでも過言ではない戦闘能力を有している。
駆逐艦は各国海軍の主力戦力としてこれから数十年は主役でありつづけるだろう。
それまで対潜水艦や船団護衛の主力として駆逐艦より小型で対艦専用用の魚雷を装備しない戦闘艦船を「フリゲート」「コルベット」などと区分していたが、現代においては両者の船体、武装、電子装備も駆逐艦に匹敵する艦も存在しておる。区分に関しては国際的な基準はないので運用国次第という曖昧な区分となっている。
但し、現代でもロシアの艦隊が居る黒海と地中海を結ぶトルコのボスポラス海峡だけは別で、1936年に結ばれた「モントルー条約」によって「排水量が10,000トンを超える艦船」の航行が制限されている。
ちなみに、アメリカのイージス艦「アーレイバーク級」の最新艦は「9,700 t」なのでギリギリセーフ。
また、この条約では「空母」の通行も制限されているので、ロシアはこの条約の制限を受けない為に「基準排水量53,000 t、全長305m」の全通甲板を持つ「重航空巡洋艦 アドミラル・クズネツォフ」を所有している。
一般的には駆逐艦にくらべてサイズが小型、安価な装備を有する軍艦、沿岸警備用の軍艦を「フリゲート」「コルベット」と区別しているが、フランス海軍ではすべての水上戦闘艦艇がフリゲートであったり、海上自衛隊ではヘリ搭載型もイージス防空型の艦もすべて護衛艦呼びであったりする。
バトルシップが公開された当時(2012年)ではよくある映画の一台詞であったのだが、2015年の地上波放送をきっかけに(一部の大きいお友達の間で)この台詞が用いられるようになった。それは2013年にサービスが開始されたソーシャルゲーム艦隊これくしょん~艦これ~のファン達である。
このゲームはWWII当時の軍艦(戦艦・巡洋艦・駆逐艦・空母・潜水艦etc)を女の子に擬人化させ正体不明の敵である深海棲艦と戦うゲームである。このなかで駆逐艦はょぅι゛ょ幼い少女の姿をしており一部の大きいお友達の琴線に触れることとなった。
詳しくは → まったく、駆逐艦は最高だぜ!!
そのためバトルシップの主人公アレックス・ホッパーにロリコン疑惑が浮上することとなった。
ホッパーからしてみれば非常にいい迷惑だろう。どうしてこうなった!
またゲーム性の特徴から高レベルの駆逐艦娘は一撃で戦艦やボスクラスを撃破することも可能であり、見事な活躍をした駆逐艦娘にこの台詞が使われてたりしている。
なお本作に登場する戦艦「アイオワ」は、バトルシップ終盤の主人公艦「ミズーリ」の姉である。
アメリカ(アズールレーンにおいては「ユニオン」)の艦も主要艦として取り上げられているこの二作においては、アーレイ・バークが司令として指揮を執っていた「初代」第23駆逐隊リトル・ビーバーズが登場している。
戦艦少女、アズールレーンともに登場する艦として「サッチャー」。
戦艦少女には「クラクストン」「ダイソン」「コンバース」。
アズールレーンには「チャールズ・オースバーン」「フート」「スペンス」「オーリック」が参戦。
そしてバトルシップに登場する「ジョン・ポール・ジョーンズ」「サンプソン」もまたサンディエゴ軍港の第23駆逐隊に所属している3代目リトルビーバーズ。
つまりこの2作品にはバトルシップの主人公艦の大先輩が参戦しているのである。
なお戦艦少女Rには「ミズーリ」も参戦しておりバトルホッパー歓喜ゲーの一つとなっている。
アズールレーンにおけるリトル・ビーバーズはアーレイ・バーグ司令が31ノットという高速で駆逐隊を運用していたことから「速力の速さを売りとする」「燃料の消費が少なめ」という強みを生かして印象に残る存在となっている。
でも昔の駆逐艦はすごいぞ。最高だ。
2014年、クリミア侵攻でロシアにメディアの注目が集まっていたころのことだ。ロシアが新型戦艦を建造しているというニュースが民放で流されたことがある。その新型戦艦とはアドミラル・ゴルシコフ級フリゲートであった。もちろん同級は戦艦ではない。そもそも狭義での戦艦が新造されることはいまの世界情勢からは考えにくい。
しかし、軍事に興味のない人間にとっては、軍艦とは戦艦であり、両者は同義語なのであろう。とくに日本人にとっては、もっとも認知度の高い軍艦が戦艦大和という戦艦であることも関係していよう。一般人にとって軍艦は戦艦であり、とんがった飛行機は戦闘機、日の丸がついたレシプロ戦闘機は零戦、無限軌道を履いた装甲車はすべて戦車なのだ。
これにいちいち文句をつけるのはせいぜいミリオタくらいなものである。電車にくわしくない者にとっては、700系か、300系か、0系かなどはどうでもよく、それが新幹線でありさえすればよいのだ。一般人がアドミラル・ゴルシコフ級を戦艦と思っていても、それで本人や他人が致命的な損害をうけるということはない。報道関係者たるもの正確な情報提供を期してもらいたいものだが、そのニュースだけに注力していられる時間もないだろう。幼少のみぎり、お母さんにゲーム機をすべて「ファミコン」とひとくくりにされていた記憶が想起されるかもしれないが、そこはそういうものだと軽く流すにとどめよう。
なお、戦闘艦を略して戦艦とよぶという理屈もあるようだ。本稿にも登場した駆逐艦やフリゲート、コルベットの定義が時代によって変遷してきたように、戦艦もまた、絶滅したがゆえに定義を変えて、将来的に呼称だけ復活することがあるかもしれない。
掲示板
227 ななしのよっしん
2021/07/31(土) 18:41:17 ID: yVn7nhyV5g
>>226
アズレン、戦艦少女R「ゆ、許された…」
という冗談は置いといて、その話は何度も出たが、別に消す理由になってないのでそのまま置いといていいと思うよ
228 ななしのよっしん
2021/08/02(月) 09:22:53 ID: EF2xQBxFxI
>>227
そっか。まぁ消すことに執着してるわけではないからいいや。
229 ななしのよっしん
2022/05/20(金) 15:44:31 ID: xyAtPGdoWF
中国では軍艦を戦艦と呼ぶので、駆逐艦だろうが空母だろうが潜水艦だろうが全部戦艦だったりする。
提供: recyclebox
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急上昇ワード改
最終更新:2025/04/19(土) 05:00
最終更新:2025/04/19(土) 05:00
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