『ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス』とは、
於田縫紀による小説作品である。
概要
生きづらさを抱えた少女が、転移によりやってきた「少し優しい世界」にて、旅をしながら静かに生きようとする…のだが、与えられたスキルや蓄えていた知識、さらにその人柄や志によって、周囲に少なからぬ影響がもたらされ、気づけば自分自身も変わっていく…といった異世界旅物語。
2021年4月からカクヨムで連載開始し、2022年9月に本編が完結した。その後外伝や番外編にあたる『拾遺録』が時事掲載されている。アルファポリスにも2023年8月より掲載され、2024年4月より書籍化された。書籍版イラストは「さす」が担当し、3巻にて完結。
あらすじ
「もう少しましな世界で生きてみないか」という神様の声に導かれ、津々井文乃は魔法の存在する異世界に転移した。誰もいない森の中であったが、対人恐怖症のため他者が怖いフミノは、チートスキル「アイテムボックス」の活用によって、かえって一人逞しくも気楽に生きてきた。しかしある事情から街を目指さざるを得なくなり、意を決して街道に出る。そこでフミノが出会ったのが同い年の少女、リディナであった…。
登場人物
フミノのパーティ
- フミノ(津々井文乃)
- 14歳の少女で、元は現代日本の中学生という転移主人公。小柄で長い黒髪を持ち、客観的には美少女。
養育環境の劣悪さから対人恐怖症を患い、特に男性をひどく恐れている。神様から新たな世界のマニュアル(フミノは「大事典」と呼ぶ)とチートなスキルを与えられ、その気になればこの世界で無双も金儲けも思いのまま…ではあるが、ひたすら目立たず静かに生きることを望んでいる。
コミュ力は無きに等しく、言葉は断片的で表情も乏しいが、その内側に優しさと強靭さを併せ持つ。読書を好み、工作が得意。
- リディナ
- 1巻より登場。フミノとほぼ同い年の少女だが、身長は頭一つほど高い。赤茶髪の美少女。
小さな商会でこき使われていたメイドで、経営に行き詰まった商会の夜逃げにつきあわされたあげく、魔狼の群れに追われた際に囮とされ見捨てられたところをフミノに救われた。生きるためにフミノに雇われることを希望したが、フミノの強い意向で対等のパーティ仲間となっている。
フミノと対照的に社交性が高く、情報収集や交渉をほぼ委ねられている他、料理を含む家事なども領分。フミノと同じく読書好き。
- セレス
- 3巻に登場。フミノが保護した10歳の少女で、体格はフミノとほぼ同じ。
盗賊団にさらわれ監禁・暴行をうけ、心身を傷つけられていたが、フミノやリディナの世話により立ち直る。育った環境からか常に敬語で話す。
出会った人々
- カレン
- 2巻より登場。登場時はローラッテ村の冒険者ギルドサブマスター。穏やかな雰囲気を持つ銀髪の美人。
後述のミメイが対人恐怖症持ちで対応に慣れがあり、フミノにも最大限配慮してくれた。特にフミノの「金も名誉もいらない。静かに暮らしたい」という希望をくみ取りつつ、報酬に「家」や「ゴーレム」を用意するなど、柔軟な対応をしている。
現国王の第二王女だが、魔法の適性が無いと診断され王族から追放された。国王派のフェルマ伯爵の計らいにより伯爵家預かりを経て、フェルマ領ローラッテに派遣された。スキル「攻撃魔法無効」を所持し、更に剣の免状持ちという王国最強の戦士の一人。
- ミメイ
- 2巻より登場。カレンの旧友のB級冒険者で、土属性の高位魔法使い。短めの茶髪を持ち、フミノより少しだけ背が高い。フミノほど重篤ではないが対人恐怖症を患っており男性が苦手。
フミノ達が発見を報告した洞窟(実際にはフミノが掘ったトンネル)を検分・調査し、更に魔法で手を加えている。フミノが単独で大きなトンネルを掘れるチート能力の持ち主であることに(カレン共々)気づいており、身辺には注意するようアドバイスしている。
元子爵家令嬢だが、お家騒動に巻き込まれ命の危険にも見舞われた。対人恐怖症はこの騒動で呪いとして受けたもので、貴族社会に見切りをつけ冒険者となった。
- イオラ
- 2巻に登場。アコチェーノの街にある森林公社の受付嬢。
領主であるフェルマ伯爵の令嬢であり、領主の名代という口外しない役割もある。
- ヴィラル
- 3巻に登場。かつてエールダリア神を信仰していた司祭の男性で、王都近郊の開拓団の運営責任者。
全ての属性の魔法を高レベルで扱うことができるが、異端審問という名目の拷問によって身体機能の大部分が失われ、埴輪のような素焼きのゴーレムを使役している。フミノを「別世界からの来訪者」と見ぬき、一方で無宗教であるフミノの素朴(且つやや不躾)な質問にも真摯に答えている。
世界について
主要事項
- 魔法
- 目に見えない形で存在する「魔素」に、人がイメージと共に「魔力」を送り込むことで引き起こす現象およびその方法論をまとめたもの。元来ほとんどの人は魔力と魔法(後述の魔法属性)への適性を有するが、そのことはエールダリア教会によって隠ぺい・秘匿されており、大部分の人は「神より授かった奇跡の技」と捉えている。そのため「王族・貴族は魔法適性を持つ特別な存在」「平民は適性を持たない格下の存在」「王族・貴族に生まれても適性を持たない者は王族・貴族たる資格を持たない」などの情報が「常識」としてこの世界に流布され、王族・貴族ひいては教会による支配構造の根拠となってきた。
- 魔法属性とレベル
- 魔法には「土」[1]「水」「火」「風」「空」の5つの基本属性がある。それぞれの属性ごとに様々な魔法があり、難易度および現象の規模によって判定される「レベル」を有する。レベル1の魔法は「基本魔法」とも称し、わずかな訓練で習得が可能。レベルが上がれば新しい魔法の習得が可能であるが、本人の嗜好等により習得できない魔法もあるようである。レベル4からは攻撃用の魔法が習得でき、レベル6以上となると世間では希少な高位魔法使いとして畏敬の対象となる。
複数の属性を組み合わせる「複合属性」の魔法もある他、術者のイメージ次第でこれまでにないような魔法の創造すら可能。
- 自在袋
- 魔法を付与された袋。内部は一種の異空間で、見た目以上の収容力があり、且つ重量負担もない。ただし生物は収納できない。また収納できる容量には限りがあり、大容量の自在袋は希少かつ高価。
- ゴーレム
- 魔法で作られる、人や動物を模した魔法機械。王国内には製作者が「ラモッティ伯爵家」しかなく、これも非常に希少で高価な品。ただし世間にはヴィラル司祭のように、簡易なゴーレムなら製作できる人もいるらしい。操作には土属性魔法が、起動には土・水・火属性魔法が必要となる。
- スキル
- 魔法と異なる特殊能力全般を指す。多くはその個人のみが行使できる希少な能力であるが、「攻撃魔法無効」のような、複数人に所持が確認されているスキルもある。
- ステータス
- 個人の能力・魔法適性・称号や烙印などを指し、「ステータス閲覧」を行うことで確認が可能。スキルでも魔法でもなく、誰もが行使可能ではあるが、字が読めない人には意味の分からない羅列に映るらしい。一部の項目は意識することで隠すことが可能。
- 魔獣/魔物
- 魔獣は魔素によって変質した鳥獣で、魔狼・魔熊・魔猪などがいる。一方魔物は魔素の集積によって自然発生する疑似生物で、スライム・ゴブリン・コボルトなどから、稀にキメラ・ドラゴンなど凶悪な魔物も出現する。
- 冒険者/冒険者ギルド
- 冒険者は一種の何でも屋で、自由度が高いが収入は不安定。12歳以上で冒険者ギルドが認めた者が冒険者としての資格を得る。見習い同然の「E級」から英雄である「A級」まで5クラスあるが、ボリュームゾーンはD級。
冒険者ギルドは依頼者と冒険者を仲立ちする国際的組織。国や領主と連携しており、多くの街に支部を有する。一度冒険者として登録されると、ほとんどの街で身分を保証するものとなり、国を跨いでの活動も可能。凶悪な魔物や大災害にも対処する必要上、各国ギルド幹部には国政上の重要人物が就任している。
- エールダリア教会
- 知恵と勝利の神「エールダリア」を信仰する教団。大陸全土に広がっているが、魔法に関する権威であることから貴族など上流階級にシンパが多い。反面、平民には信者はほとんどいないらしい。そうした権威・実権を振りかざして内政にも干渉しており、特にスティヴァリ王国では魔法の使えなかった王女カレンの王族追放を勧告・実施した。そうした行き過ぎた行動から近年の評判は下落の一途をたどっている。
- セドナ教会
- 生命の神「セドナ」を信仰する教団。「弱者の救済」が教義の柱で、農民からの多大な支持を集め、やはり大陸全土に広がっている。
地理
- スティヴァレ王国
- 舞台となる国で東西より南北に長大な国土を持ち、フミノ曰く「南の海に突き出た長靴型の半島」。王都はやや北寄りの「ラツィオ」。封建制がとられ、王国内は貴族により間接統治されている。
- フェルマ領
- 伯爵領。王国東部内陸にある山がちの領地。木材の産地「アコチェーノ」・鉄の産地「ローラッテ」を有するが、2つの街は険しい山によって寸断されている。平地が少なく農業・牧畜は貧弱だが領主の手腕により物価が比較的安く、暮らしやすい。
- ロレンツォ領
- 伯爵領。フミノが初めて訪れた街「アレティーノ」などを有する領地。領内経営は思わしくなく、若い男性が少なくなり寂れ気味。
- オッジーモ領
- 子爵領。海沿いの街「アンコン」や絹織物の産地「フィリロータ村」などを治める領地。現子爵が極端な経費節減政策をとった結果、フィリロータ村などは存続の危機に陥り、領主を越えて国に訴えた。
作中の単位
※大まかな換算です。
長さ
| 名称 |
換算 |
現実換算 |
| 指(し)
|
- |
約1㎝ |
| 腕(わん)
|
200指 |
約2m |
| 離(り)
|
1,000腕 |
約2km |
重さ
| 名称 |
換算 |
現実換算 |
| 軽(けい)
|
- |
約6g |
| 重(じゅう)
|
1,000軽 |
約6㎏ |
通貨② ※平民はほぼ使わない。
| 名称 |
換算 |
現実換算 |
| 小金貨
|
10正銀貨 |
約100,000円 |
| 正金貨
|
5小金貨 |
約500,000円 |
作中の時間と暦
- 基本的には現実とほぼ同じで1年=12か月、1ヶ月=30~31日。但し1週間=6日である。
- 1日は24等分され、真夜中を基準にいわゆる午前と午後で12ずつ数え、鐘を鳴らしている。
- 時計は普及していない。なお物語開始時はスティヴァレ王国歴297年4月ごろ。
| 名称 |
現実換算 |
備考 |
| 鐘(かね)
|
朝6の鐘=午前6時
昼12の鐘=12時(正午)
夜6の鐘=午後6時 |
夜8の鐘~朝4の鐘の間は鳴らない。 |
| 半時間
|
30分 |
短く高い音の鐘が2度鳴る。 |
| 3半時間
|
20分 |
|
| 4半時間
|
15分 |
|
| 5半時間
|
12分 |
|
| 6半時間
|
10分 |
|
| 10半時間
|
6分 |
|
| …
|
|
|
追記
関連項目
関連リンク
脚注
- *ステータス上では「地」となっている。