ふわふわの泉

ふわふわの泉とは、野尻抱介の長編SF小説である。ハヤカワ文庫JA刊（初版はファミ通文庫）

概要

初版がラノベ系のファミ通文庫で当時の表紙もそれ風なので一見ラノベと思われがちであるが、実際は萌え要素などないガチのハードSFである。とは言え全体的にゆる〜く、かる〜いのがコンセプトなので肩肘張らずに読み進めることができるだろう。第33回星雲賞日本長編部門受賞作。一度絶版となり、多くのファンが再販を熱望していたが2012年にハヤカワ文庫JAから再販。現在はkindleで電子書籍化もされている。

同作者の「南極点のピアピア動画」とは共通点が多く、本作をニコニコ動画とネット文化とVOCALOIDとUGCの言葉を用いて書きなおしたものが「南極点のピアピア動画」であるとも言える。

ストーリー

もし女子高生が空気より軽く、ダイヤモンドより硬い夢の新素材を発明したら
社会は、人類はどう変わっていくのか？　…これはそんなお話です。 

登場人物

朝倉　泉（あさくら　いずみ）

• 主人公。浜松西高校化学部部長。「努力しないで生きること」がモットーの女子高生マッドサイエンティスト。
• 実験中に発生した事故をきっかけに空気より軽く、ダイヤモンドより硬い新素材を発見、「ふわふわ」と命名。
• 試行錯誤のすえ「ふわふわ」の量産法を確立すると特許を取得し、昶とともに「ふわふわ社」を設立。その後わずか3年で一流企業にまで成長させる。
• 万事「ふわふわ」のごとくゆる〜くかる〜くが信条。その独特なネーミングセンスには定評がある。
• 眼鏡と白衣がトレードマーク。ただし性格が男前の残念な美少女。
• 名前はSF作家アーサー・C・クラークと彼の作品「楽園の泉」をもじったもの。

 保科　昶（ほしな　あきら）

• 浜松西高校化学部ただ一人の部員。泉とともに「ふわふわ」の発見に立ち会う。
• 現在は没落したものの代々資産家の家系。本人も高い経営能力を持つ。
• 泉が「ふわふわ社」を設立すると専務に就任。実際の会社運営や泉の秘書、時には裏工作も行うなどで学者肌で経営能力のない泉を陰でサポートする。
• 物語が進めば泉との中が進展すると思った？　残念！　進展どころか最後まで始まりすらしない。あしからず。

クラウス・ポルベリニ

• 世知辛い世の中から離れて自由に生きるために大量の「ふわふわ」を購入して空飛ぶ家を制作、妻子とともに空中浮遊生活を始めたソフトウェアエンジニア。
• やがて彼のもとにはその生き様に賛同する世界中の人々が自らの空飛ぶ家や飛行船を持ち寄るようになり、これらを連結して巨大な無国籍空中コミューンを形成した。
• だがコミューンが気流に流されて中国領空に接近してしまい…、

カチメロ大統領

• 赤道直下の太平洋上の小国ツハミ共和国の国家元首。いかにもポリネシアンらしいでっぷりと太った巨漢。
• 「ふわふわ社」の最大の事業である軌道カタパルト建設に賛同し、事業主体となる。泉は彼の血の中にカヌーだけで太平洋を旅した古代ポリネシアンの遺伝子を感じた。

霧子（きりこ）

• 太陽系外から人類に接触を図ってきた意識生命体。その実体は天体サイズのマイクロマシンの集合体である。
• 「霧子」は日本人ととミュニケーションをとるために作られた合成映像のアバター。黒髪の少女の姿をしている。
• 数億年前から有機体の体を捨て、宇宙漂流の旅を続けている。
• 世界のすべての言語を理解し、互いになんの苦もなく会話できるが、クオリアを持たず(いわゆる哲学的ゾンビ)、文化の存在を否定するなどやはり人類とは異質の存在である。

夢の新素材「ふわふわ」

• その実体はダイヤモンドの炭素原子の半分を窒素に置き換えた「立方晶窒化炭素」と呼ばれる物質である。現実に理論上存在し、ダイヤモンドより硬いと予想されている物質であるが現在のところ目に見える量の合成に成功したという報告はない。
• 構造は直径50ミクロンの泡状で、泡の壁の厚さは1ナノメートル弱と極めて薄く、内部は真空のためその比重は空気よりもずっと軽い。
• 空気中の窒素と二酸化炭素からほぼ無尽蔵に、かつ低コストで生産可能。
• 高温で焼結することでブロック状にすることもでき、優秀な建築材料となる。数十kmに及ぶ建造物も基礎工事0で建設できる。
• 物語では結局最後まで生成プロセスが発明者自身にも判明することはなかった。

では空気よりも軽い固体など本当に存在しないのか？

実は空気より軽い固体はかなり以前から作られてはいる（多孔質の炭素材料・カーボンエアロゲルなどだ）。だが、内部を真空にして１気圧の加重に耐えられるようなものはいまだ作られてはいなかった。２０１７年１月、MITの研究者が「ジャイロイド」という幾何学的形状をしたグラフェン（炭素原子1層からなる膜状分子）ならば１気圧の加重に耐えられることを３Dプリンタを用いたシミュレーションで証明した。ただ、どうすればグラフェンをジャイロイドの形状に加工できるかはまだわかっていない。

当然、作者野尻氏もこのニュースに反応している。

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関連項目

• 小説作品一覧
• 野尻抱介
• 星雲賞
• 南極点のピアピア動画