もうゴールしてもいいよね 単語

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モウゴールシテモイイヨネ

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ゴールっ…!

「もう、ゴールしていいよね」とは、AIRの登場人物、神尾観鈴台詞である。

もうゴールしてもいいよね 



 → あかん

物語について

AIRオープニングは「the 1000th  Summer ――――」のフレーズから始まり、
最後は…どうか、幸せ記憶――――― さようなら」のフレーズで終わる。
また、作品は三部構成となっており、舞台モチーフ和歌山県の山間~海岸である。

   
  

第1部 “DREAM” 編・・・・現代に生きる主人公国崎往人」と少女たちの出会い。
流れるように過ぎゆくの日々と、一方で記憶をめぐって悩み、それを打開しようとする彼らを描く。

第2部 “SUMMER” 編・・・・すべての発端となった、1000年前(西暦994年)のの祖先たちの路。
DREAM”編での「」とは何かがられる。

3部 “AIR” 編・・・・上記二部を含め、遠い過去から未来まで包括する総集編
シナリオが美しく裏付けされてゆき、ひとつの結末へ収束する。


「もう、ゴールしていいよね」のフレーズの意味するところを理解するには、何より作品そのものをプレイするに限る。しかし、そこまで入していない方に向けて、ネタバレ全開で詳細を記述する。

--------------------【以下ネタバレ】--------------------

導入


まず物語の前提として、背中に大きな羽をもつ「」という存在があった。
彼女らは、(≒惑星)の誕生と共に生まれ、で起こるすべての事を見聞きして、祝詞によって、から子へと無限星の記憶を受け継ぐ使命を帯びていた。

人達は、かつて自由に駆け巡っていた。そして時が経っても、かつてを飛んだ記憶背中の羽に込めることで羽ばたくことができたのである。


々の暮らす地球は、今でこそ平和に見え、大地に、森羅万象に恵みをもたらしている。しかし、世界が争いや憎しみで覆われたとき、そのすべてを忌んで自壊し、に帰す運命にあるのだ。

だからこそ、星の記憶を紡いでゆく(いわば星の記憶そのものである)人たちは、自らはいつでも幸せでありつづけようと考えていた。幸せ記憶を繋げていこうと誓っていた。

翼人の母娘 八百比丘尼と神奈備命

そして1000年前の日本には、その末裔である丘尼」(やおびくに)と、神奈備命」(かんなびのみこと・通称かんな)が暮らしていた。

特別な使命を帯びる人には優れたが備わり、・地・人、多くのものを操ることができた。
また、あらゆる知識をもつ人たちは、各地の民に叡智を授けたとされる。


しかし、いつの時代も、自らの理解できない存在を、人は恐れ排斥しようとするものである。彼女らも同様に、人々から崇められると同時に、一部の者からは強く疎まれていた。


の接触をきらった当時の権者は二人を引き離そうとしたため、八丘尼はその身が穢れことを承知で兵たちを攻撃し、あるいは殺めたが、反撃に遭い、彼女高野山に閉され、神奈は社殿での軟禁を余儀なくされた。

翼人の伴侶 柳也と裏葉

以上の経緯から幼少期に世間から引き離され、しくなるどころか話す相手すらおらず、独り寂しい生活を送ってきた神奈であるが、離反・敬遠する者が大多数を占めるなか、女の「裏葉」(一説にはヒロイン遠野美凪」の祖先)だけは彼女心から憂い、そして慕っていた。

自らの殻に閉じこもっていた神奈も、裏葉にだけは素の自分を打ち明ける関係を築いていた。


裏葉は、彼女摯に向き合うだけでなく、「気配を悟らせずに背後を取ることもでき、社殿が焼き討ちにあう当に逃亡を企てる、野宿の見りができる、(いち)の立地条件が不自然であることを見抜くび寄る敵に気づき、それでいて静でいられる、名前に『裏』の字が付いている、など、ただの女官としては不可解な点も多い」(「」内はWikipedia“AIR”内【裏葉】の項exitより引用)ことから、他人にはない特殊なを秘めた女性として描かれている。


そんな二人のもとに、神奈警備隊長---実質は看守---として派遣されたのが、柳也(同じく主人公国崎往人」の祖先)である。

温厚ながらも時に厳しく神奈のあるべき姿を教えてくれる裏葉、そして化しながらも裏表なくっ直ぐに接してくれる柳也。短い時間であっても、彼らと接するうちに、人という宿命を忘れ、過去孤独から徐々に脱け出していく神奈であった。


二人の存在から、人として、あるいはひとり少女としての心を取り戻した神奈は、物心つく前に離ればなれになってしまった母親のことを想っていた。

とはいえ、軟禁される身であり、なおかつ世間との接点もなかった神奈は、社殿外の世界を知る手段もなければ、知る機会も勇気も持てずにいた。

しかして、いよいよ政権争いが化し、人へのとどめが刺されると予感されたこともあり、神奈は二人と共に母親へ会いに行く気持ちを固め、社殿を脱出することを決意した。


神奈にとっては、と一緒にいることこそが一番の幸せなのである。


との再会を志した神奈であるが、かたや母親の八丘尼としては、に会い心を交わしたいと願う傍ら、(神通を戦いの具にされ)すでに人々を傷つけ、悪意にさらされていることもあり、その呪い神奈に引き継ぐことを何としても避けたいと考えていた。

丘尼の「幸せ記憶を受け継ぐという大義をよそに、陰謀に巻き込まれ、子の暮らしも許されぬ運命ならば、私の代で人を断絶したい。“この世になどいのだ”。」という想いは、神奈”(神無としてに託されている。

なお、記事冒頭に示したように、「恨み辛みの記憶のまま人がに還る」ことは「万物の滅亡」と同義である。


悲哀の連綿 母から娘へ  

殿を抜け出し、追っ手に怯えつつも、柳也裏葉と共に中を行く神奈は、まだ見ぬ世界に驚き喜び、ひと時の安らぎを感じていた。


さて、運命いたずらか、三人が高野山に辿り着いたとき、抹消を企てる朝廷の矛先も、八丘尼の眼前に迫っていた。

傭兵団に囲まれた、。前述のとおり自らの命を投げうってでもを守ろうとした八丘尼は、神奈との再会を喜びつつも、悲しい運命に授けぬために、自ら文字通り矢面に立ち、そして人たる解放して兵士たちを一掃した。


長い間、離ればなれになっていたすでに危篤のと、ようやく辿り着いた
「この身に触れてはなりません」と距離を置こうとする八丘尼であるが、それを押してでもに触れたい神奈

思惑の交錯するなか、ほんのわずかな時間、二人は抱擁しむせび泣いた
そして同時に、幸せにならねばに還れない人としての運命と、他者を寄せつけない呪いのふたつが、神奈へと引き継がれてしまった。


やがてが息を引き取り、取り残されてしまった神奈は、せめて柳也裏葉を逃がそうと考える。
多勢に勢きわまる状況のなか、神奈から継いだ解放し、へ舞い上がり大旋を起こして兵たちを退けた。

単純なでは太刀打ちできないと悟った朝廷は、武士たちのによって攻撃を加え、陰陽師封術によって神奈に封じ、高野山の僧たちは神奈を呪殺するためのまじないを唱えた。


封術によって地上に降り立てない(土に還れない)ことで永く輪廻を禁じられ、まじないによって自身の最も辛い出来事(柳也の前で死ぬ)のを繰り返すようになった神奈は、八丘尼から続く「他者を拒む呪い」を制御できなくなり、その意中の相手である柳也の心身を冒すようになった。



―――――身も蓋もないことを言えば、登場人物の全員が「自分だけの心の枷」をもっているAIRという物語は、「人を徒に恐れ、歩み寄らなかった人々」の過ちを発端とする。―――――


幾星霜 未来へ託す決意 

神奈の決死の行動に救われた柳也裏葉は、その恩に報い神奈本質的に救うため、名のある「方術」師を尋ねて西へと向かう。

導かれるように辿り着いたとある寺で、二人は「知徳」という高僧に出会う。
その寺では、過去幾度となく人を迎え入れ、知恵や知識を享受してきたという。

知徳は「本来、人とはを持つもの」、「人の身であればたやすく朽ちる呪いも、人の御身にはただ蓄えられるばかりとなりましょう」と達観する。
つまり、純すぎる人のがゆえに呪いも正面から浴びてしまうのだという。
その言葉から柳也は、「(少なからず穢れのなかで生きる人間にこそ転生できれば、呪いも緩まり癒される」と悟る。

しかしながら呪いは消えても、幸せ記憶を継承すべき人の使命は変わることなく続いていくものである。
また、外的要因の呪いのほか、最の人の死を見つづけている神奈は、人と触れ合ったゆえに引き起こされた悪夢と知り、転生後のに「人と仲良くなれない」試練を与えた。果てない孤独約束され、これが遠い未来に、観鈴を苦しめることとなる。


前述のとおり霊の強かった裏葉は、神奈が傷ついた末に露と消えたのちも彼女を聞くことができ、そのめるに応えるため、「知徳」から教えを授かり、修行の末、方術を身につける。

一方、身体を蝕まれ歩くことができなくなりながらも、世の情勢に明るく、神奈の死に一時は半狂乱になるほど彼女を想っていた柳也は、残りわずかな人生を『人伝』の執筆と裏葉への恩返しに充てた。 


そして二人は、
いずれ未来神奈を救ってくれると信じ、子をもうけ、「方術」と『人伝』を授けた



様々な度から考察される“AIR”において、その根幹にあるのは「子()のつながり」であろう。
始まりとして初代の人とその悠久の時をえたのちの八丘尼と神奈、次いで裏葉とその、そして1000年後の現代における神尾晴子観鈴である。


AIRの冒頭に登場するシルエットこそ「人の」であり、物語の終盤である観鈴ゴールシーンにもその意味合いが落とし込まれている。


宿願叶える夏 the 1000th Summer

ここで一度まとめると、1000年続く悲しみの輪廻とは、

1. 人としての膨大な記憶人のみが持ち得るもので、人間には重荷となり、記憶の継承を終えたとき、体も精も耐え切れずに死を迎え、次の転生の時を待つ。

2. 柳也裏葉の子孫と、神奈の生まれ変わりが出会うと、記憶の継承が始まり、二人とも病んでしまうため、最終的に(不本意ながら)別れのを選び、彼女独りで死んでしまう。

3. 幸せ記憶に届けない限り地球そのものが滅んでしまうことから、未来に託して転生を繰り返すしか手段がない。

この三つの難題を解くことができずに、1000年のあいだ、彼らは出会い、別れてきたのである。
幸せを成就させようとすれば傍にいる他に方法はないが、結果として袂を分かつ。
呪いに負けて距離を置けば、人と交われない彼女幸せになれずに死にゆく



彼女神奈)が救われる条件としては、

1. 人間として輪廻転生すること
2. 大好きな人と過ごし呪いに打ち勝つこと
3. 命の終わるときに幸せ記憶に還すこと
である。


往人も例外ではなく、神奈の生まれ変わりの子に出会い、幸せにしてあげようと心を尽くしたが、やさしくて強いその子が「わたしから離れて」と言ったことから、泣く泣く背を向けた。

 (八丘尼と同様に、)自分と同じが子に強いたくないとの想いから、往人には自由生きるよう諭した。いつか導き合い、そして彼女を救ってくれるよう心で祈りながら。

そして往人の体はき、1000年の想いが詰まった人形へと消えていった。同時に往人は、ひとり取り残された。この文脈については後述する


揺れる夏影 母が授けた道標

さて、作品内でいう“DREAM”編と“AIR”編にて往人観鈴は出会う。
防で横になっていた往人に出会った日に掛けた、観鈴の「辺に行こっ」の一言から。
それは、短いのなかで観鈴が望む最初の遊びだった。

普通の子じゃない” 観鈴は、神奈から継いだ「ともまじくなれない」呪いで、人と仲良くなれそうになると情緒不安定になり泣き崩れてしまう“癇癪” をもっていた。
呪い被害を広げないための「神奈の防衛本」であるとも考えられる。)

そのため観鈴は、終業式の日に「夏休みは一緒に遊ぼっ」と多くのクラスメイトを誘ったものの、ことごとく断られ、結局また一人きりのを過ごすのかと悲しみに暮れている最中であった。

そして観鈴は、身寄りもなく、寝食の場もない往人を自分のへ招き入れる提案をする。



幼い日にと別れ(当時、彼は置き去りにされたと考えていた)、授かった人形を糧に路を稼いでは地方を渡り歩く旅人となっていた往人

照りつける陽射しのなか、遊び盛りの子供たちは人形劇にさほど興味を示さず、疲労を募らせる往人
初めは一日でもく町を出たいと考え、荒んでいた彼も、爛漫で奇想外な住民たちとの暮らしの中、徐々に染んでいく自分に気づく。

言動こそ少々幼いが、いつでも笑っていて、いつでも自分のことを想ってくれる観鈴に、少しずつ情を抱いていく。
観鈴自身としては、初めて友達になれそうな相手・往人と出会った日から本当のが始まったと感じており、精一杯に楽しみ楽しませようとした。


しかし、1000年の歴史は繰り返そうとしていた。観鈴を見始め、やがて記憶の継承と共に、身体の不調を訴えるようになる
喜怒哀楽の喜と楽しかないような観鈴である。往人はもとより観鈴本人ですら、一過性のものと信じてやまなかった。

時が経つにつれ、遠出どころか歩くこともままならなくなってしまう観鈴
やがて確信に変わる胸騒ぎのなか、往人は、かつてが静かに、しかし強くりかけた言葉を思い出していく。

女の子を見るの…。最初は…。は、昔へと遡っていく。」
「最初は、だんだん身体が動かなくなる。そして、あるはずのない痛みを感じるようになる…。」
女の子は全てを忘れていく。いちばん大切な人のことさえ、思い出せなくなる…。」
そして、最後の夢を見終わった…、女の子は死んでしまうの。

「二人の心が近づけば、二人とも病んでしまう。二人とも助からない。」
「だから、その子は言ってくれたの。わたしから離れて、って。」
「やさしくて、とても強い子だったの。」
「だから…。往人、今度こそ、あなたが救ってほしいの。」
「その子を救えるのは、あなただけなのだから。」


必死に否定し打ち消そうとする往人だが、の前の現実がそれを許さない。
やがて、往人自身の身体も自由が利かなくなっていく。

気づいてしまった事実観鈴に隠し、慰めながら前向きに過ごす二人。
そうしている間にも、二人の世界は縮小するばかりであった。


の進行と共に悪化する症状を見て責任を感じた往人は、ついに観鈴に切り出す。
「今すぐ、出ていこうと思うんだ」と。二人が離れることで、も止まり、観鈴が快方に向かうと信じて


(なお、仮に往人立ってしまっても、神奈転生した相手は、記憶の継承を運命づけられている。また、他人を拒む呪いは消え去らず、観鈴孤独のうちに生涯を終えることとなる。)

(以下、ストーリーの核心につき折りたたみ、クックで展開)

作品の1巡においては、観鈴の内容はげにしか表現されず、プレイヤーに示される手がかりも多いとは言えない。

第1部の“DREAM” 編にてヒロイン3名のシナリオトゥルーエンドクリアしたのち、第2部の“SUMMER” 編を進めることで、徐々に全貌が見えてくる(1000年前の物語と現代での出来事がリンクされる)構造になっている。


ここでは明かしてしまうが、観鈴の見るは、つまり「神奈記憶」の継承である。
神奈転生である観鈴は、を見ているあいだ、「にいるもうひとりの自分」と感覚を共有する。
なかには楽しかったり嬉しかったりする記憶も多少はあるが、大半は痛みを伴ったり寂しかったりした経験の記憶である。

を見るに伴い、人としての記憶が蓄積され、過去(原点)に歩を進める。
それゆえ、人間の身体でありながら背中に「の痛み」を感じるようになり、身体の自由と心の記憶が奪われていく。
あまつさえ、八丘尼が受けた人々の嗟が原因となり、自身を守ってくれる相手・救おうとしてくれる相手をもしてしまう。

観鈴(を含めた神奈の生まれ変わりの者達)が背負う過去の重みは、孤独の辛さ・心身の苦痛・死への不安を伴う。

旅の終わり その身を賭して

町を去るバスを待つ間、往人の思考はを舞っていた。
自分の行いへの未練・観鈴への罪悪感を抱きながら、との最後の記憶思い出した。


「この人形の中にはね。わなかった願いが籠められてるの。わたしお母さんも、お母さんお母さんも、ずっとそうしてきた。」
「衰えてしまう前に、この人形に『』を封じ込めてきた。いつかかが、願いを解き放つ時のために…。」
「だからわたしも、願いのひとつになる。」


往人…。」

「 今、わたしが話していることを、あなたは全て忘れてしまう。」
「それも、わたしが受け継いだ『』のひとつ。」
「あなたが思い出さなければ、わたしたちの願いはそこで終わる。」
「これは本当なら許されないこと…。」
「あたりまえの母親に憧れ続けた、わたしのわがまま…。」
「あなたには自分の意志で、を決めて欲しいから…。」


「今からこれは、あなたのもの。」
「これをどう使うかは、あなたの自由…。」
ただおを稼ぐためだけに、人形を動かしてもいい。」
をやめてしまってもいい。人形を捨ててしまってもいい…。」
にいる女の子のことは、忘れて生きていってもいい…。」


「でもね、往人…。」
「きっと思い出す時がくる。あなたの血が、その子と引き合うから。」
「どこかの町で、あなたはきっと女の子に出会う。」
「やさしくて、とても強い子…。」
その子のことを、どうしても助けてあげたいと思ったら…。」
人形に心を籠めなさい。」

わたしはあなたと共にあるから…。」
「その時まで…。」

まぶしい笑顔さよならと言いながら、の体はに包まれ、人形へと還っていった…。


の言葉、そして願いにを覚ました往人は気づく。
がいなくなった日に失ったもの。身近な人のささやか笑顔
自分のかを笑わせることができれば、それでよかったのだと。


いつしか商売具となり果てた人形の、本当の使命。
とも仲良くなれず、果てない孤独を歩んできた少女
自らの運命を受け入れ、静かに消えていかんとする少女
何も持たない自分に、っ直ぐ笑みを向けてくれた、ひとり少女…。

観鈴がそばで笑ってくれること、それを何よりの幸福に感じている自分自身

1000年前に生き別れ、独りで暮らし、隣にいるべき相手の幸せを何より願う…、人とその伴侶の1000年のが終わろうとしていた。


往人は夕さりの中、観鈴のもとへ駆け出す。


往人の持つ「法術」は、人形を動かすことが本質ではなく、「心(記憶)を籠めて事を変える」流とするのである。


体力も底をつき、終わりの時を待つ観鈴
往人の手をそっと握り返すのが精一杯の、いまわの際であった。

しかし往人は呼びかける。今自分が抱く感情のすべてをして。
今までで最も強く、最も切ない想いを人形に注ぎ込む。

お前はどこにも行かなくていい。
辺の町で、ずっと幸せに暮らせばいい…。
いつまでも邪気に、笑っていればいい…。
そのためになら、は…。」


往人は、1000年のあいだ重なり合ってきた祖先たちのと結ばれ、しくも柔らかいとなって、人形へと吸い込まれた。

そしてほとばしるが、他者を拒む観鈴呪いを消し去り、星の記憶による寿命をわずかばかり延ばした



1000年のあいだわなかったゴールへののりに観鈴が立てたのも、往人の献身あってこそである。

語られる真実 陰から差す光明

最終パートの“AIR”編では、プレイヤーは、カラスへと転生した往人(第三者)視点より、二人が出会った日からの記憶を辿る。
なぜカラスが選ばれたかについては、国崎往人の容姿・言動・性格との共通点のほか、作品内にて「仲間をとても大切にする」旨の提示が暗に行われる。


AIRという作品の終盤は、観鈴の暮らしに焦点が当たる。
神尾晴子」のキャラクターについては、当該記事を参照されたい。

ここでは概説にとどめるが、まず、観鈴敬介と実「郁子」の間に生まれた子である。ゆえに、この時点では「観鈴」の名であったといえる。


人との関連は直接られないが、く「観鈴は、敬介と郁子が様々ないざこざの中で産んでしまった、望まれない子なんや」とのことから、郁子が対人関係を苦手としていたとも推測される。

また同時に、郁子は短命であり、観鈴は幼少期の大半を敬介に育てられた。


しかし、観鈴も件の呪いまじくなろうとする相手の前で発作的に泣き叫んでしまう「癇癪」)のせいで他者との付き合いがうまくいかず、人の多い都会で育てることは困難、かつ自身の仕事も捨てきれない敬介は、のどか田舎町に住む叔母神尾晴子」に観鈴を預けることにし、責任を押し付けた。


「預かる」という条件と、陽の当たらない仕事をしており生活を送っていた子は、なかなか観鈴せないでいた。

裏を返せば、静かすぎる田舎町で、それも逆転の生活をしていた子にとって、一ともいえる話し相手が観鈴であった。


「いずれすぐに別れが来る(敬介が引き取りに来る)」ことが分かっていながら情深く接すれば、それだけ別れのときにお互い悲しみを深めるだけだと悟った子は、観鈴に対し、必要最低限の施ししか行えなかった。

当の観鈴も、人とうまく接することができず、その癇癪ゆえに叔母のもとに預けられたことを幼心にも理解していたため、子に対して何の不も口にしなかった。

この「ひとつ屋根の下、別々に暮らしている」二人を見て、往人違和感を抱き、同時に母親としての義務を放棄する子に苛立ちを見せていた。


のちに往人が「あんた観鈴さないから、あいつは甘えられないんだろ!」と吐露したことを切っ掛けに、子も考えをめはじめる。

年齢こそ大人とはいえ、子は子で孤独のつらさを味わっており、母親める観鈴に応えるべく努を惜しまない人物へと心していく。


DREAM”編にて、温泉旅行へいくと告げてを出たことで往人(と観鈴)を落胆・滅させた子は、その実彼らの想像に反して、観鈴を本当の家族にする」ために直談判しに向かっていたのだった。

しかし、これもまた運命いたずらで、諦めて死を選んだ自分のもとにを授けた往人、彼に感謝した観鈴独りで、にも迷惑をかけずに生きていく。にいる少女が悲しんでいる原因をつかむ」と決断したばかりであった。

往人と同じように病んでほしくないと考えた観鈴は、子の申し出を突き放そうとする。しかし直に、なるべくして観鈴の心も揺らぎ、ついに泣きながら「一緒にいたい」と伝える。

自分がを見ていること、日々苦しんでいくことをひたすら隠すと決心して…。


とはいえ、前述の通り、往人必死の願いは観鈴寿命を延ばし、癇癪を消し去ったものの、生まれた時点で決められた「記憶の継承」は避けて通れぬである。そして何より、自分の寿命よりも神奈解放を願ったゆえに、観鈴を見続けた…。

すべてを空に還すとき She is waiting in the air.

眠りにつくたび、観鈴の身体は蝕まれていく。そしてを見るたび、(膨大な星の記憶圧迫され)自身の記憶を失くしていく。
ただひとつ突き詰めていた、大好きだったトランプの遊び方すら思い出せなくなり、幼児退行をたどる観鈴

子は、「せめてもの多くの時間を、子の時間を取り戻していく」と自ら戦いを選ぶ。
一方で、記憶が失われるにつれ疲労も募り、への情もに見えて薄れていく観鈴


やがて子のことを忘れ、「おばさん」と呼ぶようになった頃、いよいよ敬介がやって来る。
自分の知らないうちにを訪れ、観鈴が物にした子への憤りもあって(自分の子の大事を考えている面は当然あるが)、強い気で子に詰め寄る。


預けた当時にも増して症状を悪化させている観鈴を見て、幾度となく連れて行こうとする敬介。自分のことを忘れてしまった観鈴に対し、説得する術もなく途方に暮れる

悔しくも敬介の腕に観鈴を預け、別れを告げて去ろうとした途端、観鈴を覚まし、彼の腕の中で暴れだす。
的に子と共に生きたいとする衝動がそうさせたのだろう。

しばらくは放心状態であった敬介も、ようやく二人の心情を察し、観鈴子に託してその場を去る。



それからのち、観鈴の命が終わりに近づき、記憶が戻るが、同時に最後の夢を見てしまう。ただしこれは、神奈人)の記憶全継承、および神奈輪廻転生、さらに「にいる少女」の解放の準備が整ったことを意味する。

そして最後の日、肩に「そら」(往人転生したカラス)を乗せ、車椅子に乗り、子に押されながら散歩に出た観鈴
子に心配をかけまいと、苦痛がうずまく身体の不調を隠し、元気そうに振舞っていたのであった。


やがて、何度も歩いた思い出に辿り着いたとき、ついに観鈴自分のゴールして一歩を踏み出す。

お母さんはそこにいて…!何があっても来たらだめだよ…。一人で頑るの…!」「お母さんゴールだから…。」と言い、子とそらから距離を置いて。

このに考えたこと、そして感じたことを自分にりかけ、子に感謝するように。



往人と出会ったあの日から始まった夏の思い出

二人で仲良く食事をしたこと、強ジュース熱したこと、を捕まえようとはしゃぎ回ったこと…。
神社まで競走したこと、テレビを見たこと、したこと…。
ったこと、トランプをしたこと、にいる少女を探したこと、見送り出迎え、そして一緒に歩いたこと…。


往人が授けた幾ばくかの日々に、子と過ごした子の時間…

何年も続いた誤解がとけ、心か「おかあさん」と、そしてめてママと呼べたこと…。
を切ってもらったこと、お祭りの日に神社へ行き、遠い過去の悲しみを喜びで塗り替えたこと…。
手作りお粥を食べたこと、二人でを眺めたこと、二人で生きていこうと話したこと…。


「このに、一生分の楽しさが詰まってた…!」



観鈴は、を見るたび、にいる少女神奈)のめるものを追ってきた。
それは、幸せ記憶を届けること

丘尼も神奈も、そしてその生まれ変わりの少女たちも、彼女を救おうとした柳也裏葉の子孫たちも、みな宿願わぬまま、未来へと希望を託し死んでいった…。


神奈に封じられ、悲しいを見始めてから1000、本当の強さを知る往人観鈴は出会った。二人とも、神奈を救う手立てを考え続けて…。

かつての祖先たちが「いつまでも変わらずにいられず、しくて逃げ、悔しくてを離して」きた過去を乗り越えて。

観鈴の不退転の意志と、それを支える数多の想いが、1000年の悲しみを終わらせる。


わたしゴールは、幸せと一緒だったから…。」



観鈴の言う「もう、ゴールしていいよね」のセリフは、以上のような紆余曲折に裏打ちされる。
とも仲良くなれず、孤独を何度も繰り返した観鈴
生まれつきの宿命から、短い生涯を閉じようとする観鈴
自分には負いがないにも関わらず、ただただ人のために尽くしてきた観鈴

そんな逆を生き抜いてきた自分を労り、人やその伴侶の想いを遂げたことに対し「わたし、頑ったよね…。」と微笑む観鈴

これは、自分に対してのみでも、往人子やそらに対してのみでもなく、恐らく1000年の季節に対しての一言なのだろう。

灼ける陽射しに揺らめく長いアスファルトを、観鈴は一歩ずつ進んでゆく。


身体の痛を隠していたことを察し、そして観鈴の死を直感した子は「ゴールしたらあかん」と幾度となく止めようとする。
しかし、死がふたりを分かつまでに残された時間はあまりにも少なかった。

観鈴と同じくらいの強い気持ちで、子も自らの心情を叫ぶが、観鈴の意志は揺るがず、立ち尽くす子の胸元へと倒れ込み(記事冒頭イラスト参照)、最期は子に抱えられながら…、幸せの場所」ゴールして、幸せ記憶をたずさえ、観鈴に還った…。

最後に


人の伴侶 柳也裏葉
の項でも記したように、1000年前に始まった路は、「かつて断ち切られた丘尼と神奈幸せ」を取り戻す的があった。


と子が一緒にいる」という、本来ごく当たり前であるべき安らぎえるため、登場人物達がを合わせて紡ぎゆくのが、AIRという物語である。


関連動画


観鈴の「ゴールシーンで流れるBGM青空」。Liaの澄んだ歌美しい
最期にの出せなくなった観鈴が心のなかで子に贈る、そうした別れの言葉にも聞こえる。



映像はこちら。中盤のBGMインスト版の原曲銀色」。こちらは敬介との三人のシーン
終盤に「青空」が流れ、観鈴ゴールシーンられる。



観鈴テーマ曲「夏影 -summer lights-」。この原曲から多くのアレンジが誕生した。
曲名の通り、観鈴の雰囲気やの情が感じられる、根強いファンの多い名曲



◎「夏影アレンジ曲のなかでも、公式かつ随一の人気曲。
歌詞の解釈は人それぞれであるが、原作プレイしてから聴くといっそう理解が深まる。



◎「AIRテーマ性を表す『鳥の詩」(CDブックレット折戸伸治氏のコメントより)。
ともすると、「『鳥の詩』を聴く」⇔「作品をプレイして趣意に気づく」のループに陥りかねない(良い意味で)。

ニコニコ動画での扱い

タグとしてつけられていることがたまにあるのだが、始めに「…」や「もう」をつけるか否か、
その後に「、」「・・・」が来るか、最後に「。」「?」やをつけるかどうか、「も」が付くかどうがなど
表記にしくぶれがあるためタグとしては分裂気味である。
また、「もうゴールしてもいいよ」というタグもある。

めて書くが、原作準拠とするならば「もう、ゴールしていいよね」が正しい。


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