アイオワ級戦艦とは、米海軍が第二次ロンドン海軍軍縮会議のエスカレーター条項に従い、条約の基準排水量の限界45000トン、主砲口径限界16インチの範疇で計画を策定。主に日本の新型戦艦(大和型)へ優れた機動性を用いて対抗、撃滅することを目的に建造された。同型艦はネームシップを含め4隻。現在のところ米海軍最後の戦艦であり、さらに歴史上最後に退役した戦艦である。
重量1.2トンの重徹甲弾を高初速で発射できる50口径16インチ砲を搭載。最大速度は駆逐艦並の33ノットを誇るなど、それまで米海軍に不足、あるいは欠落していた本当の意味での高速戦艦である。金剛型の完全上位互換とも言える性能だが、実際の目的は後の大和型への対抗だった(諸外国で大和型は16インチ砲戦艦と誤認されていた)。
その高速性と長い航続距離から、空母機動部隊の直衛に最適な戦艦との評価を受けることもある。しかし実際には、米海軍は純然たる水上打撃戦に用いる予定で、機動部隊の護衛を行った回数はさほど多くない。空母と戦艦ということなる操舵特性の大型艦を組ませた場合、運用面でかなりの阻害が生じるからである。
真偽は不明だがマーク・ミッチャー提督などは「機動部隊に戦艦の護衛は邪魔」と、寧ろ小回りの効く巡洋艦、駆逐艦を大量に護衛につけることを望んだともいわれる。
なお、金剛型の機動性に対抗するため生まれた戦艦だという説がよく言われているが、アイオワ級戦艦の設計当時アメリカが把握していた金剛型の最大速度は26ノットであって、これならノースカロライナ級戦艦でも対抗できるレベルだった。金剛型の最大速度が30ノット以上だという事実をアメリカが知ったのはソロモン海戦が終わった1942年12月で、すでに1番艦アイオワの進水が完了した後である。
真の意味での高速戦艦となるべく、他国では到底量産できない高圧蒸気駆動系、実に出力212,000馬力を搭載。その上で巡洋艦並みに細長い船体を有しており、全長だけであれば大和型戦艦を上回る。ノースカロライナ級やサウスダコタ級では高速航行時に謎の異常振動が発生したがアイオワ級では前二級のような振動問題は発生せず、安定して30kt以上を発揮できることは大きな進歩だった。
かつてダニエルズプランで計画されたレキシントン級巡洋戦艦以来、実に20年以上ぶりにアメリカ海軍は、最大30ノット以上の高速戦艦を建造、配備することに成功したのである。
主砲には「Mk7」50口径16インチ砲を3連装3基9門搭載。対艦戦闘の場合、重量1.2トンを超える重徹甲弾を、概ね標準的な初速で射撃可能。大和型戦艦、あるいは近代化改装後の長門型戦艦などのヴァイタル・パートを除けば、ほぼ全ての水上艦を破壊できる威力を持つ。上記のコンセプトから5インチ両用砲、40ミリ機関砲もてんこ盛りである。
往々にして「自艦主砲に耐久出来ないので巡洋戦艦」という評価も受ける。それは間違ってはいないが、アイオワ級は舷側、甲板共に相応の重装甲を有していること、米海軍のダメコンノウハウを考えれば、実質的に歴とした超弩級戦艦である。寧ろ彼女の敵は、敵弾よりも細長い船体により、悪天候の影響を受け易いことだった。
英国海軍の戦艦ヴァンガードと共同行動を行った際、悪天候に見まわれ、ヴァンガードの倍以上もの傾斜に見舞われたこともあるといわれる。パナマ運河の制限33mという細い全幅、270mに達する全長は高速発揮には最適だったが、悪天候への耐久性という面では、かなり難物であった模様である。
以上の要素を鑑みるに、アイオワ級は悪天候という天敵を抱えているものの、当時としては世界屈指の超弩級高速戦艦と評価して差し支えない。彼女に総合力で対抗、あるいは優越できそうな戦艦は大和型戦艦。あるいはペーパープランで終わったような各国試作艦程度しか存在していないのである。
太平洋戦争では華々しい水上打撃戦には恵まれなかったが、主に空母機動部隊の前衛や直衛に活躍。3番艦「ミズーリ」が、東京湾で降伏条約調印の場となったのは、あまりにも有名な歴史的事実である。
その後は朝鮮戦争、ベトナム戦争などの地域紛争に参加。海兵隊や陸軍の支援として、主に艦砲射撃に従事。特に海兵隊からは、自らの背後に圧倒的な破壊力を持つビッグガンが存在する、その安心感から非常に好評を得ていたとも言われる。その後暫くは現役、あるいはモスボールの間を行きつ戻りつしている。
そんな第二次世界大戦の遺物が、最後の脚光を浴びたのがレーガン政権時代である。600隻艦隊構想に従い、トマホークミサイル運用能力を始めとする、かなり大掛かりな近代化改装を4隻とも実施。レバノン内戦や湾岸戦争で、ミサイル攻撃や艦砲射撃で活躍している。戦艦という軍艦が、最後に経験した大掛かりな実戦であった。
しかし、冷戦崩壊による軍縮、そして50年近い艦齢による老朽化には勝てず、1990年から1991年にかけて、相次いで4隻とも退役。現在は全艦が博物館、記念艦として保存されている。日本から一番手軽に見学できるのは、ハワイ真珠湾で記念艦となっている「ミズーリ」であろう。近年は映画「バトルシップ」の主役としても活躍した。
竣工した当時は、既に最大のライバルである日本海軍は衰退。戦艦、重巡洋艦という砲戦型艦艇の時代は終末を迎えており、ある意味では不遇な、しかし海兵隊などからは退役直前まで絶大な信頼を寄せられ、現在は全艦が平穏な余生を送るなど「船舶」としては幸福な生涯に恵まれたといえる。
共に日米最強戦艦ということで、往々にして大和型戦艦と戦闘になったら、そのようなシミュレートは枚挙にいとまがない。海戦は戦艦という一つのファクターだけでは決まらないため、一概には言えない。但し正面切った戦闘となった場合、火力、装甲ではかなり劣後しており、大和型も言われるほど機動力に劣るわけではないので、不利ではあろう。
しかし大和型戦艦が第一艦隊の主力。つまり従来のドクトリンの延長線上にあるのに対し、アイオワ級は米海軍に「高速戦艦」という、それまで存在しなかった新しい付加価値を与えたことにこそ、大きな意義がある。その上で最強ではなくとも、戦艦として高水準なバランスで纏まっていることから、「兵器」としては大和型よりも優秀とも言える。
特に電子装備に関しては雲泥の差がある。当時の技術ではマイクロ波レーダを搭載していても、必ずしもFCSと連動してはおらず、人間が情報を方位盤に直接入力しなければならない。そのために、戦後のイメージほどは命中精度は上がらないなどの事実はある。しかし情報収集能力に優れ、先手を打てる可能性が高いというのは大きな強みである。
艦番号 | 艦名 | 起工 | 進水 | 就役 | 退役 | 現在 |
---|---|---|---|---|---|---|
BB-61 | アイオワ Iowa |
1940年 6月 |
1942年 8月 |
1943年 2月 |
1990年 10月 |
カリフォルニア州ロサンゼルス港で記念艦として公開中 |
BB-62 | ニュージャージー New Jersey |
1940年 9月 |
1942年 12月 |
1943年 5月 |
1991年 2月 |
ニュージャージー州カムデンのホーム・ポート・アライアンスで記念艦として公開中 |
BB-63 | ミズーリ Missouri |
1941年 1月 |
1944年 1月 |
1944年 6月 |
1992年 3月 |
ハワイ州パールハーバーで記念艦として公開中 |
BB-64 | ウィスコンシン Wisconsin |
1941年 1月 |
1943年 12月 |
1944年 4月 |
1991年 9月 |
バージニア州ノーフォークのナショナル・マリタイム・センターで記念艦として公開中 |
BB-65 | イリノイ Illinois |
1942年 12月 |
- | - | - | 1945年8月12日建造中止 |
BB-66 | ケンタッキー Kentucky |
1942年 3月 |
- | - | - | 1945年8月12日建造中止 |
掲示板
176 ◆CBGbQXRNEo
2022/09/14(水) 07:49:13 ID: 5adOQ0sZv8
177 ななしのよっしん
2023/06/13(火) 20:44:08 ID: Fa78+weRWD
湾岸戦争時の、魔改造アイオワ級も魅力的だと思う
実質はトマホークプラットフォーム
そして確実に心を折る高コスパ攻撃
178 ななしのよっしん
2023/09/11(月) 18:48:51 ID: etszNAD8i9
今度のゴジラの時代設定は1947年であり、その頃の日本は米軍の占領下にあり警察予備隊も無いから代わりに米軍がゴジラと戦うことになりそうだが、場合によってはアイオワ級とゴジラの対決も見れるかもしれない
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最終更新:2024/03/29(金) 01:00
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