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アドレナリン(Adrenaline)またはエピネフリン(Epinephrine)とは、神経伝達物質、副腎髄質ホルモンである。先発医薬品名はボスミン®、エピペン®。
アドレナリンは、カテコールアミンやフェネチルアミンの一種である。カテコールアミンは、チロシンからドーパを経てドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンの順に生合成される。アドレナリンは、副腎髄質や中枢アドレナリン作動性神経に存在する酵素を介してノルアドレナリンから生合成されている。
アドレナリンが分泌されると、交感神経に作用し、興奮状態が引き起こされる。具体的には、心筋収縮力を増大させる、皮膚や腎臓などの血管を収縮させる、骨格筋の血管を拡張させる、気管支を拡張させる、瞳孔を散大させる、消化器官の働きを抑制するなど、動物が外敵から身を守ったり獲物を捕食したりするときの状態になる。そのようなストレス応答を示すため、アドレナリンは「闘争か逃走か(Fight-or-flight)ホルモン」とも呼ばれる。
アドレナリンは、カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)によってメタネフリンへと代謝、またはモノアミンオキシダーゼ(MAO)によって3,4-ジヒドロキシマンデル酸(DOMA)へと代謝される。メタネフリンはMAOによって、DOMAはCOMTによってそれぞれ代謝され、最終的にバニリルマンデル酸(VMA)を生ずる。尿中のメタネフリンやVMAの濃度の測定は、カテコールアミン量が上昇する疾患である褐色細胞腫や神経芽腫の診断・治療効果判定に有用である。
アドレナリンは、1895年にポーランドの生理学者ナポレオン・キブルスキーによって発見されたが、これは純粋なアドレナリンではなくアドレナリンを含むカテコールアミンの混合物であった。純粋なアドレナリンは、1900年に日本人の高峰譲吉と上中啓三によって発見され、1901年に世界で初めて単離された。また、現在アドレナリンの別称であるエピネフリンは、アメリカの薬理学者エイベルによって同時期に発見、抽出された[1]。同じ物質に複数の名称が存在するのは、発見当初、別の物質と考えられていたためである。
エピネフリンの発見者エイベルは、高峰の死後に「アドレナリンの発見は私の研究の盗作である」と事実を誤認した主張をした。この主張は現在、上中の研究ノートおよび再現実験によって反証が示され、第一発見者が高峰らであることは確定している。しかし、その主張は当時アメリカで認められ、現在もアメリカではエピネフリンという名称が用いられている(ヨーロッパでは高峰らの功績が認められアドレナリンという名称が用いられている)。日本の医学分野でも、かつてはエピネフリンという名称が使われていたが、2006年の第十五改正日本薬局方より一般名はアドレナリンとなった。
アドレナリンは医薬品でもあり、適応は気管支ぜん息の呼吸困難(気道拡張と充血除去のため)、アナフィラキシーショック(血圧下降と気道狭窄の対処のため)、局所麻酔薬の作用の延長。また、心停止や止血など様々な状況において使用される。
通常は医療従事者が使う薬剤だが、一般の人が使う特殊な製品として「エピペン®」がある。これはアドレナリン自己注射薬で、太ももに強く押し付けるとバネの力で注射針が押し出され、筋肉内に注射される仕組み。緊急時に衣服の上からでも注射できるよう、バネの力を強くしている。また、安全のために使用前・使用後ともに注射針が露出しない構造になっている。
エピペン®は「ハチの毒や食べ物などによるアナフィラキシー(I型アレルギー反応のうち全身性かつ重度のもの)を起こしやすい状況にある」と認められた人に処方される。アナフィラキシーは重症の場合、全身の血圧降下によってショック状態になることがある(アナフィラキシーショック)。命に係わる状態にまで急速に進むため、アナフィラキシーショックが疑われる場合、迅速にアドレナリンを注射できるかどうかが生死を分ける。そのため、このような自己注射薬が本人に処方されるのである。ただし、あくまで補助治療剤なので、アナフィラキシーの症状を一時的に和らげる作用はあるものの、注射後は直ちに医師による診療を受ける必要がある。
エピペン®を処方されている子どもが学校や保育所でアナフィラキシーショックを起こし、しかし本人が注射できないときは、すぐに救急車を呼ぶとともに、教職員や保育士は本人に代わってできるだけ早期に注射するべきであるとされている[2][3]。これは、緊急時にやむを得ない措置として行われるものであり、医師法で禁じている「医師免許を有しない者による医業」にはあたらず、法的責任を問われることはない[4]。
なお、アドレナリンを投与すると、低用量なら血管拡張作用(β2作用)が大きく、末梢血管抵抗が減少、血圧は低下する。高容量なら血管収縮作用(α1作用)が出て、末梢血管抵抗が増大、血圧は上昇する(α1作用のほうが優位)。ただし、α遮断薬を投与したのちにアドレナリンを投与すると、α1作用が消失、β2作用のみが現れ、血圧を低下させる(アドレナリン反転)。
アドレナリンの半数致死量(LD50:投与された動物のうち50%が死亡する量)はマウス、皮下注射で1.47mg/kg[5]。猛毒として知られるシアン化カリウム(青酸カリ)が同条件で6mg/kg[6]なので、単純計算で4倍強い(データによってばらつきが大きいので一概には言えない)。
医療の場において、致死量のアドレナリンを投与することはない。しかし、高濃度のアドレナリン希釈液を投与してしまった医療過誤は、2012年1月から2015年9月までに6件[7]起きており、患者が心室細動を引き起こした事例もある。
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最終更新:2024/10/07(月) 02:00
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