アメリカの鉄道とは、アメリカ大陸を走る鉄道の総称である。本記事では主にアメリカ合衆国の鉄道を解説する。
かつての鉄道大国であり、その歴史は1830年代までさかのぼる。1900年前後にはアメリカ国内移動におけるシェアは、旅客、貨物とも90パーセントを超えていたといわれる。1916年には鉄道の総延長は40万キロに達し、その前後がアメリカの鉄道発展における一つのピークであったと考えられている。その後、郵便事業(国策であり連邦政府による強力な援護射撃があった)から始まった新たな交通機関である航空業や、第一次世界大戦で航空機と共に急速な発展を遂げた新たな陸上機関である自動車の発達により、特に、旅客輸送面で衰退するが、貨物輸送においては幾たびか訪れた危機を跳ね除けて、現在でも活況を呈している。
技術面ではATSや自動連結器等、現在(特に日本において)の旅客輸送鉄道における安全面を支えるクリティカルな技術をいくつも生み出しており、車両技術面でも現在の日本の通勤電車で当たり前に見られるステンレス製の車両の開発やかつて一世を風靡したPCCカー等で極めて独創的な技術を排している。サービス面でも民衆向け寝台列車や電信サービス面で特徴的な功績を残しており、日本の現代鉄道とも縁の深い技術・サービスも多い。
新幹線の大元はアメリカの旅客鉄道を参考にしたものである。今では旅客輸送におけるかつての栄華は失われ、長距離旅客運送面では見る影も無いが、貨物輸送面では健在。日本ではとても見られないような長大な貨物列車を拝む事が出来る。
アメリカの鉄道で最大の見所である長大貨物列車は通称、マイル・トレインと呼ばれ、大量の貨物(主に海上輸送コンテナ)を積載する。長いだけではなく、一部の路線では頻繁に行きかう姿が見られるのも特徴である。列車が輻輳する区間では一時間に上下あわせて10本以上が昼夜を問わずに往来する場合すらあり、長時間に及ぶ踏切による道路交通の閉塞が問題になっている地域も存在する(開かずの踏み切りの問題は日本固有の問題ではないのである)。カジノで知られるリノなどでは中心部の線路をまるごと掘割の下に入れて立体交差化させる工事がなされており、列車の高速化にも貢献した。
もちろん、日本で言うところの「車扱い貨物」も存在し、内陸部の炭抗から各地の火力発電所へと石炭を運ぶうんたん♪や穀物輸送のホッパ車、アメリカ陸軍の資材装備輸送列車等もコンテナ列車に負けず劣らず長大である場合が多いが季節変動や国際情勢に左右されることが多く、常時見られるわけではない(そのためもあって「見飽きた」コンテナ列車より、「めずらしい」車扱いの列車のほうが動画投稿サイトに多く見られるという現象が起きている)。
いわゆる雑貨車も健在で、ボックスカー(有蓋車)、フラットカー(日本で言う「チキ」)、材木を積む車、タンク車、車運車などバラエティー豊かな貨車がつなげられた編成が普通に走っている。こういった事情から今も各地に巨大な貨物ヤード(操車場)が存在し、GoogleMapなどで楽しめる。工場への引込み線などもごく普通に見られ、貨物ファンには楽しいこと間違いなしである。
アメリカの鉄道においてコンテナ列車が特異でかつ趣味的にも興味を引く点は、コンテナ列車が大西洋~太平洋における東西通過貨物輸送の大動脈となっていることである(アメリカ国内向けのコンテナ列車も勿論存在している)。これらのコンテナ貨物列車の存在はパナマ運河の建設運営や世界情勢と密接な関係がある。
大陸を横断する貨物輸送の要としての大陸横断鉄道は、かつてはパナマ運河の開削により衰退の危機に瀕した。しかし、パナマ運河がその構造上一度に多数の船舶を受け入れられない弱点を持ち、なおかつ、グローバリゼーションの進展で、生産・開発拠点が分散化し、工業製品の生産拠点が世界各地に分散すると、消費拠点と生産拠点を結ぶ輸送線上のウイークポイントとなるにおよび俄かに浮上したのが、東西輸送交通としてはなかば忘れ去られかけた、このアメリカ大陸横断鉄道であった(アメリカ国内で完結する原材料等の物資輸送では大きな存在であり続けていた)。
土木技術が未熟な時代に基本路線の建設が終了していたアメリカ大陸横断鉄道は、アメリカ西部の山岳地帯を越えるにあたり、建設当時技術的困難が予想される長大トンネルの掘削を避けてオメガ線形やループ線により山地を克服するルートを採った。これが結果として貨車や機関車の大型化に利することとなり、技術発展の成果として超強馬力機関車の開発・生産を可能とし、大型コンテナ船一隻が積載するコンテナを5~10列車で一度に運ぶことを可能としたのである(一部に存在したトンネルはいかにもアメリカ人的な思い切った割りきりにより、開削して切り通しにしてしまったり、トンネルを避ける迂回ルートを建設するなどした。日本における「塩嶺トンネル」等とは逆パターンをやってのけた訳である)。
マイル・トレインは最初から長大な列車を仕立てようとした訳ではない。パナマ運河との輸送競争及び価格競争にあたり、コンテナ船からの取り下ろし、コンテナ・ヤードでの仕分け(場合によっては港から貨物駅までのハブ輸送がある)、貨物列車への積み込み、貨物列車による大陸横断、貨物駅での取り下ろし(場合によっては貨物駅から港までのハブ輸送がある)、コンテナ・ヤードでの仕分け、コンテナ船への積み込みといった作業時間の中で最も時間を要する貨物列車による大陸横断を短縮する切り札として「結果として長大に」なったのである。
もともと、ごく一部の山岳地帯を除きほぼ平坦な土地が広がるアメリカ大陸内の鉄道は、戦前から巨大蒸気機関車牽引による長大貨物列車が行き来していた。パナマ運河の開削と共に一度は揺らいだ大陸横断鉄道の貨物輸送の地位は、増大する海上輸送に応じきれなくなったパナマ運河そのものと、1977年、ジミー・カーター大統領の時代に新パナマ運河条約が締結され、早晩パナマ運河の経営権がパナマ共和国に移るにあたり、アメリカ国内の東西輸送もになってきた海上輸送路が他国によって左右されかねない事態に対する危機感とあいまって、時流に乗ることが出来、東西貨物輸送路としての地位を確固たるものとした。
パナマ運河を通行できる最大限大型化した船舶のことを「パナマックスサイズ」と呼び、一部の撒積貨物船やタンカー等を除き、海運業界を縛る暗黙のルールとなっていたが、皮肉なことに、パナマ運河との競合の末に強化されたアメリカ大陸横断鉄道輸送が呼び水となって「ポスト・パナマックスサイズ」の船を建造させる動機となった一面がある。
パナマ運河を通過可能なコンテナ船は20フィートコンテナ(ISO規格1C型)換算において5,000個(5,000TEU)程度であり、それも船としての性能は劣悪な、ぎりぎりの設計で達成した値である。そういった設計のコンテナ船は荒天下で荷崩れを起こしたりコンテナを破損することも多く、実際に安定した商業運用を行うには4,000TEU程度が上限である。
1980年代末には、国際貨物が急増する日本やアジア⇔北米間の海上輸送に対応するため、4,000TEU級の巨大船が次々に建造される。これらの船はパナマ運河を通る事が出来ない物が殆どであったが、大陸横断鉄道によりアメリカ大陸を横断することとなった。太平洋側の港で船からコンテナ車に直接コンテナを降ろし、全米の各消費地やそのまま大陸を横断してフロリダ湾や大西洋に面した港から再びコンテナ船に積み込まれてヨーロッパ方面や南米の大西洋岸へと輸送される。この時期にアメリカの鉄道は貨物輸送面で更なる飛躍を遂げて、現代へと繋がる絶頂期を迎える。
当時すでに平地においてはプッシュプルで150~300両編成も珍しくなかった列車の中間に2両から4両の機関車を編入することで300両編成超という空前の超長大貨物列車を仕立て、列車を分割することなく山脈を越えることに成功。更にトンネルも架線も無いある意味で「貧弱な」設備面を逆手に採った上下2段積みダブルスタックカーと呼ばれるコンテナ車や長手方向の引張強度や座屈強度に優れ、軽量で低重心化も果たした連接構造コンテナ車(大抵はダブルスタックカーである)の導入により、一列車600TEU以上という高速地上輸送機関としては空前の強大な輸送力を手にする。
2000年代に入り、中国が「世界の工場」として名乗りを上げると、スエズ運河経由のヨーロッパ行きコンテナが情勢不穏の中東地域、インドシナ海域やアフリカ大陸東側海域の海賊を忌避してアメリカ大陸横断鉄道に殺到。更なる盛況を迎えた(パナマ運河の通過交通は既に飽和状態にあった)。これらの状況を睨み、アメリカの鉄道貨物輸送各社は、単線で残る区間の複線化や重軌条化、高速化を進展させて、貨物ヤードや車両保守点検設備の強化とあわせて600両編成以上、一列車輸送量1,000TEU超を目指している。
1999年12月31日を以って、先の条約にのっとりパナマ共和国へ返還されたパナマ運河は、アメリカ大陸横断貨物輸送鉄道の度重なる攻勢に危機感を強め、競争力の回復を狙い2006年10月に国民投票により運河拡張計画が実施されることが決定された。第2パナマ運河計画に関しては鉄道輸送との競合などがあり、その採算性から計画が見送られてきた経緯があった。しかし、鉄道輸送ではコンテナ輸送で賄えない種類の輸送品目があり、それらの輸送船(タンカーや撒積貨物船、重量物運搬船、アウトサイズ貨物輸送船等)の大型化、輸送路の短縮への圧力も大きいことから、過去に考えられた第2パナマ運河計画とはまったく異なったアプローチで、既存の運河を拡張する等の方法により、事業費を圧縮しながらも拡張するために新たに提示され実施されることになったのが現在のパナマ運河拡張計画である。通過可能船舶も思い切って従来の倍以上となる12,000TEUを目指している。
しかし、現実の輸送需要は更に上を行ってしまう。2012年現在、太平洋を行き交うコンテナ船の中には14,500TEUという巨大船も現れた。これらは拡張された第2パナマ運河計画すら凌駕し、完全にパナマ運河を当てにしていない情勢である。計画段階であるが16,000~20,000TEUというパナマ運河はもとより、スエズ運河の通過すら困難なコンテナ船の構想が存在するが、これは、アメリカ大陸横断鉄道の巨大な輸送力があればこそであるといえる。
アメリカの貨物列車で特徴的なのが、編成の最後に連結されていた「カブース」(caboose)ある。
編成全体の監視がしやすいように出っ張りのある、凸形をした「キューポラ・カブース」が特徴的で有名だが、他にも出窓を設けたもの、客車のようなものなど形態差が無数にある。
日本の車掌車同様、残念ながら、今はほとんど標識灯に代わってしまっている。
しかしながら、アメリカ人はこのカブースが大好きなようで、駅や公園に保存展示したり、保存鉄道で特別車として連結して乗れるようにしたり、果ては中を改装して宿泊施設にしてしまったりと、今なお全米各地で様々な使われ方をしている。
これら隆盛を極める貨物輸送に対し、旅客輸送は貧弱極まる状況である。
地政学的な面から言っても長距離旅客輸送では航空機による旅客輸送に抗し得ず、比較的短距離の都市間輸送であってすら壊滅状態にある。唯一残った北東回廊を走るアセラ・エクスプレスも公的援助の上で辛うじて存続している情勢である。
かつて隆盛を極めたインターアーバンも全滅と言っていい惨状である。大規模旅客輸送鉄道としては都市内で完結する輸送単位としての地下鉄などが残るのみといっても過言ではない。アメリカの鉄道における経営形態はその創業期においてはごく一部の例外を除き、一切の公的機関の関与がないのが特徴であったが、現代では、都市間輸送を担うアムトラックや、中長距離輸送を細々と担う中小企業、都市内やその外郭地域の輸送を担う近郊鉄道もすべて地域自治体や輸送公社が関与している。前述のアセラ・エクスプレスもそういった半官半民の運営形態であり、日本に存在するような意味での完全民営の旅客輸送鉄道会社は存在していない。
こういった現状の原因は様々に語られるが、鉄道旅客輸送に影響を与えた大きな側面として、人口密度を抑制した低密度の都市開発が指向され、自動車の大気汚染や渋滞問題がそれほど意識されなかった当時において、高密度大量輸送における鉄道の利点がそれほど重要視されなかったことが考えられる。
環境保護の取り組みや地球温暖化問題を受けて、近年、都市間高速鉄道の導入がアメリカ各地で検討され始めた。また、ショッピングモール等の大規模商業施設の台頭により衰退した都市中枢部の賑わいを取り戻す起爆剤としてのトラム(路面電車)に対する期待も大きい。PCCカーを用いたサンフランシスコのFラインなど、旧型の路面電車を観光資源として活用している事例もある。
加えて、日本では絶滅して久しい都市型トロリーバスも、一部の都市ではディーゼルのバスとともに公共交通機関として存続している。
先に少し名前が出たが、日本の鉄道に深く関わっているアメリカの鉄道の要素が「インターアーバン」である。
これは直訳すると「都市間電車」のことで、離れた町と町とをスピーディーに結ぶ電車のことを路面電車と区別するために生まれた呼び名で、ちょうど日本の「私鉄電車」(京浜急行、阪急電鉄など)に相当する存在である。というより、日本の鉄道はアメリカのインターアーバンを真似て発達してきたので直系のご先祖様と言っていい。
このインターアーバンは「郊外区間は専用軌道を高速走行し市街地は併用軌道で中心部へ乗り入れる」という形態を特徴としており、日本でも京急の八重山橋付近や京王線の新宿口の甲州街道などが同じ特徴を有していた。今でも京津大津線や福井鉄道福武線が当時の面影を今に伝えている。
アメリカのインターアーバンを語る上で避けて通れないのが陰謀論の存在である。これは概ね以下のようなものである。
アメリカでは需要を無視してインターアーバンの廃止が進行した。というのも自動車メーカーがインターアーバン電車や路面電車を廃止させて自動車を売りつけようとしたためで、実際にビッグスリーが電車会社を乗っ取って強制的にバス転換させたりした。そのためにかつて世界一を誇ったアメリカの電車ネットワークは壊滅状態になってしまった。
ところが、今日ではこれは真っ赤なウソというのが定説になっている。というのもわざわざそんな手間を掛けなくてもモータリゼーションは進んでいたからである。好きな時間に駅や路線の位置を気にせず利用できる自動車に鉄道が太刀打ちできないのは当然で、第一次世界大戦頃をピークにアメリカの電車はひとりでに衰退していった。わずかに生き残ったものは第二次世界大戦で多少盛り返したが、結局それから訪れるアメリカ黄金時代のマイカーブームには完敗してしまった。
なぜこのような陰謀論が広まったかと言うと、いかにももっともらしく聞こえたということに尽きる。実際これを論文にしたスネルという怪しい学者がいるにはいたが、彼のフォロワーはとうとう出てくることがなく、今日ではこれは陰謀論の域を出ないというのが主流な見解である。実際、GMが電車の後釜を担うバスのタイヤの独占供給を狙ってバス会社の買収を図ったというのはあったらしく、これに尾ヒレがついた結果陰謀論に信用性が出てきてしまった。日本人はもとより未だにこれを信じているアメリカ人も多いが、電車の保存を行う歴史協会はいずれもこれを明確に否定している。
このあたりの事情はシカゴ地域で最後まで残ったインターアーバン「サウスショアー線」の歴史を詳述した以下の動画に詳しい。
ちなみにこのサウスショアー線は日本の都電荒川線のように廃止が先送りにされた結果なんとか生き残った事例として有名で、未だに併用軌道区間もあるものの私鉄として生き延びることはできず、現在はインディアナ州の公社が運営を行っている(貨物部門は私鉄として残存)。
車社会のアメリカといえども、今でも通勤の手段として列車が使われているものがある。それがコミュータートレインである。
アメリカのコミュータートレインでもっとも特徴的なのが、「ギャラリーカー」と呼ばれる2階建て客車である。これは大きな乗降口を中央に設け、左右に片側2列の1階席を設けつつ、2階に1列の席が並んでいる。通路が吹き抜けになっているので、車掌が1階通路を歩きながら全乗客の検札を済ませることができるのが特徴である。2階建てなので座席数も大きく、「定員着席」を常識とさせて快適通勤を実現している。地下鉄などと違いシートにふっくらしたモケットを使ったり、転換クロスシートを装備している例も多い。
このギャラリーカーのほかにも、自動ドアを2箇所備えた新しい本格的な2階建て客車も、シアトル、ロサンゼルス、アルバカーキなどで使われている。
また、このギャラリーカーなどは後端部に運転席を設け、反対側に連結された機関車を操作できるようになっている。これにより、電車やディーゼルカーに頼らずとも簡単に折返し運転ができるようになっている。
東海岸の電化区間では、普通の平屋の客車も使われている。
車社会アメリカらしく、郊外の駅では駅前に大きな駐車場を備えて、駅に車で乗りつける「パーク&ライド」ができるようになっているところが多い。周りに何もなさそうな砂漠のようなところに、駅と駐車場だけが広がっている風景は、なかなかシュールである。
券売機もない小さな駅から乗った場合は、車掌さんが車内補充券に鋏で穴を開け発売してくれる。このような昔ながらの光景が日常的に見られるのも、アメリカならではである。
都市内で運行される鉄道は、多くが人口密度の高い大都市部で運行されている。会社組織は日本の公団や独立行政法人に近い形態や、その傘下法人となる場合が多く、日本や昔のアメリカとは違い純然たる私鉄は多分ない。
路線が電化されていること、車両に電車が使われていることは他国と同様。こういった事情からアメリカ国外のメーカーが市場に参入しており、シーメンスやボンバルディアなどの車両が多い。日本のメーカーでは日本車輌製造、近畿車輛、川崎重工業がいずれも1990年前後に北米へ進出し、都市鉄同向けの車両を受注している。
アメリカは他国とは異なり、様々な組織・団体が警察を設置している。連邦、州、自治体など政府・公共団体はもとより、公団や独立行政法人、公益団体、私企業に至るまで、連邦や州の認可制度に基づいて独自に警察を設置することができる。大都市では自治体警察のみならず、市の各部局(衛生や水道など)、市の外郭団体(病院、交通、学校、公園など)、公団(空港、港湾など)、さらには市内に存在する民間企業(住宅管理会社、工場など)に至るまで、独自に警察を設置しているのは珍しく無い。こういった事情から、政府や公共団体が設置する公共警察(Public Police)と区別するため、私設警察(Private Police)という用語もアメリカでは多用されている。
鉄道の安全は社会の安寧や、円滑な経済活動には欠かせない事柄である。よって鉄道を守る警察力も必要になるのだが、先に述べたような社会背景があることから、鉄道事業者が独自に警察を設置することが多い。日本で比較的近い例を探すと、かつて国鉄にあった鉄道公安室に近い。但し全ての事業者が独自の警察を有しているわけではなく、公共団体の警察が担当している場合もある。
尚、その警察が私設であったとしても、警察官の権力は公的なものである。つまりフィクションで見られるような、企業が手前勝手な俺様法で使って良い権力ではない。警察官がその権力を執行する時は、連邦法、州法及び自治体条例に基かなくてはならない。その為にアメリカの各州は治安職員訓練基準(POST)を定めており、警察官はこれに準拠した警察学校で訓練を受けなければならない。
以下は幾つかの鉄道警察を例示するが、飽くまで一部に過ぎない。
ニューヨーク都市圏で鉄道や高速道路を運営する都市圏交通公団(MTA)が設置する警察で、略称はMTAPD。設置年は1998年と歴史は長く無い。MTAは幾つかの企業で作られているグループで、かつてはメトロノース鉄道やスタテンアイランド鉄道などが個々に警察を保有していた。これが統合してできたのがMTA警察。MTA警察の管轄はMTAが管理する鉄道施設と道路で、その為に管轄はニューヨークとコネチカットの二州に及んでいる。
MTAグループであっても、MTA警察の管轄ではない施設もある。一つはニューヨーク市地下鉄。地下鉄を運営するニューヨーク市交通公団で、1995年までは同公団が設置するニューヨーク市鉄道警察の管轄であった。1995年、当時のニューヨーク市長であるルドルフ・ジュリアーニの治安向上政策に基づき、ニューヨーク市地下鉄警察はニューヨーク市警察(NYPD)に吸収合併された。よってこれ以降はNYPD鉄道警察局の管轄となっている。
もう一つはMTA橋梁トンネル公団。同公団はマンハッタン・ブロンクス・ブルックリンの三区(トライボロー)を繋ぐ橋やトンネルの管理運営を行っている団体で、独自のトライボロー橋梁トンネル公団警察を保有しており、今のところMTA警察に合併される様子は無い。
グランドセントラレル駅はNYPDの警察官もおり、また制服が似ているので間違え易いが、MTA警察はNYPDとは別の組織である。
ハドソン湾に面した港湾地区。この港はニューヨーク・ニュージャージー港湾公団(Port Authority New York & New jersey)が運営している、同公団の管理物件を守るのが港湾公団警察(PAPD)である。港湾公団は港だけでなく、JFKとラガーディアの二空港や、3個所のバスターミナルなどの交通施設も管理している。その中の一つがハドソン川横断鉄道(PATH)。ハドソン川を挟み、マンハッタンとジャージー市やニューアーク市を結ぶ、ニューヨーク都市圏の重要な交通機関である。PAPDの管轄にはPATHも含まれている。
ニューヨーク市側にはNYPDの警察官がいることもあり、また制服が似ているので間違え易いが、PAPDはNYPDとは別の組織である。
ニュージャージー交通公社(New Jersey Transit Corporation)が設置する警察で、略称はNJTPD。交通公社が運営する鉄道やバスターミナルが管轄。
制服が殆ど同じなので見分けがつかないが、ニュージャージー州警察とは別個の組織である。
アムトラックの警察。合衆国法典(連邦法)49章の規定に基づいて設置されている。アムトラックの施設を管轄としていることから、連邦全体に管轄が及んでいる。
貨物鉄道会社のBNSFの警察であり、先に述べた私設警察の例。BNSFの路線はアメリカの西半分に及び、BNSF警察の管轄も広大なものになっている[1]。
東部で貨物鉄道事業を行うCSXが保有している警察で、CSXの警察官の活動範囲は23州に及ぶ[2]。
CSX警察にはRapid Response Team(RRT)と呼ばれるSWATがあり、鉄道におけるテロや高脅威の犯罪に備えている。また事件・事故の発生時には州や自治体の警察が初動対応を行うことも多く、CSX警察はそれら関係機関との協力関係を結んだ上で、RRTが一般警察や消防に対して講習会を開いている[3]。講習内容は貨物として積載される危険物の注意事項や、初動対応時の安全確保など。
ニューヨーク市地下鉄は先に述べた通り、NYPD鉄道警察局の管轄である。またロサンゼルス郡都市圏交通公団(LACMTA)の鉄道路線であるLA Metroは、ロサンゼルス郡保安官鉄道警察隊の管轄となっている。
掲示板
13 ななしのよっしん
2019/07/16(火) 23:52:46 ID: wgpYbAfTnO
こう見るとパナマ運河とは不可分な事情なのが非常に興味深い。
アメ車と同じように日本の鉄道、分けても私鉄の黎明期にはアメリカの影響を大なり小なり受けてるんやな。
14 ななしのよっしん
2021/04/05(月) 21:03:08 ID: ikPLXqGE20
いつの間にか記事が大増量されてる!
15 ななしのよっしん
2024/06/05(水) 12:55:51 ID: 98k1VVfGC+
>>13
影響を受けたというか、路面電車から発展した中距離鉄道や、鉄道会社が沿線開発したり、いわゆるターミナルデパート作ったりするのはアメリカのインターアーバン発祥で、動力分散方式もアメリカの通勤電車が由来。
今の日本の私鉄は、アメリカのインターアーバンが場所を変えて生き残り、当時目指していたものを体現した姿なのだと思う。
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最終更新:2024/09/07(土) 23:00
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