アリアドネの弾丸とは (アリアドネノダンガンとは) [単語記事]

この事件はすべてが不自然すぎる。
絶対にどこかがおかしいんだ。

アリアドネの弾丸とは、2010年に宝島社から発刊された海堂尊の小説である。「田口・白鳥シリーズ」五作目。

概要

今作のテーマは「医療と司法の戦い」。エーアイ（Ai：オートプシー・イメージング）センターを巡っての論戦と、東城大学の存続をかけた警察との推理バトルをスリリングに描く。

あらすじ

東城大学医学部付属病院の万年講師である田口公平は、高階病院長から「エーアイセンター」のセンター長に任命され、とんでもない大出世をしてしまう。田口は、厚生労働省官僚の白鳥圭輔や、島津ら病院の同僚たちと共に、何とかエーアイセンターを稼働させようと奔走する。しかし、エーアイを快く思わない法医学者や警察が不穏な動きを見せる。そんな中、なんとエーアイセンター内で殺人事件が発生。しかも、病院長が犯人として拘束されてしまったのだ。それは東城大学を叩き潰し、エーアイを自らの領域に収めようと企む司法の陰謀だった…

登場人物

主人公

田口公平（たぐち・こうへい）
神経内科学教室講師・不定愁訴外来責任者・リスクマネジメント委員会委員長・電子カルテ導入委員会委員長・エーアイセンターセンター長（←New!）。あだ名は「グッチー」。患者の愚痴を聞くことを主な仕事とする。出世には興味がなく、むしろ煩わしいと思っているほどだが、シリーズを重ねるごとに出世を続け、今作ではセンター長にまでのし上がってしまった。しかし、それでもセンターを無事に稼働させるために奔走する。その最中、エーアイセンター分室で発生した殺人事件に遭遇。病院とセンターを守るため、白鳥とともに解決に乗り出す。
白鳥圭輔（しらとり・けいすけ）
厚生労働省大臣官房秘書課付技官・医療過誤死関連中立的第三者機関設置推進準備室室長。「ロジカル・モンスター」「火喰い鳥」の異名を持つ、厚労省の型破り官僚。エーアイセンター運営連絡会議のオブザーバーとして、田口に招聘された。今まで持っていたたまごっちを娘がヤフオクで売ってしまったので、今作ではIC レコーダーを持ち歩いている。理路整然としたロジックで論争を繰り広げる。その最中、田口とともに、唯一つ残された手がかりであるエーアイ画像に写った「アリアドネの弾丸」を武器に事件に立ち向かう。

東城大学医学部付属病院

高階権太（たかしな・ごんた）
東城大学医学部付属病院病院長。田口にいつも無理難題を押し付ける…が、どうやら今回のセンター長人事を考えたのは別人らしい（それを追認したのはこの人だが）。エーアイセンター創設のために大胆な人事でも平然とやってのけていた。そんな中、エーアイセンターで起きた殺人事件の容疑者になってしまう。
藤原真琴（ふじわら・まこと
 不定愁訴外来専任看護師。風邪気味。病院長とは旧知の仲。
兵藤勉（ひょうどう・つとむ）
医局長・神経内科学教室助手。廊下トンビの異名を持つ、病院の情報通。田口のセンター長人事も、事例を受けた直後にはすでに知っているほどに情報収集能力が高く、田口からは病院長と繋がっているのではないかと疑われている。ひそかに田口・白鳥シリーズ皆勤賞。
島津吾郎（しまづ・ごろう）
放射線科准教授。田口とは学生時代からの友人。世界的に名の通ったMRI 研究者で、エーアイセンターの副センター長として田口を知識面からサポートする。かなり短気な性格。
神田宏樹（かんだ・ひろき）
放射線科技師長。田口を敵視していたが、最近は丸くなった。
黒崎誠一郎（くろさき・せいいちろう）
臓器統御外科教授・リスクマネジメント委員会副委員長。病院長が拘束されてしまったため、病院長代行を務めることになる。筋金入りの威張りんぼ&目立ちたがり屋。本作でもその根性を遺憾なく発揮。
沼田泰三（ぬまた・たいぞう）
心療内科学教室准教授・エシックス・コミティ（倫理審査委員会）代表。田口のセンター長就任に反対するも、撃沈。
笹井浩之（ささい・ひろゆき）
法医学教室教授。エーアイを法医学分野に置くべきと主張し、副センター長に就任。

警察関係者

加納達也（かのう・たつや）
警察庁刑事局刑事企画課電子網監視室室長で、階級は警視正。「電子猟犬（デジタル・ハウンドドッグ）」の異名を持つ。白鳥の天敵で、事あるごとに絞め技をかけていたらしい。今回はサンタモニカに出張中のため、間接的に田口たちに協力する。
玉村誠（たまむら・まこと）
桜宮警察署捜査一課警部補。加納とともに出張していたが、加納の命で急遽、DMA（デジタル・ムービー・アナライシス）を片手に桜宮に帰還、田口たちに協力する。
斑鳩芳生（いかるが・ほうせい）
警察庁から出向中の桜宮署広報課室長。「無声狂犬（サイレント・マッドドッグ）」と呼ばれ、畏怖されている。運営連絡会議にオブザーバー参加、エーアイセンターを潰し、司法の手中に収めるため暗躍する。
北山錠一郎（きたやま・じょういちろう）
元警察庁刑事局局長。センターの崩壊をもくろみ、副センター長として天下りしてくるが…
宇佐見壮一（うさみ・そういち）
警察庁初動遊撃室警視。「警察庁のキラー・ラビット」と呼ばれている。土佐弁で話す。極度の斜視で、相手と正面を向いて話せない。また、ゴムを伸ばしては縮める癖を持つ。司法の刺客として、連絡会議にオブザーバー参加する。かなり凶暴な性格で、気に入らない相手を絞め技で落としてしまう（しかし、白鳥には効かなかった）。

医学者・医療従事者

彦根新吾（ひこね・しんご）
房総救命救急センター病理医。田口の後輩で、「医療界のスカラムーシュ」と呼ばれ、アカデミズムからは忌み嫌われている。田口に「強力なオフェンス」として、センターを守るために副センター長として招聘される。病院長が一瞬だが招聘をためらうほどとんでもない男。先輩医師で北海道・極北市民病院院長の世良雅志（せら・まさし）の協力で、南雲の抱える暗部を残らず暴きだしてしまう。また、浪速府知事の村雨弘毅（むらさめ・ひろき）とも繋がっているようだ。
桧山シオン（ひやま・シオン）
ジュネーブ大学画像診断課准教授。彦根とともに副センター長に就任。「画像検視官（イメージ・インスペクター）」と呼ばれるほど画像解析力に長けており、DMAも簡単に使いこなす。
南雲忠義（なぐも・ただよし）
元極北市監察医務院院長。「北の土蜘蛛」と呼ばれ、医療と司法が重なり合う領域たる「行政解剖」を担っていた。司法サイドの一員として娘の杏子（きょうこ）とともに桜宮に赴き、副センター長に就任。かなりの暗部を抱えていたが、彦根によって暴かれてしまう。
東堂文昭（とうどう・ふみあき）
マサチューセッツ医科大学上席教授。今作では会話の中だけの登場。病院長の旧友。ノーベル賞候補で、島津も尊敬する超大物。病院長は彼にセンター長人事を打診し、内諾まで得ていた。なのに、代わって田口がセンター長に決まると、すぐに副センター長人事を承諾する。その決定までのスピードは、沼田が絶句するほど。

その他

友野優一（ともの・ゆういち）
MRI業者であるイメージ・エレクトリック社の優秀な技術者。ショスタコーヴィチの大ファン。素人の田口にMRIの手ほどきをする。温厚な性格で島津からの信頼も篤かったが、MRI室で異状死してしまう。
西園寺さやか（さいおんじ・さやか）
極北市で医療ジャーナリストとして暗躍していた謎の女。その正体は…？
城崎（しろさき）
牧村瑞人（まきむら・みずと）
便利屋「4S（シロサキ・シークレット・システム・セキュリティ）エージェンシー」のエージェント。二人とも、「ナイチンゲールの沈黙」の登場人物。白鳥から「ある依頼」を受ける。

用語

エーアイセンター
 厚生労働省の委託を受け、桜宮に創設される予定の「オートプシー・イメージング（Ai）」を行うための施設。東城医大には分室が設置される。創設に向けての会議が何度も行われたが、よりによって田口がセンター長に就任した上、副センター長を七人も抱えるとんでもなくカオスな組織になってしまった。友野の異常死はコロンブスエッグが設置されている分室で起きた。
コロンブスエッグ
新しく東城医大に設置された縦型 MRIの名前。発想の転換で卵を起立させた「コロンブスの卵」の逸話に由来する。しかし、これは人が寝そべっている時と起立している時の血流の違いを見るためのものであり、Aiには使えない。ちなみに、縦型のMRIは日本に実在する。
松崎事件
20年前に起こった冤罪事件。現在再審中。原因はDNA鑑定のミスであり、この事件によって警察・検察の信頼はガタ落ちしてしまった。