アンジュデジール(Ange Desir)とは、2014年生まれの日本の競走馬。黒鹿毛の牝馬。
2024年現在、ディープインパクト産駒唯一のダートGⅠ級勝ち馬である。
主な勝ち鞍
2017年:スパーキングレディーカップ(JpnⅢ)
2018年:JBCレディスクラシック(JpnⅠ)、エンプレス杯(JpnⅡ)、マリーンカップ(JpnⅢ)
父ディープインパクト、母ティックルピンク、母父*フレンチデピュティという血統。
父は説明不要の無敗三冠馬&無敵のリーディングサイアー。
母はダートで4戦1勝。半弟に2017年の川崎記念を勝ったオールブラッシュがいる。また牝系はアメリカやカナダで多数のG1馬を輩出している北米の名牝系。
母父はクロフネとノボジャックの活躍で日本に輸入され、ダート短距離から芝中長距離まで多彩な活躍馬を出した。母父としても非常に優秀な成績を収めている。
2014年5月1日、浦河町の老舗牧場・辻牧場(主な生産馬にハイレコード、ニホンピローエース、インターグロリア、アカイイトなど)で誕生。オーナーはシュウジやファストフォースを所有する安原浩司。
ローレルゲレイロやディープスカイで知られ、同オーナーの1歳上の所有馬シュウジも所属する栗東の昆貢厩舎に入厩。仕上がりは早く、デビューは2016年6月25日、函館・芝1200mの新馬戦。四位洋文を鞍上に3.0倍の1番人気に支持され、2番手でレースを進めるも、逃げたロイヤルメジャーに2馬身半突き放されての2着。
続く7月31日の未勝利戦(札幌・芝1200m)は単勝1.1倍という圧倒的1番人気に応え、ここは快勝。とはいえ昆師は「まだまだ馬が子供っぽいです」、四位騎手も「まだ幼い面もあります」とのコメント。
この後しばらく休み、12月の中京・芝1600m、こうやまき賞(500万下)で復帰。四位洋文が阪神に行っていたため太宰啓介が騎乗、21.9倍の6番人気。レースは前目の位置から直線で最内を突いたものの伸びきらず、断然人気のペルシアンナイトに突き放されての5着。
明けて3歳は2月の京都・芝1400mの牝馬限定500万下で岩田康誠を鞍上に始動したが、大外枠から出負けして、後方から大外を上がり2位の脚で追い込んだものの見せ場なく5着。
ディープ産駒の庭である桜花賞を目指し、抽選を通ってフィリーズレビュー(GⅡ)に出走。鮫島良太を鞍上に挑んだが、単勝131.7倍の15番人気という低評価を覆せず見せ場なく13着。クラシックは夢と消えた。
転向初戦の4月の牝馬限定500万下(京都・ダート1400m)は太宰啓介鞍上に、8.7倍の4番人気。しかしここを5番手から外を回して、1番人気には差し切られたものの2着という走りを見せる。
続く5月の牝馬限定500万下(東京・ダート1600m)では3.9倍の2番人気。横山典弘が騎乗したここは5番手から直線で抜け出して3馬身半差の圧勝。タイムも同日同条件の1000万下より速い好時計であった。
これでアンジュデジールは以後、引退まで横山典弘騎手とともに牝馬ダート戦線を戦うことになる。
さて、ダート転向で結果を出したアンジュデジールは、続いて関東オークス(JpnⅡ)に挑戦する。このとき断然の1番人気は兵庫CSで牡馬相手に3着と健闘したクイーンマンボ(1.9倍)で、アンジュデジールは4.3倍の3番人気。
レースはクイーンマンボをがっちりマークしながら進め、直線で一緒に抜け出しを図ったが、そこからは突き放される一方で4馬身差の2着。横山騎手は「完敗です」の一言だったが、世代のダート牝馬の中でもトップクラスの実力を示した。
続いては古馬との初対決となるスパーキングレディーカップ(JpnⅢ)。3歳馬ゆえ52kgの軽ハンデを貰い、4.4倍の2番人気に支持された彼女は、当時の牝馬ダート戦線の女王と相まみえた。JBCレディスクラシック2連覇、この年もマリーンカップを勝ち、さきたま杯で牡馬を蹴散らしてきたホワイトフーガである。川崎では3戦3勝のホワイトフーガは当然1.4倍の断然人気だった。
しかし、競馬に絶対はない。逃げ馬を2番手集団の中で追ったアンジュデジールは、直線に入ると抜け出したホワイトフーガとララベルの内を急襲。伸びを欠くホワイトフーガを置き去りにすると、追いすがるララベルを余裕たっぷりに競り落とし、1馬身半差をつけてゴール板を駆け抜けた。
嬉しい重賞初制覇。かつてホクトベガの主戦だった横山典弘騎手は、副題に「ホクトベガメモリアル」を冠するこのレースを初勝利となった。そして何より、この勝利はディープインパクト産駒初の地方交流重賞制覇であった。
そう、競馬ファンには常識だが、ディープ産駒はダートがまるでダメなのである。彼女以前には、ダート重賞馬は2011年のレパードSを勝ったボレアスただ1頭のみ。芝ではあれだけGⅠ馬を量産しているのに、ダートになると「ディープ産駒が人気してたら未勝利戦以外は切り」と言われるほどである。2022年現在も、ディープ産駒のダート重賞馬は彼女を含めて3頭のみ。複数勝ったのはアンジュデジールだけである。
かくして「ディープ産駒のダート馬」という異色の存在として台頭したアンジュデジール。JBCレディスクラシックを目指し、秋はレディスプレリュード(JpnⅡ)から始動。クイーンマンボとホワイトフーガが人気を分け合う中で5.5倍の3番人気。レースはクイーンマンボを外に見る位置で進めたが、直線ではクイーンマンボに突き放される一方。8馬身も離され、2着ホワイトフーガとハナ差の3着。
これで本番のJBCレディスクラシック(JpnⅠ)はクイーンマンボが大本命と思われたが、まさかの挫跖で回避。これで3連覇を目指すホワイトフーガが1番人気となり、アンジュデジールは4.3倍の2番人気に支持される。しかしレースはホワイトフーガをマークして進めたものの、肝心のホワイトフーガがノド鳴りの悪化で11着に撃沈。直線でホワイトフーガをかわしたときには時すでに遅し、ララベルの地方馬初制覇の後ろで見せ場なく5着。
リベンジすべく船橋のクイーン賞(JpnⅢ)に向かったが、JBCレディスクラシック2着のプリンシアコメータに悠々と逃げ切りを許してしまい2着。
結局3歳シーズンは、ノド鳴りで衰え始めていたホワイトフーガに軽ハンデで勝ったものの、同期のクイーンマンボや1歳上のプリンシアコメータとは力の差が……という感じで終えた。
さて、ホワイトフーガが去った2018年の牝馬ダート戦線。次期女王候補筆頭のクイーンマンボはまだ休んでいる中、アンジュデジールは2月のエンプレス杯(JpnⅡ)から始動。JRA勢5頭のうちサルサディオーネを除く4頭で人気が割れる中、1番人気はプリンシアコメータ。アンジュデジールは4.9倍の4番人気。
サルサディオーネが逃げ、プリンシアコメータが2番手で追うのを見ながら、3番手で追走したアンジュデジールは、直線でプリンシアコメータを捕まえる。反応の悪いプリンシアコメータを手応えの差で振り切って1馬身半差をつけて快勝。前走のリベンジを果たし重賞2勝目を挙げる。
続いては4月のマリーンカップ(JpnⅢ)。ここではクイーンマンボがようやく復帰してきて1.6倍の断然人気。アンジュデジールは初めて57kgを背負うことになったが、3.7倍の2番人気である。
このレース、これといった逃げ馬がいなかったこともあり、横山典弘は思いきって二の脚でハナを切り、初めての逃げの手を選択する。そのままマイペースにレースを引っぱると、直線ではクイーンマンボ、ヤマニンアンプリメとの追い比べとなったが、最後のひと伸びで振り切って勝利。重賞連勝で、3歳時には2戦とも完敗したクイーンマンボにもリベンジを果たした。
この連勝で、陣営はなんと久々の中央、エルムステークス(GⅢ)へ参戦。中央のレースは勝った500万下以来1年3ヶ月ぶり、牡馬相手はさらに遡ってペルシアンナイトと戦ったこうやまき賞以来である。
レースは先頭集団を見ながら4番手で追走、直線でも食らいついたが5着まで。やはり牡馬とは力の差がある感じではあったが、紅一点で掲示板確保なので充分健闘というところであった。
秋は昨年同様レディスプレリュードから始動。クイーンマンボ、プリンシアコメータと人気を分け合い3番人気に支持されたが、スタートで思い切り出遅れてしまい最後方からのレースになり、押し上げていったものの特に見せ場なくプリンシアコメータの4着に敗れる。ちなみに1番人気クイーンマンボは7着に撃沈。
さて、迎えたJBCレディスクラシック(JpnⅠ)。京都競馬場開催となったこの年、絶対的女王不在の状況を表すようにオッズは割れた。1番人気はクイーンマンボでもプリンシアコメータでもなく、夏からダートに転向してきてブリーダーズゴールドカップを勝ったラビットラン。アンジュデジールはというと、前2走の連敗で評価を落とし、13.1倍の6番人気であった。冷静に考えるとエルムSは牡馬相手、レディスプレリュードは大出遅れのせいなので落としすぎな気がするが、大外枠に加えて京都開催ということで地方交流の常連組は勝手が違うだろうと割り引かれたのもあっただろう。
しかしそんな低評価をはね除けたのは、横山典弘の見事な騎乗だった。大外枠からまずまずのスタートを切ると、前4頭を行かせながら、アンジュデジールは押し気味に5番手につけると、1コーナー前にすっと内へ切れ込んで、大外枠から一気に最内を確保したのである。そのまま道中は内を通って進めると、4コーナーで少し外に出して狭いところから見事に進路を確保、そのまま先頭に抜け出してミルコ・デムーロのラビットランとのマッチレースに突入する。
直線では一度はラビットランが前に出るが、アンジュデジールも譲らず激しい叩き合い。外からはファッショニスタが猛然と追い込んできたが、最後までラビットランとの完全な横並びの追い比べ、最後に根性のひと伸びでアタマ差だけ差し返したのはアンジュデジールだった。
ディープインパクト産駒はもちろんこれがダートGⅠ級初制覇。横山典弘騎手は2022年12月現在、このJBCレディスクラシックが最後のGⅠ級勝利である。
この勝利で、陣営はチャンピオンズカップ(GⅠ)への挑戦を選択。3年前に牝馬のサンビスタが大穴を開けたことがあるレースではあるが、アンジュデジールはオープン以上で牡馬に勝ったことがあるわけでもない。40.1倍の9番人気という評価だった。それでもサンビスタのときよりは評価されているが。
最内枠から好スタートを切ったアンジュデジールは、そのままハナを取って逃げの手を選択。マイペースにレースを引っぱり、直線でも粘ったが、ルヴァンスレーヴにはあっという間に置いていかれ、後方からワープしてきたウェスタールンドと、食らいついてきたサンライズソアにもかわされて4着。惜しくも馬券圏内には届かなかったものの、牝馬としては充分に大健闘といえる結果であった。
チャンピオンズカップの健闘で評価を高めたアンジュデジール。明けて5歳初戦の東海ステークス(GⅡ)では、7.5倍の3番人気に支持された。しかし直線で横山騎手は違和感を覚えたようで無理に追わず、ブービー12着で入線後下馬。その後2回の検査では特に異常は見つからなかったが、3回目のレントゲン検査で左前膝の骨折が発覚。目標としていたフェブラリーステークスを回避することになった。
骨折の発覚時点では昆師は軽傷と言っていたものの、結局その後はレースに復帰できないまま、11月に登録抹消、現役引退となってしまった。通算19戦6勝。
JBCレディスクラシック制覇からチャンピオンズカップ4着というのは2014年のサンビスタと同じ流れだっただけに、5歳シーズンを無事に過ごせていたらもっと勲章を積み上げられていただろう。惜しまれる故障引退であった。
引退後は故郷の辻牧場で繁殖入り。ディープの血をダート方面にまで広げていけるだろうか。
ディープインパクト 2002 鹿毛 |
*サンデーサイレンス 1986 青鹿毛 |
Halo | Hail to Reason |
Cosmah | |||
Wishing Well | Understanding | ||
Mountain Flower | |||
*ウインドインハーヘア 1991 鹿毛 |
Alzao | Lyphard | |
Lady Rebecca | |||
Burghclere | Busted | ||
Highclere | |||
ティックルピンク 2006 栗毛 FNo.2-n |
*フレンチデピュティ 1992 栗毛 |
Deputy Minister | Vice Regent |
Mint Copy | |||
Mitterand | Hold Your Peace | ||
Laredo Lass | |||
*ブラッシングプリンセス 1996 栗毛 |
Crafty Prospector | Mr. Prospector | |
Real Crafty Lady | |||
Princess Laika | Blushing Groom | ||
Cool Mood |
クロス:Northern Dancer 5×5×5(9.38%)
掲示板
急上昇ワード改
最終更新:2024/04/19(金) 07:00
最終更新:2024/04/19(金) 07:00
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