実は初期の野球ではアンダースローしか認められていなかった。1882年にサイドスローが、1884年にオーバースローがルール改正により認められるまでは主流の投げ方であり、最初にカーブ、チェンジアップを投げたのはアンダースローの投手である。
現役選手はNPBでは高橋礼、與座海人、鈴木健矢。MLBではジョー・スミス、ダレン・オデイ、ティム・ヒルなど。
NPBの過去の選手としては、足立光宏・山田久志・杉浦忠・仁科時成・金城基泰・会田照夫・会田有志・深沢恵雄・皆川睦雄・小川健太郎・佐々木宏一郎・渡辺俊介・牧田和久など多数存在する。
最大の特徴は、投げる球の軌道が他の投法とは大きく異なることである。下からストライクゾーンに向かって「投げ上げている」ため、打者からは球が浮いてくるような感覚で捉えられる。また、スライダー、パワーカーブ系の変化球もしばしば「浮きながら曲がる」軌道を描く。
また、本人にとって自然なフォームさえ身につければ、全身をフルに使って投げる投法のため体の負荷が分散し故障しにくい。肩を痛めてアンダースローに転向した例もある。
球持ちが他の投法より長く、そこでさまざまな工夫を取り入れやすい。牧田はそこをフル活用し投球に多彩な緩急をつけている。
欠点としては、まず「スローカーブ系・フォーク系の変化球の変化が小さい」ことが挙げられる。下から投げ上げるため、重力を使って落とす変化球はうまく投げられないのである。もっとも、渡辺も牧田もスローカーブはスローボール系として活用しているし、落ちる変化球はシンカーで代用できるので実戦では問題とはならない。
次に、投球動作に時間がかかるため、盗塁を許しやすいこと。ただ、これは現在では克服されつつある。渡辺はセットポジションからの投球をある程度早めつつ捕手との連携で盗塁を防ぐ。また、牧田はプロ入り後にセットポジションの改良に取り組み、「チーム1早い」といわれる鮮やかなクイックモーションを身に着けている。
しかしながら、最大の欠点は「誰もが出来る投法ではない」ことかもしれない。
テレビ朝日系列のスポーツ番組『NANDA?!』アンダースロー特集の回に出演した山田久志は開口一番、「アンダーハンドは変則投法ではない、綺麗さがないとダメ」という持論を展開し、同席した渡辺俊介も「(変則と呼ばれるのは)嫌ですね」と強く同意している。
以後の2人の発言は同番組でのもの
山田は「多方面から多大な負担が掛かる膝を徹底的に鍛えることが重要、そのための鍛錬として、うさぎ跳びは実にいいトレーニング方法」と主張した(膝に過大な負荷がかかるうさぎ跳びは指導者からも敬遠されがちではあるが、山田は同時に「うさぎ跳び程度で膝を痛めるような選手がプロでやっていけるわけがない」とも語っている)。
渡辺はアンダースローを行う最低条件として「身体の柔らかさ」を挙げ、前屈+25cm、股割も楽々こなす自身の柔軟性を番組内で披露している。
その一方、「やわらかすぎる筋肉の持ち主がアンダースローに向いているわけではない」とも山田は語っている。オーバーと違い十分な反動を地面から得る動作を行うためには、ある程度の硬さも必要となる。
ある程度の硬さのある筋肉や膝を持っていると、柔らかい筋肉で貯めた運動のパワーを膝や筋肉を支点として十分なパワーに変えることができアンダーでもきちんと勝負できる速球を投げることが可能になる。足立投手と自分はそれがあり、それがなかった仁科(元ロッテ投手 アンダースローともサイドとも言われるフォームからゴロを打たせられる緩いシンカーを武器にした技巧派)投手は速球勝負ができなかったと語っている。
事実、現役のアンダースロ投手である西武の牧田はプロの中でも比較的体の固い部類に入る。もちろん股割りはこなせる程度の股関節の柔軟性はあるものの、過去の怪我からくる膝の可動域は狭く、正座で踵とお尻がくっつかないレベルである。また、肩甲骨周りも硬く一般的に大きなテイクバックが多いアンダースローだが、彼はテイクバックが小さくなってしまっている
野球のキャリアをアンダースローで始めることには2人とも懐疑的であり、渡辺は「まずは自然な投げ方から始めてみてください」と注意を促している(渡辺や牧田は関係者の勧めでアンダーに転向した経歴をもつ)。関係者の育成やアンダー指導者の充実は長年の山田の持論である。
ここで彼の言葉を借りて彼のアンダーの考えを、彼がインタビューを受けた野球小僧2011年8月号から抜粋してみる
「アンダーハンドは傾きを利用しながら(右ならば)左サイドで長くボールを隠せ、腰で隠したまま前に持っていくことができ18.44mを短く使える。
我慢して我慢して最後に腕も振ればもっと手前から投げられストレートをより早く感じさせられる。
逆に言えばこれができていないアンダーには何もメリットはない」「日本が唯一アメリカに輸出したといっていいアンダースローがアメリカでは増えつつある一方、なぜ日本で絶滅しかけているのか」※
「アンダースローをきちんと理解して伝えていくためには高・大・社にきちんとしたアンダーの基本を教えることのできる指導者が必要」
※編注:前述した19世紀のルール改正までのアンダースローはソフトボールのスリングショット投法に近いものであり、オーバースローの回転軸を腰から大きく折り曲げた形の現在のアンダースローとは違っていた。
アンダースローは基本的に解釈の分かれる投げ方である。
根本的に、どういう投げ方であるかの定義を行う際にプロでアンダースローを投げていた投手の中でも、彼らに教えてきたピッチングコーチでも、アマチュアで教えられるコーチの中ですら分かれてしまう。
そして、現在この混乱に拍車をかけているのが良くも悪くも渡辺俊介が名投手であったことである。まだ長く野球を見ておられない方々には渡辺のアンダースローが突然変異であるということが分かっていないのである。
リリースポイントの低さ、彼の持つ球種が特異であること、リリースのタイミングの体の捻り等々。彼のアンダースローは一般的なアンダースローからものすごく乖離してしまっている。
とりあえず俊介から、そしてアンダースローの定義から離れてアンダースローの分類についての考察を行ってみよう。アンダースローの特徴を分類される際によく例えられる二人の名投手のフォームの違いを語る。
この名投手の師弟のフォームは共通点もあるが大きく違うのが重心の移動の線である。
簡単に言うと山田のフォームは一回大きく下に重心を落としたあと再び上に上げリリースのタイミングに持っていく大きく - 小さく - 大きくという形のフォーム(彼曰くこの投げ方のコツがわかればダルビッシュは160km/hを出せる)。現在では渡辺俊介が比較的これに近い(厳密に言うと彼は多少の違いがある)。
それに対して師匠の足立は、小さくなめらかに重心を移動していく。厳密に言うと重心の上への移動は同じく行っているが、山田に比べその移動が小さく沈みながら投げているように見える。現在では、牧田和久が足立の後継者といえよう。
これらの二つの型が大きな違いは重心移動の始まりからリリースまでの時間に如実に現れる。足立タイプの足立・牧田は同タイムの0秒77、会田照夫が0秒60。それに対し山田タイプの山田は1秒17、松沼は1秒03、渡辺俊介は1秒17と格段に長いのである。
これを写真等で解説したいのだがいかんせんネットに古すぎて上がっていない。他にも手首の使い方や、トップからの体の使い方が大きく違うのだが資料不足・・・ 。
実は、筆者も足立は動画ではほとんど見れていないのが現状である。写真等の資料は幸い手に入りやすいので、一度ご覧になることを勧める。
さて、前項の初めに渡辺俊介は特殊であると語っていたのに中盤では山田のフォームで区分している。おかしな話ではないかとお考えの方は多いだろう。
改めて言おう語ろう。彼は特殊なアンダースローである
他にも、様々な点があるのだが大雑把にはこんな感じである。
先ほどこれは分かれてしまうと語ったがこちらについてとりあえず明言している人たちの定義を書いておく
彼曰く仁科などはサイド、杉浦もサイド気味のアンダーとの区分になる。
袴田英利 「体をしっかり潜らせていること」
島田一志・金沢星稜大学教授 「投球時に上半身が完全に(右利きなら)三塁側に傾いていること」
上でも触れたが世界的にアンダースローはその力を再び見せつけつつある投法である。
特に特筆すべきは韓国野球界である。古くから日本に野球界とのつながりが強い韓国球界では多くのアンダースローボーラーがその名を馳せまた羽ばたいていった
>その由来はやはり日本球界であった。当時愛媛県に在住していた申鎔均(日本名 平山鎔均)は高校時代に肘を痛めてからアンダーに転向。以降シンカーを武器に社会人野球でも活躍したことをきっかけに、本国韓国の代表としてアジア選手権に出場。この際日本代表積水化学を5-2 3-0と封じ込めた。この歴史的勝利以降、韓国に野球ブームが到来する。
これによりノンプロの社会人リーグが創設され申鎔均は大活躍をした。(申鎔均は大会直後に韓国代表が日本社会人でプレイすることを問題視され日本野球から離れさせられたが、6年後日本社会人野球に復帰した)。
それ以降も多くの名選手を誕生させるも、70年代に金属バットの波が到来。力で押し負けるようになりここから韓国でも不遇の時代が続くが、それ以降も日本から韓国に渡った在日選手(金城基泰など)が活躍している。
しかし韓国の高校以上の野球で金属バットが禁止になるとともにアンダースローも復活。現在では代表選考の条件としてアンダーがあるほど重視されている。
また韓国野球で特筆すべき点はアンダースローの名選手が育つ環境である。
申や朱性魯(70年代に韓国実業団リーグでノーヒットノーランを記録するなど活躍)などの往年の名選手が後進の指導にあたっている。
メジャーリーグでもやはりアンダースローの系譜は紡がれている。その代表例がブラッド・ジーグラーである。
ジーグラーのリリースポイントは和製アンダーに比べれば高めだがキレと力を兼ね備え、メジャーの連続無失点記録を101年ぶりに更新する活躍を見せ、2009年度WBCにも選出されるまでに成長したメジャーを代表するセットアッパーである。
その他にも韓国アマから直接メジャーに来て活躍、一年のみではあるが楽天に在籍した金炳賢もメジャーのアンダーハンドとしてあげられよう。ちなみに金炳賢は独学でアンダーを学び、 メジャーでも教えられるコーチがいなかったため山田に教えを請い、彼の指導を受けるためにドラゴンズのキャンプに参加していたこともある。
このように活躍をした選手がそこそこいるにもかかわらず、ジーグラー自身が「メジャーでは扱いとしてはトリックピッチャーとしてあまり良いものではない」と語るなど 韓国日本に比べると扱われ方はあまりよくなく、ナックルボーラー同様にアンダースローの選手同士がコツを教えあわなければならないほどコーチが不足しているのが現状である。
そして2018年、牧田和久がサンディエゴ・パドレスと2年契約。日本生まれのアンダーハンドがメジャーに本格的に殴り込む。
2019年には195センチの長身サブマリン、タイラー・ロジャースがデビュー。球速は130キロ台とメジャーではかなり遅いものの、2021年にはリリーフとして80試合に登板し7勝1敗30ホールド13セーブ、防御率2.22を記録した。与四球率1.4、WHIPは1.07と優秀な成績を残した。
NHKBS1・「球辞苑」第4回、アンダースロー特集の回に出演した里崎は、バッターとしてのアンダースロー対策として、 1:右打者から見たインコースの甘めに壁状のラインを投手の手の出所に向かって真っすぐ引くと球筋が読める 2:アウトコースは捨てる という「攻略法」を公開。放送日の2015年8月23日以降、牧田も山中も防御率がガタ落ちし、里崎の説が本物であることを図らずも立証してしまう。後日里崎はフォローとして、「アンダースローが打たれないためには、(自身が「打者としては捨てる」と言った)アウトコースのコントロールをしっかりつけること。真っすぐはシュートさせずに、あるいはクロスファイヤー気味なカットボール系の球をきちんと外角のストライクゾーンに投げる。それが出来れば、アンダースロー投手夢の20勝も可能です。」と投手側の課題を提示した(彼と長年組んでいた渡辺俊介も「そこ(アウトコース)が投げられてた時は(左打者も同じコースで打ち取れたので)長いイニングを投げられた」と証言している)。
掲示板
11 ななしのよっしん
2020/09/05(土) 20:57:26 ID: jrYofTgHUe
記事では触れていないが、今は亡き大投手、沢村栄治氏も肩を壊してからはアンダースローに転向していたと聞く。
12 ななしのよっしん
2021/01/22(金) 13:17:40 ID: AUQs5nKFOo
実に充実した良記事
>>10
小学生の頃友達が披露してくれたな
まあ野球部に入っていた訳でもないしお遊び感覚だったけど
13 ななしのよっしん
2022/09/05(月) 18:53:11 ID: MfDpOGI8k5
パワプロで左アンダースローの直球160km/hオーバー、Hスラ、スローカーブ、ナックル持ち作ってたけど冷静に考えたら意味わからんな。どんな体してんだろ。
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最終更新:2024/09/19(木) 04:00
最終更新:2024/09/19(木) 03:00
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