エアボとは、音楽に合わせて様々に動きながら口パクするパフォーマンス、またそれを記録したミュージックビデオ。エアボーカルの略である。
日本国外では「LipDub(リップ・ダブ、ダブはダビングの意)」と呼称される。
楽曲を流し、それに合わせて口パクしながら、踊る・変顔をするなどパフォーマンスを行う活動、それを撮影した動画のことを指す。元々、ミュージックビデオなどにおいて音楽と別撮りで収録を行うということ自体は行われており、そのために「口パク」「リップシンク」という呼称が作られている訳であるが、それらとの違いは「その楽曲のアーティストではない第三者が演じている」点にある。ニコニコでは「幼少期のゲイツシリーズ」「everybody」などが特に知られている例だろう。
基本的に作品の殆どは固定カメラで撮影されておりカメラ目線のものが多い。エアギターなどと同じく、如何にアーティストになりきるかが重要であり(主に顔による)パフォーマンス性が重視される。
そもそも映像における口パクという手法は有声映画の黎明期、撮影方法の制約により生まれたものであるので歴史は古く、そのことから「エアボ」の正確なルーツを探ることは困難であるのだが、例えばボーカル音楽に合わせ、それに似付かないような風貌の人物がリップシンクをする、というギャグ表現については1990年公開の映画ホーム・アローンにみられ(『White Christmas』)、一方音楽に合わせて二人以上の人物が大袈裟に顔芸・当て振りを行う芸としては、インスト曲を用い口パクは伴わないが日本のコメディアン「テツandトモ」が少なくとも2000年以前より行っていたりする(『笑点のテーマ』など)。
一つのカメラを向いて口パクを用いた顔芸・ダンスパフォーマンスを行うエアボは、インターネットにおいては中国広東省の学生グループ「后舍男生(バック・ドミトリー・ボーイズ)」が創始者であるとされる。
彼らは2004年に学校内の友人間で結成され、寮部屋内のパソコンに付いたウェブカメラで撮影を行った。『As Long As You Love Me』『I Want It That Way』などのバックストリート・ボーイズの楽曲を用い、在籍する広州美術学院の学内ネットワーク上において共有した。これが評判を呼び、2005年に何者かによってYouTubeに転載されたことで学外、それも世界中に大きく潮流が波及した。彼らはのちにプロの歌手としてデビューした。
この2005〜2006年がブームの草創期と考えられる。幼少期のゲイツこと「Crazy Frog Bros」が投稿され最初に注目を集めたのもこの頃(2006年)である。またTBSは2006年放送の「学校へ行こう!」にて后舍男生の『I WANT IT THAT WAY』動画を紹介。これによって彼らやその芸は日本でも評判を呼び、認知されることとなった。同番組内では後に「エアボーカリスト」という企画として独立、佐賀大学野球部4人組や嘉手納外語塾の生徒など個性的な作品が多数生まれた(ちなみに元となった后舍男生の転載動画は2022年現在YouTubeにて1500万再生を突破中)。
また日本で「エアボ」という単語が定着する一方、国外では名称が定まっていなかったため、動画投稿サイト「Vimeo」創始者のJake Lodwickは2006年12月にエアボ動画を投稿し、その中で「LipDubbing」という言葉を提案した。これによって「LipDub」が定着した。
巡り巡って2007年には「ニコニコ動画」で前述した「幼少期のゲイツシリーズ」が転載され大流行。別の音楽に同動画を乗せるMAD動画などが派生した。
2008年、后舍男生の影響があったかは不明であるが、ドイツ・フルトヴァンゲン大学の学生グループがリップダブ動画を制作したことによって2008〜2009年に世界中の学生グループで流行した。カナダのケベック大学モントリオール校の学生グループは大人数でブラック・アイド・ピーズの『IGotta Feeling』でリップダブを制作し大きく注目された。一方ニコニコでは「MOYMOYPALABOY(通称エアボ兄弟)」による『everybody』が一大ブームを築き、MMD動画などが多数作られた。
「フラッシュモブ」とある意味で同等のパフォーマンスとしてプロポーズなどに利用されるほどになり、2011年にはアメリカ・ミシガン州で約5000人の参加するエアボが、2012年にはカナダ・オンタリオ州において約9300人が参加するエアボが制作されるというブームのピークを迎える。
以降には表立って目立つイベントなどが行われているわけではなかったが、2014年に中国から登場したアプリ「Musical.ly」は、音楽に合わせてリップシンク(口パク)を行うというエアボのパフォーマンスを専門とする投稿サービスとして世界的なヒットを果たした。のちにTiktokに吸収統合されたが、そうしたショートムービー投稿サービスの勃興によってエアボの形式の動画が再流行を見せたといえる。
2020年には、2017年に「Wesley Dobbs」氏が投稿した、『ばかみたい』のエアボ動画が流行(Dame Da Ne)。ディープフェイクの技術を用いて同氏の顔の動きを様々なキャラクターや人物に反映させるという動画が氾濫した。
2022年にはVRChat上で撮影された『ロマンスの神様』のバーチャル・エアボ(投稿者は「フェイスダンス」と呼称)の動画がTwitterとニコニコ動画上で話題となり、「ロマンスの神様フェイスダンス」としてMMDなどによる派生動画が増殖している。
まさに、エアボは動画サイトや動画文化の発展を語る上では切って離せないパフォーマンスの一つと言えよう。
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最終更新:2024/10/13(日) 16:00
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