エントロピーとは
を意味する言葉である。
例えばカップに注がれているブラックコーヒーの中に、コーヒーミルクを垂らしたとする。
コーヒーミルクは垂らした直後は目で見て分かるほどくっきりと分かれており一箇所に固まっている。しかし時間が経つにつれ混ざっていき、やがては区別が付かなくなる。
コーヒーミルクがまだ混ざっておらずコーヒーと分離している状態を、(その後の状態に比べて)エントロピーが小さいと言う。時間の経過と共にミルクはコーヒーと完全に混合されるが、そうなった状態をエントロピーが大きいという。
エントロピーは「どれくらい乱雑か」の指標であり、ミルクとコーヒーが混ざった状態のほうが分かれているときよりも「乱雑だ」というのは直感的に受け入れられることではないだろうか。
ちなみに、エントロピーは熱力学という学問で使われる単語だが、そこではエンタルピーという概念も出てくる。もちろん全くの別物である。詳しくはエンタルピーの記事を参照してほしい。
熱力学第二法則とも呼ばれる。
「何かの現象が起こるとき、エントロピーは必ず増大する。また、勝手に減少する事は無い」という法則である。
ミルクとコーヒーが接触すれば、かならずそれらは交じり合う。
熱いものと冷たいものを接触させると、両者は最終的に同じ温度になる。
例えば冷たい水の中に熱した鉄の棒を突っ込んだ場合、水が熱せられて鉄の棒が冷める。しかし、ぬるいお湯に同じ温度の鉄棒を突っ込んで、水が冷たく、鉄が熱くなることはない。
こういう一方通行の出来事、不可逆な(逆向きは起こりえない)現象があることをこの法則は意味している。
より正確な話をすると、部分的にエントロピーを下げることは可能である。エアコンを使って部屋を冷やせば、部屋の空気の持つ熱運動が静まり、室内のエントロピーを減少させられる。ところがこの場合にも、エアコンの室外機からの排熱によって、家の外を暖めていることになるので、室外のエントロピーは増大している。そして、室内から減少させたエントロピーと室外で増大したエントロピーを足すとプラスになる。つまり全体(=室内+室外)としてはエントロピーは増大するのである。
この話を拡大解釈して出来た仮説が、宇宙の熱的死である。
今は「室内と室外(地球)をあわせると全体のエントロピーが増大する」という話をしたが、これを地球と太陽系、太陽系と銀河系、銀河系と宇宙全体という風に話を膨らませることで、「宇宙全体のエントロピーは必ず増大する」という結論に至る。
そしてエントロピーの増大した終焉、世界が平衡状態に達した状態というのは、宇宙のありとあらゆるところが同じ温度、同じ物質の密度となった混沌の海のようなものであると想像された。その世界ではもはや新しい現象は起こらず生命などというものは存在せず、永久にその静かな状態を保つことになる。この宇宙の終焉予想図を熱的死と呼ぶ。
ちなみに、この仮説は宇宙が有限であることを前提としているが、宇宙に果てがあることも、宇宙に存在する物質やエネルギーが有限であることも証明されていないので、全くの仮説である。宇宙ヤバイ。また仮説でなくとも、熱的死になるのははるか先、ゆうに億年単位以上の時間が必要である。
エントロピーが不可逆さ、乱暴に換言すれば「抗えぬ運命」に見立てられるからか、あるいは熱的死という仮説が物語として魅力的な仕掛けになるからか、アニメ等でエントロピーという言葉が使われることもある。(エントロピーを凌駕するために少女に契約を迫る地球外生命体とか)
熱力学という学問はエンジンの登場とともに発展したもので、分子や原子の存在を特に考えなくとも扱えるようになっている。しかし、分子の動きを統計学を使ってまとめた、統計力学という学問によって、エントロピーの意味合いがより明確になった。
……正確な話をするとわけがわからなくなるので、たとえ話をしたい。
白い碁石と黒い碁石を10個づつ袋に入れ、混ぜ合わせてから一つづつ取り出すという遊びを考える。白い碁石をミルク中の分子、黒い碁石をコーヒー中の分子と捉えると、この遊びは、ミルクとコーヒーを混ぜあわせ、その後別のところに取り出す実験を表したものだと考えられる。
さて、このとき全く偶然に、綺麗に白、または黒のみを連続で取り出せる確率はどれくらいだろうか?
取り出す順番が白白白白白白白白白白黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒か、その逆になればよいので、取り出し方は2通りだ。そして全ての碁石の取り出し方が184756通りなので、確率は0.000010825となる。こんな低い確率だと、まず普通にはお目にかかれない。碁石を適当に取り出すと、ほとんどの場合、白と黒が混ざって出てくることになる。
これは、ミルクコーヒーを別のところに注ぐときに、ミルクとコーヒーに自然に分かれてくることがない、という経験的事実に対応している。ミルクコーヒー中の分子の数は、これよりはるかに多いので、ミルクとコーヒーが自然に分かれる確率は、これよりさらに、とんでもなく小さい。
こうして確率や統計というものを使うことで、エントロピーは新しい表現を得ることになる。
S = k ln W (k:ボルツマン定数, ln:自然対数, W:場合の数)
要は「~~ということが起こる場合の数」というのを計算したら、そこから直接エントロピーが計算できるようになったのである。
エントロピーが「~~ということが起こる場合の数」として定式化されたことで、新たな意味を獲得した。直感的に分かるかと思うが、これはその状態が持っている「情報量」そのものなのである。
この場合のエントロピーは3つの意味を持つ:
即ち、エントロピーが高い場合、情報量が増え不確実性が増し、圧縮ができにくくなる。例として、表しか出ないコインが持つ不確実性は0である(確実に表になる)。したがって、このコインに最低限の情報しか持たない。
H'(P) = (d/dP)(-P*logP - (1-P)*log(1-P)) = -logP -P*(1/P) + log(1-P) - (1-P)*(1/(1-P))
不厳密的に、これが0に等しい場合、局所的極大値が得られる。したがって、
-logP -P*(1/P) + log(1-P) - (1-P)*(1/(1-P)) = 0
P = 1/2
即ち、公式から、このコインの裏と表の確率が完璧に五分五分の時に、その不確定さが最大に至る(直感と一致する)。
今ではエントロピーは情報学と熱力学の両方で使われる概念であり、それらは密接に関わっている。歴史的には、マクスウェルの悪魔という有名な思考実験があり、その矛盾を説明する過程で、エントロピーは情報量として再定義されることになった。
こうした成果により、2010年、東京大学と中央大学の研究グループが、マクスウェルの悪魔を召喚することに成功し、「情報をエネルギーに変換する」機能を持った、情報エンジンを作製した。
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最終更新:2025/01/23(木) 07:00
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