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90年、有馬記念。
神はいる。
そう思った。
オグリキャップとは、日本の元競走馬、元種牡馬である。愛称は「オグリ」「オグリン」「芦毛の怪物」等。1994年の桜花賞馬オグリローマンは半妹。
地方競馬出身、第二次競馬ブームの立役者として、同じく地方競馬出身で第一次競馬ブームの立役者となったハイセイコーと比較されることが多い。
競走馬としての通算成績は32戦22勝(中央20戦12勝、地方12戦10勝)
主な勝ち鞍
1987年:ジュニアクラウン(地方重賞)、中京盃(地方重賞)、中日スポーツ杯(地方重賞)、ジュニアグランプリ(地方重賞)
1988年:有馬記念(GI)、ニュージーランドトロフィー4歳ステークス(GII)、高松宮杯(GII)、毎日王冠(GII)、ペガサスステークス(GIII)、毎日杯(GIII)、京都4歳特別(GIII)、ゴールドジュニア(地方重賞)
1989年:マイルチャンピオンシップ(GI)、毎日王冠(GII)、オールカマー(GIII)、
1990年:安田記念(GI)、有馬記念(GI)
1988年JRA賞最優秀4歳牡馬。1989年JRA賞特別賞。1990年JRA賞最優秀5歳以上牡馬、年度代表馬、NARグランプリ特別表彰馬に選出。
1991年には顕彰馬に選出されている。
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この記事では実在の競走馬について記述しています。 この馬を元にした『ウマ娘 プリティーダービー』に登場するウマ娘については 「オグリキャップ(ウマ娘)」を参照して下さい。 |
※本稿では当馬が活躍した時期に合わせて馬齢を旧表記(現表記+1歳)としてあります。
血統
1985年3月27日に北海道の三石町(現在の新ひだか町)稲葉牧場で生まれる。父ダンシングキャップ、母ホワイトナルビー。母父シルバーシャーク。
父ダンシングキャップはイギリスとフランスで20戦5勝だが、重賞では成績を残していない。日本では種牡馬としてオグリキャップ以外にもそこそこの成績を挙げ、またダートでも走ることから地方でも好成績を上げた。
母ホワイトナルビーは笠松で8戦4勝。産駒は地方中心だが15頭すべてが勝ち上がるという、優秀な繁殖牝馬だった。母系を遡るとオグリキャップの5代母として天皇賞馬クインナルビーにたどり着く。現代でこそオグリ兄妹やキョウエイマーチ、マルシュロレーヌ、ナミュールなどの活躍で名牝系の祖として称えられているが、当時は活躍馬を全然出すことができておらず、ダート路線でアンドレアモンが気を吐いていた程度であった。
母父シルバーシャークはアイルランド産で、フランスで活躍。ムーラン・ド・ロンシャン賞、イスパーン賞、アベイ・ド・ロンシャン賞などを制した名馬であった。
日本ではあまり有名ではない血統であり、ライトな競馬ファンからは三流血統とも評されることもあった。だが、ダンシングキャップの父(つまりオグリキャップの父父)はネイティヴダンサー。生涯成績22戦21勝・2着1回、「灰色の幽霊」の異名をとった伝説的名馬である。オグリキャップの能力はこの祖父の隔世遺伝とも言われている。
ホワイトナルビーは岐阜の化学薬品メーカー社長・小栗孝一の持ち馬であり、稲葉牧場の息子・稲葉裕治との縁で同牧場に預託されていた。1984年、小栗オーナーはトウショウボーイの種付けを希望していたのだが、そちらの予定が空かずに断念。代打として選ばれたのが、笠松競馬で優秀な種牡馬成績を残していたダンシングキャップだった。小栗オーナーはセリ市に出された場合の想定価格を稲葉牧場に支払ってホワイトナルビーの仔を購入していたが、後のオグリキャップである「ホワイトナルビーの85」の価格は250万～500万円程であったとされている。
怪物との日々
怪物との日々
競馬には一生を懸けて
追いかける価値があると
教えてくれたのが彼だった。
1985～87年：当歳～3歳
生まれつき右前脚が大きく外向し、なかなか立ち上がることもできなかったホワイトナルビーの85は、無事に成長するようにと幼名「ハツラツ」と名付けられた。ホワイトナルビーは乳の出が良くなく、時には授乳を拒否することもあったが、ハツラツは食欲旺盛ですくすくと成長していく。
小栗オーナーに購入され、母ホワイトナルビーも管理していた鷲見昌勇厩舎に入厩したハツラツは、冠名「オグリ」と父の名「キャップ」を合わせた名を与えられ、1987年5月19日に笠松競馬場でデビュー。デビュー戦と4戦目にマーチトウショウに敗れたものの、蹄叉腐乱の治療に成功した5戦目からは7連勝(うち重賞4勝)を達成。6戦目からは「アンカツ」こと安藤勝己とコンビを組んだ。
「他馬が軽トラックなら、高級乗用車だ」
「オグリキャップは全身がバネ。キャップが走ったらレースにならんて」「どえらい馬だね。来年は間違いなく東海ダービーを取れる」
「重心が低く、前への推進力がケタ違い。あんな走り方をする馬に巡り会ったのは、初めて」―安藤勝己
8戦目の地方開催競走・中京競馬場芝1200の中京盃を勝利して芝コース適性も証明したことから、様々な人が中央移籍を薦めるようになる。中央馬主資格を持たず、そもそも自分の馬を手放したくない小栗オーナーはそれを渋るが、最後には最も熱心に説得してきた名古屋の玩具会社社長・佐橋五十雄に2000万円で権利を売却する。
1988年:4歳
1月10日のゴールドジュニア(地方重賞)を制したオグリキャップは、地方通算12戦10勝2着2回・8連勝中という実績を掲げて中央競馬へと乗り込む。頂点(キャップ)を目指す旅が始まろうとしていた。
それは、笠松競馬の人々との別れも意味していた。佐橋オーナーの希望で三輪勝装蹄師が中央競馬への同行を特例で認められる一方、鷲見師は東海ダービー制覇の悲願が断たれたことに激怒し、小栗氏が誘った最後の関係者記念撮影を拒否したという。
「中央の芝に合わなければ笠松に戻す」という条件でキャップを送り出した小栗氏だったが、幸か不幸か、結局キャップは彼の元に帰ってくることはなかった。小栗氏は後に中央馬主資格を取得し、キャップの半妹オグリローマンを中央へ送り込むのだが、それはまた別の話である。
笠松から来た「葦毛の怪物」
オグリキャップは栗東トレーニングセンターの瀬戸口勉厩舎に入厩し、主戦騎手には佐橋オーナーの希望で関西のトップ騎手・河内洋が選ばれた。中央に比べると一段レベルが落ちる笠松競馬出身とはいえ、さすがにその圧倒的な戦績は競馬ファンに知れ渡っており、注目度は高かった。中央移籍初戦はいきなりの重賞、3月6日のペガサスステークス(GIII)だが、2番人気で出走、あっさり優勝する。
(レース前)「なんでこんなに人気なんだろう。たかが笠松の馬じゃないか」
(レース中)「ナメて実況していました」
(レース後)「これは自分の見方がまちがっていた、こいつは噂どおりだ」
その勢いで3週間後の毎日杯(GIII)も制し、通常ならクラシック三冠に挑戦する流れに入ったのだが、中央馬主資格のない小栗氏はクラシック競走の出走登録など当然行っていなかったため、皐月賞、日本ダービー、菊花賞への出走は不可能だった。
皐月賞を制したのは毎日杯でオグリキャップの4着に敗れたヤエノムテキ。この結果に、当時は競馬評論家としても名を挙げていたマルチタレントの大橋巨泉を中心に「何故本当に強い馬が『強い馬を決めるレース』に出られないのか」とクラシック登録制度に対する抗議の声が上がる。後のオグリブームも相まってJRAも方針転換し、1992年からは追加登録料を払えば追加登録を認めるようになった(99年にテイエムオペラオーがこの制度を使って皐月賞に出走、優勝を果たしている)。
結局日本ダービー出走が叶わなかったオグリキャップは、賞金不足・外国産・同じような登録漏れの連中が向かう「裏街道」路線へ乗り込み、蹂躙する。5月の京都四歳特別(GIII)(河内騎手が同日に東京で行われたNHK杯に行ったので南井克巳が騎乗)、6月のニュージーランドトロフィー四歳ステークス(GII)と、四歳限定重賞をペガサスSから数えて4連勝。特にNZT四歳Sでは同年の安田記念馬・ニッポーテイオーよりも速いタイムを計時し、まさに桁違いの力量を見せつけた。
さらに7月の高松宮杯(GII)、10月の毎日王冠(GII)で、歴戦の古馬をも粉砕し、メジロラモーヌとの日本タイ記録(当時)である重賞6連勝を達成。
毎日王冠で古馬の一線級を相手に、スローペースを後方から大外廻って、一気に差し切るなどという芸当は、今まで見たことがない
どうやらオグリキャップは本当のホンモノの怪物らしい
芦毛頂上決戦～昭和最後の名勝負～
初のGI挑戦となる天皇賞(秋)でオグリキャップを待ち構えていたのは、昨年秋に覚醒し、今年の天皇賞(春)と宝塚記念を制した一歳年上の芦毛馬・タマモクロスであった。「芦毛の馬は走らない」と言われていた当時、どちらが勝ってもそれぞれの記録達成となるこの一戦は大いに喧伝され、既存の競馬ファン以外にも注目された。前哨戦を制し、レース展開への対応力を評価されたオグリキャップは一番人気に推されるが、追込一辺倒のこれまでと違い先行策をとったタマモクロスに届かず、中央移籍後初の敗北(2着)を喫する。
この年の9月、佐橋オーナーには脱税の容疑がかかり、一審で有罪判決が下っていた。馬主資格の返上は避けられないと見た佐橋オーナーは、せめてそれまでにタマモクロスを打倒しようと決意したのか、彼を追ってジャパンカップ(GI)への出走を決める。オグリキャップは日本最強タマモクロス、凱旋門賞馬トニービンに次ぐ3番人気に推されるが、勝者は9番人気のアメリカ代表ペイザバトラー。その上タマモクロスにはまたも届かず、3着に終わる。
タマモクロスは本年の有馬記念(GI)を引退レースとすることが発表された。佐橋オーナーはとうとう騎手の交代に踏み切り、瀬戸口師を通して関東の名手・岡部幸雄を鞍上に迎える。翌年には馬主が代わっていそうな陣営からの依頼ということで、競馬に集中したい岡部騎手はやんわりと断ったが、やはりオグリキャップには乗ってみたかったらしく「1度だけ」という条件で承諾。陣営もタマモクロスを超えるべく、岡部騎手の提案で中山競馬場で走ったことのないオグリキャップを現地で練習させるスクーリングを実施(輸送の負担を考えてあまり行われないのだが、オグリはピンピンしていたとか)するなどして準備を進める。
そして本番、遂にオグリキャップは初めてタマモクロスに先着し、優勝。見事にGI初制覇を果たすとともに、中央競馬最強の座をタマモクロスから受け継いだのであった。また、これは瀬戸口師にとっても調教師15年目にしての初GIであった。
なお、クビにされてしまった河内騎手はもう一頭のお手馬・サッカーボーイに騎乗し、4着入線(スーパークリークの失格で繰り上げ3着入賞)を果たした。オグリキャップとのコンビはここまでとなったが、後の1990年に安藤勝己は「河内さんが乗っていた頃が、オグリキャップのいい面が出ていたと思う」と語っている。
彼はアメリカでも通用する。芝、ダートを問わずだ。(中略)まだ成長する余地を残しているし、それにドッシリ構えているタイプで、環境の変化にも十分に対応できる強い精神力を持っている
―岡部幸雄
小さな競馬場でしか走ることを知らなかったオグリに、中央の広いコースで走ることを教え込んだのはワシや
―河内洋
1989年：５歳
1989年1月7日、昭和天皇崩御。平成時代の始まりとなったこの年、JRAは新キャッチコピーとして『見るたび、新しい競馬です』を掲げ、マスコットキャラのターフィーを登場させる。ミスターシービーやシンボリルドルフの活躍で作られた下地に、タマモクロスとオグリキャップという雑草魂の活躍が火をつけ、ハイセイコー旋風以来の熱狂が始まろうとしていた。旧来の競馬ファンは馬券を外して悶絶する新規勢と自分たちを揶揄して『買うたび、悔しい競馬です』と笑っていたのだが。
2月22日、佐橋オーナーは1年間で3億(というのは当時の発表で、実際は2年で5億5000万)円の契約で、オグリキャップをヒダカファーム代表・近藤俊典へ売却。自身は馬主登録を抹消し、第二審の前日に控訴を取り下げた。恐ろしい価格もさることながら、競走馬引退後には所有権を佐橋氏に戻す条件が付いていたため「名義貸しじゃないのか」と各方面から突っ込まれた。近藤オーナーは24年間のオーナーブリーダー活動で一度も重賞を勝ったことがなく、文字通りオグリキャップに夢を賭けたのである。なお、佐橋氏はしばらく後に自社からオグリキャップぬいぐるみを発売し、さらに大儲けしている。転んでもただでは起きないとはこのことである。
肝心のオグリキャップはというと、1月に1988年度のJRA賞最優秀4歳牡馬を受賞。しかし2月に右前脚の球節を捻挫して産経大阪杯を回避。4月には右前脚に繫靭帯炎を発症し、結局春シーズンを全休する。
『フラガール』で有名な福島県浜通り・いわき湯本温泉にある競走馬総合研究所・常磐支所(総研。現・競走馬リハビリテーションセンター)で湯治・プール・超音波治療を受けたオグリキャップの調教は順調に進んだ。繫靭帯炎は屈腱炎と並んで「競走馬の癌」とも称される難病のはずなのだが……。たくましいのは馬も一緒だったようだ。
「オグリローテ」～激戦の秋～
近藤オーナーは岡部騎手に改めて騎乗依頼を出したが断られ、最終的に主戦騎手は昨年のライバル・タマモクロスの主戦であった「豪腕」南井克巳に決定した。9/17の産経賞オールカマー(GIII)で復帰したオグリキャップはレコード勝ちで完全復活をアピールする。
その後は天皇賞(秋)へ直行予定だったが、あまりに旺盛な食欲から太め残りが懸念され、当初の復帰戦予定だった毎日王冠への出走が挟まれる。何しろオグリキャップの食欲ときたら、レース帰りに道草を食い(直喩)、寝床の藁すらかじるほどだったというのだから……。
10/8(前走から3週)の毎日王冠本番では、同じ地方・大井競馬場出身のイナリワンと激突。今年から中央にやってきたこの6歳馬は、若き天才・武豊とコンビを組んで天皇賞(春)をレコード勝ちした上、宝塚記念も連勝する大暴れを見せていたのだ。しかし、愛馬スーパークリークが復帰したことで武騎手はそちらへ戻ったため、この日は柴田政人との新コンビ初戦であった。
レースは最終的にイナリワンとオグリキャップがゴール直前で抜け出し、火の出るようなデットヒートのままゴールイン。89年中央競馬屈指の名レースと名高いこのレースは、ハナ差でオグリキャップに軍配が上がり、毎日王冠史上初の2勝＆連覇達成となった。
さぁメジロアルダンか！メジロアルダンか!? イナリワンか!? オグリか!?
三頭並んだ！三頭並んだ！ そして二頭になった！
並んで、並んでゴールイン！並んでゴールイン！
次走・10/29(3週)の天皇賞(秋)では、同期の菊花賞馬・スーパークリーク(と皐月賞馬・ヤエノムテキ)と対決。初めてGIを勝った愛馬スーパークリークに跨る武騎手は、前年の有馬記念でオグリとタマモに手も足も出なかった上に斜行失格となった屈辱をはらすべく燃えていた。
一番人気で出走したオグリキャップだったが勝負どころでヤエノムテキに進路をカットされ、猛然と追い込んだもののクリークとクビ差の二着に敗退。レース後にクリークを睨みつけたまま、南井騎手から促されても帰ろうとしなかった様子は、よしだみほの『馬なり1ハロン劇場』でもネタにされた。そしてこの年の春秋天皇賞を連覇した武騎手の元には、過激派オグリファンから大量の嫌がらせの手紙が届いたのであった。
続く11/19(3週)のマイルチャンピオンシップ(GI)では、因縁の武騎手と、その父・武邦彦調教師が手掛けた安田記念馬・バンブーメモリーと対戦。先行逃げ切りを図るバンブーメモリーとの間に、もはやこれまでかという差をつけられるも、残り100mから猛然と追い込みハナ差交わしてゴールインという、日本競馬史に残る末脚を炸裂させた。秋天の敗因は自分の騎乗にあったと考えていた南井騎手は「なんて偉い馬なんだろうと思うと、どうしようもなく泣けてきた」と感じ入り、涙ながらに勝利インタビューに臨んだ。杉本アナの名実況が、このレースにおける両者両馬の立場をこれ以上なく鮮明に描写している。
内か外か僅かに内かー！ 僅かに内オグリキャップかバンブーメモリーか！
負けられない南井克巳！ 譲れない武豊！ この二頭の一騎打ちになりました！まぁ僕もね……こんな強い馬乗せてもらって、この間負けましたからね。
オグリにね、借りは……ね、まだ半分しか返していないですけどね。
来週のね、ジャパンカップでね、倍にして返したいと思います！(場内大歓声)―南井克巳
89' JC～南の国から来た葦毛馬～
オグリキャップはバンブーメモリー(を置いて愛馬スーパークリークの背へ戻った武騎手)と共に、11/26(1週)のジャパンカップへ向かった。かくして89年JCは、オグリ、クリーク、イナリ、バンブーら中央のスターホースが集結し、地方からはオールカマーで対戦した南関東のロジータも参戦、更に前年優勝馬ペイザバトラーが再び来日するなど、オグリキャップにとっては因縁渦巻くレースとなった。ヤエノムテキが泣いている
オールカマーからJCまで、3か月で重賞5戦。しかも東京→京都→東京の輸送を挟んでいる。マイルCS出走前、瀬戸口師は「これで結果が悪いと非難されるやろが、この馬には常識が通用せんのや」と語った(そしてその通りだった)が、流石にこのローテーションにはマスコミや競馬評論家のみならず、「オグリの走りをもっと観たい」ファンからも苦情が寄せられるようになった。藤井幸介ライターは「人の欲にまみれた使い方」と痛烈非難し、ファンからは「近藤が何としてもトレード代金を回収するべく、全休した春競馬の分としてマイルCS出走を懇願したのでは」と邪推された。
東京競馬場に戻ってきたオグリキャップは相変わらず食欲旺盛だったが、ある日の調整前、珍しく飼い葉桶から首を上げて「ある馬」をじっと見つめる「事件」があったという。
レースはイギリス馬イブンベイが暴走、アメリカ馬ホークスターがそれを猛追し、人智を超えたハイペースが現出(1800m通過タイムが当時の1800m日本レコードを上回っていた)。普通「ハイペースのレースでは差し馬・追い込み馬が有利」とされるものだが、この「超」が頭に何個ついてもいいほどのハイペースは追走するだけでもやっとのもので、後方待機勢にポジションを入れ替えるほどの余力はとても残っていなかった。なにしろ逃げたイブンベイとホークスターがそれぞれ6着と5着に残ってしまっているのである。後方勢から辛うじてペイザバトラーが3着に突っ込んだのは、さすが前年の優勝馬というところであろう。
オグリキャップは4番手を追走。東京競馬場の長い最終直線は馬の精神力の限界を試す死地となり、こらえきれなくなった馬たちが一頭、また一頭と脱落していく。しかし先行したオグリキャップは崩れない、どころか豪腕・南井の40連発とも言われるステッキの連打に応えて加速さえする。だが同じくこのハイペースに崩れることのなかったもう一頭の馬、あの時オグリキャップがじっと見つめていたニュージーランド代表・ホーリックスにはどうしても届かない……！
最後はクビ差敗れたものの、走破タイムは勝ったホーリックスと同じく2.22.2で、これは1999年に更新されるまで世界レコードだった。ホーリックスが南半球最速なら、北半球最速はオグリキャップというわけだ。
(オグリキャップが決着後もホーリックスの前に出ようと走ったことを指して)
あの勇気は真の意味で「Race Horse」と呼べるでしょう。Best-Looking Horseであり、Best-Race Horseです。一度でいいから、あんな馬に乗ってみたい
平成元年の終わりに
オグリキャップは堂々のファン投票1位で12/24(4週)の有馬記念へ進む。が、流石に「怪物」の覇気もここまでだった。かつての教え子の雄姿をみるべく笠松からやってきた鷲見師は、近藤オーナーの依頼でオグリキャップのパドック診断を行ったのだが、その答えは「疲れきっとるようです。休ませんと可哀相です」。競馬ゲームですら稀なヘビーローテでは無理もない話である。まぁ、当時はこれより酷いローテを組まされた馬も珍しくはなかったが……イクノディクタスとか何で死ななかったんだろう……。
レースでは終盤で伸びを欠き、レコードタイムで優勝したイナリワン・ハナ差2着のスーパークリークから4馬身離された5着に敗退。その日のうちに福島の総研送りとなり、再びの温泉療養に入ることとなった。借りを返し切れなかった南井騎手は自ら主戦の降板を申し入れ、結果的にこれが最後の騎乗となった。
『見るたび、新しい競馬です』。そのキャッチコピーに間違いはなかった。オグリキャップにイナリワンとスーパークリークを合わせた「平成三強」をはじめとするスターホースの名勝負、そしてそれらに騎乗する武豊らの活躍は、新たに競馬に触れた人々に「新しい競馬」を見せつけ、10年間にわたる第二次競馬ブームを巻き起こしたのである。
1990年：6歳
89年での引退も示唆されていたオグリキャップだが、この年も現役続行が決まった(JRAが働きかけたともいわれるが定かではない)。
春シーズンは天皇賞(春)もしくは安田記念に出走し、9月には米GI・アーリントンミリオンステークスへ遠征というプランが計画された。アメリカのレースに出走すれば国際賞金ランキングにオグリキャップの名が残る。前オーナーの佐橋氏はこれを「馬に対する馬主の責任」と語っていた。
始動戦は前年に見送った産経大阪杯が予定されたが、調子が上がらずまたも回避。春天も見送りとなった。
宿敵・武豊との共闘
安田記念(GI)とアーリントンミリオンSの鞍上には、これまで幾度となく死闘を演じてきた武豊騎手が招かれ、中央競馬でも群を抜くスターの「ゴールデンコンビ」に競馬界を超えた注目が集まった。一方で武騎手は『笑っていいとも!』に出演した際、タモリからオグリキャップの印象を聞かれたときに「何考えてるかわからなくて、キライです！」と答えていたこともあり、元々ユタカアンチが多いオグリファンの中には激しい反発を示す者もいた。商売敵なので当然っちゃ当然の発言なのだが、当時のユタカさんは結構怖いもの知らずだった。
本番レースは「オグリキャップの生涯でも最高のパフォーマンス」とも称されるほどのもので、武騎手はほとんど何もしないまま、東京1600mのレコードタイムで快勝(2着ヤエノムテキ)。獲得賞金もシンボリルドルフを抜き、日本記録を更新する。「オグリを南井に返せ」という恥ずかしい横断幕まで作ってきていた過激派は、負け惜しみのヤジを飛ばしていたそうだが……。
乗ってみると、予想どおり乗りやすくて、従順な馬でした。でも、不思議な馬で、どこか人間みたいだなと思いました。全部わかってるみたいな感じで
―武豊
ちなみに、このレースで武騎手は平成三強の3頭全てでGI制覇を達成。また、平成三強全てに騎乗したのも武騎手が唯一である。
挫折と、失望と
次走は宝塚記念(GI)。ファン投票得票数・152,016票はここから32年後にようやく更新されたほどのレコード記録である。しかし武騎手はやっぱり愛馬スーパークリークの元へいってしまい(筋肉痛で回避)、南井騎手もヨーロッパ研修中だったため、関西のホープ・岡潤一郎が代打を務める。
阪神競馬場・全面改修直前の最終開催日に行われたこのレースは、事実上のオグリ関西ラストランとなることから、入場者数は当時の宝塚記念レコードを更新した。だが、レースでは道中の順調さを欠き、一年後輩・オサイチジョージの2着に敗退(3着ヤエノムテキ)。GI初制覇のオサイチジョージ陣営が歓喜する一方、オグリ目当てだった観客達には「しばらくの静寂」があったという。
レース後、オグリキャップは脚部不安(両前脚骨膜炎・右飛節軟種)を発症し、アメリカ遠征計画は白紙撤回。7月は総研で三度目の療養に入る。温泉に入ればなんとか……なったのは春までの話だった。
ここから歯車が狂ったのか、秋天を目指して8月末に栗東トレセンに帰厩するも、10月上旬にかけて次々と脚部故障を発症。更にテレビ局の1週間密着取材を受けたのだが、よりにもよって競走馬を知らない人間ばかりで編成された取材クルーの酷い取材攻勢(調子の悪い馬を厩務員が見ていない隙に人参や草で釣りだす、厩務員の帰宅後も馬房に張り付く、ライトを顔にガンガン当てる)に更なるダメージを受けてしまう。「あのオグリが飼い葉を食べなくなった」レベルである。
鞍上には、かつてハイセイコーに騎乗した大ベテラン・増沢末夫が招かれるが、このような状態ではまともな調整ができるはずもない。前哨戦の毎日王冠も回避して、ぶっつけ出走の天皇賞(秋)は、初めて掲示板を外す6着に敗れる(1着ヤエノムテキ)。とうとうオグリキャップは、三度一番人気に支持されながら一度も秋天を勝つことができなかった。
陣営の要望で取材は自粛されたが、相変わらず調子の上がらないまま出走したジャパンカップでは……。混戦ではあったが、生涯唯一の二桁着順である11着に終わった。
もともと、馬に気合を乗せてやる気を引き出させる増沢騎手の騎乗と、とにかく真面目に全力で走るオグリとは相性が悪く、お互いの長所が打ち消されてしまっていた。だが、それも些細な要素に過ぎないほどに、オグリキャップの状態自体が落ち込んでいたのである。瀬戸口師は後に「悪い時に乗ってもらって気の毒だった」と増沢騎手を気遣っている。
オグリキャップは終わった。燃え尽きたのだ――。
誰もがそう思い、晩節を汚さぬよう引退を望む声も上がり始めた。以前から近藤オーナーは深夜の嫌がらせ電話攻撃を受けていたのだが、遂にはJRAに「オグリキャップの有馬出走を取り消さなければ、近藤の自宅と競馬場に爆弾を仕掛ける」という脅迫状が送られてきた。
だが、陣営は引退レースとして出走を決断。近藤オーナーは関係者以外の厩舎立入をすべて禁止し、あの若き天才・武豊に最後の騎乗依頼を出した。
「神様はいると思う？」「いるさ。中山で見た」
安田記念で素晴らしかった豊くんが乗って、それでも負けるなら、納得もいくのではないだろうか……。近藤オーナーはそう考え、断られた場合は有馬記念出走を取り止めるつもりだったのだが、武騎手も突然のオファーに困っていた。愛馬スーパークリークは繋靭帯炎で引退し、父が管理するオースミシャダイへの騎乗が決まっていたからだ。
しかし邦彦師は、２度と無いかもしれないこの機会を息子の成長の糧とすべく動いた。「オグリに乗れ」と息子を励まし、オースミシャダイの馬主に頭を下げにいったばかりか、オグリキャップの併せ馬の相手もさせたのである。なお、当時のユタカさんは武厩舎ではなく武田作十郎厩舎の所属である。邦彦師の親ばかぶり気遣いが伝わってくる。
また奇しくも、レース当日の中山競馬場の昼休みには、オグリキャップと同じく宝塚記念で脚部不安を発症したイナリワンの引退式が行われることになった。結局、平成三強が集ったのは前年の有馬記念が最後であった。
12月23日、新装なった中山競馬場は17万7779人をのみこんでいる。午前中から異様な雰囲気が漂っていた。誰も彼もが、オグリキャップを買うか買わぬか、踏み絵を前にしているようなのだ。
私は記者席から人で隙間のないスタンドをのぞき、あのポニーテールの若い女は来ているだろうかと思った。ジャパンCの帰りに寄った居酒屋で、オグリキャップの惨敗をふりかえる仲間に、
「もう言わないで」
とわめき、ひくひくと頭をふるわせて泣いていた若い女だ。きっと、このひとの波の中で、若い女はオグリの雄姿をひたすら祈っているだろう。
中山競馬場には「最後のオグリキャップの走りを見たい」大観衆が押し寄せた。昼過ぎには早くも収容能力の限界に達し、JRA保安企画課は警察から警告を受ける。入場規制で通せんぼされたファンは門前で抗議するが、今更入ったところでスタンドどころかパドックにすらたどり着けず、馬券もまともに買えないのである。本馬場に入場する馬たちは異常な大歓声に慄き、同じく引退レースを迎えるヤエノムテキが放馬するハプニングも起きた。オグリオグリうるさい観客にキレたのだろうか。秋天の時もレコードタイムで勝ったのにみんなオグリの話してたし。
当のオグリキャップはファン投票一位だったが、肝心の馬券は4番人気。明らかに応援馬券が主体で「勝つ」とは思われていない。パドックでもあまり覇気がなく、跨った武騎手もそのような印象をうけたという。しかし手綱を引く池江敏郎厩務員は、秋天の時以上の力を出すオグリキャップに「もしかしたら……」と希望を持った。
出走直前、若き天才はこれまで幾度も勝負し、そして一度は共に勝った馬に「おい、お前『オグリキャップ』やからな」と喝を入れた。馬はそれに応えるかのように武者震いをしたという。
夢・期待・願い！
様々な思いが、幾重にも重なり、大きな声援となって、中山競馬場に響き渡ります！
17万人の大観衆の前を、今！ 第一コーナーに向かう16頭であります！
レースは逃げ馬ミスターシクレノンが出遅れ、先頭に立たされたオサイチジョージが消極的な逃げをうち、極端なスローペースで進行。凄まじい声援に各馬は動揺し、微妙にペースを狂わせていくが、オグリキャップは終始動じず、中団を進む。
そして第3コーナーで進出し、
直線で先頭に立ち、
200を切って、オグリキャップ、オグリキャップ、
さ ぁ 頑 張 る ぞ オグリキャップ!!
オサイチジョージ、ホワイトストーン、そしてメジロライアン！
オグリだ、オグリだ！ オグリキャップ！オグリキャップ――！
追撃してくるメジロライアン、ホワイトストーンを抑えてゴール線を駆け抜けたのであった。
オグリ１着! オグリ１着! オグリ１着! オグリ１着!
右手を上げた武豊! オグリ１着! オグリ１着!
見事に、引退レース、引退の花道を飾りました！
スーパー・ホースです！ オグリキャップです!!
後年、武騎手は「別に謙遜してるわけじゃなく、強い馬が走りやすいように走らせただけなんですよ」「奇跡でも何でもないと思う」と振り返っている。実際、出走馬には(当のオグリキャップも含めて)飛びぬけた実力を持つ馬はいなかった。展開が予期せぬ超スローペースになったことで、多くの馬が折り合いを欠く一方、オグリキャップは歴戦の経験と勝負根性を発揮し、最後まで力を温存できたのである。
しかし寒風の中を集った観客達にとっては、それは紛れもない「奇跡の復活」であった。オグリはまず勝てないだろう、無事帰ってきて、思い出を作ってくれればそれでいい。そう思っていた中山競馬場の18万余の観衆が、どよめき、揺れる。何とも言えない歓声は、いつしか「オ・グ・リ！ オ・グ・リ！」の満場の連呼となり、ウイニングランを行うオグリキャップを包んだ。「神はいる、そう思った」という後のJRAコマーシャルのコピーは、決して誇張ではないのだ。
第二次競馬ブームは波に乗っており、同年の日本ダービーでは日本競馬史上初めて、優勝したアイネスフウジンの中野栄治騎手を讃える「ナカノ」コールが響いた。そして暮れの有馬では、日本競馬史上初めて、優勝した馬を讃えるコールが起こったのである。このGI勝利馬・勝利騎手を讃えるコールは、新たな競馬文化として定着していくのだった。
駆けた全4万1100m。燃えた全41分16秒6。
あの有馬記念、あのマイルチャンピオンシップ。
無念の天皇賞、ジャパンカップ。そして復活の有馬記念。
数々の感動と記録を残して怪物はターフを去っていった。
心に刻み込まれた栄光と惜敗の全ドラマ。その感動は決して消えはしない。
オグリキャップ、これからも、そしていつまでも、
その名は心の中で永遠に走り続けていくだろう。
ありがとう。夢を、感動を、ありがとう。
引退後・余談
91年1月、引退。引退式は京都・笠松・東京の三か所で行われた。特に笠松では名古屋鉄道が特別編成列車「オグリキャップ里帰り記念号」を運行し、記念切符はほぼ完売。競馬場には当時の笠松町人口(2万3000)を超える2万5000＋入場制限で締め出された1万5000人もの観客が来場したという。ウイニングランを担当した安藤騎手は場外の土手や堤防に陣取ったファンのため、向こう正面ではスピードを落として走った。
引退後は種牡馬となり、産駒の活躍が期待されたが、7月に喉嚢炎を発症。9月には大量出血する危篤状態から何とか回復するが、この一件と合わせて初年度産駒たちが走らなかったこともあり、持ち込まれる繁殖牝馬の質は落ちていった。その後も目立った成績を上げることは出来ず、2007年に種牡馬を引退。
そして2010年7月3日、繋養中の転倒による複雑骨折により、安楽死処分がなされ、「芦毛の怪物」は天国のGIへと旅立っていった。同年の有馬記念開催日には、全レース終了後の中山競馬場において「最後のオグリコール」と銘打ち、あの90年有馬の上映会が行われた。レース中のライアンコールの多さよ。最初に叫んだ人タイミング早すぎだって！
また、笠松競馬ではその功績を讃え、1992年にオグリキャップ記念が創設された。
オグリキャップブーム
一頭の馬が走る。そして勝ったり負けたりする。それが競馬だ。そして、競馬ファンの前をたくさんの馬たちが通り過ぎていった。さまざまな記憶を残して。
だが、オグリキャップのような馬に出会うのは初めてのような気がした。地方出身の馬？ そんな馬はいた。強い馬？ そういう馬もたくさんいた。その周りの人間たちがさまざまなトラブルを起こす馬？ 残念ながら、そういう馬だって珍しくはなかった。
可愛い馬、カッコいい馬、おかしな癖のある馬、個性的な走りを見せてくれる馬、気まぐれな馬……でも、オグリキャップは、そのどれとも違っていた。
馴染みがなくともすれば「三流」とも評された血統、それまで活躍馬が少なかった葦毛、中央競馬より劣るとされる地方競馬出身……にも関わらず中央競馬の強豪たちを打ち倒し、さらにタマモクロス、スーパークリーク、イナリワンら強力なライバルと数々の名勝負を演じたオグリキャップ。当時の人々はその姿を自らに重ね合わせ、さまざまな感情を抱いた。その感情はバブル景気と共に膨らみ(そして爆発し)、第二次競馬ブームを巻き起こしたのは先述した通りである。その経済効果は、一説には兆円にも達するとまで言われる。
オグリキャップの影響力は「普段は競馬に縁のない芸能人がオグリの名前を口にし、競馬に興味を持たない主婦もオグリの名前は知っている」とされたほど。佐橋氏の会社から発売されたぬいぐるみも、その後JRAの「アイドルホースシリーズ」として愛される定番ブランドへ成長した。引退後も「オグリキャップに会ってみたい」というファンが馬産地を訪れるようになり、新たな観光需要を発掘するとともに、功労馬達の余生について考えられるきっかけにもなった。
第一次ブームは「競馬がスポーツとして認められた」というほどの動きがあったが、第二次ブームは「競馬がスポーツの域を超えた大衆娯楽になった」と評される。特に「オグリギャル」(ユタカギャルでもあった)と呼ばれた女性ファンを獲得したのは大きく、競馬場の客層を大きく変えることになった。
流石に現在は知名度こそ衰えたものの、それでも競走馬の人気ランキングでは常に上位にランクインする、関連書籍が出版される、パチンコの題材になる、NHKのドキュメンタリー番組[1]では競走馬はおろか人間以外で唯一主役として取り上げられる等、未だ人気サラブレッドとしての地位は揺らいでいない。近年では競走馬の擬人化美少女企画「ウマ娘プリティーダービー」やその漫画版が連載され、生誕40周年にその漫画版がアニメ化がされるなどから現実の競馬に触れたファンをも魅了し続けている。
その血の流れ
オグリキャップのサイアーラインは、上記の通り目立った成績を上げていないこともあり、2022年時点で極めて危機的な状況にある。
1992年に生まれたノーザンキャップ(現役時代は中央で未勝利勝ちと500万下を2勝したが、900万下では歯が立たず地方へ行くも勝てずに引退)が唯一の後継種牡馬であるが、2003年に用途変更されており、種付け自体2頭しかしていない。さらにその中で出生し血統登録に至ったのは、2001年生まれの牡馬・クレイドルサイアーただ一頭のみである。
クレイドルサイアーは門別で2戦したが掲示板に入ることすらなく、2005年に競走馬登録を抹消。2013年に種牡馬入りするが、血統登録に至れた産駒は2020年生まれの2頭の牡馬のみである(2015年にも生まれたが、生後1日半で死亡)。
そして2022年5月、その内の一頭たるフォルキャップが門別競馬場にてデビュー。致命的な出遅れをかましつつも4着に入る今後が楽しみな競馬を見せた。彼の今後に期待したい。
一方母父経由の血はまだ残っているため、そちら経由で栄える可能性は普通にある。
平成三強のイナリワンとスーパークリークは直接の後継種牡馬がおらず、すでにサイアーラインが断絶済み。芦毛のライバルであったタマモクロスのサイアーラインも、ウインジェネラーレ(2004年日経賞)が後継種牡馬になるも、2頭しか産駒がおらず(牡馬1頭牝馬1頭)、2011年に用途変更になっている。唯一の牡馬産駒であるタケノシマントは大井で2011年に2歳でデビューし1戦0勝後2012年には登録抹消済み。その後の行方は情報調査したが不明である。生きていて去勢されていなければ後から種牡馬にすることは可能だろうが…。
90年有馬こぼれ話
間違いなく日本競馬史上に残る伝説の名「場面」である90年有馬記念だが、フジテレビ実況で解説席に座っていた大川慶次郎は後日、レースを「お粗末な内容」と評した。何しろ走破タイムは同日同条件開催の条件戦(グッドラックハンデ)より遅かったのである。誤解なきよう付け加えるが、この発言はあくまでレース全体についての話で、別にオグリキャップを貶めているわけではない。推しのメジロライアンが負けたことに不貞腐れているわけでもない。はずだ。
各社中継の実況も、その全てが「名実況」として話題に上がる。
NHK実況の藤井アナは、最終直線ではおもわず立ち上がって実況していたという。
JRA公式実況であるラジオたんぱの白川アナは後年「『さあ頑張れオグリキャップ』と言いかけ、『特定の馬の応援はよくない』と瞬間的に思い直し、出てきた言葉が『さあ頑張るぞ』だった」と回想している。
フジテレビ実況のゴール前200m辺りでは「りゃいあん！らいあん！」の声が混ざっているが、これは慶次郎氏の発言。ただでさえオグリびいきの和彦アナが完全にオグリのことしか言わなくなったので、上がってきたメジロライアンを見落としているのではないかと叫んだそうな。そして和彦アナは武騎手が左手を上げているのに「右手を～」と実況しているが、これは双眼鏡で確認していた＝鏡像を見ていた(ことを踏まえた実況を忘れた)ためである。
馬券売上は当時のJRA記録となる480億3126万2100円を記録。これは約20万人が来場した同年の日本ダービーよりも多い。面白いことに、大多数の馬券師は予想を外したわけだが、それを差し引いても換金率は妙に低かったという。100円でオグリキャップの単勝馬券を購入したファン達は、それを550円に換金せず、記念品として持って帰ってしまったのだ(嘘か真かわからないが、とある女性ファンは100万円を突っ込んだにも関わらず換金しなかった……という取材記録
もある)。これをきっかけにJRAは勝馬投票券の小改革を行い、投票馬名の記載・当たり券のコピー・セット投票券「応援馬券」の販売というサービスを開始した。
稲葉牧場のせがれ・稲葉裕治氏は88年秋天の際、生産者代表として初めて現地観戦に向かい、2年ぶりにハツラツと再会した。結局オグリが負けたのは知っての通りだが、裕治氏はその後4回の現地観戦全てでオグリが負ける様を見せつけられ、すっかり「自分のせいかも」と気に病んでしまった。とうとう、裕治氏はラストランを牧場でテレビ観戦することにしたのだが、その結果、ゴールイン直後から鳴り響く祝いの電話と訪問者対応に忙殺されることになる(馴染みの獣医が最初に電話してきたが、どう考えてもゴールイン前にダイヤルしたとしか思えない早さだったという)。電話の主の一人である近藤オーナーはその嬉しい悲鳴を聞き「稲葉くん、やっぱり来なくてよかったよ」と笑って慰めた。
なお、稲葉牧場スタッフの代わりに生産者表彰台に立ったのは、この年中央馬主資格を取得していた初代オーナーの小栗孝一氏であった。
ウイニングランのオグリコールの後には「ユタカコール」もしっかり行われている。当時すでに武豊は「邦彦の息子」ではなく「ユタカとタケパパ」と逆転して呼ばれるほどの人気を得ていたが、このレース以降はアンチが激減し、取材に来るマスコミの雰囲気もどこか変わったという。あの場面であれほど完璧な騎乗をされては、最早叩きようがないというもの。邦彦師の決断は正しかったと言えよう。
武騎手はこのレースが有馬記念初制覇となるが、翌91年の有馬では一転して驚きの惜敗を喫し、以後16年間有馬勝利から遠ざかる。「失礼かもしれないけど、オグリよりもあの時のダイユウサクの脚のほうが『奇蹟』でしょう」と回想している辺り、よほどショックだったようだ。
もう、毎年、あの有馬記念の話を聞かれますね。そのとき生まれていなかった人からもよく聞かれます。初めてお会いした人からも、あのレースの、その人なりの思いとかストーリーをよく聞きますし
みんなオグリキャップが好きですからね
―武豊・26年後の回顧
血統表
父も母も芦毛馬なので、父父Native Dancerを由来とした芦毛なのか、母父シルバーシャークの母父母父父The Tetrarchを由来とした芦毛なのか、明言はできない。どっちにしてもNative Dancerの4代母の父かつThe Tetrarchの父であるRoi Herode由来の芦毛ではある。
関連動画
関連コミュニティ
関連項目
- 競馬
- 競走馬の一覧
- 主なライバルたち
- その他関係馬
- 稀代のアイドルホースたち
- 代表的な騎乗騎手
- 笠松競馬場：オグリキャップ記念
- ウマ娘 シンデレラグレイ：オグリキャップの史実をもとにした擬人化漫画
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|
| 競馬テンプレート |
|---|
| JRA賞特別賞 | |
| 優駿賞時代 | 1973 ハイセイコー(大衆賞) | 1978 テンポイント(マスコミ賞) | 1982 モンテプリンス(ドリーム賞) | 1983 アンバーシャダイ |
|---|---|
| JRA賞時代 | 1989 オグリキャップ | 1993 トウカイテイオー | 1995 ライスシャワー | 1998 サイレンススズカ | 1999 グラスワンダー、スペシャルウィーク | 2001 ステイゴールド | 2004 コスモバルク(特別敢闘賞) | 2007 ウオッカ、メイショウサムソン | 2009 カンパニー | 2016 モーリス | 2020 クロノジェネシス |
| 競馬テンプレート | |
脚注
掲示板
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464 ななしのよっしん
2024/04/10(水) 11:24:07 ID: xj65msKNf8
"先着"を勝ちとするならそうなるかな
ちなみにオグリに先着したまま
その後、競うことなく引退した馬（勝ち逃げ？した馬）としては
スーパークリーク（89年有馬が最終対戦で2着と5着）と
バンブーメモリー（90年秋天が最終対戦で3着と6着）と
サクラホクトオー（89年有馬が最初で最後の対戦）の3頭がいる -
👍1👎0
-
465 ななしのよっしん
2024/05/09(木) 11:03:50 ID: xj65msKNf8
昨日（5月8日）にオグリキャップ直系ひ孫のフォルキャップが2勝目をあげました
+40kgだった前走から好調を維持しての勝利なので
今までが痩せすぎで力を出せていなかったのだろうか -
👍0👎0
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466 ななしのよっしん
2024/09/06(金) 16:59:55 ID: JrxUVzSXN2
９０年の安田記念は２着ヤエノムテキ「1:32.7」、３着オサイチジョージ「1:32.8」も普通にすごいんだけど、誰も触れてくれない悲しさ。
オグリキャップという光が強すぎる。 -
👍0👎0
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