オースミハルカ(Osumi Haruka)とは、2000年生まれの日本の競走馬。鹿毛の牝馬。
数々の名牝を相手に、若武者・川島信二との逃げで沸かせた黄色いメンコの愛おしきお姫様。
主な勝ち鞍
2003年:チューリップ賞(GIII)、クイーンステークス(GIII)
2004年:クイーンステークス(GIII)、府中牝馬ステークス(GIII)
父フサイチコンコルド、母ホッコーオウカ、母父*リンドシェーバーという血統。
父はデビュー3戦目で1996年の日本ダービーを制した「音速の末脚」「和製ラムタラ」。種牡馬としての主な産駒にはオースミハルカと同期のダートの猛者ブルーコンコルドや、1歳上のGII番長バランスオブゲームなどがいる。
母は18戦未勝利だが、牝系を遡ると日本在来牝系の祖であるフロリースカツプに行き着く伝統の牝系。3代母トサモアーなので、牝系の近いところでは2021年大阪杯を勝ったレイパパレ(6代母トサモアー)がいる。
母父は1990年の朝日杯3歳Sでマルゼンスキーのレコードを更新したことで知られるアメリカ産馬。
半弟には新潟大賞典を2勝したオースミグラスワン(父グラスワンダー)がいる。
2000年4月2日、浦河町の鮫川啓一牧場で誕生。オーナーはナリタブライアン、ナリタトップロードなどの「ナリタ」冠で知られる山路秀則。山路オーナーは「オースミ」冠も併用していた。
「Haruka」と書かれた黄色いメンコがトレードマークで、レースを見ていてもたいへんわかりやすい馬であった。
栗東・安藤正敏厩舎に入厩し、2002年8月10日、札幌・芝1000mの新馬戦で、当時まだデビュー2年目、2kg減の見習騎手だった安藤厩舎所属の川島信二を鞍上にデビュー。3番人気だったが、3番手先行から抜け出し4馬身差の圧勝デビューを飾る。
その後は8月の芝1500mのクローバー賞(OP)、9月の芝1200mのすずらん賞(OP)と札幌の2歳オープンに出走するも、どちらも2番人気で3着。この連敗で10月の京都芝1400m・りんどう賞(500万下)では四位洋文に乗り替わり、-18kgと大きく体重を減らしながらここを先行策で勝利する。
この勝利で阪神ジュベナイルフィリーズ(GI)に出走。無傷の3連勝中のピースオブワールドが1.5倍の圧倒的1番人気で、2番人気からもう単勝10倍超という一強ムード。オースミハルカは名手オリビエ・ペリエが騎乗したこともあってか、11.1倍の3番人気に支持されたが、中団からレースを進めたもののごちゃついた中で位置取りを下げてしまい、特に見せ場なく7着に終わる。
明けて3歳となり、桜花賞を目指してトライアルのチューリップ賞(GIII)へ。安藤勝己が騎乗したここでは9.4倍の4番人気。1.7倍の圧倒的1番人気だったのは、あのスティルインラブであった。
中団から、スティルインラブとほぼ同じ位置でレースを進めたオースミハルカは、直線で外に出したいスティルインラブの横を完璧にブロックして抜け出す。仕掛けが遅れたスティルインラブの猛追をクビ差凌ぎきり、名手の手綱で重賞初制覇を飾った。
しかし、本番の桜花賞(GI)では、安藤勝己がヤマカツリリーに回ったためシンジはシンジでも川島ではなく藤田伸二が騎乗。18.2倍の5番人気に支持され、中団からスティルインラブを見る位置で進め、外を回して直線に入るも、伸びを欠いて6着。前走で破ったスティルインラブに完敗する。
続く優駿牝馬(GI)では藤田伸二が中京に行っていたため久しぶりに川島信二に手綱が戻ったが(ちなみに川島騎手はこれが安藤厩舎の馬でのGI初騎乗)、ベテランから実績のない3年目の若手に戻ったということもあり57.3倍の10番人気まで評価を落とす。中団から直線で内を突いたものの、特に見せ場はなく10着。スティルインラブの二冠達成を後ろで見送るばかりであった。
秋華賞を目指し、トライアルではなく敢えて古馬との戦いとなる8月のクイーンステークス(GIII)に向かったオースミハルカ。しかしこのレース、夏競馬のGIIIとは思えない豪華メンバーが揃っていた。
中でも1.4倍の圧倒的1番人気に支持されたのは、昨年の秋華賞とエリザベス女王杯を無敗のまま圧勝、有馬記念での初黒星から8ヶ月ぶりの復帰戦となるファインモーション(武豊)。さらに2番人気は2年前の二冠牝馬テイエムオーシャン(本田優)。3番人気にも重賞4勝の実力派・ダイヤモンドビコー(松永幹夫)がいて、4番人気には同期の桜花賞・オークス4着馬ヤマカツリリー[1](安藤勝己)である。このメンバーの中ではさすがにオースミハルカ&川島信二のコンビは桜花賞・オークスの結果にしろ鞍上にしろ、見劣りすると見られたのは仕方ない。1~3番人気が58kgや59kgの中、52kgの軽ハンデにもかかわらず、単勝35.2倍の11頭立て7番人気であった。
しかしこのレースから、オースミハルカと川島信二の物語が始まった。
レースが始まる。内枠からファインモーションが好スタートを切るが、真ん中から押してハナを主張していく馬がいる。黄色いメンコとピンクの勝負服、川島信二とオースミハルカである。
向こう正面で最内のダイヤモンドビコーを制してハナを確定し、逃げ体勢に入ったオースミハルカ。これまで好位差しで結果を出してきた馬に対して、実績のない鞍上がこの強敵相手に初めての逃げの手である。馬券を握ったファンが「暴走かよ」と疑ったのも無理はない。
しかし川島騎手は、ハナを取り切るとペースを緩め、狙い澄ましたように1000m61秒4のスローな楽逃げに持ち込んだ。札幌の短い直線に入っても、オースミハルカの脚は止まらない。中団からファインモーションとテイエムオーシャンが猛然と追いかけてきたが、最後はクビ差ファインモーションを凌ぎきって1着でゴール板を駆け抜けた。
錚々たる面々を相手に、見事にしてやったりの逃げ切り勝ち。とはいえこのレース、この時点では一般の競馬ファンにとっては「オースミハルカが勝ったレース」ではなく「ファインモーションが負けたレース」だったことは否めない。そしてファインモーションはこの後苦闘が続くのだが、それについてはファインモーションの記事に譲る。
川島信二はこの年の2月にマイネルブラウで小倉大賞典を勝ったのに続く重賞通算2勝目を挙げ、この勝利によって川島はこれ以降、1戦を除いて引退までオースミハルカの手綱を取ることになる。
さて、古馬相手に大物喰いを果たしたオースミハルカ。これで評価もうなぎ登り、若武者とともに逃げ馬として覚醒……したかというと、そうでもなかった。人気薄がノーマークの逃げで穴を開けるというのは、競馬ではわりとよくあること(わかりやすい例:2009年エリザベス女王杯)。しかもファインモーションより6kgも軽いハンデでクビ差では、実力よりも展開勝ちと見るのが普通である。
迎えた秋華賞(GI)では単勝13.7倍の6番人気。人気は上がったとはいえ、勝ち負け有力とまでは見られていない評価である。競馬ファンの見方はシビアであった。そして実際、スタートで出負けして逃げられず、中団からメイショウバトラーと馬体を併せて前に食らいついたものの6着まで。前2戦よりは差を縮めたが、三冠を達成したスティルインラブとの0.3秒差は高い壁だった。
続いて向かったエリザベス女王杯(GI)では51.2倍の11番人気。秋華賞の轍は踏まぬと2番の内枠から好スタートを切るも、メイショウバトラーがそれを制するように前へ行き、さらに大逃げ馬に転向していた前年のオークス馬スマイルトゥモローが外からそれをかわして大逃げを仕掛け、オースミハルカはメイショウバトラーを見ながら3番手につける。3コーナーでメイショウバトラーが早くもスマイルトゥモローを捕まえるが、オースミハルカは4コーナーでそのメイショウバトラーを捕まえて、直線入口で先頭に抜け出した。そのまま後続を突き放して押し切りを図ったが、残り200mで外からアドマイヤグルーヴとスティルインラブの壮絶な追い比べに捕まり、最後は失速して沈み9着。
レース後、右第1指骨の剥離骨折が発覚。休養に入ることになった。
半年休み、明けて4歳、6月の愛知杯(GIII)で復帰。12.1倍の6番人気。ここでは逃げたアインクライマーを2番手で追いかけたが、このときのアインクライマーの逃げは稍重の牝馬限定2000m戦で1000m通過が57秒6という破滅的超ハイペース。故障明け初戦でこのペースに付き合ってしまってはさすがにレースにならず、3コーナーまで保たず後退、あえなく大きく離されたシンガリ負け。
続く7月の米子ステークス(OP)では川島騎手が同日の函館スプリントステークスで同じ安藤厩舎のタイセイブレーヴに乗っていたため、秋山真一郎がテン乗り。ここは逃げを打ち、追ってきたチャペルコンサートに半馬身差されたものの2着に粘った。
鞍上が川島騎手に戻り、乗りこんだのは連覇のかかるクイーンステークス(GIII)。この年の秋から導入される3連単の先行発売でも話題になったこのレース、1番人気(3.8倍)はこの年牝馬限定重賞を2勝していた同じオースミ冠の先輩オースミコスモ。2番人気(5.4倍)は愛知杯・マーメイドS連続2着のチアズメッセージ。3番人気(6.7倍)は前年の2歳女王で、桜花賞3着・オークス5着から巻き返しを図るヤマニンシュクル。混戦模様の中、オースミハルカは8.8倍の5番人気だった。
前年同様、真ん中の枠からハナを切ったオースミハルカは、1000m通過60秒フラットの平均ペースで後ろを離して逃げていく。昨年も勝った札幌の地、このペースで楽逃げできれば彼女の脚は止まらない。直線でも後続を突き放して逃げ、最後は6番人気エルノヴァの猛追をクビ差振り切ってゴール板を駆け抜けた。
昨年同様の展開で連覇達成。今回は斤量も2着馬と同じ55kg、ノーマークの一発とは言わせない鮮やかな勝利であった。ちなみに3連単は71,170円の中波乱といったところ。
続いて向かったのは10月の府中牝馬ステークス(GIII)。ここでは久しぶりにあの馬と再会する。そう、古馬となってからは苦戦が続いていたスティルインラブである。とはいえ古馬となっての3戦は全て混合戦だし、さすがにここでは三冠牝馬、牝馬限定戦ならばと2.9倍の1番人気。
一方オースミハルカはというと、前走の鮮やか逃げ切りで人気も……やっぱり特に上がってはいなかった。11.4倍の5番人気。前走で2着に負かしたエルノヴァが2番人気だったので、やっぱり逃げ切りよりも、届かずとも後ろから末脚を見せた方が評価されるのは競馬の常である。しかも同じ逃げ馬のメイショウバトラー(3番人気)がいたので、前走のような楽逃げはさせてもらえないだろうとも見られたのは致し方なしか。
1枠1番から好スタートを切ったオースミハルカだが、大方の予想通り、大外枠からメイショウバトラーがハナを主張する。そのままメイショウバトラーが後ろを離して逃げ、オースミハルカは2番手でそれを追う。4コーナーで3・4番手にいたトシザダンサーとチャペルコンサートが迫ってきて、直線入口でチャペルコンサートに並びかけられる。このまま後続に呑まれるか――と思われたが、ここからがオースミハルカの粘り腰。逆に残り300mでチャペルコンサートを振り落とし、内で逃げ粘るメイショウバトラーを追いかける。間からはスティルインラブが追ってくるが譲らない。
最後の200m、オースミハルカとメイショウバトラーと必死の追い比べに、スティルインラブは追いつけない。メイショウバトラーと2頭、完全な横並びでゴール。実況もメイショウバトラーの逃げ切りかと思うほどの僅差だったが、僅かにオースミハルカがハナ差で差し切っていた。
逃げられなくても勝てることを示し、三冠牝馬を打ち破って重賞連勝。いよいよオースミハルカは、ビッグタイトル獲りに名乗りを挙げた。そう、エリザベス女王杯である。
1979年開業の安藤厩舎はこの年開業26年目。安藤師は騎手時代も含め、未だGIを勝ったことがなかった。オースミハルカで挑むエリザベス女王杯は、師にとっても騎手にとっても、悲願のGI制覇へ千載一遇の機会と言えるものだったのだ。
しかしそれ以上に、安藤師と川島騎手にとって、エリザベス女王杯は特別なレースだった。
それには、ひとりの先輩騎手の存在がある。
その名は、岡潤一郎。
安藤厩舎に所属した彼は、1988年の新人最多勝を獲り、武豊のライバル候補として将来を嘱望されながら、1993年の落馬事故で、24歳の若さで世を去った。その岡騎手が生涯唯一勝ったGIが、リンデンリリー(安藤厩舎ではなく野元昭厩舎の馬)で制した1991年のエリザベス女王杯である。
そして川島騎手は、安藤厩舎に入ったその日に安藤師から一本の鞭を渡された。岡騎手の形見の鞭である。それ以来、川島は岡のような騎手になることを目標にしてきた。
厩舎の亡き兄弟子が勝ったレースを、その鞭を託された弟弟子が、厩舎の馬で勝ち、師に初GIを贈る。完成させることができれば、これほど美しい物語もない。
オースミハルカでエリザベス女王杯を勝つということは、ただのGIタイトルではない。川島騎手にとっても、安藤師にとっても、特別な意味を持っていたのである。
迎えたエリザベス女王杯(GI)。勢いに乗る秋華賞馬スイープトウショウ、秋天3着から中1週で乗りこんできた連覇を狙うアドマイヤグルーヴ、復権を目指す三冠牝馬スティルインラブが人気を分け合い、オースミハルカは16.0倍の5番人気。重賞連勝してもなお、彼女の力を競馬ファンが図りかねていたことが窺えるオッズである。
レースは例によって好スタートを切ったオースミハルカを制して、メイショウバトラーがハナを主張して大きく逃げる。オースミハルカはそれを5馬身ほど離れて単独の2番手で追う、府中牝馬Sとほぼ同じ展開。直線に入っても粘るメイショウバトラーを、馬場アナにオースミコスモと言い間違えられながら追いかけるオースミハルカ。
残り200m、メイショウバトラーを捕まえ、先頭に立つ。
だがそこで、外から猛然と襲いかかってきたのが、武豊とアドマイヤグルーヴだった。
必死に粘るオースミハルカだが、武豊が完璧な騎乗をしたアドマイヤグルーヴの勢いに屈し、3/4馬身差で悔しい2着。川島騎手の騎乗にミスはなく、こればかりはもう相手が上だったと言うしかなかった。
エリ女の力走で競馬ファンもようやく「オースミハルカは強い」と認めたようで、続く12月の阪神牝馬ステークス(GII)ではついに4.4倍ながら生涯唯一の1番人気に支持される。しかもこのレース、またもメイショウバトラーと一緒だったが、これまでの武幸四郎から武豊に乗り替わったバトラーが番手に控えたため、オースミハルカは単騎で逃げる体勢に持ち込む。これは彼女のペース……かと思われたが、川島騎手とでは桜花賞以来のマイルでは自分のペースを作れなかったか、それともエリ女の疲れが残っていたか、直線残り200mまで先頭で粘ったもののそこで追ってきた集団に捕まり9着。
明けて5歳は4月の福島牝馬ステークス(GIII)から始動。5.9倍の3番人気。トップハンデ58kgを背負うことになり、中舘英二のオルレアンが逃げたのもあって3番手からのレースとなったが、直線で抜け出したメイショウオスカルに突き放されての4着。
しかもこの後深管骨瘤を発症。半年休むことになり、クイーンステークス3連覇は挑むことすら出来ずに終わってしまった。
10月、連覇を目指し府中牝馬S(GIII)で復帰。7.7倍の4番人気。内枠からハナを切って単騎逃げに持ち込み、直線でも残り200mまで粘ったが、ヤマニンアラバスタの末脚には置いていかれ、マイネサマンサにもかわされて3着。
そして迎えた3度目のエリザベス女王杯(GI)。秋華賞馬エアメサイアと、牝馬として39年ぶりに宝塚記念を制したスイープトウショウが人気を分け合う中、オースミハルカは16.4倍の5番人気。生涯最高と言える状態で当日を迎え、レース前から堂々と逃げ宣言をして臨んだ川島騎手とオースミハルカだったが、前走を考えると単なる単騎逃げでは、おそらく末脚自慢のスイープトウショウには敵わない。
ならばどうするか?
川島騎手の出した答えは明快だった。
――だったら、どんな末脚でも追いつけないほどの差をつける。
レースが始まる。最内の1枠1番から川島騎手がグイグイ押していつも通り前に出て行くオースミハルカ。そこまでは誰もが予想した展開。だが2コーナーを越えて向こう流しに入る頃には、京都競馬場の歓声はどよめきに変わっていた。
そこには、後続を10馬身以上突き放して逃げる黄色いメンコとピンクの勝負服の姿。乾坤一擲、オースミハルカでエリザベス女王杯を勝つ――川島騎手と安藤師の夢を乗せた、一世一代の大逃げだった。
しかも川島騎手は後続を大きく突き放したところで一度ペースを緩め、1000m通過は60秒フラット。決してハイペースではない、オースミハルカにとっては楽逃げのペース。まさに会心、これ以上ない完璧な逃げである。
道中、マイネサマンサが掛かり気味に追いかけてきたが、オースミハルカは気にすることなく悠々と単独で逃げる。そのまま後続を大きく突き放して直線へ。オースミハルカの脚は止まらない。
エアメサイアはまだ後ろの方だ! エアメサイアはまだ後ろの方だぞ、これで届くのか武豊!
先頭は完全に、オースミハルカ、あと300m、今年はついに逃げ切るか!?
残り200mのハロン棒を過ぎたとき、まだアドマイヤグルーヴもスイープトウショウも5馬身は後ろにいた。
勝った。オースミハルカが逃げ切った。おそらくこのとき、レースを見ていたほとんど全ての人がそう思ったはずだ。そのぐらいに完璧な、芸術的な逃げだった。
これ以上はない。後ろは届かない。届くはずがない。それこそ、魔法でもない限り――。
だが。
川島騎手の夢も。
安藤調教師の願いも。
オースミハルカの、生涯最高の逃げも。
全てを吹き払うような、魔法のような末脚で。
大外から、1頭の馬が飛んできた。
……もう、このレースに関してはこれ以上語ることはない。あとはレース映像を見て欲しい。
何度見たってオースミハルカが逃げ切るはずのレースである。結果を解っていても、見直すたびに今度こそオースミハルカが逃げ切るんじゃないかと思ってしまうのは筆者だけではないと思いたい。
若武者の夢を乗せた乾坤一擲の神騎乗を、情け容赦なくぶった斬るツンデレ魔女の鬼脚。
2005年エリザベス女王杯は、もっと評価されるべき名レースだと筆者は思う。
オースミハルカはその後、これまでずっと重賞では牝馬限定戦のみを走ってきたところ、なんと有馬記念(GI)に挑みタップダンスシチーを2番手で追ったが、4コーナーで沈みブービー15着。
明けて6歳、引退レースとして京都牝馬ステークス(GIII)に臨んだが、59kgという酷量を背負わされては逃げることもままならず8着に敗れ、現役を引退した。
通算22戦6勝、重賞4勝。結局、大きな夢には届かなかったが、若武者・川島騎手とのコンビで一度ならず二度までも、エリザベス女王杯で見せた渾身の走りは多くのファンの心に刻まれた。川島騎手は彼女を「ハルちゃん」と呼び「お姫様のようです」と溺愛し、引退後も毎年浦河まで会いに行くという。
川島騎手によると、「気が強過ぎるところがあって、並んで走ると気持ちを前に出し過ぎてしまう」性格だったというオースミハルカ。調教でも追い込みすぎると坂路の途中でも止まってしまい、それ以上の調教を拒否したりすることがあったらしい。
逃げ馬といってもいろいろある。持ち前のスピードやスタミナで他馬をすり潰すハイペース逃げ、緩急自在にペースを操る幻惑逃げ、玉砕覚悟の破滅逃げ。オースミハルカの逃げは、素直に、最も走りやすいスタイルを求めた結果としての、ケレン味のない逃げだった。だから府中牝馬Sのように、前に馬がいても単独で、自分のペースで走れさえすれば強かった。そういう逃げ馬だったからこそ、2005年エリザベス女王杯の大逃げの乾坤一擲ぶりが際立つのだ。
黄色いメンコを煌めかせて、相手が誰であろうとも、自分のペースで軽やかに逃げたオースミハルカ。愛おしき、忘れがたき逃げ馬である。
引退後は、故郷の鮫川啓一牧場で繁殖入り。11頭の仔のうち8頭には川島騎手が一度以上騎乗しており、獲得賞金上位2頭は川島騎手が主戦を務めた。第3仔オースミイチバン(父アグネスタキオン)は2012年の兵庫チャンピオンシップ(JpnII)と2013年のダイオライト記念(JpnII)と交流受賞を2勝している。
特に後者では、単勝45.9倍の6番人気の身で初めての逃げを打ち、単勝1.2倍の圧倒的1番人気だったハタノヴァンクールを鮮やかにクビ差完封しての逃げ切り勝ち。「大物喰い」と言われた母の血を思い起こさせるレースだった。
母と違って仔はダート馬だったが、川島騎手はオースミハルカもダート適性があると見ており、現役時代、安藤師に「ダートを使った方が良いですよ」と進言していたそうである。結局実現することはなかったわけだが、もしハルカがダートを走っていたら、はたしてどうなっていただろうか? まあ当時はJBCレディスクラシックなんて無かったのだけれども……。
2021年、第11仔ナリタマフディー(父レイデオロ)を産んだのを最後に繁殖牝馬を引退。まだ存命だった母ホッコーオウカと一緒に功労馬として余生を過ごすことになった。
母ホッコーオウカは娘と一緒に暮らす時間を過ごして満足したかのように、2022年9月、29歳で大往生。オースミハルカも母のように長生きしてもらいたいものである。
川島騎手はその後、2007年の安藤師の勇退によりフリーとなる際、岡騎手の鞭をもらい受け、今もお守りとして大事にしているという。
そして2024年2月、川島騎手は結局GIを勝てないままに現役を引退、調教助手に転向することとなった。JRAでの最後の騎乗週には、オースミハルカ最後の仔ナリタマフディーにも騎乗した(残念ながら12着だったが)。つくづくあの2005年エリザベス女王杯を勝てていればなあ……。
そんな川島信二元騎手が調教助手として所属することになったのは栗東の庄野靖志厩舎。その庄野厩舎が2024年の牝馬クラシックに送り出したのが、何の因果かスイープトウショウの孫・スウィープフィートである。奇縁というか、なんというか。
川島調教助手のキャリアはまだ始まったばかり。いつかまた、川島調教助手が手掛けたオースミハルカの血を引く馬が、大物喰いや大一番での乾坤一擲の走りをする姿を見たいと筆者は思う。
フサイチコンコルド 1993 鹿毛 |
Caerleon 1980 鹿毛 |
Nijinsky II | Northern Dancer |
Flaming Page | |||
Foreseer | Round Table | ||
Regal Gleam | |||
*バレークイーン 1988 鹿毛 |
Sadler's Wells | Northern Dancer | |
Fairy Bridge | |||
Sun Princess | *イングリッシュプリンス | ||
Sunny Valley | |||
ホッコーオウカ 1993 鹿毛 FNo.3-l |
*リンドシェーバー 1988 鹿毛 |
Alydar | Raise a Native |
Sweet Tooth | |||
*ベーシイド | Cool Moon | ||
Polondra | |||
ランズプロント 1974 鹿毛 |
*プロント | Prince Taj | |
La Caravelle | |||
トサモアー | トサミドリ | ||
第三スターリングモア |
クロス:Northern Dancer 4×4(12.50%)、Nearctic 5×5×5(9.38%)
掲示板
4 ななしのよっしん
2024/04/12(金) 03:38:49 ID: h0q5x/BT3P
その引退した相棒の川島信二が調教助手として初めてGⅠ戦線に挑むのがよりにもよってスイープトウショウの孫のスウィープフィートだというのがまた凄い巡り合わせ。しかもエリザベス女王杯で優勝を阻んだアドマイヤグルーヴの鞍上だった武豊と。
5 ななしのよっしん
2024/09/09(月) 19:10:03 ID: nTQXJzcy5l
> 1979年開業の安藤厩舎はこの年開業26年目。安藤師は騎手時代も含め、未だGIを勝ったことがなかった。
その後読むと岡潤一郎騎手でエリ女杯勝ってたんじゃないんすか??
6 ななしのよっしん
2024/09/09(月) 19:18:26 ID: 3JXWS9EH9e
>>5
岡潤一郎がエリ女勝ったリンデンリリーは安藤厩舎じゃなくて野元昭厩舎の馬なんよ
急上昇ワード改
最終更新:2025/04/29(火) 03:00
最終更新:2025/04/29(火) 03:00
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