カサブランカ(スペイン語CasablancaあるいはCasa Blanca、ポルトガル語CasabrancaあるいはCasa Branca)とは、「白い家」をあらわす言葉である。
転じて、以下のものもあらわす。
第二次世界大戦中の、フランスの植民地であったモロッコの都市カサブランカを舞台にしたラブロマンス映画。
「君の瞳に乾杯」などの数々の名セリフでお馴染みだが、セリフとシチュエーションばかりパロディされて、本作を知らない若者も結構いる。
既に著作権が切れているため、パブリックドメインとなっている。
名作として知られ、アメリカで名作映画ランキングなどの企画が行われた際には大抵かなり上位にランク入りする。アカデミー賞も複数受賞している。
第二次世界大戦当時の世相を反映してドイツ軍やヴィシー政権は悪役として描かれ、反独のレジスタンス活動を礼賛した内容となっている。アメリカ合衆国のプロパガンダ映画と見なされる場合もある。
ヴィシー政権の支配地、すなわち敵地であるカサブランカで撮影するわけにはいかないため、ほぼすべての映像はアメリカ国内で撮影されている。そのため史実に照らすと不正確なシーンもあり、例えば第二次世界大戦中のカサブランカには本当はドイツ軍兵士は駐留していなかったようだ。
リック・ブレイン:ハンフリー・ボガート
イルザ・ラント:イングリッド・バーグマン
1941年のカサブランカ。この街はドイツに敗北したフランスで誕生した親独政府「ヴィシー政権」の領土となっており、ドイツ軍兵士も駐留していた。だが市内では反ナチのレジスタンスも活動しており、緊張状態にあった。
カサブランカで高級ナイトクラブを経営するアメリカ人、リック。エチオピアやスペイン内戦での反ナチ活動に手を貸していた過去もあるが、それも金のためだったとうそぶいている冷たい男だ。彼に惚れた女が「昨日はどこに居たの?」と聞いても「そんな昔のことは忘れた」と答え、「今夜会える?」という問いには「そんな先のことはわからない」と答えるなど、誰からも一歩引いたようなそっけない態度をとっている。
仕事柄、闇商人のような人間とも付き合いを持つリックは、ある事件に巻き込まれた結果、偶然にも中立国のポルトガルまで脱出することができる通行証を二枚手に入れた。そんな折、リックの店に思いがけぬ客がやってくる。リックがパリに居た頃に愛しあった昔の恋人、イルザである。
だが彼女は夫を連れていた。しかもその夫はチェコの対独レジスタンスのリーダーで、夫婦はリックの持つような通行証を手に入れてアメリカに亡命するためにカサブランカに来ていたのだ。ドイツ軍はそれを阻むべく、地元の警察署長にも命じて警察官にイルザの夫を逮捕させようとするなど、彼らを陥れるために動き出していた。
イルザは店のピアニストに、パリ時代によくリックと聞いていた曲「時の過ぎ行くままに」をリクエストする。ピアノ演奏が流れる中、リックは彼女と過ごしたパリでの思い出を回想する。
憂いを秘めた女性イルザと出会い、恋に落ちたこと。『君の瞳に乾杯』と愛の言葉をささやいたこと。
だが、その日々は苦い結末を迎える。反ナチの活動に関わっていたリックは、イルザとともにドイツ軍の迫るパリから脱出しようとした。しかし彼女はパリ陥落の際に待ち合わせの場所には来ず、別れの手紙だけを残して彼の前から消えたのだった。
回想を終えて、リックの店。夫は連れずに改めて一人だけでリックの元を訪ねてきたイルザだが、リックは彼女を詰って追い返してしまう。いまだ消えぬ彼女への愛と、それだけに深く負った心の傷に苦しむリック。彼が反ナチの熱い正義感を持つ青年から現在のような冷たい男に変わった原因も、あのイルザとの別れにあったのだ。
イルザの夫は裏社会のつてから情報を得て、リックが通行証を持っていることを知った。そして、彼も一人でリックの店を訪れ「通行証を買い取りたい」と申し出る。だがリックはそれを拒否し、理由はイルザに聞いてみろ、と冷たく突き放した。
その時、二人が気付くと、店に居たドイツ兵士がドイツ軍歌「ラインの守り」を合唱していた。これに憤慨したイルザの夫は、店のバンドにヴィシー政権から禁止されている本来のフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」の演奏をリクエストした。バンドに判断を請われたリックは、なんとこれを了承する。
リックもまたイルザとの出会いをきっかけに、パリに居た頃に持っていた反ナチの情熱を再び燃えたたせはじめたのだ。イルザの夫が一人で果敢に「ラ・マルセイエーズ」を歌いだすと、徐々に他の客も歌いだし、ついには合唱でドイツ軍人たちを退ける。
その後、ドイツ軍に閉店させられてしまい閑散としたリックの店に、イルザが一人で訪問した。夫からリックが通行証を持っている事、そしてリックがそれを売るのを拒んでいる事を聞いたのだ。彼女もまたリックに通行証を売ってくれるように請うが、やはりリックは断り続ける。業を煮やしたイルザはリックに銃を突き付けるが……撃つことはできなかった。彼女はリックの事をまだ愛していたのだ。リックはイルザを抱きしめ、口づけを交わす。
彼女は自分の気持ちや、なぜ彼を元から何も言わずに消えたのかという事情を告白し出す。パリでリックと出会って愛し合ったときには夫が死んだものと誤解していたこと、夫が生きていると知った時には彼の元へと急ぐことしかできなかったこと、その事を打ち明けるとリックもパリに残ってしまい危険に晒すと考えたために話せなかったこと。
イルザの本心を耳にしたリックの心からは、わだかまりは消え去った。そしてイルザは再び燃え上がったリックへの愛から目をそらせなくなり、もう貴方から離れられないと告げた。
イルザは、今後どうすべきかという全ての考えをリックに委ねる。リックはそれを引き受けつつ、パリで囁いたあの愛の言葉を今またイルザに投げかけた。
「君の瞳に乾杯」
イルザが帰ったのち、レジスタンスの集まりに出席していた時に追手に襲撃されて怪我を負ったイルザの夫がリックの店に逃げ込んできた。リックはイルザの夫の手当てをしながら、彼と対話する。
レジスタンス活動について冷めた口調で話すリックに対し、イルザの夫はリックが本心を偽っていることを指摘し、そして自分と同じ女性を愛している事に気付いているとも明かした。そして、自分は置いて行ってもよいので、イルザと一緒にカサブランカから脱出して欲しいとリックに頼む。
次の日。通行証を渡すとしてイルザと夫を店に呼び出したリック。だが、リックは事前に、ドイツ軍に協力している地元の警察署長を呼んでいた。リックが裏切ったかと思い驚愕する二人だが、リックは警察署長に銃を向けて脅迫して、イルザとイルザの夫の脱出の手はずを整えさせた。
署長とともに四人で空港に着き、署長とイルザの夫が搭乗の手続きをしている間に、イルザとリックは二人きりで最後の会話を交わす。戸惑っているイルザに対し、夫とともに脱出するように諭すリック。昨晩イルザに委ねられた通り今後についてよく考えた結果、それが一番イルザのためによいという結論に至ったのだ。
それでも迷うイルザにリックは「僕たちの心の中にはパリの思い出があるじゃないか」と言い、自分はイルザの思い出とともにここに残り、レジスタンス活動をすることに決めたことを伝える。そして俯くイルザに顔を上げさせ、これで本当に最後となる愛の言葉を告げた。
「君の瞳に乾杯」
夫婦がポルトガル行きの飛行機で発った後、イルザの夫を追っていたドイツ軍の将校が空港に駆けつける。リックは将校を射殺した。その光景を見ていた警察署長はしかし、駆け付けた警官隊にリックの犯行を告発しなかった。ドイツ軍に協力させられている署長だが、彼もまた実はヴィシー政権やナチスドイツに反感を募らせていたのだ。
署長はミネラルウォーターを飲もうとするが、ヴィシー産であったことに気付いて瓶を投げ捨てた。そしてリックに、カサブランカから離れてレジスタンス組織と合流することを提案する。
リックと署長、反ナチの闘志を共に抱く二人の男たちは、今後の手はずを相談しながら空港を立ち去る。彼らの今後の友情と共闘を予感させるように、霧の空港の中を二人が並んで歩く後ろ姿で映画は幕を閉じる。
モロッコの都市を舞台とした物語であるからと言って、モロッコ人の前でこの映画の話題を出すことには慎重になったほうがよいかもしれない。
この映画は上述のように1シーンたりともモロッコで撮影されていないし、登場人物や役者にはアラブ人はほぼ居らず、主要登場人物全員がヨーロッパ人かアメリカ人ばかり。話す言葉も英語。
また、ヴィシー政権になる前からフランスがモロッコを植民地支配していたことについては作品中で何の葛藤も示されない(ちなみにモロッコは第二次世界大戦終戦後に、フランスやスペインとの闘争・交渉を経て独立している)。
これらの点からみて、モロッコ人から見ればなかなかコメントしづらい映画であろう。
ただ、さすがに古い映画なので現在のモロッコ人はそもそもこの映画を知らない可能性も高い。過去には現地カサブランカのホテル「ハイアット・リージェンシー・カサブランカ」内に「バー・カサブランカ」という映画内のリックの店をイメージしたバーがあったが、時代の流れで無くなってしまっている。
しかし2004年には、この映画に影響されたアメリカ人女性が、やはりリックの店をイメージしたピアノバー「Rick’s Café」をカサブランカの市街に開店していたりもする。ただしモロッコ人向けと言うより欧米や日本からの観光客向けのようだが。
本作でリックが何度か使用する台詞、「君の瞳に乾杯」。原語では「Here's looking at you, kid.」。印象的な名台詞として有名である。
「Here's looking at you, kid.」を単語を一つ一つ拾って直訳すると「ここに君を見つめながら」とでもなろうか。「kid」は「子供」という意味の単語として有名だが、年下の相手への呼びかけの言葉でもあるため、この場合は訳さない、あるいは「you」とあわせて「君」に含めてよいと思われる。
このように単語一つ一つに分解して直訳した場合は「乾杯」を意味する言葉が出てこない。そのため「雰囲気優先でいい加減な翻訳をしたのか?」と疑う人も居るかもしれないが、そうではない。
「Here is~(Here's~)」は乾杯の時に使われる慣用句であり、「~」に対して乾杯する、という趣旨で使われるのだ。例えば「Here is luck.」とは直訳すれば「ここに幸運があります」となってしまうが意味合いは「幸運を祈って(乾杯)」であるし、「Here's to your health.」の意味合いは「あなたの健康に(乾杯)」である。このあたりは「Here's To You」の記事も参照されたい。
「ここ(here)」とは単なる場所を指すのではなく、「乾杯しているメンバーらが会しているその場」を指しているともとれる。日本語でも「ここに誓う」という慣用句がある。この場合の「ここ」も単なる物理的な「場所」ではなく、「その誓いをしている本人やその誓いを聴いている者たちが会しているその場」であることが重要であり、なんとなく乾杯の際の「here」と用法が似ているかもしれない。
よって「Here's looking at you, kid.」は「君を見つめながら乾杯」あるいは「君を見つめることに乾杯」という意味合いとなる。しかしこれでもまだ少し固すぎてロマンスの場面には馴染まない。恋人同士が互いに見つめ合うときは、もちろん相手の瞳を見つめていることだろう。つまりリックはイルザの瞳を見つめることについて乾杯しているわけだからして、「君の瞳に乾杯」と翻訳されうるわけである。
なお、このフレーズ「Here's looking at you.」はこの映画が初出というわけではない。本作以前の使用例も複数存在している[1]。
掲示板
8 ななしのよっしん
2019/09/24(火) 21:03:01 ID: 1eXk3hMB56
よくよく考えるとストーリーとか色々どうなん?だけど
役者とキャラの魅力だけでその辺全部帳消しどころかお釣りが来るレベルになる映画。
9 ななしのよっしん
2020/04/12(日) 14:48:09 ID: WYTCsL6LgR
関連項目に、『カサブランカ(アズールレーン)』の追加を提案します(リダイレクト元記事として、ご登録頂いたばかりですが)。
パロディやオマージュは数多かれど、彼女は映画鑑賞(特にラブロマンス)が趣味という設定のみならず、ボイスとして『イルザ』の存在に言及し、彼女が体験した三角関係と自分と指揮官との片思い関係を対比させる、内容になっています。
以上、皆様宜しく合意形成の上で今後の更新に反映させて頂ければ何よりです。
10 ななしのよっしん
2022/08/04(木) 00:09:43 ID: m5y4OdhCe7
>>8
ぶっちゃけ、脚本が若干破綻気味・・・(撮影現場もラストシーンをどう撮るかとかで混沌としてたらしいが)
だが、ハンフリーボガードとイングリッドバーグマンをここまで素敵に撮った映画も他にないだろうね。
Here's~は、往年の映画ファンにはお馴染みの高瀬鎮夫さんの名訳。この方は本当に天才的だったと思う。(この方も第二次大戦に縁があり、通訳として従軍して英語力を鍛えたらしい)
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最終更新:2025/06/14(土) 23:00
最終更新:2025/06/14(土) 23:00
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