キャリートレードとは、二国の実質利子率の差に着目して国際的投資を行うことをいう。キャリー取引ともいう。
キャリートレードとは、国際的資本移動が自由化されていて実質利子率が低い国で資金を借り入れ、その資金を外国為替市場で両替し、国際的資本移動が自由化されていて実質利子率が高い国で国債や社債や株式を購入する行為であり、二国の実質利子率差を利用した国際的投資の行為である。
ある時点で日本の名目利子率が2%で期待インフレ率が1%で実質利子率が1%であり、米国の名目利子率が3%で期待インフレ率が1%で実質利子率が2%であるとする。
このとき日本で6ヶ月ほど円を借り、外国為替市場で円売りドル買いをして米ドルを入手し、米ドルで6ヶ月先に償還期日が到来する米国債を買う。こうするだけで実質利子率の差による儲けを得ることができる。
もう少し度胸がある投資家なら米国企業が発行していて6ヶ月先に償還期日が到来する社債を買う。米国企業社債は米国債よりも債務不履行リスクがあるが、それに応じて利回りも高い。
6ヶ月経ったら米ドルで米国債や米国企業社債の償還を受けとる。そうなったら外国為替市場に行き、円買いドル売りをして円を入手し、日本の金融企業に円を支払って返済する。
以上のように、二国間の実質利子率差によって儲けを得る行為をキャリートレードという。
日本で円を借りて日本よりも実質利子率が高い国で投資することを円キャリートレードという。また、アメリカ合衆国で米ドルを借りてアメリカ合衆国よりも実質利子率が高い国で投資することを米ドルキャリートレードという。
国債や社債を買うだけがキャリートレードではない。低金利国で資金を借り、その資金を外国為替市場で両替し、高金利国へ行って企業の発行する株式を買い、低金利国で返済を行う期限までに値上がりしてくれることを期待する方法もキャリートレードの1つである。大抵の場合、高金利国というのは好景気であり、企業の発行する株式も値上がりしやすい。
低金利国で返済を行う期限までに株式が値上がりしたら、すかさず売却する。得られたお金が返済額を上回ったらキャリートレードの成功といえる。
キャリートレードにおける投資先をリスクの低い順に並べると、高金利国の政府が自国通貨建てで発行する国債が最も低リスクで、高金利国企業の社債はややリスクが高く、高金利国企業の株式はさらにリスクが高い。
キャリートレードという行為は為替変動リスクと戦いながら行う投資である。為替変動リスクが実質利子率の差によって得られる収益よりも小さいと判断できるときのみ、キャリートレードを行うことができる。
先ほどの例で言うと、日本円を借りて米ドルに両替して米国債を購入して6ヶ月経って米ドルを受け取ったとしても、6ヶ月経って円高ドル安が過度に進行してしまうと利益が吹っ飛んでしまう。
為替変動リスクを吸収できるぐらいに二国の実質利子率の差が拡大しているか、為替変動リスクが非常に小さいと判断できるか、そういう場合にのみキャリートレードを行う。
1945年~1971年のブレトンウッズ体制において主要国の国際的資本移動が制限されていて、主要国がどこも閉鎖経済の国だった。
しかし、1971年にブレトンウッズ体制が崩壊して、主要国は国際的資本移動の自由化を進めていき、大国開放経済の国や小国開放経済の国に変貌していった。その結果、世界中の為替市場で莫大な金額のマネーが行き来するようになった。
貿易で行き来するお金を実需マネーという。実需マネーを扱うのは輸出業者や輸入業者であり、彼らのことを実需筋(じつじゅすじ)という。
「為替市場で行き来するお金」から実需マネーを引いたお金の大部分が投機に使われていると見られており、投機マネーと呼ばれている。投機マネーはあっちの国へ行ったりこっちの国へ行ったりと活発に激しくホットに動いていくのでホットマネーとも呼ばれる。投機マネーを扱うのは銀行・保険企業・ヘッジファンド・年金基金などであり、彼らのことを投機筋(とうきすじ)という。投機筋が行う最も基本的な行動は、やはりキャリートレードである。二国の実質利子率の差を考えるのが儲けの基本となる。
21世紀の現代は実需マネーよりも投機マネーの方が圧倒的に多い。
国際決済銀行(BIS)が発表したところによると、2019年における1日平均の為替市場取引額は約6.6兆ドルである(記事)。
日本貿易振興機構(JETRO ジェトロ)が発表したところによると、2019年における1年間の世界貿易(財貿易、名目輸出ベース)の金額は18兆5,047億ドルであり(記事)、1日平均の貿易取引額は506億ドルである。
2019年において1日の為替市場取引額と貿易取引額の比は6.6000兆ドル対0.0506兆ドルなので、130対1ほどである。そして投機マネーと実需マネーの比率は129対1ほどであると概算できる。
リスクオンという金融用語があり、将来的に好景気が予想される状態になって投資家たちがどんどんリスクを負って収益性が高い投資をすることをいう。
リスクオフという金融用語もあり、将来的に不景気が予想される状態になって投資家たちがリスクの高い投資から逃げだすことをいう。
国内市場で好景気が予想されると投資家がリスクオンをするようになる。
もっともリスクが低くて収益性が低い金融商品というと、国債の中の「自国不換銀行券建て国債」である。自国不換銀行券建て国債は、「不換銀行券の形態で通貨Aを発行する中央銀行」に対して強い影響力を持つ政府が通貨A建てで発行する国債のことを言う。
好景気が予想されると、投資家は勇気づけられ、リスクが高くて収益性が高い金融商品に手を出し始める。国債を売り払ってお金を手に入れ、そのお金で社債や株式を買う。
国内市場で不景気が予想されると投資家がリスクオフをするようになる。
債務不履行に陥りそうな社債や下落しそうな株式を売り飛ばし、得られたお金で国債(自国不換銀行券建て国債)を買う。
「世界各国の金融システムが堅調に稼働していて、高金利国が不景気に陥って社債が債務不履行になったり株価が暴落したりする事態にならない」と国際的投資家が予想すると、そうした人たちは勇気を増やしてリスクオンをするようになり、キャリートレードをするようになる。
「どこかの国で金融ショックが起こり、それが連鎖して世界各国に飛び火し、高金利国が不景気に陥って社債が債務不履行になったり株価が暴落したりする事態になりそうだ」と国際的投資家が予想すると、そうした人たちはリスクオフをするようになり、キャリートレードを中止し、低金利国に資金を戻すようになる。これをキャリートレードの巻戻しという。
キャリートレードを大急ぎで中止して資金を元の国に戻すことを巻戻しとかキャリー解消とかアンワインド(unwind)という。
実質利子率の低いA国で銀行から資金を借りて実質利子率の高いB国で投資をするキャリートレードを行う国際的投資家がいるとする。その国際的投資家が巻戻しをするときは次のことを行う。
B国で購入した国債・社債・株式を大急ぎで売りに出し、B国通貨を入手する。そして外国為替市場に行き、B国通貨を売ってA国通貨を買う。最後にA国の国債・社債・株式を購入する。銀行に返済する期日が来たら、国債・社債・株式を売って得られたお金を返済する。
A国の銀行から借り入れるときの実質利子率と、A国の国債・社債・株式を購入して投資するときの実質利子率はだいたい同じぐらいなので、巻戻しをするとほとんど利益が出ないが、逆に言うと損失を最小限に抑え込むことができる。
低金利のA国でお金を借りて高金利のB国で国債を買った国際的投資家がいるとする。そしてB国は大国開放経済の国であって閉鎖経済と小国開放経済の両方の要素を併せ持っているとする。
キャリー先のB国の金融市場全体にショックをもたらすような倒産が発生したとする。それに対応するため、B国中央銀行がマネーサプライMの供給を増やして物価が硬直的な短期において実質貨幣残高M/Pの供給を増やし、名目利子率を下げ、期待インフレ率が硬直的な短期において実質利子率を下げ、投資を増やして好景気を維持しようとする。
B国中央銀行がマネーサプライMの供給を増やすので名目為替レートも上昇し、B国通貨が安くなる。タテ軸名目為替レート・ヨコ軸実質GDPのマンデル=フレミングモデルでいうと、マネーサプライMが増えるのでLM*曲線が右に平行移動し、名目為替レートが上昇し、B国通貨が安くなる。
国際投資家は、すでにB国国債を購入してあるので満期まで待てばその償還を得られる。しかし問題は為替の変動である。A国通貨高・B国通貨安になっていて、B国国債が満期になるまで待つとさらにA国通貨高・B国通貨安が進んでしまい、国際的投資家は為替の変動で大損をしてしまう。
このため国際的投資家は、キャリー先のB国の金融市場全体にショックをもたらすような倒産が発生した瞬間に、「これからB国の通貨が安くなってしまう」とか「B国の通貨が高い今のうちに巻戻しを行えば損失を最小限に抑えられる」と考えて、大急ぎで巻戻しをする。
低金利のA国でお金を借りて高金利のB国で国債を買った国際的投資家がいるとする。そしてA国は大国開放経済の国であって閉鎖経済と小国開放経済の両方の要素を併せ持っているとする。
A国の中央銀行総裁が談話を発表し、「利上げのペースを早くする」と述べたとする。それにより、A国中央銀行がこれからマネーサプライMを減らすことが予測される。
そうなるとA国において物価が硬直的な短期において実質貨幣残高M/Pの供給が減り、名目利子率が上がり、期待インフレ率が硬直的な短期において実質利子率が上がり、投資が減って好景気に歯止めが掛かる。
それと同時に、A国中央銀行がマネーサプライMの供給を減らすので名目為替レートも下落し、A国通貨が高くなる。タテ軸名目為替レート・ヨコ軸実質GDPのマンデル=フレミングモデルでいうと、マネーサプライMが減るのでLM*曲線が左に平行移動し、名目為替レートが下落し、B国通貨が高くなる。
国際投資家は、すでにB国国債を購入してあるので満期まで待てばその償還を得られる。しかし問題は為替の変動である。A国通貨高・B国通貨安になっていて、B国国債が満期になるまで待つとさらにA国通貨高・B国通貨安が進んでしまい、国際的投資家は為替の変動で大損をしてしまう。
このため国際的投資家は、キャリー元のA国の中央銀行総裁が利上げを示唆した瞬間に、「これからA国の通貨が高くなってしまう」とか「A国の通貨が安い今のうちに巻戻しを行えば損失を最小限に抑えられる」と考えて、大急ぎで巻戻しをする。
アメリカ合衆国以外の国の金融市場で株安が起こり、アメリカ合衆国以外の国の中央銀行が利下げすることやアメリカ合衆国以外の国の通貨が安くなることが予想され、それに呼応してアメリカ合衆国発のキャリートレードが巻き戻しされ、米ドル買いが進んで米ドル高になることがある。このことを有事のドル買いという。
日本以外の国の金融市場で株安が起こり、日本以外の国の中央銀行が利下げすることや日本以外の国の通貨が安くなることが予想され、それに呼応して日本発のキャリートレードが巻き戻しされ、円買いが進んで円高になることがある。このことを有事の円買いという。
2007年2月27日に中国・上海の株式市場で上海ショックという株価大暴落が起こった。それが世界各国に飛び火し、世界同時株安になった。それによって日本以外の国の中央銀行が利下げすることや日本以外の国の通貨が安くなることが予想された。それを受けて日本発のキャリートレード(円キャリートレード)の解消(巻戻し)が活発化し、円買いが進んで円高になった(記事)。
1995年1月17日の阪神淡路大震災の後に外国為替市場で円買いドル売りが進み、円高ドル安が進んだ。1995年1月16日は1ドル98円48銭だったが、1995年4月19日には一時1ドル79円75銭をつけた(資料1、資料2)。
2011年3月11日の東日本大震災の後に外国為替市場で円買いドル売りが進み、円高ドル安が進んだ。2011年3月10日は1ドル82円95銭だったが、2011年3月17日には1ドル78円76銭になった(資料)。
震災円高の原因としては、「国内部品供給の異変に備えて、米ドルの預金を持っていた企業が急いで米ドルを日本円に両替し、その結果として円買いドル売りが強くなって円高ドル安が進んだ」という説明をすることもあるし、「国内の保険企業が日本円での支払いに備えて海外資産を売り払って日本円を購入したので、その結果として円買いドル売りが強くなって円高ドル安が進んだ」と説明することもある。
しかし、「日本発のキャリートレードの解消(巻戻し)が進んで、その結果として円買いが強くなって円高が進んだ」と分析する有識者も多い(記事1、記事2、記事3)。
詳しく説明すると次のようになる。日本で震災が起こると、日本の建築物が多く倒壊するので、日本において建設という投資が活発化する。そうなると日本の中央銀行がマネーサプライMを減らして利上げを行って投資を抑制することが予想されるし、日本の通貨が高くなることも予想される。こうなると日本発のキャリートレードを大急ぎで巻戻しする必要が発生し、円買いが進んで円高になる。
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最終更新:2024/04/18(木) 12:00
最終更新:2024/04/18(木) 12:00
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