コスモ貴族主義とはアニメ「機動戦士ガンダムF91」に登場する思想。
提唱者はシャルンホルスト・ブッホ。宇宙におけるより具体的な思想としてまとめたのが息子であるマイッツアー・ロナであり、映画版では彼から下の世代のみが描かれている。
ブッホ・コンツェルン(ロナ家)率いるクロスボーン・バンガード軍の基本理念であり、反連邦的な思想であった。
ジャンク屋を営んでいたシャルンホルスト・ブッホは商才に恵まれ、スペースデブリ回収企業「ブッホ・ジャンク」社を皮切りに事業家として活躍。「ブッホ・コンツェルン」なるものを築き上げ、一代で多額の財産と地位を手に入れることに成功する。一方、企業人ではあったが連邦の退廃ぶりに失望を禁じえず、その遠因を民主主義や平等主義に求め、選挙に依らない選ばれたエリート集団による社会運営を模索。最終的に旧世紀における18世紀以前のヨーロッパ貴族社会に答えを見出し、貴族趣味に走り始める。
年代的に定かではないが、シャルンホルストは旧欧州の名家であったロナ家の家名を購入し、シャルンホルスト・ロナを名乗る。名実ともに貴族と認められた彼は子息であるマイッツアーに貴族主義を叩き込み、彼に自分の理想を託すこととなった。
マイッツアーはシャルンホルストの意思を継ぎ、旧世紀における貴族主義を宇宙時代にも適合させた(コスモ貴族主義)。宇宙世紀0106年、連邦への人材派遣会社または士官学校への予備校・訓練校としてクロスボーン・バンガードをサイド1の私設コロニー「ブッホ」において設立。人材を育て、秘密裡にMS開発を開始する。
だが、「現代人は死を遺棄し、自然界の摂理を破壊している」とし、「人類は生存を維持できる適正値を保つべきである」「そのための死を従容として迎え、魂の輪廻転生を受け入れる心を養うことが必要だ」と唱えた息子のハウゼリー・ロナがテロに倒れる。このことがマイッツァーをクロスボーン・バンガードを一大軍事勢力にまで本格成長させることと、「コスモバビロニア」建設へと駆り立てることになる。
人材育成と兵器開発は順調であった。クロスボーン・バンガード結成前年の0105年にはマフティー・ナビーユ・エリンが起こしたマフティー動乱が終結し、旧来のジオニズムに立った組織は後退したためかえって反連邦の下地になりやすい側面もあった。また、これ以降は平和な時代が続き連邦軍の予算も限られたモノとなり、新型で小型化したMS動力炉(ミノフスキー・イヨネスコ型核反応炉)を搭載したMS配備が進まないなど有利な情勢も味方した。さらに、人口増加により新コロニーの建設も進んだが、この新コロニー(フロンティア)に手を回し蜂起後に即座に拠点となれるように細工を施していた。
0120年から0122年にかけて、火星において火星独立ジオン軍(オールズモビル)が蜂起。久々の大規模紛争であったが、この影には実戦経験を得たいクロスボーン・バンガードの支援があり、彼らは目論見通りの結果を得たと言われる。
0123年3月、ついにクロスボーン・バンガードが蜂起。フロンティアⅣの連邦軍を蹴散らし占拠した上でコスモバビロニアを名乗る。戦況は連邦の無関心と脆弱さからコスモバビロニア優位に進み、司令官であるカロッゾ・ロナ(マイッツアーの娘婿)の住人懐柔演説もありその基盤は磐石化するかと思われた。
しかし、カロッゾ(またはマイッツアー含めた上層部)の意図は人類の粛清であり、抵抗組織が置かれていたフロンティアⅠに試験として大量殺りく兵器であるバグを投入。凄惨な虐殺が繰り広げられ、セシリー・フェアチャイルド(ベラ・ロナ、カロッゾの娘)とシーブック・アノーの激しい怒りを買う。
最終的にカロッゾはシーブックのF91に討ち取られてしまい、周辺宙域の戦闘は沈静化して行く。
以降の描写は作中では描かれていないため、推測でしかない。10年後の木星戦役の時代においてクロスボーン・バンガードとはベラ・ロナとキンケドゥ・ナウによる組織を指すため、軍事組織としては衰退または消滅したとされる。劇中ではベラ・ロナ自身がコスモ貴族主義を否定したための内部崩壊であることも示唆されている。
現代的な言葉を借りれば「ノブレス・オブリージュ」と表現される。つまり、高貴なる者にはそれに伴う義務があると言うことである。マイッツアーは戦争において平民は逃げても良いが貴族は許されないとも述べており、戦争を念頭においた思想であることがうかがえる。ただし、義務については具体的と言える行動規範は示されず、また示されるべきものでもなかったのかもしれない。
「ノブレス・オブリージュ」の前提となる特権なども明示されていない。マイッツアーは人権自体は平等であるとも明言しており、連邦政府の腐敗からむしろそう言ったモノを求めることを自制させていた。
高貴についてはより難解であり、旧世紀の貴族主義を担保していた血筋や生まれを意識したものではなかったようだ。コスモ貴族主義と旧来の貴族主義との違いもここにあるようで、有能な者こそが高貴であると言う姿勢も垣間見える。マイッツアー本人も出奔した娘のナディアを半ば見放している(ただし、父として厳しくし過ぎたことは反省していた)。
もっとも、そのマイッツアーも「高貴な生まれを考えずに貴族の外道に走った」ことを理由として勘当しており、自身の組織の正統性の担保としてカロッゾやドレル(ベラ・ロナの異母兄)ではなく孫のベラ・ロナに期待を寄せたことからも、血統・血縁から逃れられなかったようだ。
また小説版の描写ではあるが、レイシズム的な側面がありマイッツアーも黄色人種やユダヤ教徒への敵意を隠さなかった(有能な者は我慢して使うと言うフォローはあるが)。
選民思想に堕しやすい側面は間違いなく存在し、かえって血統を有さないカロッゾやドレルらが焦って過激派に染まってしまうと言う危うさがあった。また、アンナ・マリーのようにそれらを有する者への嫉妬と求める者への失望から、戦線を離脱して裏切ってしまう者も出た。
これらの顛末からか、ベラ・ロナ本人は早くからコスモ貴族主義を否定的に解していた。一方、マイッツアーの潔癖さや剛毅さには心を打たれてもおり、母であるナディアのような無責任な逃避も嫌った。ベラ・ロナのコスモ貴族主義を否定しつつ、高貴な血筋の者が命を賭けてそれに挑むと言う姿は、コスモバビロニアへの賛同者・反対者双方に感銘と混乱を与え、これが致命傷となると言う皮肉な結末を辿ることになる。
100年近くに及んだジオニズムに変わる思想であり、宇宙世紀の一つの転換点ともされる思想である。ただ、反連邦でありスペースノイド側の思想(マイッツアーもスペースノイド視点の歴史をベラ・ロナに語っている)と言う共通点は存在する。火星独立ジオン軍の背後にクロスボーン・バンガードの存在があり、比較的友好関係にあったようだ。また、ジオニズム本来の要素ではないが、ザビ家の血統を重視する一派とも行動が似ていた。
ニュータイプ概念はコスモ貴族主義も引き継いでおり、ベラ・ロナも小説版で言及しているし、コスモ・クルス教団と言うニュータイプを信仰対象とするコスモ貴族主義的宗教団体も登場する。一方、カロッゾは敵対したシーブックを、討ち取られる寸前の混乱の中ではあるが「ニュータイプ」と評しており、自分たちこそがニュータイプと言う認識は薄かったようだ。
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最終更新:2024/04/25(木) 00:00
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