コンピュータ将棋とは、その名の通りコンピュータによる将棋、ひいては将棋を指すプログラムのことである。
コンピュータ将棋の開発が始まった正確な時期は定かではないが、1970年代にはコンピュータによる将棋プログラムが作られていた。その後ファミコンソフトとして将棋ソフトの普及が始まり開発者も増えていったが、ハードウェアの性能が低かったために当時のコンピュータ将棋の棋力はアマチュア級位者の域を脱しなかった。
1990年に第1回コンピュータ将棋選手権が行われ、参加6ソフトの中で「永世名人」が優勝した。コンピュータ将棋は年々着実に棋力を伸ばしていき、2005年に「激指」「Bonanza」などのソフトがアマチュア県代表クラスに到達すると、アマチュア竜王戦の招待選手としてベスト16進出、プロ棋士に平手で勝利寸前に至るなど、対人戦で目覚ましい活躍を見せた。
そんな中、日本将棋連盟は「プロVSコンピュータ」を興行のチャンスと見て、無断でコンピュータと公開対局を行うことを禁止する旨を全棋士に通達した。以降、イベントや将棋雑誌においてプロ棋士との対局が度々企画されるようになった。2007年にはBonanzaがトッププロである渡辺明竜王とエキシビションマッチを行い、終盤まで互角以上に戦った(結果は渡辺勝ち)。
2010年、情報処理学会が日本将棋連盟に「名人に匹敵するコンピュータ将棋を完成した」という内容の挑戦状を送りつけ、清水市代女流王将(当時)と「あから2010」の対局が実現した(結果はあから2010勝ち)。あから2010は当時の強豪ソフト4つを組み込んだもので、多数決により指し手を選ぶ合議制を採用していた。
2012年からドワンゴ主催でプロ棋士とコンピュータが対局する将棋電王戦が開催され、対局の様子がニコニコ生放送で中継された(詳細は「将棋電王戦」を参照)。第1回では「ボンクラーズ」が引退棋士であった米長邦雄永世棋聖に勝利し、第2回では「Ponanza」が現役プロ棋士に平手で初めて勝利を収めた。第2回以降は一般のニュースに大きく取り上げられるなど、将棋という枠に収まらず人工知能の時代の幕開けを象徴するイベントとして注目を集めた。
2015年、情報処理学会が「すでにコンピュータ将棋の実力は2015年の時点でトッププロ棋士に追い付いている」としてコンピュータ将棋プロジェクトの“終了宣言”を出した。2017年の第2期電王戦では「Ponanza」が佐藤天彦名人に2連勝を挙げ、コンピュータ将棋の実力を決定づけた。
2010年10月11日、4つのコンピュータ将棋プログラムからなる合議制将棋システム「あから2010」と清水市代女流王将との対局がニコニコ生放送でライブ配信された。
翌年7月24日、ニコニコ生放送の企画でアマ強力タッグvs最強コンピュータと題し、Bonanzaとあから1/100(あから2010のマシン構成縮小版)のそれぞれと人間タッグが対局した(結果はコンピュータの勝利)。
詳細は「将棋電王戦」を参照。
2012年1月14日、第1回電王戦として当時の日本将棋連盟会長である米長邦雄永世棋聖(当時すでに引退棋士であった)とボンクラーズによる対局が行われ、ニコニコ生放送でライブ配信された。この対局はニュースとしても大きく扱われた。これ以降2017年まで6回にわたって将棋電王戦が開催され、対戦成績はコンピュータ側から見て14勝4敗1引き分けであった。また、電王戦関連イベントとして電王戦タッグマッチ、電王戦リベンジマッチ、将棋電王トーナメントなどコンピュータ将棋を扱った様々なイベントが企画された。
コンピュータが人間の知性に到達し追い越していく過程をセンセーショナルに切り取った将棋電王戦の反響は大きく、将棋界を超えてニュースなどに広く取り上げられたほか、新たな将棋ファンの創出に大きな役割を果たした。2013年、ドワンゴ会長の川上量生は羽生善治三冠との対談で、ニコニコの三大コンテンツはアニメ・政治・将棋であると発言した。
コンピュータ将棋は大まかに分けると「先の手を読んでいく部分(探索)」と「読んだ先の局面に評価をつける部分(評価)」から成る。
前者はある局面で考えられる手をリストアップして順々に調べていくのが仕事で、単純計算が生きるため人間に比べてコンピュータが圧倒的な力を発揮する部分である。一方、後者は読んだ先が(形勢が)良い局面なのか悪い局面なのかを判断するのが仕事だが、明確な指標がないため単純計算で答えを得ることができない。そのため、強い将棋プログラムを作るには形勢判断の指標をなるべく正確に与える必要がある。
従来はプログラム開発者自身が将棋の知識に基づいて、駒の損得や好形・悪形など局面を評価する方法を一つ一つ教えていた。現在ではある局面における「玉と任意の2つの駒の位置関係」などの大量のパラメータに対して、機械学習を用いて適切な値をコンピュータ自らに学習させる方法が取られている。これはBonanzaが最初に採用した手法で、6万局に及ぶプロ棋士の棋譜から学習していた。現在ではコンピュータ同士の対戦の棋譜が学習に用いられている。
将棋には「持ち駒」という独特のルールが存在している。これによりある局面で考えられる指し手の数が膨大となるため、コンピュータチェスに比べると人間とコンピュータの実力差は大きいものだった。しかし近年ではハード性能の向上や指し手生成及び探索に用いるアルゴリズムの改善、評価関数の精度向上などにより飛躍的に実力を伸ばしている。
あらゆる可能性をしらみつぶしに調べることができるため、人間に比べて中盤戦でミスが生じにくい。また詰み周辺の読みの正確さは人間を圧倒しており、詰将棋の分野では古くからコンピュータが力を発揮してきた。対人戦においては、疲れないことや動揺・恐れといった感情がないため、常に最高のパフォーマンスを発揮できることが大きなアドバンテージとなる。
以前はコンピュータ将棋は序盤が苦手とされていた。将棋の序盤戦はなるべく相手より良い陣形を作ることを目標とするが、そのための方針や指標をコンピュータが理解することが困難であるため、序盤から不可解な一手が飛び出すことがあった。そこで、多くのプログラムは序盤の定跡をデータベースとして持つことで序盤の弱さを補っていた。
第1回電王戦で米長邦雄永世棋聖は初手に定跡外れの一手を選んだ。あえて定跡から離れることでコンピュータが苦手とする序盤の駆け引きに持ち込む狙い。この作戦が功を奏し実際の対局でも中盤まで米長ペースで進んだ。
現在では局面の評価がさらに正確になったこともあり、コンピュータ将棋は定跡を与えずとも高度な序盤戦を指すことができるようになっている。また、人間が作り出した定跡ではなく、コンピュータ自身が予め長時間考えた指し手を定跡として与えることもある。
長手数一直線の変化において読み抜けが生じることがあり、その弱点を突くアンチコンピュータ戦略が存在する。電王戦FINAL第5局で阿久津主税八段が「AWAKE」に対して採用し、開発者が21手で投了したことで物議を醸した。
また、入玉模様の局面になると評価が不正確になることがある。これは学習元の棋譜に入玉の局面が少なく、正しい指標を十分に学習できていないことが原因である。しかし近年は局面評価や学習の手法を改善することで入玉将棋も克服しつつある。2015年の第25回世界コンピュータ将棋選手権では、「Selene」が宣言法により勝利している。
コンピュータ将棋ソフトの一部は無償でダウンロードして利用できる。2005年にBonanzaのソースコードが公開された。2015年に強豪ソフトの「Apery」がオープンソース化されたことを皮切りに、現在では多くの開発者が最新版に近いソフトを無償で公開している。これらの無償公開によって開発の新規参入者が増え開発競争が激化したほか、将棋を指す人にとっては有用な検討ツールとして受け入れられた。
コンピュータ将棋の実力が伸びるにしたがって、人間の常識に囚われない独特の指し回しが注目され、従来の格言や常識が見直されつつある。プロ棋士の中で若手を中心にコンピュータ将棋を自身の勉強や研究に取り入れる者が増えており、千田翔太六段や西尾明六段などがその道のパイオニアとして知られる。一方でコンピュータを過度に信頼するあまり本人の大局観や読みの力が育たない危険性があるという指摘もある。
また、コンピュータが得意とする戦法がプロ・アマチュア問わず流行する現象が起きている。第44回升田幸三賞を受賞した「対矢倉左美濃急戦(居角左美濃)」や「角換わり腰掛け銀4二玉6二金8一飛型」はコンピュータ将棋の影響を強く受けている(受賞は千田翔太六段)。
ニコニコ生放送では叡王戦など一部棋戦の生放送でコンピュータ将棋による局面の評価値が表示されており、将棋を知らない視聴者にも形勢の優劣が数値でわかるようになっている。
強豪ソフトが誰でも簡単に手に入るようになったことで、棋譜の検討などに役立てるアマチュアの将棋指しが増えた。一方で、ネット対局場では自分の代わりにコンピュータに代指しさせる「ソフト指し」行為が発生している。ほとんどの対局場で禁止されている行為だが、ソフト指しと普通のプレイヤーを見分けることが困難であるため、長期間にわたって野放しになっている場合がある。一般に不自然なほど連勝を重ねていたり、時間の使い方が序盤から終盤まで一定であったりするなどの特徴がある。
2016年にはプロ棋士の三浦弘行九段が対局中に将棋ソフトを使用したカンニング行為を疑われ、年内の公式戦出場停止処分となったが、その後第三者委員会によって「不正行為に及んでいたと認めるに足りる証拠はない」と結論付けられた。結果として日本将棋連盟の谷川浩司会長以下2名が辞任し、その後臨時総会で3名の理事が解任されるなど、将棋界を揺るがす問題となった。
詳細は「世界コンピュータ将棋選手権」を参照。
コンピュータ将棋協会が1990年から年1回開催している最も歴史のある大会。賞金はない。使用するコンピュータのスペックや台数に制限がなく、ノートPCから大規模クラスタまで様々なハードウェアが見られる。
詳細は「将棋電王トーナメント」を参照。
ドワンゴ主催で2013年から開催されている、電王戦に出場するソフトを決める大会。使用するハードウェアが主催者によって予め決められている。上位入賞者には賞金が与えられる。
コンピュータ将棋が人間を超えた時、人が指す将棋に価値がなくなるのではないかと心配する声がある一方、下記に示すようにその心配はないとする見方もある。
「コンピュータが人間より強くなったら将棋がつまらなくなるという人は、将棋というものを理解していないか、人間というものを理解していないか、どちらかである」
松原 仁(公立はこだて未来大学教授) 全文
局面の評価に用いる評価関数を強化学習によって少しずつ改良していく手法のこと。初めのうちは1回の学習で大きな効果が得られるが、学習を繰り返すごとに伸び幅が小さくなっていくことからこう呼ばれる。
評価値がマイナス方向に変動すること。コンピュータが互角と判断していた局面が、読みを進めていくと形勢が悪いことが判明したときなどに使われる。
掲示板
54 ななしのよっしん
2022/10/26(水) 21:12:38 ID: bocksQ6Yka
今話題のイラストAI、論争になっている内容の本質は10年前に将棋AIがすでに通った道じゃんって感じ。
たぶん次のイラストAIのトピックは「プロがイラストAIを使った使わない疑惑」で、
それを経てイラストAIを創作のサポートとして使うことが定着していくと思う
55 ななしのよっしん
2022/11/01(火) 21:06:04 ID: FNiPGK5chV
コンピューター将棋が将棋を悪くしているとは思わない
だが未だにGUIが低画質でMSゴシックとかで満足してんのは駒師への冒涜
56 ななしのよっしん
2025/03/04(火) 10:27:33 ID: izBhm2UT7G
将棋AIによる二次被害としては、評価値で有利不利が可視化されたせいで
素人がそれだけを頼りに局面を評価してしまうこと
人間的には指すのが難しい手を指さなければ逆転のような手でも、評価値上は勝勢だったりとかあるけど
それを間違ったときにガバッたとかどうのこうのいう奴らね
今後はそういう素人の人達にも、いかに難しい手なのかわかってもらうように
着手確率みたいなものを検討したりしているらしい
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最終更新:2025/03/24(月) 17:00
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