コードトーカーとは…
前置きとして、
軍事目的の情報は敵方に漏れるわけにはいかないため、時代が進むごとに各国は徹底して情報を暗号化し秘匿した。
しかし、暗号化された情報というのは所詮「鍵の掛かった箱」でしかない。正しい手順や正しい鍵を用意さえできれば(本当に鍵が掛かっただけの箱レベルならいっそぶっ壊しても・・・)、後は比較的簡単に解読できてしまう。そのためいたちごっこの様相を呈し、どんどん複雑化していった暗号は作成と解読に時間を要するようになり、それは一刻を争う戦場の最前線において盗む方はおろか使う側にとっても悩みの種となった。
そんな中で、第二次世界大戦中のナチスドイツは「エニグマ」と名付けられた暗号機を使い、多大な戦果を上げていた。タイプライター風のエニグマは、鍵の設定をしておけば文字を打ち込むだけで、極めて難解な暗号文を作成でき、尚且つ鍵の設定をやり取りする側で打合せしておけば、エニグマを通すことで簡単に解読が出来た。しかも鍵の設定は無数に変えることが出来たため、多くの鍵を用意し、日々入れ替える事で秘匿性を維持していた。
これに対し連合国側は果敢にも解読に挑み、それは遂に成し遂げられることになるが、それはまた別の話(特にイギリスのが有名だろうか)。
ここからが本題。
第一次世界大戦の頃からアメリカ軍は、無線通信用の暗号としてアメリカ大陸に先住していた民族、即ちアメリカ・インディアン達の言語を用いようと画策し、彼らの一部を暗号通信兵「コードトーカー」として運用していた。上に書いたように暗号解読の難度は、それを敵に解読される可能性とトレードオフの関係であった。人力では戦争が終わっても解けないみたいに言われていたエニグマの暗号が解読できたのは、暗号機の現物を得るチャンスがあったのと、数学的な発想で組まれた暗号だったからというのもある(勿論解読機も作った)。
つまり、「文明の利器」であったが故に解法の手掛かり自体は有ったわけだ。
「じゃあ、お互いに通訳を置いて、敵の知らない言語で通信すればバレないんじゃね?」
等と言ったかどうかは定かでは無いが、コードトーカーの運用思想はだいたいそんな感じである。当のアメリカでさえアメリカ・インディアン語の研究者が少なく、特にナバホ族と呼ばれる部族の言語に至っては国外に研究者が一切居ないということが判明し、その部族出身者を中心に英語とのバイリンガルである者をコードトーカーとして採用する事になった。当然、暗号もナバホ語をベースにすることになった。
第二次世界大戦で本格的に運用されることになったコードトーカーだが、枢軸国側もコードトーカーについてある程度把握していたため、ヒトラーはアメリカ・インディアンの言語研究を始めていたという。それを知ったアメリカ軍はヨーロッパ戦線でのコードトーカー使用を自重し、太平洋戦線で使うことにした(つまり、主に旧日本軍との戦いで)。
ただし、問題が無いわけではなかった。語彙が少なかったのである。文明人は自身が持てあます程複雑な文明を築き、それらを表現するため多くの語彙を作り出したが、長く自然と共に在り、素朴な文化を築いてきたアメリカ・インディアンには、そんなに沢山の語彙は要らなかったのだろう。特に近代軍事関係に結びつくものが少なかったのが致命的だった。第一次世界大戦の時点でこの問題が露呈したため、第二次世界大戦では工夫を凝らすことにした。簡単に言うと、英単語を「その文字列で始まる別の英単語に置換」→「対応するナバホ語で翻訳」の順で暗号化したらしい。
これで軍用レベルでの英語とナバホ語の連携が可能となったが、コードトーカー達が覚えることはかなり増えることになった。その上、応用もいくつか考案されたため、それも覚えることになった。結局、ナバホ語が話せる者でも、それらを覚えないことにはコードトーカーの暗号通信を解読出来ず、実際にナバホ族出身者の兵士を旧日本軍が捕まえて拷問までしてみたものの、遂に解読することが出来なかった。
コードトーカー自身を捕虜にして協力させることに成功すれば或いは解読できたかもしれないが、それを見越してコードトーカー達それぞれに護衛が付いていたという。
軍事機密というのは、それが陳腐化するか秘密にする理由が無くなるまで厳重に秘匿されるのがどの国でも通例だが、エニグマの暗号解読成功(そして、それに貢献した者の存在)や、コードトーカー達の活躍についても同様であった。故に、彼らがその戦功を公にされ、評価されるのには長い時を要した。現在は1984年にロナルド・レーガン大統領から公に表彰され、8月14日を「コードトーカーの日(National Code Talkers Day)」と定められている。
掲示板
5 ななしのよっしん
2019/01/02(水) 21:58:37 ID: y9Y1h9l0IM
コード・トーカー(遊戯王)が作成されました
6 ななしのよっしん
2019/02/18(月) 10:52:41 ID: iNzj55CmrT
日本で言うとアイヌ語で暗号通信するようなもの
一応早口の薩摩弁で通信したことはあった。
なお日系人に解読された模様
7 ななしのよっしん
2021/08/19(木) 17:45:42 ID: hj61JHOFBQ
薩摩弁のヤバいところ
・日本語なのに拍基準でなく音節基準
・格変化がある(ex. こい, こや, こよ, これ)
ナバホ語のヤバいところ
・辞書が引けない(na-néが原型の動詞に接辞-id-が入ると連声してneiiˈnéになり元の形が分からなくなる)
・故に連声の過程を表記に残すことができない。(上記の連声は特定の接辞同士でしか起こらず、例えばna-da-ji-néのように挿入されるとnaが直後の歯茎音dと連声してniないしnになる一方で、daの位置に置かれる接辞はjiとは歯茎音だが連声できずnidajinéとなる。)
・不規則な動詞がある(同様の方法でdがwの前に来たとき、ある動詞ではdwは'wになる一方で、他の動詞ではgになる)
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最終更新:2024/12/10(火) 03:00
最終更新:2024/12/10(火) 02:00
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