本項目では両方について記述する。
- カーナッキ
ウィリアム・ホープ・ホジスン (William Hope Hodgson)は海洋綺譚と怪奇幻想小説で知られるイギリスの小説家。第一次世界大戦で戦死した。
代表作は『ボーダーランド三部作』(『〈グレン・キャリグ号〉のボート』『異次元を覗く家』『幽霊海賊』)と『ナイトランド』。
短編『夜の声』は映画『マタンゴ』の原作となったことで有名。
H.P.ラヴクラフトも『文学における超自然の恐怖』でホジスンをもっと評価されるべき作家としている。カーナッキ・シリーズにも触れているが、他の著作に比べると評価はやや低め。彼はヒーローとか名探偵とかが好みでないので…
トマス・カーナッキ/トーマス・カーナッキ (Thomas Carnacki)は、ホジスンが1910年代に書いたシリーズの主人公で、幽霊狩人/幽霊探偵 (原文はゴーストファインダー/the Ghost-Finder) の異名を持つ。ちなみにファーストネームはシリーズ中一箇所にしか出てこない。
最初期のゴーストハンター・心霊探偵・オカルト探偵としての面と、シャーロック・ホームズのライバル達の一人としての一面、そしてネタキャラとしての面を併せ持つ。事件の正体も「幽霊や異界の存在」「人間の仕業 (トリックなど)」「両者の混在ケース」「そもそも作品に超常現象が登場しない」など様々で、一部しっくりしない謎が残ったりと、一筋縄ではいかない。
カーナッキシリーズは全9編(+おまけ1編)が知られており、『The Hog』を含めた後半3編が短編集に収録されたのはアーカムハウスの探偵小説レーベルであるマイクロフト&モランから1947年に出版されたものが初となっている。
特に『The Hog』は、のちにコズミック・ホラーと呼ばれるようになった要素が強く、アーカムハウス社主のオーガスト・ダーレスによる改竄を疑う人すらいた[2]。またダーレス疑われてたのかよ…
このシリーズはかなり人気があり、他の作者による続編もそこそこ書かれている。邦訳されたなかではシャーロック・ホームズと共演した『ライヘンバッハの奇跡』や『神の息吹殺人事件』が比較的有名か? 変わったところでは黄衣の王と対決した[3]ことも(事件を解決したとは言ってない)。
ジョシュ・リノールズの王室付魔術師サイプリアンシリーズ[4] のように間接的に言及されることも。
カーナッキ本人は霊能力を全く持っておらず、魔道書知識による防護陣や電磁五芒星/電気五芒星/electric pentacleで対抗するが、ビビり癖もあって結構情けないところがある。
一方で訪問した友人達にその体験談を語る際の態度は変人のそれで、単なるヘタレキャラですませられる人物でもない。
カーナッキが頼りにする「シグザンド写本/Sigsand manuscript」や「サアアマアア典儀/サーマーの書/Saamaa Ritual」は、のちの「ネクロノミコン」等の、フィクション作品で創られた架空の魔道書群の元祖ともいわれる。
「サイーティ/サイイティイイ」は、シリーズ中で超自然的(”ab-natural”)な存在にかかわる霊体物質化現象 (manifestation)としてミノフスキー粒子と同じノリで使われている造語。これは「アエイリー/アイイリイイ」よりも遙かに危険で悪質なものとされている。なんだそりゃ。
英文字綴りが”Saiitii”、”Saaitii”、”Saaaiti”、”Aeiirii”、”Aeirii”とやたらバリエーションが多く、誤植なのか、作者や編集者が素で間違えているのか、本当に複数バージョンの綴りがあるのか非常にわかりにくい。
なお、シリーズ中ではっきりとサイイティイイと認定されているのは『The Hog』と、別種の怪異の登場する短編の計2件。この2つの怪異がどういう関係なのか友人が訪ねるシーンがあるが、カーナッキは「説明はまたの機会に」という態度だった。
ラムジー・キャンベルは『呪われた石碑/The Stone on The Island』(1964年)で、サーマーの儀式に使う星形の石(エルダーサイン?)なるものを登場させており、クトゥルフ神話とカーナッキ・シリーズに緩やかな繋がりを持たせているのが興味深い。まぁ、『呪われた石碑』の怪物はどちらのシリーズとも直接関係はないんだけど。
サーイティは巨大な豚の幽霊のような旧支配者である。クトゥルフ神話TRPGにおける公式な綴りは”Saaitii”。
カーナッキ・シリーズからこのTRPGへの出張組クリーチャーとしては他に見えざる馬が、『異次元を覗く家』からはブタ人間が参戦しているが、作者が同じという以外にはこれらに相互の繋がりはない。
ただし別の作家の小説[5]ではカーナッキとブタ人間が共演している。それにしてもホジスン先生は豚の怪異好きだな!
原田実は『怪物幻想画集』の解説で、『異次元を~』のブタ人間とカーナッキの妖豚はある種同じ存在(リメイク扱い)だ、という意味のことを述べている。森野達弥の描く水木しげる風ブタ人間が見られるのはこの画集だけ! ぜひ読もう。
サイのように分厚く皺のよった皮膚に覆われ、膨れ上がった胴体、12本以上の豚の蹄、豚面に猪の歯が生えた口が3つあるともいわれている。ただたいていは青白く巨大な怪物として我々の目に映ることだろう。遠くで豚の声がしたらサーイティを疑うのだ!
原作小説では、豚の小さな目が一つだけ(”one small eye”、”a pig's eye”)見えた、と語られるシーンがある。
TRPGのモンスター図鑑『マレウス・モンストロルム』の筆頭著者スコット・アニオロフスキーは、これをもとに単眼の姿を設定しているが、キーパーは二つの目(あるいは三つ目かそれ以上)のうち片方だけが見えていた、という解釈でデザイン変更をしてもかまわない。どうせTRPG出版元のケイオシアム社が勝手に決めた姿なんだし…
TRPG設定でサーイティの故郷は闇の異界だという事にされたが、原作では「地球外(超高空=宇宙)のどこかが魔界のような領域となっていて、そこから来たのではないか?」とカーナッキが推定している。
「超深海に怪物がいるフィクションがあるのなら、超高空に棲む怪物を小説に出しても良いのでは?」というのは、コナン・ドイルが『大空の恐怖』で挑戦したテーマ。こんなところにもカーナッキとホームズの繋がりが。
関連する魔道書はもちろん『シグサンド写本』。サーイティを崇拝する邪教団は確認されておらず、もっぱら悪夢と豚の声を用いた憑依で現世に干渉する。サーイティの犠牲になったものは悪夢に襲われ、発狂し、豚のような声を発するようになるのだという。まるで豚が呪いをかけて乗り移ったかのように……。
実際に豚の形ではなく、どんな魂を介するかによって形が変化する可能性も指摘されている。原作小説では、結界の材質を逆用して火炎以外のあらゆるものから実体化できるとか、(別の短編中では)五芒星の内部に侵入再生するとか、生命力を持った霊的なカビ/奈須きのこだとか、いろいろ言われていた。相手が菌糸類じゃ難物なのもしょうがない。
ヴィクトリア朝時代のTRPGサプリメント『クトゥルフ・バイ・ガスライト』の参考資料欄にはカーナッキ・シリーズが挙げられているが、「フィクションの人物」欄にはご本人のデータがない。ウェルズの火星人すら人物として掲載されてるのに…
シグサンド写本やサアアマアア典儀(ここでは魔術呪文扱い)のゲームデータは、先に述べた理由で未訳ソースブック『ラムジー・キャンベルのゴーツウッドと快適ならざる諸地域/Ramsey Campbell's Goatswood and Less Pleasant Places』[6]に収録されている。現代と過去の英国怪奇小説家の創造物が同居しているのには謎の感動を感じる。
英語題名:
日本語訳題名:
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最終更新:2024/04/24(水) 06:00
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