競走馬の取引法には様々なものがあるが、その中でも一番公平なものはなにか? と言われればやはりセリであろう。
もう一つの主流たる庭先取引の場合、新参者が加わろうにも人脈がなければ門前払いであるが、セリは極論カネさえ有れば出品された馬であればどの馬でも入手することは可能である。実際はまあ色々制約はあるらしいが建前はそうである。だから関口房朗氏や青汁王子、ミュゼの元社長やサイバーエージェントの藤田晋氏ら資金に自信のある新興馬主はセレクトセール参戦で馬を入手し名を売り人脈を構築・広げていくのだ。
しかし数多の馬を見てきたエージェントや調教師が噛むとはいえ幼駒の見極めは至難であり、0歳や1歳のセールならば血統背景・見た目ですべてを判断せねばならず、2歳以降のセールであればセールによっては展示走行を行うため、そこで記録されたタイムの記載があり、ある程度動きも見られるので判断しやすくなるが所詮レースではないため、真の才能を見抜くのは至難である。
……さて、前置きはここまでにして、そろそろこの記事の主役を紹介せねばなるまい。
ザグリーンモンキー(The Green Monkey)とは、2004年生まれのアメリカの競走馬・種牡馬。
2006年に2歳セリ市の一つ、ファシグ・ティプトン社コルダーセールにおいて、未だ破られない世界最高金額で取引された馬である。
父はGIを1勝した上の中くらいのストームキャット産駒・フォレストリー、母はマジカルマスカレード、母父はアンブライドルドという血統。
貶すほど血統は悪くないが、褒めるほどのポイントも少ない血統。牝系も特別活躍馬多数というわけでもなく、兄姉が活躍したわけでもない。
フロリダ州のパドゥアステーブルで生を受けた彼は…え? フロリダ? と思った読者の方は勘が鋭い。米国競馬の中枢たるケンタッキー州の生まれではなく、まあまあ盛んでミスタープロスペクター・ファピアノ親子を輩出したとはいえ僻地の一つであるフロリダ州の生まれである。「血統もいうほど良くないしフロリダ生まれが世界最高額?」と思うかもしれないがしばし待たれよ。
閑話休題、すくすくと順調に育ち1歳時にファシグ・ティプトン社7月ケンタッキーセレクトセールに上場され、ピンフッカー[1]の牧場・ハートリー/デレンゾ牧場に42万5000ドル、だいたい4700万円弱で買われた。もう結構高いあたり、見た目が素晴らしかったのだろうか。
落札したディーン・デレンゾ氏とランディ・ハートリー氏曰く、当初40万ドルまで競る予定だったらしいが、少しオーバーも辞さず買い付けたあたりピンフッカーの目で見て大きな利益になると確信できる身体付きだったのだろう。
その後、ハートリー/デレンゾ牧場(こちらもフロリダ州にある)でじっくり育成され、今度はフロリダ州コルダー競馬場で開催された2006年2月のファシグ・ティプトン社2歳セールに上場された彼は、セリ前の展示走行にて驚愕のタイムを叩き出し参加者を瞠目させた。
ラスト1ハロンのタイムで10秒を切ってみせたのだ。時速に直すと約73.5km。2歳でこのスピードを出せるのはとてつもない才能の片鱗を見せたと認識され、この馬のセリは大いに盛り上がった。
特にゴドルフィンのエージェントであるジョン・ファーガソンとクールモアの代理人であるデミ・オバーンの資金力に任せた鍔迫り合いは凄まじいものがあったが、デミ・オバーンが落札しクールモアが入手することとなった。落札額は1600万ドル。当時の交換レート換算でだいたい17億6000万円である。ぶっ飛びすぎてて言葉もない。
セレクトセールの高額落札馬トップ2のディナシー(6億3000万)・アドマイヤビルゴ(6億2640万)、5位のリアド(5億760万)をまとめて買えてしまうし、シアトルダンサー(1310万ドル)を買っても290万ドル余る。どういうことなの……森調教師に290万ドル預けたら4、5頭買い付けてきそう。
さすがにこのタイム叩き出したとしても上がりすぎだろ! という感はあるが、この異常な過熱には同じくフォレストリー産駒の*ディスクリートキャットの存在があったのかもしれない。
2005年、デビュー戦を勝つと即座にジョン・ファーガソンがトレード打診して買い付けていった1歳上の馬である。2006年2月時点でトレード後初戦はまだ迎えておらず真価を見せてはいなかったが、このあたりの時期に*ディスクリートキャットの取引の影響で父のフォレストリーに期待がかかったのも影響はあった可能性はある。
アベレージ上等のストームキャットから怪物を出すラインが出来たとしたら、クールモアもそこに乗らねばならないし、ゴドルフィンも自分らが見初めた*ディスクリートキャットと同父の怪物候補はクールモアに渡したくはない……
そういういろんな意地や思惑が複雑に絡みあってこそのこのお値段、だったのかもしれない。まあ今となってはフォレストリーにそれを期待したのはちょっと過大だったとしか言えないが当時それを読み切るのは難しかっただろう。だから種牡馬ビジネスは難しい。
ともあれ超高額で落札された彼はトッド・プレッチャー厩舎に入厩したが、3戦して0勝、3着が1回という惨憺たる結果に終わった。獲得賞金は1万440ドル、だいたい115万円。1歳時のメディーナスピリットが10頭は買えるが、日高だと115万ではまともなサラブレッドを買うのは難しいところであろうか……その程度の結果しか残せなかった。どうも類稀な能力に身体がついて行かず故障ばかりでにっちもさっちも行かなかったようだ。
となると種牡馬業で挽回……も難しいと判断したのか、ハートリー/デレンゾ牧場が種牡馬権利の半分の入手を申し出るとクールモアはあっさり引き渡し、ハートリー/デレンゾ牧場で種牡馬としての生活を始めた。まあクールモアはもう彼が引退した頃にはガリレオが打ち出の小槌になってたから1600万ドル溝に投げても安いものになっていたのはあるだろう。
しかしパナマ牝馬三冠という超マイナータイトルが売りのモンキービジネスが代表格で、北米のブラックタイプ勝ち馬も2頭しか出ないというびっくりするほどの失敗に終わってしまった。
せめてもの救いは、ピンフッカーの自分たちにとてつもない利益をもたらした彼をハートリー氏もデレンゾ氏もとても大切な存在と見てくれたことであろうか。種牡馬の権利の半分を購入し自分たちの牧場に引き取ったこともそうだが、体調を崩し気味の彼のために広い専用パドック付きの馬房を新たに建設するなどとても愛着を持って接していたようである。
しかし2018年5月、健康状態悪化の原因であった蹄葉炎の悪化で安楽死措置が取られた。14歳の春であった。
Forestry 1996 鹿毛 |
Storm Cat 1983 黒鹿毛 |
Storm Bird | Northern Dancer |
South Ocean | |||
Terlingua | Secretariat | ||
Crimson Saint | |||
Shared Interest 1988 鹿毛 |
Pleasant Colony | His Majesty | |
Sun Colony | |||
Surgery | Dr. Fager | ||
Bold Sequence | |||
Magical Masquerade 1998 栗毛 FNo.13-c |
Unbridled 1987 鹿毛 |
Fappiano | Mr. Prospector |
Killaloe | |||
Gana Facil | Le Fabuleux | ||
Charedi | |||
Nannerl 1987 栗毛 |
Valid Appeal | In Reality | |
Desert Trial | |||
Allouette | Proud Birdie | ||
Madame Defage | |||
競走馬の4代血統表 |
クロス:Dr. Fager 4×5(9.38%)、In Reality 4×5(9.38%)、Bold Ruler 5×5(6.25%)
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最終更新:2024/04/25(木) 19:00
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