ジンクピアレス(Zinc Peerless)とは、1978年生まれの日本の競走馬。芦毛の牡馬。
……名前を聞いてもピンとこない? まあ普通はそうだと思う。
競馬ファンよりもプロ野球ファンの方がよく知っているだろう、「世界の盗塁王に負けた馬」である。
父*ラナーク、母*ロイヤルホイツスラー、母父Whistlerという血統。
父はイギリス産のGrey Sovereign産駒で、ジムクラックS2着、プランタン大賞1位入線失格など6戦4勝。日本に種牡馬として輸入され、産駒は主に短距離で活躍、サンケイ大阪杯など重賞3勝のキングラナークなどを輩出した。*ゼダーンと同様、産駒は全て芦毛になる遺伝子構成だったらしい。
母はアイルランド産で、イギリスで走り11戦1勝。引退後すぐ日本に輸入され、ジンクピアレスは第9仔。
母父ホイッスラーはコヴェントリーSなどの勝ち馬で、早熟短距離馬を出す種牡馬として成功を収めた。日本では代表産駒*サウンドトラックが輸入され、宝塚記念を制した「桶狭間の主」ナオキなどを輩出した。
4歳上の全姉に、1977年の桜花賞2着馬ファインニッセイがいる。
1978年4月3日、門別町の日西牧場で誕生。オーナーは1978年の日本経済新春杯勝ち馬ジンクエイト、90年代に重賞3勝を挙げたゴーゴーゼットやワイルドブラスターを所有した林儀信。
さてこのジンクピアレス、同冠の先輩ジンクエイトと同じく栗東の福島勝厩舎に預けられたのだが、netkeiba.comでもJBISでも戦績のデータが出てこないので、おそらくは不出走馬である。地方に移籍して走っていたがデータがJBISに入っていないだけの可能性はあるので、一応ここでは戦績は不詳ということにしておこう。
しかし彼が5歳となった1983年4月。彼が一躍世間に知られる出来事が起きた。
1980年代。プロ野球のパ・リーグは、人気球団の巨人や阪神を擁するセ・リーグの陰で不人気に喘いでいた。1975年~1978年にかけてパ・リーグ4連覇を果たし、日本シリーズも3連覇した阪急ブレーブスも例外ではなく、どれだけ勝っても本拠地・西宮球場には閑古鳥が鳴いていた。
そんな阪急の擁するスター選手に、盗塁王・福本豊がいた。1970年から1982年まで13年連続盗塁王、この1983年シーズンには通算盗塁数のMLB記録(938盗塁)の更新、すなわち盗塁の世界記録更新が期待されていた、まさに日本プロ野球史上に燦然と輝く伝説の快速打者である。
客の不入りに悩む阪急は当時、集客のために涙ぐましい努力を重ねていたが、そんな客寄せのイベントとして、ひとつの企画を思いついた。
かくして1983年4月30日、西宮球場、近鉄バファローズ戦の試合前。夢の対決が実現した。世界の盗塁王の対戦相手として西宮球場に連れて来られたサラブレッドこそ、5歳のジンクピアレスであった。
対戦形式はセンターからホームへ向かっての60m走。時速60kmで走るサラブレッドに、果たして人間の盗塁王は勝てるのか?
フクモトユタカ(ヒト・牡34)vsジンクピアレス(サラ・牡5)、世紀の対決の結果は――
西宮球場の人工芝に戸惑ったジンクピアレスが逸走、出遅れ。人間の圧勝であった。
こうしてジンクピアレスは、「福本豊に負けた馬」として日本競馬史――ではなく日本プロ野球史に名を刻む(?)ことになった。まあ「ふくもっさんが馬と競走した」というエピソードは有名だが、その馬の名前まで知ってる人はプロ野球ファンでもそう居ないだろうけども。
……なお、このとき彼と対決したのは、実は福本だけではない。当時阪急に所属していた外国人選手、バンプ・ウィルス(こちらもMLB通算196盗塁の俊足)も一緒に走っており、実際のレース結果は1着バンプ、2着福本、3着ジンクピアレスであった。福本は実は飛び抜けて足が速かったわけではなく、盗塁の技術が圧倒的に優れていた、ということを示す逸話であるのかもしれない。
またこのイベントには簑田浩二も出走予定だったが、スタッフから競走馬っぽい名前として「マンゲリホープ」(簑田は慢性的な下痢症だった)と名付けられたのに怒って出走を取り消している。当たり前だ。
ちなみにこの日の試合は阪急が7-5で近鉄に勝利(福本は3打数無安打1四球、盗塁なし)。福本はこの年の6月に通算盗塁数の世界記録を達成し、この年も55盗塁をマークしたが、シーズン盗塁王は60盗塁を挙げた大石大二郎に奪われて連続盗塁王が13年で途切れ、以後は引退まで盗塁王は獲れなかった。
この世紀の対決から数年後。福本豊はテレビ番組の企画で、名古屋競馬場で誘導馬をしていたジンクピアレスに会いに行っている。そのとき改めてダートコースで福本と競走したが、さすがにそこではしっかり福本に完勝したそうである。
| *ラナーク 1963 芦毛 |
Grey Sovereign 1948 芦毛 |
Nasrullah | Nearco |
| Mumtaz Begum | |||
| Kong | Baytown | ||
| Clang | |||
| Vermilion O'Toole 1952 芦毛 |
The Phoenix | Chateau Bouscaut | |
| Fille de Poete | |||
| Gloriana | Sir Walter Raleigh | ||
| Sweet Fairy | |||
| *ロイヤルホイツスラー 1956 栗毛 FNo.1-n |
Whistler 1950 栗毛 |
Panorama | Sir Cosmo |
| Happy Climax | |||
| Farthing Damages | Fair Trial | ||
| Futility | |||
| Royal Strath 1954 栗毛 |
Royal Charger | Nearco | |
| Sun Princess | |||
| Strathearn | King Salmon | ||
| Bonnie Birdie |
クロス:Nearco 4×4(12.50%)、Mumtaz Begum 4×5(9.38%)、Solario 5×5(6.25%)
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最終更新:2025/12/09(火) 16:00
最終更新:2025/12/09(火) 15:00
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